北極圏をめぐる地球一周の旅 【アイスランド】 ( Tour around the World & Arctic Circle 2016 - Iceland - )









         北極圏をめぐる地球一周の旅  【アイスランド】

              ( Tour around the World & Arctic Circle 2016 - Iceland - )

1. はじめに

    船がノルウェーのソグネ・フィヨルドから外洋に出たのは6月6日20時ごろだった。次の目的地は「氷と火山の島・
   アイスランド」のレイキャビック港だ。距離はおおよそ1,300キロくらいあるから、15ノットで進んだとして、50時間弱
   かかるから、丸2日はかかり、時間調整をして、入港は3日後の6月9日早朝になるはずだ。

    
                       ノルウェー-アイスランド航路

    お隣の韓国を指して、「近くて遠い国」という表現があるが、多くの日本人にとってアイスランドは「遠くて遠い国」
   ではないだろうか。
    鉱物、広い意味で地学が趣味の私にとって、アイスランドは次のような意味で身近な国の1つだった。

    1) 日本と同じ火山国で、温泉があちこちに湧き出している。
        日本の湯治場と同じく”ラグーン”と呼ぶ温泉があり、入浴療法も発達している。温泉水が時間間隔
       をおいて噴出する『間欠泉』も見られる。

    2) 通常海底にあるプレートが誕生する『海嶺』が陸上に姿をみせている特異な場所
        2011年に東日本大震災を引き起こしたアメリカプレートは、北太平洋の海底の海嶺で生まれ日本
       列島の東側の海底に沈み込んでいる。このように、プレートは海底の海嶺で生まれ、海底に沈むのが
       普通だ。
        大西洋では、北から南にいくつかの海嶺が走り、アイスランドは「レイキャネス海嶺」の延長線上にあ
       り、”地球の裂け目『ギャオ』”が観察できる特異な地質ポイントだ。

    3) 複屈折を示す透明な方解石を「アイスランド・スパー(アイスランドの石)」と呼ぶ。
        透明な方解石を通して紙の上の文字や線を見ると2重にみえる角度がある。これを「複屈折」と呼ぶ。
       このように、複屈折を観察できるくらい透明な方解石を「アイスランド・スパー」と呼んでいる。

    とは言え、一人でレンタカーを借りて動き回れるほど必要な情報が入手できず、オプショナル・ツアー「ゴールデン・
   サークル観光」に参加することにしていた。

    (2016年6月9日 体験 )

2. ノルウェー-アイスランド航路

    ノルウェーを離れた翌6月7日、船内では「中間発表会」と「航路説明会」があった。4月12日に横浜港を
   出港し、7月26日に横浜港に戻る106日間の航海で、この日が出港してから57日目だから、中間点を4日
   過ぎたことになる。
    船内では、「ヨガ」、「ハワイアン」、「太極拳」、「ダンス」、「太鼓」などなど、いろいろなサークルが活動して
   いて、6月8日に練習成果の中間発表会が開催された。

    船に乗ってから始めたという”ズブシロ”から”講師レベル”の人がいて、モノになるのかしらん、と思っていたが、
   このころになると、何とか”様(さま)になってきていた。芸のない私は、いつものように、写真係を買って出た。

    
                        フォークソング

    
                        テナーサックス
                        【Tさん夫妻】

    
                         ハワイアン
                      【センターはMs.Lee】

    夕食前に、2部制で「航路説明会」が行われた。これから寄港するアイスランドの観光情報や北極圏クルー
   ズ情報が伝えられた。
    2015年の南極圏クルーズに続いて、2016年には北極圏クルーズを体験することで、地球の両極を制覇(?)
   することになるので期待が膨らむ。
    「タイタニック号」の例を持ち出すまでもなく、北極海(北大西洋)を航行する船にとって最大の脅威は、
   ”流氷”だ。流氷が海面上に姿を見せているのは全体の1/10ほどだから、万一大きな流氷に衝突すれば
   3万5千トンの船と言えども無事では済まない。
    流氷の数は例年と同じだし、この船は、インターネットで随時流氷の状況を確認できるし、レーダーも装備
   しているので、氷山と衝突する確率は極めて低い、ということは理解できた。

