・長野県川上村湯沼『朝飯前』の鉱物
( Minerals from Yunuma " Asameshimae " , Kawakami Village , Nagano Pref. )
このときも、『インターラプテド・クオーツ』と呼ぶ柱面に”くびれ”や”段差”がある水晶を採集
した。
以前から、このような形の水晶がどうしてできたのか気にはなっていたが、ジックリ考えて
みる時間的・心理的な余裕がなく、そのままになっていた。
J氏(珍しい苗字なので、前のページではS氏とした)によれば、「結晶の成長過程で中断する
時期があったため」、と推測されるらしい。
このときいくつか採集した褐鉄鉱の塊を塩酸に漬けて褐鉄鉱を溶かしてみると、隠れていた
水晶が姿を現し、2本の水晶の柱面に”一直線上の切れ込み”をもつサンプルが2つあった。
このことから、『インターラプテド・クオーツ』の成因は、方解石などの鉱物で水晶の成長が
邪魔され(インターラプテド)生まれたものと考えられる。
( 2013年4月採集 6月考察 )
多くの水晶は、褐鉄鉱に覆われた状態で、1本、1本の単晶になって”バラバラ”な状態で産
出するので、精密な測定器を持たないアマチャの私が”単晶”を使って成因を調べるのには
不適当と判断した。
一方、”タイム・カプセル”の役を果たしている褐鉄鉱の塊の中に閉じ込められた群晶は、
水晶が誕生した時の状態を保存しており、『インターラプテド・クオーツ』の成因に大きな示唆を
与えてくれた。
サンプルAは、右上に2本並んだ水晶の横方向に”切れ込み”があり、サンプルBは、中央
の2本の水晶に、左から右斜め下に”切れ込み”が観察できる。
サンプルBは、ほとんどの褐鉄鉱を溶かしてしてあるが、”群晶”として1,000万年以上前に
水晶が誕生したときの相互位置関係を保っている。
(1) 『成因』の候補は?
推理小説の犯人は、小説の中に登場したことのある人物に絞られるように、考えられる
『成因』は、次のいずれかだろう。
@ 水晶の結晶成長に関する内的要因
水晶が成長する時に、鉱液の供給が途絶えたり、温度や圧力が変化して、結晶
成長が中断した。
水晶の表面にみられるc軸に直交する条線は、成長速度が変化した『反復成長』
の証(あかし)、とされている。
A 結晶成長を阻害する外的要因
何らかの鉱物(物質)が成長の邪魔をした(インターラプテド)結果、その部分だけ
成長が取り残された。水晶の成長が終わった後の地殻環境変化で、邪魔をした鉱
物は溶け去り、その痕跡を残していない。
”抜け殻石英”と呼ぶ、”骨粗鬆症のような石英が金山跡などで観察できるが
これは、「重晶石」が溶けた跡、とされている。
B @とAの複合要因
(2) 「演繹法」か「帰納法」か
成因を探る方法には、大別して「演繹法」と「帰納法」がある。
「演繹法」・・・・・・・1つのこと【結論】から、さらに押し広めて延べる。
「帰納法」・・・・・・・個々の特殊な事実を総合して共通点を求め、それに基づいて
一般的原理・法則を導き出す。
”単晶”の場合は、「帰納法」、”群晶”がみつかれば、「演繹法」で証明してみようと考え
ていた。
今回、”群晶”が手に入ったので、「演繹法」での証明を説明するのだが、まず、”単晶”
の「帰納法」での説明にお付き合いいただきたい。
(3) ”単晶”のケース
”単晶”の場合、たくさんの”切れ込み”事例を集めてみることにした。頭のあるなしに
かかわらず、集めてみると下の写真のようだ。
「ξ(クシー)面を持つ水晶」のページで説明したように、水晶の結晶面は、m面、r面、
s面、x面、z面など、特定の面しか取り得ない。
c軸(水晶の上下方向)と”切れ込み”のなす角度に”規則性”があれば、成因は@と
考えられる。上の写真を見ていただくと、1本の水晶の中ですら角度はバラバラで、”規則
性”はなさそうだ。これを厳密に証明するには、「測角測定器」しか持っていないアマチャ
の私には手に負えそうもなく、この手法はギブアップせざるを得なかった。
(4) ”群晶”のケース
”群晶”なら、近接する2本の水晶の”切れ込み”の位置関係に”規則性”があれば、成因
A、ランダムであれば、@の可能性が高い。
2つ以上の水晶の”切れ込み”の位置関係をサンプルA、Bについて調査した結果を下の
写真に示す。
ひと目で、”一直線上に並んでいる”ことが判るだろう。従って、『成因』はAだ。