山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶 その3

     山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶 その3

1. はじめに

   2007年7月から10月にかけて、長野県の石友・”YY(ワイワイ)コンビ”と甲府市黒平
  向山鉱山で「水晶の巨晶・美晶」を露頭から採集したのは既報の通りである。

   この産地を案内した人の連れやその知人などを通じて、産地の情報はアッと言う
  間に広がり、茨城県の某グループも知るところとなった。
   10月に訪れたときに、メンバの4人と会い、11月に訪れたときもメンバの2人と会った。
  その間に、何人かが訪れて、ガマ(晶洞)を開け、巨晶・美晶を出したらしい。また、
  今まで私が良品採集をギブアップしたズリで、良品を出した人もいるらしい。
   このように、訪れる人の採集スタイルや好きな鉱物などが違い、新しい鉱物種など
  が発見されている。産地が進化・発展していく様子を観察・記録しておけるのも”開拓者”
  の特権だろう。

   産地は標高1,200m前後あり、本格的な寒さを迎え、2007年最後の訪山の積りで長野
  小Yさんと訪れたところ、茨城県のYさんとその連れがいた。

   私たちは、いつもの露頭で、堅い石英脈を叩き、私が午前、午後、それぞれ1つずつ
  ガマ(晶洞)を開け、巨晶(群晶)と美晶を採集できた。採集品の一部は、茨城・Yさんと
  その連れと分けあった。

   今回の採集品の多くが、「褐鉄鉱」に包まれており、自宅に戻って、”塩酸のお風呂”
  に入れたところ、驚くほどの”湯上り美人”に変身した。中には、「硫砒鉄鉱」の”山入り
  水晶”もあり、産状の多様性に驚くと同時に、密かな期待も抱いている。

   2003年1月、雪の積もる雄鷹山の尾根、谷をしらみつぶしに単独行で踏破し、苦労の
  末、いくつかの坑口、ズリと共に、この産地を再発見してから5年が経とうとしている。
   この産地には十分楽しませていただいた。次なる新産地を開拓せねば、との思いを
  強くしている。
  ( 2007年11月採集 )

2. 産地

   産地の詳細は、前のページや各種インターネット情報にあるので割愛する。

3. 産状と採集方法

   産状と採集方法についても、前のページや各種インターネット情報にあるので割愛
  する。
   良品を得るには、ガマ(晶洞)を開けるのが一番だが、ズリでも”ソコソコ”のものは
  採集できることがあるようだ。

        
          露頭の晶洞                 ズリ
        【タガネ長さ20cm】     【白いところが最近掘り返された】
                      採集方法

4. 産出鉱物

   今回の向山鉱山での採集品は、水晶だけだった。標本は、透明・形が完全、大きさも
  群晶は最大20cmと大きく、今まで採集した水晶の中で、一番美しい部類に入るもの
  も多かった。

 (1) 水晶【QUARTZ:SiO2
     今回採集できた水晶を一覧表にまとめてみた。

  区   分  説    明   標   本   例   備    考
平板
(ひらばん)
 ”平板”とは
扁平な晶癖をもつ
水晶の俗称
  
     平板【長さ8cm】
 透明感がずばらしい
山入り
(ファントム水晶)
 緑泥石(黒雲母)や
気泡などが錐面に
付着した後、さらに
成長を続け、水晶の中に
水晶があるように見える
  
    山入り【高さ4.5cm】
 山は、金属鉱物で
樹枝状、磁性なしから
「硫砒鉄鉱」と判断
群晶
(ぐんしょう)
 水晶の結晶が
集合したもの

     群晶【縦20cm】
 大きな水晶の柱面に
いくつかの頭付き
水晶が接合している
向山鉱山特有の
群晶形態
「日本式双晶?」

5.おわりに

 (1) 新産地開拓
      私のPCで、”しんさんち”、とキー入力すると「辛酸地」が出てくる。これを見ると
     新産地を開拓するときの苦労(辛酸)が思い返されて、思わず苦笑いしてしまう。

      ( 「新産地」を辞書登録すれば良いのだが、一生付き合っていきそうだ )

      向山の産地を開拓(再発見)したのは、2003年1月、お屠蘇気分も残っている
     ころだった。前々日だかに降った雪が積もっている雄鷹山の尾根、谷をしらみ
     つぶしに単独行で踏破し、苦労の末、、いくつかの坑口、ズリと共に、この産地を
     再発見した。

      それから5年が経とうとしている。私だけでなく、大勢の石友・石人がこの産地に
     十分楽しませていただき、訪れる人が違えば、違った発見もあった。

      『未来志向』の私としては、次なる新産地を開拓せねば、との思いを強くしている。

 (2) 産地の進化・発展そして・・・・・
      向山鉱山で水晶の巨晶・美晶が採集できるようになったのは、長野県の石友
     ”YYコンビ”を案内した2007年7月からだった。
      このとき、小Yさんがガマ(晶洞)を開け、素晴らしい両錐平板水晶を採集しなか
     ったら、今でもこの産地は静かな眠りについていただろう。
      同じ産地でも、訪れる人によって採集スタイルや好きな鉱物などが違い、新しい
     鉱物種、晶相の結晶などが発見されるチャンスが増える。こうして産地が進化・発
     展していく様子を観察・記録しておけるのも、”開拓者”の特権だろう。

 (3) 日本式双晶
      文献には、向山鉱山産水晶の特長は次の通り、と記載されている。

     @色・・・・・・無色、白色(表面曇り)、草入り
     A晶相・・・・柱状単晶のみで、双晶は産出しない
     B特徴・・・・透明度が高く美しい。
             草入りが多く、青(緑?)色草入り、枯れ草(電気石?)入り
             小型のトッコ多産

     「双晶」は産出しない、とあるが、ここで言う「双晶」とは、”傾軸式双晶”の代表で
    ある『日本式双晶』を指していると考えられる。
     なぜなら、”ドフィーネ式”に代表される『透入(同軸)双晶』は、比較的簡単に採集
    できるからである。

     大Yさんを案内したとき、『 向山鉱山は、こんなに平板が多いのに日本式
    双晶が出ないのは、不思議だ 』
、と何度か話していたのが気になっていた。

     上の写真の「群晶」は、『日本式双晶』の定義の解釈のしかたによっては、日本式
    双晶とも考えられ、識者に鑑定をお願いしたい。

     日本式双晶にこだわる理由の1つは、ごく最近、某所で両翼22cmの日本式双晶を
    大Yさんと私で採集したからである。( 近日、HPに掲載予定 )

  6.参考文献

 1) 神津 俶祐:水晶の日本式双晶に就て(T)」,岩石鉱物鉱床学誌第17巻第1号
            昭和12年
 2) 角田 謙朗:山梨県の水晶案内,山梨地学第20号〜第26,27合併号
            1976〜1984年
 3) 益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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