       
          グリーンランド沿岸の氷の状況              グリーンランド沖の流氷群

    翌6月8日は、終日航海だった。ここ数日、小雨か曇りの天候の上に、緯度が高いせいで真夜中でも”白夜”
   に近く薄明るいので、写真を見ただけでは何時ごろ撮ったのか判断がつかない。
    午後5時ごろ、甲板の隅に、カモメと思しき海鳥が嘴(くちばし)を羽の下に差し込んで糞尿を垂れ流して
   いるのを目撃した。疲れ切っているようだった。結局、このカモメが無事に飛び立って行けたのかは確認できな
   かった。

    
              迷い込んだカモメ

3. アイスランド観光

    6月9日、朝6時前に甲板に出てみると、船はゆっくりとレイキャビック港に向かって湾内を進んでいた。レイ
   キャビック市街の背後にみえる標高1,000メートル足らずの山には雪が残り、頂上付近は一面厚い雲に覆わ
   れている。山には木が一本も生えていない。こんな景色を見るのは南極以来だ。それだけ、北極圏に近い
   ことを知らされる。

    
                    レイキャビック港入港直前

    6時ごろ、スンダホフ港スファルアバッキ312埠頭に着岸した。北緯64度、世界で最も北にある首都だ。レイ
   キャビックで人気のオプショナルツアーは、冬だと”オーロラ鑑賞”になるのだが、初夏のこの時期、旅友の多くが
   参加した「ゴールデン・サークル観光」と「ブルー・ラグーン体験」が双璧だった。私が参加したのは、前者だ。

    「ブルー・ラグーン体験」に参加したひとり、博多のあねごが撮影した写真を頂いたので紹介させていただく。

    
                     ブルー・ラグーン全景

    ラグーンの底に堆積している”ドロ(温泉泥)”には美容・薬効成分がありそうで、あねごも顔や身体に塗って
   いた。その写真を見せていただくと、”背後霊”が憑(つ)いたように、老人の姿が写っていた。得意(?)の写真
   修復技術で”背後霊を取り除いた。その前後を比較して示す。

       
                  Before                        After
                         右肩に”背後霊”が憑いた!!

    石好きな私のために、Mさんが”温泉泥”をお土産に持ってきてくれた。1年4ケ月ぶりに出してみたら、ビニー
   ル袋に入れておいても水分が飛んで塊になっていた。”ブルー・ラグーン”の色のもとだから乾燥してもその色だろ
   う思っていたが、真っ白なのは意外だった。ブルーラグーンの色は、この粉末の微粒子の色ではなく、溶け込んだ
   水の光学的な性質によるものだということが解った。
    指先で触ってみると”滑らかでスベスベした”感触で、そのままでもファンデーションに使えそうだ。鉱物学的に
   は、「粘土」の一種だろう。

    
                「ブルーラグーン」の”泥”
               【黒い溶岩を覆う真っ白い泥】

4. 「ゴールデン・サークル」観光

    「ゴールデン・サークル」とは、首都レイキャビックの東約60キロを中心とし、長径約60キロの楕円の中に観光
   スポットが点在していることから名付けられた。北アイスランドには、「ダイヤモンド・サークル」と名付けられた
   エリアもあり、氷河や渓谷美が有名だ。

    私が選んだオプショナルツアーのルートを紹介する。全行程約220キロの逆三角形のコースを反時計方向に
   回ったことになる。(  往路、  復路 )

    
                      「ゴールデン・サークル」観光マップ”

     0 首都・レイキャビック

     @ ケリーズ(噴火口)
        約6,500年前に噴火した噴火口跡。すり鉢型の火口に水が溜まっている。岩石が含む鉱物の影響
       で、水は青緑に色づいているのは日本各地にある「お釜(かま)」と同じだ。

     A 「グトルフォスの滝」
        アイスランド語でGullfossとつづり、Gullは黄金、fossは滝の意味だから、「黄金の滝」で、ゴール
       デン・サークルの名の由来とも言えそうだ。

     B 「ゲイシール(間欠泉)」
           ある時間間隔をおいて温泉水が勢いよく噴出する「間欠泉」。アイスランド語でGeysir、「ゲイサー」
       とも呼ばれる。英語では、Geyser(ゲイザー)。

     C 「シングヴェトリル国立公園」
           「地球の割れ目」と称される大地溝帯”ギャオ(Gja)があり、ここでプレ―トが生まれ、東側は「ユーラシア
       プレート」、西側は「アメリカプレート」になる。
        歴史的には、930年、ノルウェーからの移住者によって、この地で「アルシング」(Altingi)と称される
       民主的な全島集会が開催された。この全島集会を議会ととらえれば、中世の身分制議会ではなく
       近代議会が誕生した場所になる。一方、ここでは大勢の政治犯が殺害された場所でもあり、その
       ”怨霊の祟(たた)り”を実感することになる。
        1930年に国立公園に指定され、2004年には世界遺産に登録された。

