この話が他校にも広まり、神奈川や東京そして横浜の学校や違った学年のこどもたちを案内して欲しい、
という依頼が飛び込むようになった。それが、いつしか各学校の恒例行事になっていった。
2018年春、神奈川の私立一貫校のI先生から、「鉱物の授業で、こどもたちを案内して欲しい」と連絡があり、
3月下旬に一面銀世界の甲武信鉱山「貯鉱場」で一緒に下見したのは、次のページで紹介した通りだ。
4月になって、別な学校のO先生からも依頼があった。O先生は、前の年のクラスの時に下見という形で付き添って
来ているので、今回は下見は不要とのことだ。
学校行事計画も固まったのを受けて、5月になってI先生とO先生から、「7月に開催したい」、と連絡があり、
バッティングしないように、予備日も含めて実施日を決めた。
下見や準備しておいたせいか、”晴れ男”健在なのか、2回とも鉱物採集と湯沼鉱泉「水晶洞」を見学している間は
雨が降らなかった。
事故もなく、最後に子どもたちが「楽しかった!!」、と喜んでくれ、疲れが一挙に吹き飛んだ。後日、
送られてきた子ども達の感想文を読ませていただくと、記憶に残る体験になったようだ。これからも、身体が
続く限り対応する心算だ。
( 2019年7月 実施 )
2013年に甲武信鉱山の松茸水晶ズリで私が採集した、柱面に直線状のスリット(切れ込み)が入ったインターラプテド・
クオーツ(切れ込み入り水晶)/石英【interrupted quartz/QUARTZ:SiO2】を紹介する。
これと同じ産状の水晶は湯沼鉱泉近くの俗称”朝飯前(あさめしまえ)”の水晶産地でも確認している。2013年春に、
この産地を訪れ、次のページで紹介した。
・ 長野県川上村湯沼『朝飯前』の鉱物
( Minerals from Yunuma " Asameshimae " , Kawakami Village , Nagano Pref. )
このとき採集したインターラプテド・クオーツがなぜできたのか、その成因を推理して、次のページに掲載した。
閑話休題、Nさんが湯沼鉱泉に宿泊する前、川上村は大雨が降り、湯沼鉱泉の前の緩やかな坂道は水深20センチ
くらいの激流になったらしい。「社長が、『こんなのは、(物心ついて)70年で初めてだ』、と驚いていた」、と話してくれた。
「レタスの栽培・収穫時期で原野がレタス畑に替わり、しかも苗の保温や病虫害・汚れ防止のためにビニールを張って
いるため、降った雨が土に浸透できず、激流になって道路を流れ下る”環境破壊”が起こした人災ですよ」、とN夫妻に
話した。
この時、「MHが架けてくれた貯鉱場の橋はシッカリ仕事してました」と聞き、橋は大丈夫そうなことが確認できた。
ただ、気がかりなことがあった。3月の下見の時、橋の横木で足を滑らせ、コケそうになったのだ。雪が積もっていた
というだけでなく、件の横木は川の流木を切って釘で打ち付けたもので、丸くて表面がツルツルしているので滑り
やすいことに思い至った。
首都圏に住む妻の母親の介護、妻の入院と忙しくて下見に行けそうになかったのだが、気がかりなことはそのままに
して置けない性分のため、7月に入ってすぐに「貯鉱場」を訪れた。橋は、横木の一本が折れていたので柳の倒木を
切って、持参した鉈で割って、滑らないようにして、釘で打ち付けた。件の横木も、鉈で平らになるように削って滑ら
ないようにした。
2019年の梅雨は、”梅雨らしい梅雨”で、曇りや雨の日が多く、「日照時間」が極端に少ない。雨が降っても雨量は
それほどでもないのか、気にしていた川の水も例年より少ないくらいで、今後多少の雨が降っても増水して渡れない
と言うことにはなりそうもなかった。
この日は、東京都の公立小学校の子ども達が、クラス別に入れ替わり立ち代わり訪れていた。先生方の課外授業の
指導方法をとくと拝見させていただいた。
こうして下見と準備を済ませ、本番を待つばかりとなった。
早めにJR甲府駅近くのいつもの「駅レンタカー」の事務所に行くと建物が跡形もなくなくなっていた。
移転の案内板が出ていて、元々民間の「トヨタレンタカー」に”業務委託”したようだ。この1年の間に
