私がここを最後に訪れたのは3年近く前の2010年の6月だった。その後、産地の手前に、
社長の案内で駐車スペースに行くと、フェンスの扉には施錠されている。入口が以前よりも、
社長に産地をくまなく案内してもらうと、私が皆さんを案内していたのは産地のごく一部だった
同行した皆さんも満足して産地を後にした。産地を案内していただいた湯沼鉱泉社長に厚く
(2) 鋭錐石【ANATASE:TiO2】
(3) 板チタン石【BROOKITE:TiO2】
酸化チタン鉱物【TiO2】の3兄弟(姉妹?)に「ルチル(金紅石)」があるのだが、ここでは
2001年ごろ、当時神戸大の医学生・Tさんから、『角閃石入り水晶に、鋭錐石がついて
(4) チタン鉄鉱【ILMENITE:FeTiO3】
(5) 鉄雲母【ANNITE:KFe3AlSi3O3(OH,F)2】
(6) 褐鉄鉱/針鉄鉱(ゲーテ鉱)【Limonite/GOETHITE:FeOOH】
(7) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2】
インクルージョンの種類や量によって、無色透明〜黄褐色〜緑色〜青色〜乳白色に色づ
色つき部分と透明部分がクッキリと分離するといわゆる「山入り水晶」になるが、産出は希
水晶の形の観点から観察品を見てみよう。この産地の水晶は、晶洞内でバラバラになった
この産地では、”奇妙”な水晶が観察できる。それは、c軸に斜め、あるいはほぼ平行に、
「貯鉱場」の一部に、赤く色づいた水晶があった。インクルージョンで色づいているわけでは
恒例の「ミネラル・ウオッチング」の2日目の朝、湯沼鉱泉に宿泊した人たちを早朝、朝飯前
また、ここは女性、子ども、「前期高齢者」でも、手軽に採集できる産地の1つで、「ミネラル・
産地そのものは小さく、『 採集は、1人数本にとどめ、採り過ぎないように 』 注意して
(2) 「朝飯前」集大成
今まで何回も訪れた「朝飯前」の産地だが、これで集大成にしたいものだ。
( Mineral Watching , May 2010 in Yamanashi and Nagano Pref. )
従来からあった高電圧の電気防護柵に加えて、獣除けのフェンスが張り巡らされ、入口には
施錠されるなど、変貌していた。
皆さんを無事に案内する自信がなく、社長に案内を頼むと渋っていたが、「女の人だと喜んで
案内するのに」 、と言うお姐さんの一言で腰を上げてくれた。
数100m北東に変わっている。錠を開けてもらい、社長の後を300mも進むと見馴れた場所だ。
社長の案内で産地に向かう
ことを初めて知った。
山の斜面の一番上の崩れた坑道(?)前から一番下の「貯鉱場」(?)まで採集しながら降り
て行くことにした。
それぞれのポイントによって産出する鉱物種や同じ水晶でも色、形、インクルージョンなどに
バリエーションがあることを改めて認識した。
御礼を申し上げる。
( 2013年4月 採集 )
2. 産地
湯沼鉱泉に立ち寄り、社長に挨拶し、産地の場所を教えてもらうと良いだろう。女性なら社長
が産地を案内してくれるかも知れない。
産地
3. 産状と採集方法
湯沼鉱泉の社長の話では、ここでは、戦後間もない昭和23年(1948年)ごろ、褐鉄鉱か水晶
を採掘したらしい。
晶洞の水晶を渇鉄鉱が埋めたようで、水晶が無数に入った渇鉄鉱の大きな塊が転がっている。
板樋で、鉱石を山裾まで落とした際に、こぼれたものが、ズリになっているようだ。落ち葉の下の
赤玉土状のところを、熊手で掘り返して採集する。
産状と採集方法
4. 産出鉱物
(1) 普通角閃石【Hornblende】
苦土普通角閃石【MAGNESIOHORNBLENDE:Ca2Mg4AlSi7AlO22(OH)2】または鉄普通
角閃石【FERROHORNBLENDE:Ca2Fe4(Al,Fe3+)Si6Al2O22(OH)2】を「普通角閃石」、と呼
んでいる。
この産地では、水晶のインクルージョンとして針状結晶が普通に見られるが、どちらなのか
明確ではない。
しかし、普通角閃石が単独で産出するのは稀だ。10年ほど前、T元教授が学生を連れて
ここを訪れた時、”針状〜綿毛状”の「普通角閃石」が多産したが、当時、『アスベスト問題』
があり、少ししか持ち帰らなかった、と話してくれた。その時の標本を恵与いただいたので
紹介する。
普通角閃石【T元教授恵与品】
