山梨伝統工芸館の水晶展示(その3)







          やまなし伝統工芸館の水晶展示(その3)

1. はじめに

    2012年11月の3連休、山梨に帰省した。初日は、山梨県立博物館の「黄金の国々展」、
   やまなし伝統工芸館の地場産業展示、そして山梨県立美術館の「大倉集古館名品展」を妻と
   観覧した。

    HPの更新履歴をみると、やまなし伝統工芸館を最後に紹介したのは今から8年も前の2004年
   だった。
    その後、展示の内容なども変わっていると思われるので、最新の情報をお知らせしたい。
    (2012年11月訪問)

2. 場所

    国道20号線を東京方面から甲府に向かって走り、石和温泉駅入口を過ぎると、「四日市場」
   の信号がある。ここを左折すると、約100mで、左手に茶水晶をイメージしたような建物が見え、
   ここが「やまなし伝統工芸館」だ。
    正式名称、と言うのか登録博物館名は、「山梨伝統産業会館」、と少し厳(いか)めしい。

     「やまなし伝統工芸館」

    ここには、大型バスが10台以上も停められる広い駐車場がある。

    入り口脇には、直径1m以上もある、緑色も鮮やかな「ひすい原石」がデーンと据え付けてあ
   り、宝石の街、山梨だと実感させられる。

       
               全体                           部分
                         糸魚川産 ヒスイ原石

3. 展示内容

    1階には、水晶産地と産出鉱物、水晶加工技術と加工品、木や水晶などの石材を使った印材、
   そして鹿皮に漆(うるし)印刷した印伝など、山梨県の伝統工芸品を展示している。
    2階は、図書室、ミュージアム・ショップなどで、その一角に「水晶鑑定」ができる装置などが
   ある。

 3.1 1階常設展示【水晶産地と採掘】
      山梨県の水晶産地、鉱山名、産出した水晶の特徴、採掘方法や産出した鉱物までをジオ
     ラマや写真、図、そして実物を使って展示している。

  (1)山梨県の水晶産地と産状
      山梨県内にあった、「乙女」のような国内外に名の知られた有名鉱山から、「バッタリ」の
     ように名前だけで、その存在がベールに包まれた鉱山まで、産地が地図の上にプロットして
     ある。

      
                     山梨県水晶産地

      山梨県の水晶は、「花崗岩」に伴っていることは御承知の方も多いはずだが、この地図を
     眺めていると、花崗岩産地、イコール水晶産地となっていないのは面白い。

  (2)山梨県産水晶と特徴
      実際に採集に行って見ると、尾根1つ越えただけで、水晶の産状・産出する水晶の特徴が
     ガラリと変るのには驚かされるが、地質学・鉱物学的には、キチンとした理論に則(のっと)っ
     ているようだ。
      
                       産地と特徴

  (3)黒平・向山鉱山の坑道
      黒平町の向山鉱山には30を超える坑道があったとされ、その内に6つの坑道の断面図が
     掲示してある。これらのいくつかは既に訪れているのだが、未だに探しあぐねている坑道も
     ある。

     ・山梨県甲府市黒平・向山鉱山西側の鉱物
      ( Minerals from West Slope of Mukouyma Mine
                Kurobera Town , Kofu City , Yamanashi Pref. )

     ・山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶 その3
      ( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine −Part3- , Kurobera Town
                           Kofu City , Yamanashi Pref. )

      それにしても、狭い地域によくもこれだけの水晶坑があったものだ、と改めて規模の大きさ
     を認識できる。

         
             出穴(であな)                      トッコ穴
                         水晶坑道断面図

  (4)採掘道具と採掘の様子
      ハンマ、タガネなど現在でも普通に使われる道具のほかに、”くじり”と呼ばれる
     水晶を晶洞から掻き取るための道具があった。これは平成の水晶採掘人も持ち歩いている
     のを見ると、人間は進歩しているようで、そうでもないことを知る。

       水晶採掘風景

  (5)竹森水晶坑の盛況
      私のHPの別なページにも掲載したように、”水晶を掘れば破産する”と言われたほど、
     水晶採掘は”ハイリスク・ローリターン”だったようだ。
      その中でも、例外的に盛況を呈したのは、塩山市・竹森の「水晶山」だったようで、最盛期
     の様子が写真に残されている。

      
                竹森水晶坑の盛況【明治12〜18年頃】

 3.2 1階常設展示【産出鉱物】
      産出した鉱物では、水晶、長石のほかに、黒平産のアマゾナイト(天河石)、トパズ、電気
     石、そして柘榴石(ざくろいし)などが展示してある。
      山梨県産鉄礬ザクロ石の中に、「和田峠産の満バンザクロ石」が混じっているのはご愛嬌
     だ。