変わったので、さすがにここまでは下見しなかった。
レンタカー利用の場合、JR甲府駅前の「信玄公銅像」前に集合し、初対面の挨拶をする。いつも
「先生や私の注意を聞いて、無事に家に帰る」をお願いして、車に乗り込んで出発だ。ETCで双葉SA
から中央高速に入り、須玉ICで降りる。
バスの場合、「須玉IC」の出口手前にある駐車スペースで合流することになっている。ここだと、トイレも
利用できるからだ。
(2) 野辺山「JR最高地点」でイレ休憩
国道140号線を清里に向かう。レンタカーで何台かに分乗している場合、後ろの車が信号に引っか
かると路肩に停めて待つ。清里を過ぎ、野辺山の「JR最高地点」でトイレ休憩だ。ここには、「幸せの鐘」が
あるのだがこれを鳴らすのが意外と難しい。”幸せを掴むということは簡単ではない”というとことを教えて
くれているようだ。
鐘を鳴らす姿や、クラス・学年別の記念写真を撮る。
運が良ければ、たまにしか通らない「高原列車」に出会えることもある。必ずと言ってよいほど、列車が
好きな子どもがいるので、列車と出会えると大喜びだ。
再びJR小海線の踏切を渡り、川上村に入る。未明から始まった特産のレタスの収穫作業はほとんど終わっ
たようで、レタス畑の人影はまばらだ。晴れていると夏の日差しが畑のビニールに反射してまぶしい。それでも
気温は20℃くらいで、甲府よりは5、6℃低いようだ。
レタス畑の脇に旧跡時代の遺跡があり、この辺りで16,000年前に旧石器人たちが動物を追っていたことや
かれらがつかった石槍や石器の欠片がおちていることなども説明する。
また、レタス農家の平均年収が2,500万円と高額なこと、働いている人たちの多くが中国などからの「実習生」
であることなども話してあげる。
(3) 甲武信鉱山貯鉱場跡
秋山集落の手前から、梓川沿いに進むと『町田市自然休暇村』の施設がある。大型バスはここまで、
レンタカーなら500mくらい先の駐車スペースまで、車の底を擦らないように注意してゆっくりと進む。
駐車スペースに一行が到着し、ここから梓川沿いに「貯鉱場」を目指す。カラマツ林が切り倒されたので
甲武信鉱山(梓金山)があった辺りが見えるところで、次のような説明をさせていただいた。
@ 昭和25年ごろまで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで採掘した
品位の高い鉱石を索道(ケーブル)で「貯鉱場」まで運んでいた。
A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁などが
起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーションでいろいろな
鉱物が生まれた。
B それは、今から1,200万年くらい前だった。
踏み分け道の脇にある白に黒い斑(まだら)模様の岩石を掻いてクイズだ。「この岩石の名前は?」。
こどもたちから異口同音に「花崗岩!!」、と元気な答えが返る。
硬い花崗岩が”ボロボロ”になって、眞砂(マサ)になるので、起こり得ないようなことが起きた時に『まさか』
という語源だとも話す。(「諸説あり」、というのも付け加えた)
脇を流れている梓川は、千曲川、新潟県では信濃川となって日本海に注ぐ。ここの石英粒も日本海に
運ばれて美しい砂浜の1粒になっているかもしれないことを話す。さらに、今朝、甲府駅や須玉ICで手を
洗った水は太平洋にそそぐことも話す。
さて、問題の梓川の渡河だが、前日の下見で気づいたが川の水量は今までになく少ない。いつもの水位
より40センチ以上低い気がする。ロープが張ってあるので先生や私が手助けしなくても、子どもたちは”スイ
スイ”橋を渡ってくる。
ただ、橋は一人が渡り終えたら次の人、というルールにしたので、一人当たり30秒前後かかる。46名全員
渡り終えるのに30分近くが掛かり、全員ズリに着いたのは11時半ごろだった。
