水晶で作られた石器 その14

          ( Stone Implement made of QUARTZ  Part14
                       Kawakami and Minamimaki Village , Nagano Pref. )

1. はじめに

    2019年10月は、わずか半日で1ケ月分の雨が降るなどの異常な天候だった。茨城・K兄弟からミニ・ミネラル
   ウオッチングのお誘いを受けたが、ついて行けるか気がかりだった。
    例年2月から3月に、ミネラル・ウオッチングに向けたリハビリの1つ、『石器拾い』に出かけているので、山梨に一時
   帰宅したのを機に出かけてみた。
    朝夕はめっきり寒くなり、レタスの収穫が終わり、耕された畑の土が長雨で洗われ、石器が”土柱”のように、姿を
   現しているだろうとの目論見だった。

   ・ 水晶で作られた石器 その13
    ( Stone Implement made of QUARTZ  Part13
                Kawakami and Minamimaki Village , Nagano Pref. )

    山梨を出ると所々で霧雨が降っていて、清里に近づくにつれて気温は下がり、南牧村の道路に設置された温度
   計は10時近いというのに13℃を示していた。
    寒さに強い白菜が収穫期を迎えているだけで、狙い通りレタス畑は収穫を終え耕されていた。しかし長雨が続き
   畑のあちこちに水溜りができ、長靴を履いて歩くと泥濘に足を取られ転倒しそうになるのも度々だった。

    10時から午後3時まで、昼食を挟んで4時間余り歩き回り、旧石器時代を代表する「石槍」や「コア(石核)」など
   の石器とその材料として運ばれてきた石英(水晶)などの剥片を採集できた。この日は”8,9979歩”歩き、特段の
   疲れやまして足腰の痛みなどを感じることもなく、ミニ・ミネラルウオッチングに向けての足慣らしができたのは何よりの
   収穫だった。
   ( 2019年10月 体験 )

2. 産地

    いつもの八ヶ岳東麓の高原野菜の栽培地です。

3. 産状と観察方法

    畑を耕したときに掘り起こされた土が雨で洗われたり、風に吹かれたりして表層の土が取り除かれると、石器が
   畑の表面に露出することがある。これらを観察するのだ。
    畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。ただ、レタス畑の保温や
   泥付着防止に張ってあった真っ黒い農業用ビニールの切れ端の色と光沢が「黒曜石」とそっくりなので何度も
   騙された。

        
                 ”キラリ”と光る石器                 黒曜石もどきのビニール片

4. 観察標本

 4.1 石器材料
      川上村周辺で観察できる石器に使われている石材を紹介する。畑の中で、尖った石塊を見つけることが
     あるがここに載せた以外の石材だと、近代になって道路や線路工事で外から持ち込まれた砕石の可能性が
     高い。

石材の種類 色など 写       真
黒曜石
灰色
(他県産)
頁岩
チャート 青白
石英(水晶)  
瑪瑙(めのう)    

      今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を半年前2019年3月の時と比較し下表に示す。

石材 年月        2019/3/1        2019/10/1
遺跡名    N    E    W   合 計    N    E    W   合 計
色など    観 察 数 小計 比率    観 察 数 小計 比率
黒曜石 89 9 158 256 73.1% 99 18 11 128 75.3%
6 1 6 13 3.7%          
赤茶   3   3 0.9%          
小計 95 13 164 272 77.7% 99 18 11 128 75.3%
頁岩 2 1 16 19 5.4% 2 2 4 2.4%
チャート 青白   3 54 57 16.3% 31 3 1 35 20.6%
    1 1 0.3%          
小計   3 55 58 16.6% 31 3 1 35 20.6%
石英 水晶     1 1 0.3% 2 1   3 1.8%
合計 97 17 236 350 100% 134 22 14 170 100%

      1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、前々回の2016年、2018年、2019年2月、
        そして2019年3月の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られなかった。
         2019年3月と10月でも同じ傾向を示し、この地域の石器材料のおおまかな比率とみて間違いないだろう。

        
                            石器に使われた鉱物・岩石内訳

      2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、80%前後を占めている。以前単身赴任していた
        千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。

