2014年夏 T大学地学ゼミ ミネラル・ウオッチング in Nagano










               2014年夏 T大地学ゼミ
           ミネラル・ウオッチング in Nagano

1. はじめに

    あれはたしか、今から9年前の2005年8月20日だった。長野県川上村の気になっていた産地を
   コッソリ探査するつもりで、夫婦で湯沼鉱泉に入山料を払いに行った。
    すると、社長から、「 T県から来た家族が小川山に行きたいって言ってるが、初めてじゃ無理だ
   から、甲武信鉱山を案内してやってくれ 」、と頼まれた。
    こっちはこの日の予定があるのに、と渋っていると、「おめえさんのパソコン(HPのこと)を見て
   たんだから」、と私に案内する責任があるかのような口吻だ。(仕方なく)、この日の予定を急きょ
   変更して、甲武信鉱山を案内して回った。これが、T県・Sさん夫妻と娘・Yさんとの出会いだった。

    ・長野県甲武信鉱山の松茸水晶(その2)
     ( Scepter Quartz of Kobushi Mine - Part 2 - , Kawakami Village , Nagano Pref. )

    あれから9年、当時小学6年生だったYさんは、小さい頃からの志望通り理系に進み、T大3年生
   になり、建築を専攻している。2013年の夏、地学ゼミの仲間を連れ、湯沼鉱泉に宿泊してくれた
   ので、2泊3日のミネラル・ウオッチングを案内した。

    ・2013年夏 T大学地学ゼミ ミネラル・ウオッチング in Nagano
     ( T Univ. Geology Semi. Mineral Watching Tour , Aug. 2013 , Nagano Pref. )

    このとき採集した、「○○沢の水晶巨晶」や宿泊した「湯沼鉱泉」のBBQなどの料理の美味しさと
   宿泊料金の安さに、2014年も湯沼鉱泉に宿泊して『地学巡検』したいとYさんからメールがあった。
    2014年は、3泊4日で次のようなコースで、男女学生8名を案内した。Yさんの母親は、仕事の都
   合で参加できず、残念がっていた。

    第1日目・・・・・・・新水晶産地とクロム鉱山跡
    第2日目・・・・・・・甲武信鉱山
    第3日目・・・・・・・川上村の水晶産地
    第4日目・・・・・・・稀産鉱物産地と新水晶産地

    地学ゼミは化石採集がメインで、本格的な鉱物採集経験は浅い学生がほとんどだったが、訪れ
   たそれぞれの産地で、珍しい標本やきれいな鉱物を採集でき、そのたびに歓声があがり、私自身
   産地の奥深さと健在なことを再確認した。さらに、「古希」の祝いを済ませた『天呆穿人』だが、厳し
   い産地の双璧・「甲武信鉱山」と「○○山」を連荘(れんちゃん:続けて)で回れたのは自分でも意
   外だった。
    こうして、多くの人に湯沼鉱泉を利用してもらえれば、広く「水晶洞」も知ってもらえるし、何よりも
   売り上げに寄与できると思い、ボランティアで案内している次第だ。これがT大の恒例行事になっ
   てくれれば、と願っている。
    ( 2014年8月 案内 )

2. 第1日目【新水晶産地とクロム鉱山跡】

 (1) 「佐久平駅」に集合
      帰省先から参加する学生が多いので、長野新幹線「佐久平」駅に11時に集合することにした。
     私は7時過ぎに地元での骨董市をのぞき、「印影集」や「古銭」、そして花子とアンに登場した
     現代のノートに相当する「石板(せきばん)」などを購入し、「佐久平駅」を目指した。10時半に
     着き、初めてなので駅周辺をブラブラしていると、Yさんの姿が見えた。
      続々と学生が集まってくる。昨年も参加してくれた見覚えのある学生も何人かいる。用事で
     この時間までに集合できない2人は夕方に川上村の「信濃川上駅」でピックアップすることにし
     て、産地に向け出発だ。

 (2) 「新水晶産地」
      ここは、2ケ月前の『2014年月遅れGWミネラル・ウオッチング』の2日目におおぜいの石友を
     案内した場所だ。

     ・ 2014年月遅れGWミネラルウオッチング
     ( Mineral Watching Tour , Jun. 2014 , Yamanashi & Nagano Pref. )

     ・ 2014年月遅れGWミネラルウオッチング- その2 -
     ( Mineral Watching Tour , Jun. 2014 , - Part2 - , Nagano Pref. )

