水晶で作られた石器 その13

          ( Stone Implement made of QUARTZ  Part13
                       Kawakami and Minamimaki Village , Nagano Pref. )

1. はじめに

    2019年は雪が少なく、というより甲府盆地では全く積もらず、春の訪れが早いような気がした。春到来を
   思わせる暖かさに誘われ、例年より1ケ月も早く、ミネラル・ウオッチングに向けたリハビリの1つ、『石器拾い』
   に出かけたのは2月中旬だった。

   ・ 水晶で作られた石器 その12
    ( Stone Implement made of QUARTZ  Part12
                Kawakami and Minamimaki Village , Nagano Pref. )

    八ヶ岳山麓のレタス畑を歩き回り、ナイフ形石器の完形品や水晶片などを採集でき、わずかだが”先行者
   利益”のおこぼれに与(あずか)った。また、何年かぶりで石友・小Yさんにも偶然会うことができた。

    これに気を良くして、介護やボランティアの手が空いた3月になって、再度訪れてみた。甲府盆地から標高を
   あげ、清里に近づくにつれてところどころに雪が見られた。八ヶ岳山麓のレタス畑は、一面の銀世界だった!!

    前の週に降った雨は、この辺りでは雪だったらしく、日当たりの良い所々(ところどころ)に黒い土が露出して
   いるだけだった。
    少し(200mくらい)標高が低い場所は、日蔭にしか雪が残っていないので、かろうじて石器拾いを楽しむこと
   ができた。
   ( 2019年3月 体験 )

2. 産地

    いつもの観察地よりも標高が低い場所で、落ちている剥片も少ない。

     
                      石器観察地
                 【3月なのに、一面”銀世界”】

3. 産状と観察方法

    畑を耕したときに掘り起こされた土が凍ったり、霜柱で持ち上げられてから溶けるのを繰り返し、バラバラに崩
   れ、雨にあたったり、風に吹かれたりして表層の土が取り除かれると、石器が畑の表面に露出していることがあ
   る。これらを観察するのだ。
    畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。

        
                              ”キラリ”と光る石器

    この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
   始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。早い年だと11月中旬から2月下旬までは雪に覆われているから、
   実質、観察できるのは限られた期間になる。
    また、石器や土器を採集する愛好家は少なくないようで、畑には先行者が歩いた足跡を確認できることも
   少なくない。そんなこともあって、いつ行くかは重要なポイントになる。2019年は、例年より1ケ月早かった。

    また、石器や土器は南牧村や川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住ん
   でいる場所と田畑や原野のままの場所があるように、1万数千年前でも人々にとって住みやすい場所とそうで
   ない場所があったのだ。
    それらの場所を先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶しておいて
   そこを重点的に観察するのが良さそうだ。

4. 観察標本

 4.1 石器材料【旧石器遺跡周辺】
      川上村周辺で観察できる石器に使われている石材を紹介する。畑の中で、尖った石塊を見つけることが
     ある。ここに載せた以外の石材だと、近代になって道路や線路工事で外から持ち込まれた砕石の可能性が
     高い。

石材の種類 色など 写       真
黒曜石
灰色
(他県産)
頁岩
チャート 青白
石英(水晶)  
瑪瑙(めのう)    

      今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を2018年と比較して下表に示す。

石材 年度 2018年 2019年2月
遺跡名 KD KD NP BD YS 合   計
色など 観察数 比率 観察数 比率 観察数 比率 観察数 比率 観察数 比率 観察数 比率
黒曜石 黒〜灰 213 (72%) 250 (84%) 1 (100%)     14 (74%) 265 (83%)
赤茶 9 (3%) 3 (1%)             3 (1%)
小計 222 (75%) 253 (85%) 1 (100%)     14 (74%) 268 (84%)
頁岩 4 (1%) 5 (1%)     1 (33%) 4 (20%) 6 (2%)
チャート 青白 67 (23%) 38 (13%)     2 (67%)     44 (13%)
石英 水晶 2 (1%) 2 (1%)         1 (6%) 3 (1%)
合     計 295 (100%) 298 (100%) 1 (100%) 3 (100%) 19 (100%) 321 (100%)

石材 年度 2019年3月
遺跡名 N E W 合   計
色など 観察数 観察数 観察数 小計 比率
黒曜石 89 9 158 256 (73.1%)
6 1 6 13 (3.7%)
赤茶 3 3 (0.9%)
小計 95 13 164 272 (77.7%)
頁岩 2 1 16 19 (5.4%)
チャート 青白   3 54 57 (16.3%)
    11 (0.3%)
小計   3 55 58 (16.6%)
石英 水晶     1 1 (0.3%)
合     計 97 17 236 350 (100%)

      1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、前々回の2016年、2018年、
        2019年2月、そして2019年3月の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られない
        ことから、この地域の石器材料のおおまかな比率とみて間違いないだろう。

            
                2010年                   2014年                  2016年

                        
                             2018年                   2019年2月

                                石器に使われた鉱物・岩石内訳

      2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、80%前後を占めている。以前単身赴任して
        いた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。

