八ヶ岳山麓のレタス畑を歩き回り、ナイフ形石器の完形品や水晶片などを採集でき、わずかだが”先行者
利益”のおこぼれに与(あずか)った。また、何年かぶりで石友・小Yさんにも偶然会うことができた。
これに気を良くして、介護やボランティアの手が空いた3月になって、再度訪れてみた。甲府盆地から標高を
あげ、清里に近づくにつれてところどころに雪が見られた。八ヶ岳山麓のレタス畑は、一面の銀世界だった!!
前の週に降った雨は、この辺りでは雪だったらしく、日当たりの良い所々(ところどころ)に黒い土が露出して
いるだけだった。
少し(200mくらい)標高が低い場所は、日蔭にしか雪が残っていないので、かろうじて石器拾いを楽しむこと
ができた。
( 2019年3月 体験 )
この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。早い年だと11月中旬から2月下旬までは雪に覆われているから、
実質、観察できるのは限られた期間になる。
また、石器や土器を採集する愛好家は少なくないようで、畑には先行者が歩いた足跡を確認できることも
少なくない。そんなこともあって、いつ行くかは重要なポイントになる。2019年は、例年より1ケ月早かった。
また、石器や土器は南牧村や川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住ん
でいる場所と田畑や原野のままの場所があるように、1万数千年前でも人々にとって住みやすい場所とそうで
ない場所があったのだ。
それらの場所を先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶しておいて
そこを重点的に観察するのが良さそうだ。
石材の種類 | 色など | 写 真 | 黒曜石 | 黒 | 赤 | 灰色 (他県産) | 頁岩 | チャート | 青白 | 赤 | 石英(水晶) | 瑪瑙(めのう) |
今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を2018年と比較して下表に示す。
石材 | 年度 | 2018年 | 2019年2月 | 遺跡名 | KD | KD | NP | BD | YS | 合 計 | 色など | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 黒曜石 | 黒〜灰 | 213 | (72%) | 250 | (84%) | 1 | (100%) | 14 | (74%) | 265 | (83%) | 赤茶 | 9 | (3%) | 3 | (1%) | 3 | (1%) | 小計 | 222 | (75%) | 253 | (85%) | 1 | (100%) | 14 | (74%) | 268 | (84%) | 頁岩 | 4 | (1%) | 5 | (1%) | 1 | (33%) | 4 | (20%) | 6 | (2%) | チャート | 青白 | 67 | (23%) | 38 | (13%) | 2 | (67%) | 44 | (13%) | 石英 | 水晶 | 2 | (1%) | 2 | (1%) | 1 | (6%) | 3 | (1%) | 合 計 | 295 | (100%) | 298 | (100%) | 1 | (100%) | 3 | (100%) | 19 | (100%) | 321 | (100%) |
石材 | 年度 | 2019年3月 | 遺跡名 | N | E | W | 合 計 | 色など | 観察数 | 観察数 | 観察数 | 小計 | 比率 | 黒曜石 | 黒 | 89 | 9 | 158 | 256 | (73.1%) | 灰 | 6 | 1 | 6 | 13 | (3.7%) | 赤茶 | 3 | 3 | (0.9%) | 小計 | 95 | 13 | 164 | 272 | (77.7%) | 頁岩 | 2 | 1 | 16 | 19 | (5.4%) | チャート | 青白 | 3 | 54 | 57 | (16.3%) | 赤 | 1 | 1 | (0.3%) | 小計 | 3 | 55 | 58 | (16.6%) | 石英 | 水晶 | 1 | 1 | (0.3%) | 合 計 | 97 | 17 | 236 | 350 | (100%) |
1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、前々回の2016年、2018年、
2019年2月、そして2019年3月の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られない
ことから、この地域の石器材料のおおまかな比率とみて間違いないだろう。
2010年 2014年 2016年
2018年 2019年2月
石器に使われた鉱物・岩石内訳
2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、80%前後を占めている。以前単身赴任して
いた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。
・ 千葉県で石器拾い
( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )
八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あい
ま)っての結果だろう。
3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶
が豊富にあるのだから、材料入手の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。
・ 石器作りに挑戦
( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )
ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手できる
石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。
4.3 水晶製石器の産出状況
川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれた小Yさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。
今回は、旧石器遺跡の近くで水晶製石器を観察できた。ここでは、過去にも結晶面が見える水晶や
水晶塊を観察した場所だ。
石英剥片【2019年3月】
横:21mm
今までに訪れた産地の水晶製石器確認状況を一覧表に示す。
◎:数個確認 ○:産出確認 ×:産出未確認
区 分 | 遺 跡 (時代) | 備 考 | YD (旧石器) | KD (旧石器) | KK (旧石器) | YK (縄文) | YS (旧石器) | BD (旧石器) | 水晶製石器 | × | × | ○ | × | × | × | 水晶(石英)塊 | × | ○ | ○ | × | ○ | ○ | 水晶剥片 | × | ◎ | ○ | ○ | ○ | ◎ | 結晶面が見える水晶 | × | ○ | × | × | ○ | × | 備 考 |
2010年に初訪問 コンスタントに観察 2016年も観察 2017年は、KDのみ訪問 2019年は、KDで観察 |
2013年初訪問 2016年は未訪問 2017年は未訪問 2019年に観察 |
2015年初訪問 2016年未確認 2017年は未訪問 2019年未確認 |
4.4 観察石器と遺物
今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。
@ ”石槍”
A 石鏃(矢じり)
B 石核(せっかく:コア)と呼ばれる、剥片を剥がして残った芯の部分
これら、観察できた石器の一部を紹介する。
石器名 | 観察地 (時代) | 材質 | 写 真 | 説 明 | 石槍 (ポイント) | KD (旧石器) | 黒曜石 |
長さ 27mm | 石槍としては 小型 |
石鏃 (矢じり) | KD (縄文) | 黒曜石 |
長さ 15mm 茎(なかご)がないタイプ | 縄文時代になって 狩猟で使った矢じり |
貯鉱場に渡る木橋は、昨年夏に補強しておいたので、ガッチリしていて、苦労なく渡河できた。しかい、ズリは
雪に覆われ、しかも凍結していて、パンニング皿一杯分の土砂を集めるのに苦労した。
それでも、パンニングや表面採集で、「自然金」はじめ、この産地で観察できる鉱物の80%くらいを確認する
ことができた。
■ 旧石器人のロマンを追って
行きしなに、「レタス畑の中で、旧石器が拾える」、と先生に話しておいた。帰りにそのあたりに差し掛かると、
I先生が「畑の土がキラキラ光っているのは石器かしら?」、と興味を示した。遺跡跡近くに車を止め、畑の
表面を探してみた。短時間だったが、3人で黒曜石やチャートの剥片を20個くらい観察でき、I先生のお土産に
なった。
16,000年前の人々が作って、使った石器は、単なる道具ではなく、それを通して当時ここに住んでいた人々
の家族団欒の様子や大きな獣を仕留めた喜び、あるいは獣に襲われて恐ろしい目に遭った体験などを感じ
られ、愛着深い。