(4) 「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング
@ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、持参
した金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れ
ないように。
A 川岸には崖になっている場所があり、そこを熊手で掘ると水晶などが次々に出てくる。
B 私が持参した8つのパンニング皿を交代で使って土砂をパンニングすると、「自然金」や
「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重たい鉱物
が採集できる。
泥を洗って採集するので、「緑水晶」なども見つけやすい。
パンニングの実演をすると、比重の大きい重い鉱物がパンニング皿の底に残る。
今回も「鉱物図鑑」代わりに、ここで採集できる鉱物の特徴や産出頻度を一覧表にまとめた『甲武信鉱山
の鉱物チェックリスト』を一人ひとりにバスの中やレンタカーに乗る前に配っておいた。
採集開始すると、すさまじい勢いで質問攻めだ。「これは何ですか」、と採集した鉱物の名前を聞いてくる。
「方解石」、「緑水晶」・・・・・・・、と次々に答える。
母岩に付いた「灰重石」を採集した子がいたので、持参した風呂敷で暗幕を張った下で、ミネラライトで
照らすと青白く『蛍光』することを観察してもらう。
しばらく質問が続いたので、「これ何でしょう」、と聞きにくる子には逆に「何だと思う。こっちから見ると断面
は六角だよ」、と特徴を説明すると、自信なさそうに小さな声で「水晶・・・・・・・」、と正解だ。すかさず、
「良く解ったね。」、と褒めてあげる。
素晴らしい標本を採集した子がいると全員に集まってもらい、鉱物名や特徴をなどと解説する。透明で
厚みのある方解石を採集した子がいたので、さらに劈開させて「複屈折」して一本の線が2本に見える角度
があることを説明する。
複屈折で1本の線が2重にみえるのは、次の図で説明できる。「方解石」の厚みが厚いほど、2本の線が
ハッキリ見えることもお分かりいただけるだろう。
また、このように透明な方解石を「アイスランド・スパー」、と呼び、アイスランドでは「方解石」を描く切手が
発行されていることも伝える。
・ 北極圏をめぐる地球一周の旅 【アイスランド】
( Tour around the World & Arctic Circle 2016 , - Iceland - )
(5) 「金だ!!」
いつものことだが、「金がありました!!」、と一人の子が興奮気味に叫ぶ。「ここに一杯落ちている」と、
水面を指差す。確かに水の中に金色にキラキラ光る粒が見える。
「黒雲母が風化して金色に見える。金と間違う人がいるので『愚か者の金』という」と解説するとその子は
納得したが、その後も同じような質問を何人かの子から受けた。
子どもたちは、パンニングの有効性に気付いたようで、大勢が安全な”淀み(よどみ)”に集まってパンニング
皿を揺すっている。パンニングの最後の仕上げを頼まれて「灰重石」などの重い鉱物の揺り分け方を実演す
る。こうして、念願の「ホセ鉱A」を手にした子もいた。
40分ほどたち、「チェックリスト」に採集済みの”〇”も増えたので、ちょうど13時近いので昼食にする。
昼食が終わると、再び橋を渡るのだが、背中や手には重たい採集品があるので、川に落ちないよう
一層の注意が必要だ。
1) 誕生した当時の状態で観察できる『草入り日本式双晶』
およそ1,200万年前、できた透緑閃石の針が入った水晶、しかも2枚の水晶が蝶の羽
のように84度33分の角度で合わさった日本式双晶を誕生した当時の状態で観察できる
貴重な展示施設だ。
川上村で観察できる鉱物の一級標本を余すところなく展示しているのと日本各地、
そして外国産の鉱物まで展示している。
2) 個人で建てた博物館
鉱物を展示している博物館は全国にあるが、それらのほとんどは国・都道府県・市などが
税金を使って建てたものだ。