         ・ 千葉県で石器拾い
         ( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )

         八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あいま)って
        の結果だろう。

      3) 今回水晶の比率は1.8%と大きかったがデータを増やして均(なら)してみると1%以下と少ない。以前、
        「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶が豊富にあるのだから、材料入手の難易度
        よりも、加工しにくいことがその理由だろう。

          ・ 石器作りに挑戦
           ( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )

         ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、水晶が20%強を占める遺跡もあり、時代によって入手できる
        石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。

 4.3 水晶製石器の産出状況
      川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれた小Yさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
     のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。

      今回は、旧石器遺跡の近くで水晶製石器を観察できた。ここでは、過去にも結晶面が見える水晶や
     水晶塊を観察した場所だ。

      今までに訪れた産地の水晶製石器確認状況を一覧表に示す。

                        ◎:数個確認    ○:産出確認     ×:産出未確認
 区 分 遺   跡 (時代)備 考
  YD
(旧石器)
  KD
(旧石器)
  KK
(旧石器)
  YK
(縄文)
  YS
(旧石器)
  BD
(旧石器)
 
水晶製石器   ×   ×   ○   ×   ×   ×  
水晶(石英)塊   ×   ○   ○   ×   ○  ○  
水晶剥片   ×   ◎   ○   ○   ○   ◎  
結晶面が見える水晶   ×   ○   ×   ×   ○  ×  
備      考 2010年に初訪問
コンスタントに観察
2016年も観察
2017年は、KDのみ訪問
2019年は、3月、10月にKDで観察
 2013年初訪問
2016年は未訪問
2017年は未訪問
2019年に観察
2015年初訪問
2016年未確認
2017年は未訪問
2019年未確認
 

 4.4 観察石器と遺物
     今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。

     @ ”石槍”
     A ”石匙(スクレーパー)"
     B コア(石核(せっかく))と呼ばれる、剥片を剥がして残った芯の部分
     C 剥片、コアから剥がした破片でそのままでもナイフとして使われ、石鏃などに加工された。

      これら、観察できた石器を紹介する。

      
                           観察できた石器

5. おわりに

 ■ 10年後
    台風19号が過ぎ去った後、東京にある家で雨漏りがするとの連絡を受けて修理に向かった。前の日の午後から
   中央道が開通したばかりで、通れるか不安もあったが車線帰省等もなくスムースだった。

    その家に入居したのは47年前になる。会社が分譲した10棟余りの1つで、周りは所帯持ちばかりで、独身者は
   私だけだった。その後、転勤した人、退職・移住した人もいて、最初から住んでいる人は3人だけになっている。
    着いて間もなく、その内のTさんが前日に亡くなった、と聞いた。Tさんは私より10歳年上だと奥さんから聞いて知っ
   た。

    67歳で現役を引退した後、古希を迎えるのを機に南極に旅し、その翌年は北極圏を巡る世界一周を果たした。
   『片雲の風に誘はれて、漂白の思ひやまず』、ついに2020年末に南半球地球一周に旅立つことにした。74歳に
   なっているはずだ。
    このことを息子に話すと、「じいさん(息子の祖父)は、74歳で死んだんじゃなかった」、と突っ込んできた。いつ死ん
   でもおかしくない年になっているのだと改めて思い知らされた。

    10年後と言わず、これからは、1年、1年、否毎日が大事なんだと自分に言い聞かせるMineralhunters で
   あった。

6. 参考文献

 1) 戸沢 充則執筆:矢出川遺跡群,長野県考古学会 矢出川遺跡群保存委員会,1983年
 2) 白石 浩之:旧石器時代の石槍,東京大学出版会,1989年
 3) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 4) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 5) 山梨県立考古博物館編:第23回特別展 縄文時代の暮らし 山の民と海の民
                     同館,2005年
 6) 堤 隆:黒曜石3万年の旅,日本放送出版協会,2006年
 7) ミュージアムパーク茨城県自然博物館編:第44回企画展 ザ・ストーンワールド
                               −人と石の自然史−,同館,2008年
 8) 国立歴史民族博物館編:企画展示 縄文はいつからか!?,同館,2009年


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