【横 35mm】
水晶の表面に最大1mm程度の鋭錐石が観察できる。複(両)錐形で、c軸方向と直角方
向に反復双晶の条線が観察できる。純粋なTiO2であれば無色透明なはずだが、飴色透明
ガラス光沢〜鋼黒色不透明金属光沢と外観に違いがあるのは、鉄(Fe)などの元素の影響
だろう。
鋭錐石
【横 3mm】
黄褐色透明ガラス光沢の六角板状で水晶の上に産出する。鋭錐石とは化学組成が同じ
だが結晶の形が違う『同質異像』の関係にあるのは読者も御存知だろう。
板チタン石
【横 2mm】
見かけたことがない。
それぞれ生成温度や圧力が違うので、3兄弟が揃って産出する例は少ないようだ。
いるものがあり、確率は10%弱。未確認情報では、板チタン石も可能性あり』 とのメールを
いただいたことがあった。
今回調べてみると、鋭錐石は16%、板チタン石は6%の水晶で確認できた。ただ、頭付き
で表面がキレイな水晶には少なく、ビンタ切れ(頭のない)、表面が痘痕(あばた)状のもの
に多いようだ。
水晶のインクルージョンとして、銀白色、厚みの薄い”液体入り状”で観察できる。
チタン鉄鉱
【横 10mm】
水晶の表面やインクルージョンとして、黒色”球状”結晶が観察できる。水晶表面のものは
抜け落ちて、クレーター状の凹みができている。その中に、「鋭錐石」が観察できることがあ
る。
鉄雲母
【横 10mm】
茶褐色の”土状”、”葡萄状”あるいは”腎臓状”で、水晶を取り囲むような状態で産出する。
部分的に、真っ赤な”ベンガラ”【Fe2O3】のような部分もあり、酸化や水酸化作用が一様で
なかった可能性がある。
葡萄状針鉄鉱(ゲーテ鉱)
【横 57mm】
ほとんどの水晶にインクルージョンとして”針状結晶”が見られ、この産地の水晶が多くの
石人に『角閃石入り』 、と呼ばれる所以である。
いている。
分析した訳ではないが、緑色のものは「透緑閃石」、青いのは「石綿系の閃石」などでは
ないだろうか、と愚考する次第だ。
各種の色つき水晶を紹介する。
黄褐色 緑色 青色 乳白色
【長さ 38mm】 【長さ 30mm】 【長さ 48mm】 【長さ 30mm】
だ。
「山入り水晶」
ため分離単晶が多く、水晶の両端に錐面がある俗に「ダブルポイント(両錐)」は極めて少な
い。下の写真に、「両錐」と「平行連晶」の例を示すが、どちらも産出頻度は1%未満のようだ。
右の平行連晶のものは長さ60mmで、この産地としては最大クラスだ。
両錐 平行連晶
【長さ 45mm】 【長さ 60mm】
”くびれ”や”段差”があることだ。
S氏によれば、この種の水晶を『インターラプテド・クオーツ(Interrupted QUARTZ)』 、と呼び、
結晶の成長過程で中断する時期があったためと推測されるらしい。
別に、方解石などの鉱物が後で抜け落ちた、『抜け殻水晶(石英)』 、との考え方も否定
できないだろう。いずれにしても、このような形状がどのような成長過程で生まれたものなのか
は興味深い。
インターラプテド・クオーツ
【長さ 51mm】
なく、酸化鉄で鉱染されて赤く見えるだけのようだ。
赤い水晶
【横 51mm】
5. おわりに
(1) 『朝飯前』
新潮国語辞典で「朝飯前」を引くと、2つの意味で使われるようだ。
@ 起きたばかりで、まだ朝食を食べていない時
A 朝飯前でもできるほど容易なこと。
に案内する事から、いつの間にか産地名を『朝飯前』、と呼ばれるようになった。文字通り、
@の意味だ。
ウオッチング」の”昔乙女コース”としても人気が高い。
GW明けに湯沼鉱泉を訪れると、17時過ぎから『朝飯前』の産地に向かう女性の宿泊客が
いたほどで、Aの意味も兼ね備えている。
( 朝飯ならぬ夕飯前だったが )
多くの人が永く楽しめるようにしたいものだ。
2013年3月末に山梨に戻り、今まで訪れた産地データのまとめに着手した。
・ 産地位置を国土地理院の地図に落とす
・ 産地の歴史や口碑を書き残す
・ 産出鉱物を写真に残す
6. 参考文献
1) 久松 潜一監修:新潮国語辞典,新潮社,昭和40年
2) 松原 聰ほか:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
3) 加藤 昭:日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,無名会,2008年