      まずは途中のコンビニで昼食を買う。現地について腹ごしらえをして、産地にたどり着いて見
     渡すと多くの人が訪れた跡がアチコチに残っている。だが、私が眼をつけておいたポイントは
     その後誰もやっていないようだ。思い思いの場所に散らばって採集開始だ。

      
               「新水晶産地」

      この産地特有の透明感のある水晶がボチ、ボチと出ているようだ。そのうち、私の隣に陣取
     っていたNさんが掘り出したのを見せてもらうと、長さ5センチ、透明、しかも頭つきの完全結晶
     だ。
      やがて、左端のSさんからも歓声があがる。見せてもらうと、2本の水晶がV字型に結晶した
     すばらしい標本だ。私が掘り出したものは、周りの学生に全部差し上げていたが、熊手の先に
     引っかかったのを取り上げて驚いた。長さ8センチの大物だ。これだけは、湯沼鉱泉社長に見
     せる(だけ!!)ので、私のコレクションとさせてもらう。

      
             「水晶」

      【後日談】
      某所でT元教授にお会いしたところ、この産地を知りたがっていた。教授の話では、「この産
     地は、近くを流れる川の名前からHと呼ばれていて、某学校の標本として展示してある。」、と
     教えていただいた。
      新産地と思っていたが、昔は知られていたが、永い間忘れ去られていた産地のようだ。

      こうして、1時間あまりで何人かはすばらしい逸品を手にし、皆さんも満足の行く標本を採集
     でき、産地を後にした。
      やはり、始まりから産地を知っているので良品が出るポイントを解っている強みだろうか。

 (3) 露頭の「紫水晶」採集だ!!
      この集落の地権者の方に手土産を持って挨拶に行き入山許可をいただいた場所があったの
     で学生たちを案内した。露頭の一部に石英脈が貫入し、「黄鉄鉱」、「束沸石」、「菱沸石」など
     を伴い水晶が成長している。中には「紫水晶」があるのだ。インクルージョンとして微細な「赤磁
     鉄鉱」結晶が見られ、ネオジム磁石を近づけると吸い付く。紫の原因はハッキリしないが、愚考
     するに、このインクルージョンのためではないだろうか。

      
         赤磁鉄鉱を含む
           「紫水晶」

      学生たちは、これらの「紫水晶」はじめ、この産地を代表する標本を採集でき満足そうだった。

 (4) 「クロム鉱山跡」を訪ねて
      この地域には、第2次世界大戦中に蛇紋岩に伴う軍需鉱物のクロム鉄鉱を採掘した鉱山が
     あった。その選鉱場跡や露天掘り跡で「灰クロム柘榴石」が採集できるので案内した。この日
     は雲が厚く、日中でも薄暗くコンディションは良くなかったが、眼が慣れるに従い、全員が採集
     できた。
      川の冷たい水に冷やしておいたMH農園のスイカを切り分けていただくと疲れが吹き飛ぶ。

         
          スイカが見守る中で採集              「灰クロム柘榴石」
                     クロム鉱山跡でのミネラル・ウオッチング

 (5) 「湯沼鉱泉」の夜は更けて
      この日のミネラル・ウオッチングを終え、今夜の宿「湯沼鉱泉」を目指す。17時過ぎ、小海線・
     信濃川上駅に着くと遅れて参加した2人が待っていた。途中のスーパー兼コンビニ「ナナーズ」
     で飲料水などを購入し、「湯沼鉱泉」に着いたのは予定通りの18時だった。
      部屋割りに従って部屋に入り、まずは風呂だ。まだ浴槽が1つしか使えないため、男子→女子
     の順で採集の汚れを落す。

      風呂から上ってストーブの前で新聞を読んでいると、次々と若い男女が出入りする。社長に
     聞くと、「今年は中国人研修生が来られないため、働いている日本人の夕食を提供するのを
     農家に頼まれている」ということだった。
      どうやら、日中関係がギクシャクしている影響で、中国人の入国を入国管理事務所(外務省)
     が許可しなかったようだ。「湯沼鉱泉」としては思いがけずお客が増える結果になり、何はとも
     あれ結果オーライだ。

      さて、皆さんお待ちかねの夕食だ。お姐さんが腕によりをかけた地元の食材を使った料理が
     並ぶ。ビールを飲む学生もまず”コメ”を食べるのには驚きだ。次々と料理が出されるがそれら
     をペロチと平らげるのはやはり若さだ。