 (1) ケリーズ(噴火口)に向かう
      7時15分に集合、下船した。雨こそ降っていないが厚い雲が立ち込め、薄暗い。船のデッキや室内の
     照明が点いていることからもどのくらい薄暗いかお分かりいただけるだろう。
      バスに乗って出発だ。私が乗ったのは2号車で、女優の東ちづるさんも乗っていた。その関係なのか、2号
     車が一番先頭で走ることになる。あまり大きくないレイキャビックの街をすぐに抜け、荒野の中を走る。

       
               薄暗い中下船                    バスは荒野を走る

          グリーンランド沿岸の氷の状況              グリーンランド沖の流氷群

      道路脇に、盛んに煙や蒸気を噴き上げている場所がいくつもある。これらの蒸気は公共施設、企業そして
     家庭にパイプで運ばれ、融雪、暖房、野菜栽培用温室等に利用されている。
      1時間ほど走ったところで、バスは停まり、トイレ休憩だ。

       
            あちこちから噴煙が上がる                蒸気を暖房に利用

      調べてみると、アイスランドでは、すでに消費する電力を100%再生可能エネルギーで賄っている。発電の
     主力は豊富にある地熱を利用した「地熱発電」だ。まさに、火山の恵みを存分に活用している国だ。

      ここは牧場に隣接していて、柵の中には馬が数頭いた。アイスランドの馬は、9世紀後半から10世紀に
     かけて、ヴァイキングたちが移住した時にヨーロッパから連れて馬たちの子孫だ。船での運搬に都合が良い
     ように背が低く、あまり大きくない。
      アイスランドという小さな島の中で繁殖を重ね、この島の気候・風土に適した馬となっている。厳しい冬に
     は厚い毛皮をまとい、夏には薄い毛に生え変わる。馬たちは一年中吹く強い風や冬の吹雪に耐えるだけ
     でなく、凍えるような冷たい川を渡ったり、溶岩の砂でできた砂漠など、厳しい地でも人々の移動手段と
     して活躍してきた。おとなしそうな顔つきで、寒さに適応してか、たてがみが長いのが特徴だ。
      柵の脇に山のように岩石が積んであるのに自然に眼が行った。溶岩だ。

       
               アイスランドの馬              積んである岩石に自然と眼が行く

   再び走り出したバスは、9時ごろ「噴火口」に到着した。噴火口の縁まで200mもいくと、火口の全体が見
  える。赤色をした火口壁はすり鉢よりも急で、形成されてからそれほど年数(6,500年)が経っていないことが
  察せられる。
   楕円形の火口の大きさは、長径270m、短径170m、深さは55mある。底には、青緑色の水が溜まって
  いる。水深は7〜14mで、地下水位に連動して変化する。
   向こう側の崖の上にいる人の大きさから、その大きさが分かっていただけるだろう。

        人
        ↓
    
                          「噴火口」

      手前には、どのようにできたかを説明するパネルがあったので、それを写真に撮ってきた。図と文章は、
     アイスランド語と英語が併記してあるので、理解しやすい。

     噴火による溶岩やスコリアの噴出

     噴火が収束。冷えて収縮しヒビ割れた火口壁が陥没

     火口壁が崩落し火口底に堆積

     火口底に水が溜まる

      帰り際に火口の縁を見ると溶岩がむき出しになり、それが細かい砂状になって堆積している。その色は、
     真っ赤で、まるで血の色のようだ。それだけ、鉄分が多いということだろう。近くに落ちていた小さな溶岩の
     塊を標本として写真に収めた。

       
           真っ赤な砂状になった溶岩                  溶岩サンプル

 (2) 「グトルフォスの滝」
      バスは35号線を北東に進む。信号機もない、対向車もほとんどない。40分くらい走ったところにレストラン
     があった。その壁には店の名前が ” GEYSIR " 、とあり「間欠泉」がこの近くにあるようだ。
      まだ11時前で、「グトルフォスの滝」を観た帰りに「間欠泉」に寄るようで、ここは通り過ぎる。

    
             「GEYSIR(間欠泉)」レストラン

      30分足らず走ると「グトルフォスの滝」だ。バスを降りると、滝の音がかすかに聞こえてくる。川岸まで行くと
     2段になった滝が見えてきて、滝壺に落ちる水の音が一段と大きく聞こえてくる。時折、風にあおられて水
     飛沫(しぶき)がかかる。上流にいる人々が、まるでアリのように小さく見える。

