長野県甲武信鉱山の松茸水晶(その2)

      長野県甲武信鉱山の松茸水晶(その2)

1. 初めに

  長野県佐久郡川上村にある湯沼鉱泉を訪れたら、宿泊客に栃木県・Sさん一家が
 たまたま居合わせた。Sさん一家は、私のHP「小川山」のコピーを手にし、これから
 家族3人で小川山に行くという。
  社長は「小川山は歩く距離も長く、初めてだと案内なしでは行き着けないだろう。
 お前のHPを見て来たのだから、何とかしろ。お前が甲武信に行くのなら案内して
 やってくれ」
 とお願いされた。
  この日は、某産地を重点的に探索する予定であったが、急遽、「甲武信1日コース」を
 案内して回ることにした。

    産地を移動する一行

  大ズリ→緑水晶坑→ベスブ石→松茸水晶→緑水晶→砒鉄鉱→灰重石→緑双晶 の
 産地を回り、Sさん一家は甲武信鉱山の代表的な鉱物を一通り採集して、全員元気で
 湯沼鉱泉に帰還した。
  私たち夫婦は、面白い形の松茸水晶を採集したにとどまった。社長に見せると
 「良いもんだ!」 と感心してくれ、疲れが吹き飛んだ。
  夕食後、Sさん一家が採集した標本の鑑定・ラベル付けを行い、ミネラライトに照らされた
 満天の星を思わせる灰重石の青白い輝きには、女性陣から「まあ、綺麗!!」と歓声が
 上がった。
  Sさん一家の娘・Yさん(小6)は鉱物が大好きなので、鉱物採集の楽しみを永く持ち
 続けてくれることを願っています。
 (2005年8月採集)

2. 産地

  141号線を清里から佐久に向かって走り、JR最高地点の先で「川上村」の表示に
 従い右折し、農免道路から県道68号線を三国峠に向かって走る。途中、道路の左側に
 ハート型水晶を描いた「湯沼鉱泉」の案内看板がある。
  甲武信鉱山は、そこを直進し、「梓川」の手前で右折し、町田市の自然休暇村を過ぎ、
 梓川に掛かる橋の手前の路肩に駐車する。
  登り口の山際に「入山禁止・湯沼鉱泉」の立て札が立っていますので、すぐ分かると
 思います。

    「入山禁止」の標識【2005.8現在、右の看板はない】

  あちこちに「入山禁止」の赤い幟が立っていることからも分かるように、この一帯は
 「松茸山」になっており、無断で入山できません。
  「湯沼鉱山」に立ち寄り、入山料1,000円(子ども500円) を支払い、産地の状況を
 社長に聞いてから登ると良いでしょう。(湯沼鉱泉宿泊者は無料)

  看板のある登り口から、尾根を目指してほぼ真っ直ぐに、大ズリ→緑水晶坑→ベスブ石ズリ
 に至り、そこから左上に約150m行くと一面開拓畑状態の場所があり、ここが松茸水晶の
 産地です。
  【 産地は、大きな木が倒れ、一面掘り返されていますが、これは約10年前の”松茸ブーム”の
   なせる結果で、その後は大きく変わっていません。】

    松茸水晶ズリでの一行

3. 産状と採集方法

   ここには、ペグマタイト脈とスカルン鉱床があり、何を目的に掘ったのか分かりません。
  ズリでは、クマ手などを使って土砂を掘りながら探します。雨上がりなどには、表面採集
  でも良品を見つけられることもあります。
  

4. 産出鉱物

 (1)松茸水晶【Scepter Quartz:SiO2】
    松茸水晶は、平行連晶の一種とみなされ、藤屋や韓国産の紫水晶などに見られる。
   松茸の軸の上に傘がかぶったような水晶で、別名「冠水晶」とも呼ばれています。
    ここの松茸水晶は、軸の部分が緑、傘の部分が透明のものが多く、これは、何回かに
   わたって組成の違った熱水が侵入したことを覗わせます。
    一口に松茸水晶と言ってもいくつかの形態があります。
  @いわゆる松茸水晶
    軸の上に、傘に相当する両錐の水晶が乗ったもの。
  A寄生松茸
    軸の側面に傘の部分が”寄生”するもの。
  B逆松茸
    太さが急激に変化する”先細り型”で、太い部分は緑色〜灰色、細い方が
   透明のケースが多い。
  C松茸状両錐
    緑両錐水晶の一端が、他端に潜り込んだ形をしていることから仲間内では
   ”皮かぶり”と呼んでいます。

    当然、これらが複合したものもあり、2005年GWの採集会で、滋賀の石友・Oさんが採集
   したものは、@+A の”佳品”でした。

    今回私が採集できたものは@、A、Bのタイプのもので、特に@のタイプのものは、
    ”両錐で松茸部分が枝分かれ”しており、今まで採集した標本の”逸品”で、気に入って
    います。

           
      両錐・複数冠           寄生              逆
                       松茸水晶

 (2)その他の鉱物
    緑泥石と思われるインクルージョン(内包物)を含む緑色の水晶以外に
   灰鉄ザクロ石や褐鉄鉱化した磁硫鉄鉱などが採集できます。

5. おわりに

 (1)栃木県のSさん一家との思いがけない出会いでした。Yさんにとって私は”おじいさん”と
   ほぼ同い歳とのこと。”孫”と楽しい時間を過ごすことができた。
    採集から帰って、Yさんが湯沼鉱泉の駐車場で探してくれた四つ葉と五つ葉の
   クローバは、押し花にして大事にとってあります。

 (2)松原先生の「日本の鉱物」には、日本国内で採集できる代表的な鉱物が約200種載って
   います。「甲武信鉱山」「湯沼」で採集できる6種類の鉱物がこの本に記載されており1つの
   産地としては群を抜いています。
   それだけ、この地域は鉱物種(スカルン〜ペグマタイト鉱物)と良品(大きい、綺麗)に
   恵まれており、大切にしたい産地です。

 (3)今回採集した最高地点は2,000m近くあり、暑さを忘れる涼しさで、抜けるような青空
   木々の葉には紅葉しはじめたものもあり、アチコチに秋の訪れを感じることができた。

6. 参考文献

1)藤本 治義編:南佐久郡地質誌,南佐久教育会,昭和33年
2)松原 聰:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
inserted by FC2 system