         ・ 千葉県で石器拾い
         ( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )

         八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あい
        ま)っての結果だろう。

      3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶
        が豊富にあるのだから、材料入手の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。

          ・ 石器作りに挑戦
           ( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )

         ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手できる
        石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。

 4.3 水晶製石器の産出状況
      川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれた小Yさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
     のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。

      今回は、旧石器遺跡の近くで水晶製石器を観察できた。ここでは、過去にも結晶面が見える水晶や
     水晶塊を観察した場所だ。

     
              石英剥片【2019年3月】
                   横:21mm

      今までに訪れた産地の水晶製石器確認状況を一覧表に示す。

                        ◎:数個確認    ○:産出確認     ×:産出未確認
 区 分 遺   跡 (時代)備 考
  YD
(旧石器)
  KD
(旧石器)
  KK
(旧石器)
  YK
(縄文)
  YS
(旧石器)
  BD
(旧石器)
 
水晶製石器   ×   ×   ○   ×   ×   ×  
水晶(石英)塊   ×   ○   ○   ×   ○  ○  
水晶剥片   ×   ◎   ○   ○   ○   ◎  
結晶面が見える水晶   ×   ○   ×   ×   ○  ×  
備      考 2010年に初訪問
コンスタントに観察
2016年も観察
2017年は、KDのみ訪問
2019年は、KDで観察
 2013年初訪問
2016年は未訪問
2017年は未訪問
2019年に観察
2015年初訪問
2016年未確認
2017年は未訪問
2019年未確認
 

 4.4 観察石器と遺物
     今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。

     @ ”石槍”
     A 石鏃(矢じり)
     B 石核(せっかく:コア)と呼ばれる、剥片を剥がして残った芯の部分

      これら、観察できた石器の一部を紹介する。

石器名 観察地
(時代)
材質 写    真 説   明
石槍
(ポイント)
KD
(旧石器)
黒曜石    
              長さ 27mm
石槍としては
小型
石鏃
(矢じり)
KD
(縄文)
黒曜石
             長さ 15mm
           茎(なかご)がないタイプ
縄文時代になって
狩猟で使った矢じり

5. おわりに

 ■ ミネラル・ウオッチング シーズン開幕!?
    春の訪れと同時に、新学年を迎える学校関係者から、鉱物の課外授業の講師依頼が何件か舞い込んで
   いる。
    3月末に、先生2人を案内して下見でいつも訪れる「甲武信鉱山の貯鉱場」を訪れてビックリした。湯沼鉱泉
   辺りのレタス畑には雪が全くなかったのに、町田休暇村から先の林道には5センチぐらい雪が積もっていて、スタッ
   ドレス・タイヤを装着した4WD車なので、かろうじて駐車スペースまで入ることができた。
    轍(わだち)の跡がない、処女雪なので、前の日、甲府盆地は強い雨だったがここでは雪が降ったようだ。

    貯鉱場に渡る木橋は、昨年夏に補強しておいたので、ガッチリしていて、苦労なく渡河できた。しかい、ズリは
   雪に覆われ、しかも凍結していて、パンニング皿一杯分の土砂を集めるのに苦労した。

     
                   甲武信鉱山「貯鉱場」
               【翌日から4月なのに、一面”銀世界”】

    それでも、パンニングや表面採集で、「自然金」はじめ、この産地で観察できる鉱物の80%くらいを確認する
   ことができた。

 ■ 旧石器人のロマンを追って
    行きしなに、「レタス畑の中で、旧石器が拾える」、と先生に話しておいた。帰りにそのあたりに差し掛かると、
   I先生が「畑の土がキラキラ光っているのは石器かしら?」、と興味を示した。遺跡跡近くに車を止め、畑の
   表面を探してみた。短時間だったが、3人で黒曜石やチャートの剥片を20個くらい観察でき、I先生のお土産に
   なった。

     
                   石器拾いする先生たち
                 【旧石器人のロマンを追って】

    16,000年前の人々が作って、使った石器は、単なる道具ではなく、それを通して当時ここに住んでいた人々
   の家族団欒の様子や大きな獣を仕留めた喜び、あるいは獣に襲われて恐ろしい目に遭った体験などを感じ
   られ、愛着深い。

6. 参考文献

 1) 戸沢 充則執筆:矢出川遺跡群,長野県考古学会 矢出川遺跡群保存委員会,1983年
 2) 白石 浩之:旧石器時代の石槍,東京大学出版会,1989年
 3) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 4) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 5) 山梨県立考古博物館編:第23回特別展 縄文時代の暮らし 山の民と海の民
                     同館,2005年
 6) 堤 隆:黒曜石3万年の旅,日本放送出版協会,2006年
 7) ミュージアムパーク茨城県自然博物館編:第44回企画展 ザ・ストーンワールド
                               −人と石の自然史−,同館,2008年
 8) 国立歴史民族博物館編:企画展示 縄文はいつからか!?,同館,2009年


「鉱物採集」のホームに戻る


inserted by FC2 system