      
                         下流から上流を見る

      
                         上流から下流を見る

      【後日談】
       船に乗る前に訪問する国の切手を買って持参したことはすでに紹介した通りだ。出発前には気づかな
      かった切手があることに帰国して気づき、購入したものが何十枚かある。その中に「グトルフォスの滝」を
      描くシリーズがある。

    
                         「グトルフォスの滝」を描くシリーズ切手
                             【1931年〜1932年発行】

   ■ アイスランド料理を堪能
      滝を後にして35号線を戻ると行きしなに通ったレストランに入った。時計は12時を回っていたし、この日は
     出発時間が早く、朝食を6時に食べていたのでお腹も空いてきていた。

      同じテーブルには私の中国語の先生の苑さん、名前が私の妻と同じというFさん、その友人が一緒だ。
     すでにテーブルにはアツアツのスープが鍋ごと出ていて、”飲み放題”だ。その味は、日本人の舌に合うもの
     で、この旅で食べた中で一番おいしく感じられた。

       
               ランチのテーブル                      スープ

      バイキング形式で、好きなものを好きなだけ皿に盛っていただく。ハム、肉、魚、ポテト、米などを取るが
     ここでは野菜が少ないのは仕方がないのだろう。
      最後に、デザートとコーヒーをいただき席を立った。

         
                   メイン                          デザート

 (3) 「ゲイシール(間欠泉)」観光
      レストランから道路を隔てて500m弱歩くと「間欠泉」だ。高さ20mくらいまで温泉水とガスを噴き上げて
     いるのが遠くからも観察できる。その間隔は、およそ5分程度だ。
      実は、全体を見たり、写真に撮るには遠くから見た方が良いのだ。

      
                    温泉水を噴き上げる「間欠泉」遠望

      2017年10月、「間欠泉」で有名だった(過去形)栃木県の川俣温泉を訪れたが、数年前の地震の後、
     噴出が止まってしまったと聞いた。間欠泉には寿命があるようだ。
      現在噴出しているプールの周辺には、過去に「間欠泉」だったと思われる涸れそうなものや、これから
     「間欠泉」になるのでは、と思わせるタップリと温泉水をたたえたものもある。

      
                        涸れかかった温水プール

      
                      豊かな温泉水をたたえるプール

     間欠泉の周囲には温泉水に含まれていた珪酸(SiO)、カルシウム(Ca)などの成分が堆積して層をなして
    いる。これを一般には「珪華(けいか)」と呼んでいる。
     台湾北投温泉の沈殿物のように、ラジウムなど放射性元素を含むものを「北投石(ほくとうせき)」などと
    呼ばれるものもある。
     手に持ってみると軽くて重金属を含んでいるようには感じられず、単なる「珪華」ということにしてある。

      
                    「珪華」

     「間欠泉」の噴出間隔が短いので、噴出する瞬間の前後を含めて動画に記録したが、HPで紹介するのは
    難しそうなので、その中から噴出する予兆、噴出する瞬間、そして次の噴出に向けての準備・休止、の写真
    を紹介する。

      穏やかな水面

      水面が激しく上下する

      水面が盛り上がり、中央部が突出

      噴出

      温泉水が最高点に到達

      噴出した温泉水が孔に滝のように戻る

      【雑談】
       エンジニアの端(はし)くれの私にとって、「なぜ、間欠的に温泉水やガス(水蒸気?)が噴き出すのか?」
      は、興味のあるところだ。
       「間欠泉」は、自動制御という学問分野でいう『持続振動』という現象だ。身近なところでは、鹿威し
      (ししおどし)が、間隔をおいて(周期的に)”カ〜ン”と鳴り、有害鳥獣を追い払うのと原理的には同じだ。
       鹿威しの単純化した構造を考えると、下の図のようになっている。

       
                   鹿威しの構造

       図のような状態にある条件は、  左に回そうとするモーメント<右に回そうとするモーメント・・・(式1)
                               W左×L左            W右×L右

       左の筒に水が溜まると       左に回そうとするモーメント>右に回そうとするモーメント・・・(式2)
                             となって、左に回転し水がこぼれてなくなると(式1)の状態に
                            戻る。