「水晶洞」は、社長が個人のお金〇億円をかけて、そのほとんどを自分が重機を動かして
建設したものだ。
3) 貴重な川上犬
湯沼鉱泉では、この地方で猟犬として育てられていた川上犬の保存にも力を注いでいて
飼育している川上犬の中には、「狼爪」が残っているものもいて、オオカミに近い犬とされて
いる。
「水晶洞」に向かって歩くと、ケージの中で飼育している川上犬が1匹だけ”ノソノソ”と近寄ってくる。以前は、
少なくても5、6匹は元気に駆け寄ってきたのだが・・・・・・・・・・・。「川上犬」と子どもたちの出会いが味気
なくなってきているのは残念だ。
陸橋を渡って「水晶洞」に向かうと、灰色をした大小の岩がある。これらは「大理石(方解石)」だ。この
地域には石灰岩が多い。何億年か前、南の暖かいサンゴ礁がプレートに乗って北上し日本列島にくっついた
ものだ。(地学で言う「付加体」)
地下深くでできた花崗岩が吹き上がり、接触した石灰岩は融けてユックリ冷えて結晶の大きな方解石に
なり、石灰岩のカルシウムを受け取った石英分がザクロ石などに変化したことを説明する。
「水晶洞」に入ると、外の暑さが嘘のように”ヒンヤリ”と涼しいのを通り越して肌寒いくらいだ。
磁鉄鉱に磁石を近づけて鉱物の「磁性」を体感したり、日本式双晶の2枚の水晶がなす角度が色や形が
変わっても一定なことの不思議さに驚いている。
全国の石人が寄贈した都道府県の鉱物を前に、「夏休みにおじいちゃんやおばあちゃんの家に遊びに行っ
たら、鉱物採集を楽しむ」ことをアドバイスする。
やはり見どころの『緑水晶の日本式双晶』、『甲武信鉱山貯鉱場の自然金』などに人だかりがしている。
いつもの事だが、意外と人気なのが「蛍光鉱物」だった。懐中電灯の光では”ただの石ころ”にしか見えない
山口県喜和田鉱山産の「灰重石」とアメリカ・フランクリン鉱山産の「珪亜鉛鉱」が紫外線を浴びるとカラフル
に蛍光するその変化が面白いようだ。
「水晶洞」を出ると、『水晶さがし』のサプライズが待っている。過去のミネラル・ウオッチングでガマから採集し、
「標本玉手箱」で引き取り手のなかった泥や褐鉄鉱に覆われた水晶を預かって塩酸で洗浄し、前の日に隠して
おいてそれを探してもらおうという趣向だ。
以前は、前の日に下見に行って、水晶を隠しておいたのだが、必ずしも前日に行けなくて数日前に隠しておくと、
その間に来た人が持って行ってしまうということがあり、皆さんに水晶洞で待ってもらい、隠すというふうにしている。
”一人1つ”というルールにしたので、3つも4つも採って、どれにするか悩んでいる子もいる。大きな群晶や
「両錐」の水晶を採った子もいる。
事務所に戻り、「水晶洞」を見学して感じたことを社長に一人ひとり報告してもらう。前庭では、次なる
サプライズの「スイカ」が待っている。
駐車場に戻り、皆さんに聞くと「楽しかった!!」と喜んでくれた。バスの子ども達の場合はここでお別れし、
バスを見送った。
レンタカー組の場合は、甲府駅近くのガソリンスタンドに直行して給油し、車を返してお別れだ。
私の持論の1つに、『ミネラル・ウオッチング(鉱物採集)は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。嬉々として
水晶を探す小中学生と教育関係者を見ていて、その感を一層深くした。参加した皆さんが、鉱物を通して、
自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
(2) MH農園のスイカ
もう少し遅い時期だとMH農園のスイカを味わっていただけるのだが、まだソフトボールの大きさで、収穫まで
あと1ケ月はかかりそうだから、スーパーで買ったスイカで代用だ。
2018年から種を買ってきて自分で苗を作っている。市販の苗1本分の300円くらいで1袋の種が買え、12、3株の苗が
育てられる。3株ほどを切手の友・Yさんに差し上げ残り10株ほどを畑に植えた。収穫まではあと1ケ月はかかりそうだ。
ちょうどお盆シーズンで、スイカが高値になるころに、10個以上は採れ、隣近所にも配るつもりだ。