      夕食の後、私の部屋に集まってもらい、明日の「○○山」の概要を説明する。この地域を何回
     か案内しているYさんにとっても初めてのはずだ。
      この後、「標本玉手箱」で、昨年訪れていない学生のために「川上村○○沢の水晶巨晶」な
     どを配布してあげると大喜びだった。翌日のコースが厳しいので、22時前に解散だ。

3. 第2日目【○○山、変じて、甲武信鉱山】

 (1) 元祖「松茸水晶」産地
      朝起きると”シト、シト”雨が降っている。○○山まで、片道3時間、雨の中を歩くのは女子に
     とって厳しいだろうと思い、場所をどこにしようかと迷っていると、お姐さんが「甲武信が面白い
     ですよ」、と言ってくれたので2日目と3日目の産地を入れ替えることにした。
      朝食の後、小雨の中、宿を後にし、登山口に駐車し登りはじめる。雨は霧雨程度に変わって
     いた。
      第1テラスの湧き水にスイカを冷やすのはいつものことだ。あえぎながら第2テラスに到着。そ
     こから左斜め上に登り、最初の採集ポイントの「松茸水晶」産地だ。30分あまり採集すると、一
     人が「これは松茸ですか」、と持ってきたのは間違いなく「松茸水晶」だった。おおぜいで探せ
     ばまだまだあるものだ。

 (2) 「緑水晶」産地
      松茸水晶産地から真っすぐ上に150mほど登り、尾根に出て、尾根を50mも進むと「第2松茸
     水晶」産地だが、今では何も採れない。
      そこから急な尾根を70mも登ると「見晴らし台」だ。周りの木々が大きくなり、以前より眺望が
     悪くなってはいるが、晴れていれば梓川を挟んで見える五郎山(2132m)などの頂きに近い高
     さまで登ったことを実感する。
      尾根を150mも進むと「緑水晶」産地だ。以前は、10m×10mほどの範囲が掘り込まれていた
     が、今ではその何倍も広い範囲が掘り返されている。
      思い思いの場所に散らばって、ズリの表面を観察したり、熊手で少し掘ると「緑水晶」が姿を
     見せるが、昔に比べるとその数は少ない。

      ここは、10年ほど前のミネラル・ウオッチングのとき、昼食の間に用足しに行った奈良・Aさん
     が発見し、その「緑水晶」のすばらしさに、食べかけのおにぎりを放り出して駆けつけた思い出
     のポイントだ。そんなわけで、『Aさんズリ』と呼んでいたが、今では「緑水晶」産地と呼ばれて
     いる。

      今回、K部長が見つけたのは、5センチほどだが、「両錐緑水晶」で、社長をして、「ちいせぇ
     けど、良(い)いもんだ」と言わせしめた逸品だ。
      これを見ると "Mineral Hunters" の採集魂も燃え、ここぞと狙ったポイントを掘り下げると
     全長16センチのこの”産地の主”が出てきた。緑水晶でなく、頭がルーズだが、今までこの産
     地で採れた水晶の中では最大だろう。川端下(かわはけ)の水晶に似ていないこともないが、
     樹齢200年を超えると思われる大木の根っこの下にあったのだから、この産地のものだろう。

      
          「緑水晶」産地の巨晶
            【全長 16センチ】

 (3) 「ミニツイン坑」
      寒気が下りてきたのか、一面にガスが懸かってきた。ここから右斜め上に登る。この近くに
     「砒鉄鉱」産地などがあるのだが、今回はパスして「ミニツイン坑」を目指す。

      
         ガスの中、「ミニツイン」坑を目指す

       坑道入口に着くと中から噴出す風が肌寒いほどだ。ライトやミネラ(紫外線)ライト、そして
      ハンマー、タガネを持って坑内に入る。ミネラライトで照らして青白く光る「灰重石」や自形結
      晶をしめす「方解石」などを学生らが採集している間に私は「ミニツイン(日本式双晶)」の採
      集だ。頑張ったが7ケしか採集できず、以前に採集したYさんには諦めていただき、7人で分
      配だ。

 (4) 「第4松茸水晶」産地
       ここから斜め右下に向かって急な斜面を下りていく。20分ほど下ると、「第4松茸水晶」産地
      がある。時間は2時半なので30分ほど採集する事にした。

      
              「第4松茸水晶」産地

       この産地も、大勢の人が訪れ、掘り尽されたと思っていたが、採集を始めて間もなく、Yさん
      から「松茸水晶があった!!」、と歓声が上がる。見せてもらうと楊枝の太さの”軸”の上に
      一回り大きい”傘”がついてる。一応、「松茸水晶(セプター・クオーツ)」であることには違い
      ないのだが、誰からともなく、『えのき水晶』、と命名された。