                           これを水が止まるなど条件が変わらない限り繰り返す。【持続振動】

       何分ごとに音が鳴るのか(繰り返しの周期)は、竹筒の容量(Qml)と流れ込む水の流速(Vml/分)が
      支配的で、おおよそQ/V分となる。

       間欠泉のモデルとして、「空洞説」や「垂直管説」などが提唱されている。

            
                         「空洞説」                       「垂直管説」
                                    間欠泉を説明するモデル

       【空洞説】
         アイスランドで研究と調査を行ったJ・マッケンシーが1811年に発表した説で、地下にある空洞に
        溜まった地下水が地熱により温められ、水蒸気になって地表に噴出する。
         日本では、寺田寅彦らによって研究された。本多、寺田は、熱海温泉にあった大湯間欠泉を
        モデルとして理論構築を行った。

       【垂直管説】
        ドイツ人のロベルト・ブンゼンにより1847年に提唱された説で、比較的垂直に噴出管内に地下水が
       溜まる。溜まった地下水は、地熱により加熱され、下層部が沸点に達する。下層部が沸騰し始めると、
       生じた水蒸気の泡が噴出管内を上昇し始め、それに押し出される形で緩やかな湧出が地表で開始
       する。噴出管内の泡が増すにつれ、管内の水圧が低下する結果、下層部の沸点が下がり、一気に
       沸騰(突沸)を始め、激しい噴出が始まる。
        しばらく噴出が続くと管内の熱水が無くなって噴出は終了し、休止期間に入る。噴出管につながって
       いる導管bから新しい地下水が流入し、次の沸騰開始まで加熱される。
        日本の野口喜三雄は、間欠泉内の塩化物イオンなどの変化量から、垂直管説を支持した論文を
       1939年に発表した。
        一般に、一回の噴出量が少なく、噴出周期が数分から数十分の間欠泉の説明に適しているのと、
       温泉探査ボーリング等によって発生する間欠泉のメカニズムを完全に説明できると言われる。

      アイスランドの間欠泉を観察すると、次のような理由で、「垂直管説」が当てはまりそうだ。

      @ 噴出の間隔が約5分
      A 噴出のプロセスが上に写真で説明したように、「垂直管説」の説明と合致
      B 「空洞説」だと水蒸気だけ噴出するが、温泉水がメインで水蒸気を伴っている。

      【後日談】
       アイスランドの間欠泉を描く切手が発行されているので紹介する。私の絵葉書コレクションの中に、
      「間欠泉」を描くものがあるので、併せて紹介する。
       私が住んでいる山梨県に近い、長野県諏訪市の諏訪湖のほとりで間欠泉が観察できる。ただ、自噴
      する圧力まで達しないため、現在では圧搾空気を送って人工的に噴出させている。

          
          間欠泉を描く切手                【空洞説】熱海大湯         【垂直管説】別府竜巻地獄
          【アイスランド発行】                 【寺田が研究】

      間欠泉を観た後、再びレストランに戻り、併設されているお土産エリアでショッピングだ。マグネットなど
     どの上陸地でも買ったものを買い求める。
      ここには興味深いものがたくさんあり、それらを買い求めた。

     ■ 「火山切手セット」
       ” 3 IN ONE VOLCANO " のラベルがついて、3点が一袋に入ったものだ。
       @ 火山を描く切手を貼った封筒(カバー)
       A 火山を描く切手
       B 袋に入った火山灰

       1セット1,980クローネ(約1,800円)と安くはなかったが、記念だと思い3セット購入。

      
                             火山切手セット

     ■ 「ヴァイキング」の兜
        ノルウェーでも売っていたのだが、ヴァイキングの兜が置いてある。プラスチック製で被(かぶ)ってみると
       その気になってくる。男の孫がいれば買って帰るのだが、被ってみただけで終わった。
        この時の様子を愛知のA夫妻が写真に撮ってくれていた。

         
          ヴァイキングに変身!!      孫娘の顔を思い浮かべながら選ぶ

 (4) 「シングヴェトリル国立公園」観光
      1時ごろバスはシングヴェトリル国立公園に向かって出発した。35号線から365号線に入り、西に進む。
     頂上を雪に覆われたなだらかな山が遠くに見え、ところどころに馬が放牧されている。この時期は水が豊富
     なせいかいくつかの川を横切る。
      1時間近く走り、36号線に合流し、北上するとシングヴェトリル湖が見えてくる。湖を反時計に回り込んだ
     12時の辺りに、シングヴェトリル国立公園がある。
      対岸の雪を戴く山には、氷河の名残(なごり)と思われる、カール(圏谷:けんこく)地形がみられる。

