向山鉱山は、雄鷹山(1,522m)から上黒平の集落に向かって伸びる稜線の東西、
両側に広がっており、名前が知られている坑道の数は、西側の方が多かった。
2007年8月に、石友・Mさん、小Yさんを誘って西側の探査を行い、”不思議な形態
の水晶”とそれに伴う「チタン石」と「ルチル(金紅石)」を採集したのも、既報の通り
である。
この水晶に、小Yさんは”エビフライ”、そして石友・ASさんは”モコモコ”という愛称を
寄せてくれたが、まだいずれとも決めかねている。
西側には、水晶を採掘した坑道で、名前があったものだけで10坑知られており
それら全ての探査を行うべく、石友・Mさんと再度訪れた。
今回は、GPSといつものようにデジカメを持参し、坑道跡の正確な位置、現在の状況
そして、そこで採集できた鉱物を記録に残した。
( GPS:Global Positioning System(全地球測位システム)の略、衛星からの信号で
自分のいる位置<経度・緯度>を約10mの精度で測定 )
ある筈の位置に坑道跡がなかったり、地図にない箇所にズリがあったりと探索は
難航した。それでも、半数、5つの坑道跡を確認でき、代表的な鉱物を採集できた
のは大きな収穫だった。
今回確認できなかった箇所については、地元の利を生かして、できるだけ早く探し
ていく積もりだ。
探査に同行いただいた石友・Mさんに厚く御礼申し上げる。
( 2007年9月採集 )
なお、表中の記号などは下記の通り。
@ 現況写真がないのは、今回確認できなかった坑道
A 採集鉱物欄の記号は、次の通り。
○・・・・・・水晶は頭付きなど、良品採集
△・・・・・・水晶の頭無し
空欄・・・・未確認
B 位置を示す東経・北緯は割愛
No | 坑道名 | 位 置 | 現 況 写 真 | 採 集 鉱 物 | 備 考 | 東経 | 北緯 | 柱状 | 平板 | 巨晶 | 草 入り | 山 入り | 長石 入り | チタン 鉱物 |
1 | キラ穴 | ○ | △ | 1993年頃 採集 |
2 | 前棚 |
上側坑道
| ○ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | 上下 2つの 坑道は 内部で 連結 |
3 | 大穴 |
| ○ | 4 | 下付穴 |
| ○ | △ | ○ | 5 | 日影 | 6 | 松葉 | 7 | 馬糞 |
| △ | 8 | 白岩 | 9 | 五郎兵 | 10 | 八月 |
| ○ | ○ |
(1) 水晶以外にチタンを含む「チタン石(くさび石)」と「ルチル(金紅石)」は1箇所
でのみ観察できる。
(2) 『 長石を包み込んだり表面に成長させた水晶 』は、西側の2箇所で確認で
きる。
「八月」坑前で採集したものから、長石の種類は「微斜長石」だと思われ、
黒平のほかの産地の長石と共通点が見られる。
(3) 緑色の針入り水晶を含む水晶(石英)片は、どの坑道でも確認できるが、六角
柱状頭付きは「八月」坑前で1個体のみ確認できた。
(4) 西側で産出する水晶の形、インクルージョンなど東側との共通点が多い。
向山鉱山西側で産出する鉱物を総括する意味で、今回新たに採集した標本を紹介
する。
俗名 鉱物名 (英語名) | 組 成 | 説 明 | 標 本 写 真 | 備 考 | 水晶 石英 (QUARTZ) | SiO2 |
長石を包み込んだり 表面に成長させた水晶 全体として六角柱状で 水晶の形態を示す 長石が集合して”頭”が 尖っている”頭付き”も 観察できる 稀に、透明な頭付きも 観察できる |
【高さ18mm】 | 結晶形などから 「微斜長石」だろうと 判断している |
山入り水晶 緑泥石もしくは鉄雲母が 同一面上に成長し それが”山”に見える |
【高さ55mm】 | 東側でも同様なもの が産出 |
平板 厚さに比べ 幅が広い 厚さ:幅=1:2.5 |
【高さ65mm】 | 平板と呼べる ギリギリ |
巨晶 長さに比べ径が 太い |
【高さ125mm】 | 柱面4面のみ完全 |
草入り 角閃石、緑閃石 と思われる黄褐色 〜緑黒色針状 結晶が入っている |
完全結晶 【高さ35mm】
| 完全結晶は 根元部分にのみ 草が入っている
水晶片は、母岩に |
電気石入り 電気石と思われる 真っ黒い針状 結晶の集合が 入っている |
【高さ25mm】 | |
坑道によって、実際の位置は標高差、距離でおのおの最大100m、200mずれ
ているものもある。
(2) 2007年8月に栃木県の石友・Sさん一家を岐阜県苗木地方に案内した。Sさんの娘
Yさんの誕生日が翌月と言うことで、誕生祝に益富先生の「鉱物」をプレゼントした
この本は、現在も書店で販売されており入手でき、700円余りと安価で、その内容
は、初心者からベテランまで写真を眺めただけでも楽しく、結晶学などレベルの高い
ものも含まれている。
この本には、黒平周辺から産出したとされるいくつかの標本が写真と共に記載
されている。
しかし、どうみてもこれは違う産地だと思わざるを得ない標本も少なくない。益富
先生と標本を提供したと思われる黒平住の西山翁も亡くなった現在、これを確認
するのは容易ではないが、少しでも真実に近づけておきたいと考えている。
ただ、これは以前のページにも書いたが、『 産出する(ある)ことを立証するの
に比べ産出しない(ない)ことを立証するのは格段に難しい 』
( ”フェルマーの最終定理”は『 Xn+Yn=Zn を満足するnは、2以外存在しない 』
ことを立証する命題で、証明するまで、350年もかかったことからも判るだろう )
「鉱物」には、山梨県産の水晶として、『金峰山(きんぷせん、とあるが正しくは
きんぷさん)』と『乙女鉱山』のものが掲載されている。黒平、水晶峠そして小尾
八幡山などが『金峰山』に含まれている、と考えれば納得せざるを得ないのだが
下の写真の『乙女鉱山産 松茸水晶』 は間違いではないだろうか。
かつて、立ち入りできたときに、乙女鉱山で「松茸水晶」を採集したこともなけれ
ば、産出を聞いたこともない。
最近、埼玉県の石友・Aさん親子に某新産地を案内していただいた。そこでは、
この写真と同じような「松茸水晶」が採集でき、「鉱物」に記載されたものは、この
附近で採掘したものではないか、と思い始めている。
(3) 2007年8月に、石友・Mさん、小Yさんを誘って西側の探査を行なった際に採集した
『 長石を包み込んだり表面に成長させた水晶 』に、小Yさんは”エビフライ”、そし
て石友・ASさんは”モコモコ”という愛称を寄せてくれたが、まだいずれとも決めかね
ている。
2007年9月末に開催する「秋のミネラル・ウオッチング」の参加者の意見を聞いた
上で、ネーミングする予定である。