 (5) 「ベスブ石」産地
       さらに右斜め下に下ると「鉱山道」の踏み分け道がかすかに残っている。ここを右(東)に
      行くと第3テラスの「べスブ石」産地だ。9年前に初めて甲武信鉱山を訪れたYさんにとって、
      印象深い鉱物の一つが「ベスブ石」だったようなので、前回同様、今回もここをコースに入れ
      ておいた。
       ザックを降ろして地表面を探すと、”キラキラ”と黒光りする「ベスブ石」が点々と落ちている。
       「あった!!」、とYさんが拾い上げたのは1cmを超える頭付きの良品だ。

         
           「ベスブ石」産地の一行           「ベスブ石」の逸品

       登りの第2テラスで採集したかった甲武信鉱山がスカルン鉱床であることを示す「珪灰石」
      が見つからなかった。足元を見ると白い塊が落ちていて、誰かが叩いたようだ。破面を見る
      と、針状結晶が放射状に見え「珪灰石」だ。希望する人が小割にして持ち帰った。
       時計を見ると、16時で、雲が厚く薄暗くなっているので下山することにした。

      
                「珪灰石」

 (6) スイカを食べて
       第3→第2→第1テラスと下っていく。重い採集品を背にし、ひざが笑っている。ようようの思
      いで第1テラスに到着すると程よく冷えたスイカがまっている。近くにあった石をまな板代わり
      にして切り分けみんなで食べる。

      
                 甲武信鉱山で食べるスイカ

       スイカを食べ元気を取り戻すと、駐車場まではもう一息だ。こうして、無事に登山口に帰り
      ついたのは、17時を回っていた。
       たしか今夜の夕食はBBQだったはずなので、ビールを飲まない人のためにジュース類を
      地元の何でも屋「ヤマナカ」に寄って買う。
       精算が済み、「今夜、ただおさんのところ(=湯沼鉱泉)に泊まる」と話すと、店番の老婦人
      が、レタス畑の作業者の件について教えてくれた。

       ・ 2014年、中国人労働者の入国を入管(外務省)は認可しなかった。
       ・ 各農家に寝泊りしている中国人は(生活費を切り詰めて)自炊していたので、食事の世
         話は不要だった。
       ・ 2014年は雇った日本人は自炊し(でき?)ない。かと言って各農家の奥さんはみんなと
         一緒に働いているので帰ってから夕食の支度をする時間がない。
       ・ 仮に時間を作れたとしても、若い人の好みにあう食事ができるか??

       という訳で「湯沼鉱泉」で夕食を提供するということになったようだ。その結果、お姐さんは
      大忙しで、われわれの夕食が20時近くになることがあった。
       日中関係のギクシャクがわれわれの日常生活にまで影響するとは思いもよらなかった。

 (7) 「湯沼鉱泉」の夜は更けて
       18時ごろ湯沼鉱泉に戻ると、お姐さんが「夕食は19時30分です」、といつもより遅い。先に
      事情を書いたように、レタス畑作業者の夕食の準備もあり、テンヤワンヤのようだ。
       19時30分から皆さん待望のBBQだ。炭火の勢いが今ひとつで、団扇(うちわ)で扇ぐと火勢
      が強まるのだが、止めると弱くなり、交代交代で扇ぎながらのBBQだ。
       それでも、お姐さんが準備してくれた肉、野菜は炭火で焼くと一段と美味しくなり、白いおに
      ぎりも焼いて食べると香ばしくて懐かしい味だ。
       BBQが終わったのは21時半で、この日は皆さんお疲れなので、これで解散とした。

4. 第3日目【川上村の水晶産地】BR>

 (1) 水晶産地を目指せ!!
      朝6時過ぎに起きると空はドンヨリと曇り、今にも雨が降り出しそうだ。まずは、朝食をいただ
     き、お姐さんが作ってくれたお弁当を持って8時に「湯沼鉱泉」を出発だ。

      この日訪れた水晶産地への行程はハードなので有名だ。林道の行き止まりから、沢沿いに
     上流に向かい涸れ沢をよじ登り、さらに原生林を登ると水晶産地の難コースだ。私のペースで
     駐車場から産地まで2時間だが、普通は3時間かかるコースだ。学生たちはどうだろうか。林道
     の途中のお社で”安全”そして”がま開運”祈願だ。そして、いつもの場所で、夏のミネラル・ウ
     オッチングの定番 MH農園産のスイカを沢水に漬けた。
      涸れ沢を登る足取りが重い。