      
                     シングヴェトリル湖

      駐車場に着いて、ここから地球の割れ目(ギャオ)に沿って散策するコースだ。バスを降りるとき、ガイド
     から、「バスは別な駐車場で待っているから、ここに戻ってもバスはない」、と注意された。
      どう歩いたのか、例のごとくカメラのGPS機能を活用してトレースしてみた。駐車場P1で下車し、地球の
     割れ目に沿って、シングヴェトリルの駐車場P2まで歩いたはずだ。歩いた距離は、2キロくらいだろう。

      
                    「シングヴェトリル国立公園」観光マップ

      駐車場からも見えたのは、「オクサラゥル滝」だ。さほど大きな滝ではないが、アイスランドの滝10選にも
     選ばれているほどだ。

      
                    「オクサラゥル滝」の下流

      右(北西側)がギャオの壁になっている遊歩道を南西に向かって歩くと、ひときわ大きな壁が見えてくる。
     その前の小高い丘にはアイスランドの国旗が掲げられている。
       ここで、930年に「アルシング」(Altingi)と呼ばれる民主的な全島集会が開催された。まさに、近代
     議会誕生の場所だ。

      
                    「アルシング」の開催場所

      湖に注ぐ川のデルタ地帯に尖塔をそなえた質素な建物がある。「シングヴェトリル教会」だ。この後、
     この教会を高いところから見下ろすことになる。

      
                      「シングヴェトリル教会」

      両側の崖が迫り、上りの勾配(傾斜)も少しきつくなり、「地球の割れ目(ギャオ)」の中にいるという実感
     が湧く。

      
                     「地球の割れ目(ギャオ)」

      足元の岩が露出しているところを観察すると、溶岩が流れた痕が幾重にも”波”のように見える。粘り気
     (粘性)の強い玄武岩質溶岩がユックリと流れながら固まったことが想像できる。一方、崖の部分の溶岩の
     断面は縦に四角い柱のように割れている。冷却するときに体積が収縮してできる、いわゆる『柱状節理』
     だ。

      
                     溶岩の流れた痕と『柱状節理』

      ここからは、 さきほど目の高さで見た教会やシングヴェトリル湖が眼下に見え、はるか遠くにはユーラシア
     プレートに乗った山々が見える。
      ここで、サプライズだ。この旅に同行している東ちづるさんがいたので、一緒に写真を撮らせて欲しいと
     お願いすると快諾していただけた。私との2ショットは問題なので(?)、名古屋の建設会社のAさんを呼び
     3ショットさせていただいた。
      バックの雪をいただく山々はユーラシアプレートに乗っている。ユーラシアプレートの東端から生まれた日本
     列島が誕生したのはここだとも言えるのだから感慨深い。

      
                        東ちづるさんと3ショット

   ■ △△さんが、行方不明!!
      ギャオを抜けて駐車場に向かうと、お土産店がある。まずはトイレに行こうとすると有料で、200クローネ
     (約180円)払ってチケットを買う。チケットの写真は上にある写真と同じ場所で撮ったもののようだ。
     アイスランド語の ”SALERNIS" は、トイレの意味だ。

      
                     有料トイレのチケット

      売り場に戻るとアイスランドの鉱物や地学に関する本が並んでいる。買おうかと思ったが、20,000円分
     ドイツのハンブルクで交換しておいたアイスランドクローネが残り少なくなっていて断念した。
      バスに乗ったものの、さっき見た本が気がかりで、「すぐに戻る!!」と周りに言って、駆け出した。キャッシュ
     カード払いで買った本を手にバスに駆け足で戻る。
      本は英語版なので何とか読めるし、「アイスランドスパー」について2ページを割いている。値段は、5,490
     クローネ(約5,000円)と少々高いが、日本では入手できないのを手にいれたのだから満足だ。

      
          「アイスランドの岩石と鉱物」                     「アイスランドスパー」のページ

      バスに戻っても一向に発車する気配がない。どうやら△△さんがまだ戻っていないらしい。われわれは、
     駐車場P1→P2に歩いてきたが、P2→P1 に歩いた号車もあったようだ。それと、バスから降りるときに注意が
     あったように、バスはP2に移動しているので、途中で体調を崩したり歩けなくなってP1に戻ってもバスは停
     まっていないのだ。
      30分くらい経ったころ、「△△さんがP1にいた」、という情報が入って来て一安心だ。16時30分ごろ、バスは
     レイキャビックに向けて走り出した。