       
            巨晶【八幡産】              緑水晶【バッタリ産】
                         水晶

       
               トパズ、柘榴石             アマゾナイト、電気石
                           黒平産鉱物

      ホールの中央には、ブラジル産の日本式双晶が据え付けられあり、鉱物に詳しくない人の
     目を奪うことは間違いないのだが、皆さんなら、「これが乙女鉱山産ならば、・・・・」、と思う
     のは目に見えている。
      国産の「日本式双晶」は、昭和22年に有名な藤原氏ほかによって黒平地内で採掘され
     昭和25年に国立科学博物館に売却された標本の写真が飾ってあるだけだ。

        
              ブラジル産                      黒平産
                                     【国立科学博物館蔵】
                           日本式双晶

 3.3 1階常設展示【水晶加工】
      山梨県の水晶稼行の歴史は、金桜神社の神官による水晶玉の加工に始まるとされ、初期の
     手作業、大正期の大量生産時代の始まり、そして超音波を用いた穴あけ加工に代表される
     ハイテクの導入と歩んでいる。

         
      金桜神社神官による水晶玉加工【明治期】     大量生産の始まり【大正初期】

         
              機械による水晶切断              超音波による穴あけ
                           水晶加工技術の進歩

 3.4 1階常設展示【水晶加工工程】
      水晶原石から、大黒様の像が出来上がる工程を図と現物で展示している。これらの作業
     はどれも熟練の技能が必要とされるが、とりわけ、『かっこみ』、と呼ばれる原石から小さな
     タガネとハンマで不要な部分を掻き取る作業ができる技能者は、数名とされている。

      
                水晶加工工程

 3.5 1階常設展示【水晶製品】
      私のHPでも紹介した代表的な水晶でできた製品には、「印鑑」、「かんざし」などがあるが、
     ここには、”エッ”と思うような、「コウモリ傘の柄」や帯どめなどに使われたと思われる「沈み
     彫り」と呼ばれる装飾品などがある。

         
              コウモリ傘の柄                       「沈み彫り」
                              水晶製品

4. 2階展示
    2階には、お土産ショップがある。2004年に訪れたときには、山梨県の詫間氏が収集した、
   山梨県をはじめ日本各地の水晶やメノウ、そして人工水晶にいたるまで「特別展示 -水晶原石
   展- 」の展示があったのだが、今回訪れると撤去されていた。係の女性の話では、詫間氏が
   亡くなり、展示品も引き取られたようだ。

    2階の一角に、「水晶玉鑑別機」が置いてある。本物の水晶玉とガラス玉を見分ける機械だ。
   機械の脇に置いてある透明な玉には、”気泡(あわ)”が見られ、素人眼にも「ガラス玉」だとわ
   かる。
    係の女性に、「水晶鑑別をやってみたい」、と伝えると、おもむろに袋に入った「水晶玉」を取り
   出して説明してくれた。
    鑑別機にかけると、水晶の結晶軸(Z軸)の方向に緑や赤色のリングが見える、とのこと。早速
   試してみるとなるほど、リングが見える。

         
            水晶結晶軸                   水晶鑑別機

5. おわりに

 (1) 「やまなし伝統工芸館」にはホームページがあるので、展示内容や休館日を確認してから
    行かれると良いでしょう。

      ・「やまなし伝統工芸館」

 (2) 出会いと別れ
      千葉に2回目の単身赴任をしてから2年半余りが経った。この間に、「東日本大震災」など
     一生涯に出会うことも希と思われることにも遭遇した。

      赴任して間もなく、マンションから会社へ歩いて行くと、飼い主に連れられて散歩する犬に
     出会った。足取りからかなりの老犬だと思われた。こちらも”老犬”の仲間なので、会うたびに
     『がんばろうね』、と励まして(励まされて?)いた。

       仲間の”老犬”

      暑い夏も頑張って乗り切っている姿は見ていたが、秋風も吹くころになり、急に姿を見なく
     なった。

      ある朝、マンションを出て、会社に向かうとタクシーが停まっていた。私の姿を見て、タクシー
     から降りてこられたのは、かの老犬の飼い主の女性だった。
      「これから獣医のところに連れていきます」、というので、座席を見ると、かの老犬が横たわ
     っていた。これが、老犬を見た最後だった。

      この2年半の間に、いろいろな人、事件に出会ったが、『会うは別れの始め』、だった。これ
     からも多くの出会いがあるだろうが、月並みだが『一期一会』、で接していきたいと思ってい
     る。

 (3) 某産地の「日本式双晶」
      以前、詫間氏の標本の中に、某産地の「日本式双晶」があったのを思いだした。今はもう
     採れないだろうとは思いながらも、翌日訪れてみた。

    このような産地に合った採集方法で探してみると、いくつかの「日本式双晶」があった。俗
     に『ハート型』と呼ばれるものと『軍配型』の2種類があった。

      産地はすでに冬ごもりで、来春以降、ミネラル・ウオッチングで訪れるのを楽しみにしてい
     る。

         
                     『ハート型』                       『軍配型』
                                   日本式双晶
 

6. 参考文献

 1) やまなし伝統工芸館編:パンフレット,同館,2012年
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