      
             急な涸れ沢を登る一行

       涸れ沢を外れ、原生林の中を進む。ほぼ1年ぶりで先導する私の記憶がマッチングしない
      ほど現地の様子が変貌している。学生らをその場で採集させておいて先行する。藪を掻き分
      けながら100mも登ると見覚えのある場所に到着だ。所要時間2時間ジャスト。大声で下に
      いる学生らを呼び寄せる。全員が産地に揃ったのは駐車場を出て2時間15分だったから、
      皆さん若いだけに健脚だ。
       産地に着き、産状の説明をして、”ズリ”と”露頭”に分かれて採集開始だ。

      
                 採集風景

       本格的に露頭を叩く学生が何人かいて心強い。次々と晶洞(ガマ)が開くのだが思ったほど
      大きな水晶は多くない。それでも、”キラキラ”した「黄鉄鉱」の入ったガマは人気だ。
       ズリ派は、先人が崩した晶洞壁から頭付きの群晶を割りとっている要領の良さだ。そうこう
      こうしていると、下山予定の15時が迫ってきた。
       ここで、大きな問題が起きた。持ち帰れる重さに限界があることを思い知らされたのだ。選
      別し、持ち帰れない分は泣く泣く(大げさか)現地に残して下山した。
       ”ズリ”派の女子学生Nさんが拾った群晶は面白い形だった。社長に見せれば喜ぶこと必
      定なので、私が背負って帰ることにした。来るときのスイカとほぼ同じ重さだ。宿に帰って社
      長見せると、「おもしれぇな」と言ってくれ、脇にいたお姐さんが「このおじさん(社長のこと)が
      呉れと言うから早くしまいなさい」、という一幕もあった。

       林道に戻り、行きしなに沢水に漬けておいたスイカを引き揚げ、切り分けて皆さんに食べて
      もらった。少し未熟の感もしたが、甘くて美味しい、と好評だった。
       17時過ぎに駐車場にもどり、「ヤマナカ」で買い物を済ませ、18時に宿に戻った。この日は、
      歩く距離が長く、私の万歩計は16,520歩を示し、前日の甲武信の9,022歩の2倍弱歩いたこと
      になる。この産地が難コースと呼ばれる所以だ。

 (3) 湯沼鉱泉の夜は更けて
       夕食が20時近くと遅かった。この日は、岩魚の塩焼き、馬刺しや天ぷらなどが並び、疲れた
      身体に生姜醤油の馬肉はぴったりだ。(本当はニンニク醤油が美味しいのだが・・・・
       夕食後、私の部屋に集まってもらい、翌日の作戦会議だ。佐久地方と上田地方の産地を
      訪れる計画だった。
       「標本玉手箱」では、「糸魚川のヒスイ輝石」、「岐阜県のルビー」、「信濃境の角閃石」、そ
      して「母岩つき長野県のきれいな柘榴石」など、私の持っている重複標本を約700点を提供
      させていただいた。おかげで、部屋がスッキリしたと妻からは大好評だった。すべての標本を
      配り終えると23時だった。

5. 第4日目【稀産鉱物産地と新水晶産地】BR>

 (1) 「湯沼鉱泉」、また来る日まで
       朝6時過ぎに起きると、小雨がパラついている。昨夜寝ながらこの日の行程を練り直してみ
      た。皆さん遠方まで帰るので、早めに上りたい意向のようだし、上田地方まで足を伸ばすと
      移動時間が増え、採集する時間がなくなってしまう。そこで、この日は解散するJR駅のある
      佐久地方でのミネラル・ウオッチングにすることにした。

       朝食を食べ終わり、支払いだ。お姐さんの配慮で学生は少し安くしてくれていた。ビールや
      ジュース代を私が負担したこともあって、学生は三泊四日、三食付きで 18,000円だった。

      出発前に恒例になっている社長とお姐さんを交えて記念写真だ。三脚を持っていないため、
     「湯沼鉱泉」にあったダンボールの空き箱を重ねて撮った一枚だ。気のせいか、画面が少し
     傾いているかも。(気のせいではありません!!・・・・・・西の方のオバハン)