   ■ レイキャビック市街散策
      レイキャビックの街に戻ったのは、17時30分ごろだった。バスは船が停泊しているスンダホフ港まで行くが
     帰船時間の21時までかなり時間があるので、希望者は街中で降りても良いというので降りることにした。
      降りたのは良いが、現在どこにいるのかはなんとなくわかったが、スンダホフ港がどっちの方角で距離がどの
     くらいあるのかも見当つかなかった。

      何時ものごとく、カメラのGPS情報と写真画像をもとに散策したルートを地図に落としてみた。

      
                         レイキャビック散策マップ

      同行者は、名古屋のAさんと、神奈川のYさんだ。まず、地図にあった郵便局に行かせてもらうことにした。
     レイキャビックもほかの都市と同じように碁盤の目のように区画整理されているので、さほど手間取らずに
     行き着いた。
      郵便局は前面を真っ赤に塗った建物で、入口脇、ラッパのマークの下に、”POSTRINN Post Office"
     とあり、赤い郵便ポストがあるのですぐにわかる。
      中に入ると、日本の街角にある郵便局と同じ規模で、カウンターの向こう側に局員がいて、受付番号を
     引いて順番を待つ。待合スペースには、切手やカードなどのいわゆる郵便グッズだけでなくお土産やおもち
     ゃに近いものまで並んでいる。

         
                   外観                           内部
                               レイキャビック郵便局

      順番が来たので、孫娘や友人・知人に出す郵便物を窓口に差し出す。日本で買った鉱物や火山など
     を描く切手を貼っておいたのだが、通貨の単位などが変わり、新たに切手を貼り足さねばならなかった。
      郵便グッズのうち、アイスランドの郵便ポストの形をした「フォルムカード(変形絵葉書)」があったので、
     購入した。

         
                表                         裏
                     郵便ポストの形をしたフォルムカード

      【後日談】
       アイスランドの地図・火山・鉱物、そしてレイキャビックの歴史・風物などを描く切手を貼って妻あてに
      送った封書は全て届いていた。そのいくつかを紹介する。

            
              「アイスランド・スパー(方解石)」と「輝沸石」を描く切手貼

          
                        火山噴火を描く切手3種貼
                 【切手の噴煙部分に火山灰が埋め込まれている】

            
                     間欠泉・流氷・火山を描く切手4種貼

      郵便局を出ると18時近かった。小腹が空いてきていたので、レストランに入って何か飲もうという話になっ
     た。南に向かって緩やかな坂道を上っていくと通りの突き当りに教会の尖塔が徐々に見えて来た。その手
     前の角地に目立つ黄色の外壁で創業”1892年”を謳う洒落た”PRIMO(最高)”という名のレストランがあ
     ったので入った。
      この時間だと客はわれわれだけで、ピザ(マルガリータ:約1900円)、アイスランドビール(5501ml:約900円)
     飲めない人はジュース(約400円)を注文した。
      アイスランドのレストランでの消費税率は11%で、内税になっていて、もらったレシートには税額が印刷し
     てある。ついでに、先ほど郵便局で買った切手類は0%でフォルムカードの税率は24%だ!! 趣味の品
     の税率が高いのは当然だろう。

         
                   外観                       まずは、”カンパ〜イ!!”
                               レストラン”PRIMO"

      レストランを出て、「ハットルグリムス教会」に向かう。この教会は、レイキャビックの中心部、しかも高台に
     あり、街のどこからでも見えるランドマークになっている。建物はコンクリート製で、73メートルの高さのある
     塔を備え、アイスランドでもっとも大きな教会であると同時に、もっとも高い建物でもある。1945年に建設が
     開始されてから1986年に完成するまで、実に41年の歳月を要した。
      建物の前にはアメリカ大陸を発見したと伝えられるヴァイキングのレイフ・エリクソン(970年頃―1020年頃)
     の像がある。

      
           「ハットルグリムス教会」

      船が停泊している埠頭は教会から見て北東の方角にあり、海岸沿いに出て時計方向に行けばよさそう
     だ。2人の婦人は「船まで歩いて行く」というのでお付き合いすることになった。
      とりあえず海を目指し、店のウインドウや住宅の庭を眺めながら緩やかな坂を下っていく。店先に溶岩を
     リース状にしてぶら下げているアイスランド魚料理の店があった。ショーウインドウに「沸石」などを飾った店
     もあったが既に閉店していた。

         
             溶岩を吊るした料理店                 「沸石」などを飾ったウインドウ

      街の中心部を離れると民家が増えてきた。その壁面にペイントした家もあれば、チューリップが満開の庭
     もある。私が住む甲府より1か月くらい季節感が遅いようだ。

