2月に入り、立春のころ、夕方のテレビで天気予報を見ていると、標高1,185mの甲斐大泉駅がある辺りの
その日の最低気温がマイナスになっていないので驚いた。
2010年3月に八ヶ岳周辺で水晶製の石器を探し始めて、9回目の春を迎えた。例年、3月に鈍った身体の
リハビリの第一歩なのだが、今年は最適期が早まりそうだと思い、2月中旬に訪れた。
まだ、訪れる人が少ないことがレタス畑に足跡がほとんどないことからも判り、一番乗りのようだ。そのお蔭か、
「水晶片」のほか、「ナイフ形石器」や「大きな石核」などを採集できた。
石器を探し回っていると、乗用車から降りてきた人に、「今日は!!」、と声を掛けられた。顔をよくよく見ると
石友でもあり、石器探しの師匠の小Yさんだった。会うのは、3年、いや4年ぶりだろうか。
鉱物採集は年に数回程度で、本来の趣味の”蝶”で忙しく、元気にしているようなので何よりだ。
( 2019年2月 体験 )
畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。
この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。早い年だと11月中旬から2月下旬までは雪に覆われているから、
実質、観察できるのは限られた期間になる。
また、石器や土器を採集する愛好家は少なくないようで、畑には先行者が歩いた足跡を確認できることも
少なくない。そんなこともあって、いつ行くかは重要なポイントになる。2019年は、例年より1ケ月早かった。
また、石器や土器は南牧村や川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住ん
でいる場所と田畑や原野のままの場所があるように、1万数千年前でも人々にとって住みやすい場所とそうで
ない場所があったのだ。
それらの場所を先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶しておいて
そこを重点的に観察するのが良さそうだ。
石材の種類 | 色など | 写 真 | 黒曜石 | 黒 | 赤 | 灰色 (他県産) | 頁岩 | チャート | 青白 | 赤 | 石英(水晶) | 瑪瑙(めのう) |
今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を2018年と比較して下表に示す。
石材 | 年度 | 2018年 | 2019年 | 遺跡名 | KD | KD | NP | BD | YS | 合 計 | 色など | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 黒曜石 | 黒〜灰 | 213 | (72%) | 250 | (84%) | 1 | (100%) | 14 | (74%) | 265 | (83%) | 赤茶 | 9 | (3%) | 3 | (1%) | 3 | (1%) | 小計 | 222 | (75%) | 253 | (85%) | 1 | (100%) | 14 | (74%) | 268 | (84%) | 頁岩 | 4 | (1%) | 5 | (1%) | 1 | (33%) | 4 | (20%) | 6 | (2%) | チャート | 青白 | 67 | (23%) | 38 | (13%) | 2 | (67%) | 44 | (13%) | 石英 | 水晶 | 2 | (1%) | 2 | (1%) | 1 | (6%) | 3 | (1%) | 合 計 | 295 | (100%) | 298 | (100%) | 1 | (100%) | 3 | (100%) | 19 | (100%) | 321 | (100%) |
1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、前々回の2016年、2018年、そして
今回(2019年)の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られないことから、この
地域の石器材料のおおまかな比率とみて間違いないだろう。
2010年 2014年 2016年
石器に使われた鉱物・岩石内訳
2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、90%近くを占めている。以前単身赴任して
いた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。
・ 千葉県で石器拾い
( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )
八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あい
ま)っての結果だろう。
3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶
が豊富にあるのだから、材料入手の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。
・ 石器作りに挑戦
( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )
ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手できる
石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。
4.2 石器材料【縄文遺跡周辺】
縄文時代のYK遺跡での石器や剥片の観察数を2018年と比較して示す。
石材 | 年度 | 2018年 | 2019年 | 遺跡名 | YK | YK | 色など | 観察数 | 比率 | 観察数 | 比率 | 黒曜石 | 黒〜灰 | 111 | (95%) | 3 | (60%) | 赤茶 | 小計 | 111 | (95%) | 3 | (60%) | 頁岩 | 1 | (1%) | 1 | (20%) | チャート | 青白 | 2 | (2%) | 1 | (20%) | 赤 | 2 (2%) | 小計 | 4 (4%) | 石英 | 水晶 | 合 計 | 116 | (100%) | 5 | (100%) |
多くの遺跡がある畑では、「客土(きゃくど)」と呼ばれる土質改良がなされ、違った場所から運んできた
土で3、40センチ覆われている。このため、遺物が隠されてしまい、”産地が消滅”してしまっているところが
増えていた。
4.3 水晶製石器の産出状況
川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれた小Yさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。
今回は、旧石器遺跡の近くで水晶製石器を観察できた。ここでは、過去にも結晶面が見える水晶や
水晶塊を観察した場所だ。
石英剥片【2019年2月】
今までに訪れた産地の水晶製石器確認状況を一覧表に示す。
◎:数個確認 ○:産出確認 ×:産出未確認
区 分 | 遺 跡 (時代) | 備考 | YD (旧石器) | KD (旧石器) | KK (旧石器) | YK (縄文) | YS (旧石器) | BD (旧石器) | 水晶製石器 | × | × | ○ | × | × | × | 水晶(石英)塊 | × | ○ | ○ | × | ○ | ○ | 水晶剥片 | × | ◎ | ○ | ○ | ○ | ◎ | 結晶面が見える水晶 | × | ○ | × | × | ○ | × | 備 考 |
2010年に初訪問 コンスタントに観察 2016年も観察 2017年は、KDのみ訪問 2019年は、KDで観察 |
2013年初訪問 2016年は未訪問 2017年は未訪問 2019年に観察 |
2015年初訪問 2016年未確認 2017年は未訪問 2019年未確認 |
4.4 観察石器と遺物
今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。
@ ”石槍”に先行する、ナイフ形石器と呼ばれる旧いタイプの石器
A 石鏃(矢じり)
B 石核(せっかく:コア)と呼ばれる、剥片を剥がして残った芯の部分
これら、観察できた石器の一部を紹介する。
石器名 | 観察地 (時代) | 材質 | 写真 | 説明 | ナイフ形石器 | KD (旧石器) | 黒曜石(赤) |
長さ 43mm | 「一側縁調製」 (片面にのみ刃付け) |
石槍 (ポイント) | KD (旧石器) | チャート |
長さ 20mm | 石槍としては 小型 |
石鏃 (矢じり) | Y (縄文) | 黒曜石 |
長さ 20mm | 縄文時代になって 狩猟で使った矢じり |
石核 (コア) | KD (旧石器) | 黒曜石 |
長さ 82mm | 大きなもの |
石核 (コア) | NP (旧石器) | 黒曜石 |
長さ 43mm | 中ぐらいの大きさ |
来週、人間ドッグが終わったら、近くの産地を歩いてみようと思っている。
■ まだまだ隠れている?!
確かに、場所によっては「客土」の影響で採集が難しくなっている遺跡も少なくない。小Yさんは、「某氏など、
2週間に3回は通っているので、採れるわけない」、とおっしゃる。
確かに、落ちている1万数千年前の石器の数が増えるはずはないのだから、採ればそれだけ残りは少なくなって
行く計算だ。レタスの収穫が終わった秋や苗を植える前の春に畑を耕すので、その時に土中深くに埋まっている
石器が掘り出されることもあるようだ。
今回の2日目、”真っ黒くて角柱状の塊”が目についた。まるで、太い黒水晶が埋まっているようだった。
拾い上げてみると、長さ80mm以上、長径55mmもある大きな石核だった。周りの状況から、昨年秋に
地中深くぼり返したときに出てきたもののようだ。
このように、畑の耕作者の”気まぐれ”で、”ヒョッコリ”とんでもないものがでてくる可能性はまだまだ残されている
ようだから、これからも楽しめそうだ。