      
                    「湯沼鉱泉」記念写真

 (2) 「稀産鉱物」産地
       「川上大橋」を経由して国道に出て、佐久方向に進む。まずはコンビニで休憩だ。何人かは
      採集品を宅配便で自宅や下宿先に送る。私は煎れ立てのコーヒーを飲む。
       訪れたのは古い鉱山跡だ。私が山梨に転勤になったばかりの四半世紀も前に訪れたとき
      は「耐火煉瓦」原料を採掘する現役の鉱山だったが今ではスッカリ藪に覆われている。露頭
      のあるところに落ちている「稀産鉱物」を拾う。ここでは、「トパズ」が産出するという報告があ
      るが、未だ現品を見たことがなかった。Sさんが採集した標本をルーペで見ると長さが2、3ミリ、
      縦に条線があり、頭が屋根のように”スパッ”と切れた結晶があるではないか。これがこの産
      地の「トパズ」だ。探せばあるのだ。

         
                 採集風景                        「トパズ」
                            「稀産鉱物」産地にて
 (3) 「新水晶産地」
      初日に訪れた「新水晶産地」を再び訪れた。その主な理由は次の2点だが、早晩、この産地
     も”絶産”になりそうな予感がするからだ。

       1) 初日の夕刻から参加した2名が訪れていない。
       2) 初日に何人かはすばらしい標本を手にしたが、採っていない学生もいる。

       そこで、この日は 初めて訪れる2人に良品が出た場所で採集してもらい、採れたら未だ
      採れていない(自己申告で)人に場所を譲る、という民主的な採集方法を導入した。

       こうして、1時間あまりで全員がこの産地の良標本を手にすることができた。

 (4) また会う日まで
       下山して少し遅い昼食だ。そして、仕上げはMH農園のスイカだ。こうして、3泊4日の巡検も
      終わり、皆さんをJR佐久平駅まで送ってお別れした。

6. おわりに

 6.1 巡検案内
      最近のMineralhuntersは、ボランティアとして小学生から大学生、そして社会人まで、老若の
     善男・善女をフィールドに案内するのがミネラル・ウオッチングのメインになりつつある。
      そんなわけで今回持ち帰った自分用の標本もごくわずかで、人が欲しがるようなものは少な
     いだろう。

      いつも、できるだけ発見されて間もない新しい産地を案内したいという思いをもっているが、
     なかなかそのような産地を探すのは難しいのが現実だ。それでも、湯沼鉱泉社長やその関係
     者、そして石友のお蔭げで、再発見を含めて新しい産地を毎回のようにコースに組み込むこと
     ができ、参加者に少しは”美味しい思い”をしていただいている。

      涼しくなってきたので、そろそろ、秋のミネラル・ウオッチングのコースを決めたいと思い、湯
     沼鉱泉の社長と候補地を下見して回ろうと思っている。

 6.2 防災訓練
      8月の最終土日、「名古屋ミネラル・ショー」に行く予定でいた。金曜日に自治会の打ち合わせ
     があり、8月31日に地域の防災訓練が行われ、自治会役員は全員参加する雰囲気なので、
     急遽、名古屋行きを取りやめ防災訓練に参加した。

      早朝7:30までに近くの中学校に集合し、消火器による初期消火、放水、AEDを使用した心肺
     蘇生訓練などを体験した。災害時には気が動転し、パニックになり、頭でわかっていても体が
     動かないとはよく言われることで、訓練を通して身体で覚えておくことは重要だ。

      
             「放水訓練」

      訓練の一環で、「防災倉庫」の中の防災資機材を見学した。畳4枚くらい(4平米弱)の中に
     この地域で必要な防災資機材が入っていて、飲料水もあるという説明だった。あるご婦人の
     「何人分入っているのですか」、とうい質問に係員は答えられなかったが、ダンボールの大きさ
     からして100リットルくらいのものだろう。この地域の1,000人以上の避難者に配ると、一人当た
     り、コップ一杯も行き渡らないことになる。どこからともなく、「自分で用意して置かなくちゃ」、と
     いう声が漏れた。

      広島の土石流災害について、NHKが視聴者からの声を紹介していたが、その中に、「山際ま
     で住宅が迫り、土砂崩れがあったら危険なことは明らかだ。なぜ役所は住宅建設を許可した
     のか」、という趣旨の意見があった。
      確かに住宅を建てさせなければ建物や人的被害は起きなかったのだが、住宅を建てると決
     たのは個人なのだ。”死者に鞭打つ”気など毛頭ないが、役所などあてにせず、『家族や隣人
     を守るのは自分だ』
という意識をもっと強く持つべきだろう、と災害のたびに思う。

7. 参考文献

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 2) クリスタル・ワールド編:主なパワーストーンの一覧表,同社,2013年
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