         
                ペイントした家                      満開のチューリップ

      坂を下りていくと海が見えて来た。広い芝生の真ん中に白壁に黒い屋根の2階建てが”ポツン”と建って
     いる。これがホフディ・ハウス(迎賓館)だ。
      ソ連(当時)のゴルバチョフ書記長とアメリカのレーガン大統領が1986年10月、ここで東西冷戦を終結
     に向けて話し合った歴史的な場所だ。
      レイキャビックが”会談”の場に選ばれたのは、モスクワとワシントンのちょうど中間に位置しているからという
     話だ。
      ”かいだん”違いで、ここには「怪談噺(はなし)」も伝えられている。この建物は、もともと1909年にフランス
     領事館として建てられた。レイキャビック市の所有になる現在まで、持ち主が何度か変わり、その間ずっと、
     ホワイト・レデイと呼ばれる幽霊が住み憑(つ)いているという話が、まことしやかに伝わってきた。

      歴史的な場所で、記念写真だ。

      
               「ホフディ・ハウス(迎賓館)」前で

      広い道路を横切ると海岸沿いの道路だ。埠頭ははるか先のようで、それらしい景色は全く見えない。ここ
     まで元気だったAさんが、「もう歩けないないから戻ってタクシーに乗りたい」、と言いだした。ここから街の中心
     部まで戻るのも大変だし、そこでタクシーをつかまえられる保証もない。
      「ここまで来たらもう少しだから、行きましょう」、と元気づけて埠頭に向かう。それにしても遠い。
      ( 「山に行って、MHの”もう少し”に何回騙されたことか」・・・愛知・S夫人、兵庫・N夫人・・・)
      道路脇の草むらに生えているルピナスの花がわれわれの疲れを慰めてくれる。

         
              埠頭ははるかに遠い                    道端に咲くルピナス

      レストランを出て1時間半ほど歩いたところで、地元の青年、しかもかなりの”イケメン”に会ったら、途端に
     Aさんは元気が出たようで足取りがシッカリしてきた。さらに15分も歩くと、夕食後散策に出た何人かの旅友
     と出会う。「船は近い!!」と最後の気力をふりしぼる。
      赤い煙突の先端だけが見え、やがて船体全体が見えた。時計を見ると20時02分だった。歩いた距離を
     測ってみると、7キロ強あった。

         
              地元の”イケメン”と記念写真                 船が見えた!!

5. おわりに

 (1) 「シングヴェトリル国立公園」の怪
      翌6月10日、8Fデッキの定位置にいるとアメリカ人のRayさん、Teresaさんがやってきた。Rayさんたちは、
     レンタカーを借りて、「シングヴェトリル国立公園」や「ラグーン」を回ってきたと言って、「ギャオ」で拾った石を
     お土産に持って来てくれた。

      Rayさんが、「シングヴェトリル国立公園で撮った写真をみたら、Leeさんの顔がこんな変な顔になった」、
     と言って見せてくれたのが下の写真だ。

      
                 怪奇な顔に写ったMs.Lee

      横長のパノラマ写真の一部だが、Teresaさんの後ろ姿は何ともないが、Leeさんの顔が凹んでしまって
     いるし、左手の大きさや形も変だ。

      Teresaさんは、「昔、あの場所には刑場があって、大勢の人が殺された。その祟(たた)りではないか」、
     と不安がっている。
      そんなことはないと思うが、原因は分からずじまいだった。

      【後日談】
       2017年11月に趣味の切手雑誌が送られてきた。その中に第2次世界大戦中にイギリスが発行した
      謀略切手が載っている。
       謀略切手とは、交戦国首脳の権威を失墜させ、国民に戦意を喪失させたり、相手国を混乱させる
      目的で相手国の切手を偽造して、この切手の場合ドイツ国内にばら撒いたのだ。
       その1枚に、「顔面を破壊されたドイツ兵」が描かれている。つい、この時のことを思い出してしまった。

       
      下:「顔面を破壊されたドイツ兵」
         【1943年 イギリス発行】

6. 参考文献

 1) Anna Yates 英訳:Icelandic Rocks and Minerals ,MAL OG MENNING ,2002年
 2) 地球の歩き方編集室編:各国編2013〜15,ダイヤモンドビッグ社,2015年
 3) 日本郵趣出版編:スタンプマガジン 2017年12月号,同社,2017年


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