石友恵与の『鉱物切手』        −奥三河の大地に眠る石の華−<BR>







               石友恵与の『鉱物切手』
            −奥三河の大地に眠る石の華−

1. 初めに

    2013年正月、古い石友の一人、愛知県のKDさんからの年賀状に、「2013年2月に鉱物切手を
   発行します」、とあった。岐阜県蛭川村産の素晴らしいトパズなどの収集家であると同時に日本
   郵便株式会社の幹部でもあるKDさんの企画・発案らしい。

    発行されたら買おうと、単身赴任先の郵便局を訪れたとき、『鉱物切手』の発行日を問い合わせ
   たが係員は知らなかった。

    3月初め、千葉から山梨に戻ることが決まって間もなく、妻からの電話で、「KDさんから、『鉱物
   切手を送ったが”宛名人不明”で送り返されてきたので、どうしたのか』、と心配している」、との事
   だった。

    山梨の住所に妻は住んでいるので、妻の名前で再度送っていただくようKDさんにお願いした。

    3月中旬、千葉から山梨に2回目の引っ越し荷物を運ぶと、KDさんが送ってくれた『鉱物切手』が
   届いていた。
    ”奥三河の大地に眠る石の華”のタイトルがついた『奥三河鉱物フレーム切手』で、日本郵便株
   式会社 東海支部が限定1,000シート発行したものだ。「パイロクスマンガン石」はじめ、愛知県奥
   三河地方で産出する鉱物9種を1シートにまとめてある。9種の鉱物の結晶図や産状、用途などの
   解説書が同封してある。
    東海支社の発行で、発行数も少なく、他都道府県の郵便局では発行されることすら周知してい
   なかったようだ。

    KDさんにお礼の電話を入れると、気になる売れ行きは「1,000シートは、アッと言う間に完売した」
   そうで、「追加発行を予定しているが、追加分は第2版と明記するので初版は価値が出ますよ」、
   とのことだった。

    ほとんどの国で、その国を代表する鉱物や鉱山を描く切手が発行されている。日本では宝石や
   真珠(あられ石)をデザインの一部に取り入れた切手は発行されているが鉱物だけを描いたもの
   はほとんどない。
    ちなみに、日本最初の鉱物切手は、私が2004年に作成した乙女鉱山産の日本式双晶を描く
   写真付き切手だ。その使用例も次のページに掲載してある。

   ・写真付き切手「山梨県乙女鉱山産双晶」
     ( " My Stamp " with photo of Twins of Otome Mine , Yamanashi Pref. )

    ・本邦産日本式双晶発表130周年
     ( 130th Anniversary of Presentaion of Japanese Law Twin , Produced in Japan
     Yamanashi Pref. )

    東海支社の試みが呼び水になって、各都道府県を代表する鉱物切手が発行されれば、新しい
   ミネラル・ウオッチングのスタイルも広がり、紙上『都道府県の石(鉱物)』選びなどの企画もできる
   のではないだろうか。

    私が鉱物や鉱山などに関する切手や文献を集めていることを覚えていて心にかけてくれている
   石友・KDさんに厚く御礼を申し上げる。
   ( 2013年3月 恵与 )

2. 『奥三河鉱物フレーム切手』

     KDさんが送ってくれたのは、”奥三河の大地に眠る石の華”のタイトルがついた『奥三河鉱物
    フレーム切手』だ。

     
                       『奥三河鉱物フレーム切手』

3. 『奥三河鉱物フレーム切手』解説

    別刷りの切手の解説書には、9種の鉱物の写真(切手と同じ)、結晶図、英語名、和名、産地、
   産状そして用途等が記されている。

     
                      『奥三河鉱物フレーム切手』解説

4. 奥三河を代表する鉱物

    切手に取り上げられた鉱物を一覧表にまとめてみた。

No  鉱物名
 (英語名)
  産   地
(詳細補足)
1 パイロクスマンガン石
(Pyroxmangite)
北設楽郡設楽町
(田口鉱山)
2 水晶
(Quartz)
北設楽郡設楽町
(白鳥山)
3 水苦土石
(Hydromagnesite)
新城市吉川
(ニッケル採掘跡)
4 硫砒鉄鉱
(Arsenopyrite)
北設楽郡東栄町
(粟代鉱山)
5 絹雲母
(Sericite)
6 輝安鉱
(Stibnite)
7 中宇利石
(Nakauriite)
新城市中宇利
(中宇利鉱山)
8 ソーダ沸石
(Natrolite)
新城市八名井
9 黄鉄鉱
(Pyrite)
北設楽郡東栄町
(粟代鉱山)
番外自然金
(Native Gold)
北設楽郡東栄町
(津具鉱山)

    @ No1の「パイロクスマンガン石」(略称”パイマン”)は、ルビーにを思わせる赤い透明な結晶で
      『日本一の宝石級鉱物』 で、2種類の切手に描かれているのもうなずける。
    A No5の「絹雲母」は、顕微鏡写真だ。絹雲母は、粘土状の鉱物との印象が強く、結晶形を
      見ることはなかったが、これを見ると六角板状の結晶が重なり合い、「雲母」そのものだ。
    B No7の「中宇利石」は、日本産新鉱物の1つだ。しかし、結晶図が載っていない。化学組成
      については、元論文にある硫酸基(SO42-)は存在しないのではないかという海外からの
      指摘もあり、検討の余地があるとされているが、結晶系は「斜方晶系」とされているはずだ。
    C 番外の「津具鉱山の自然金」は、シートの”地”には印刷されているのだが、切手にはなって
      いない。
       津具鉱山の自然金は、”粟粒状”というか”土状”で、切手サイズに印刷したら、何なのか
      判らないので外されたのだろうか。

5.おわりに

 (1) 初めて知る産地・鉱物
      KDさんと初めて知り合ったのは、昭和の終わりころのある大晦日、茨城県の山の尾だった。
     大晦日にミネラル・ウオッチングにくる人はいないだろうと(KDさんも)思っていたのだが、偶然
     の出会いだった。
      KDさんの奥さんの実家が私の実家と同じ市にあり、正月帰省していたのだった。こんな事か
     ら知り合いになり、大晦日に山の尾や夏休みに千葉県銚子市でのミネラル・ウオッチングをご
     一緒したことが何回かあった。
      そのうち、私が山梨に転勤になり、愛知県が近くなったこともあり、KDさんの家に泊めていた
     だき、奥三河の粟代鉱山、田口鉱山、津具鉱山そして中宇利鉱山を案内していただいた。
      中宇利鉱山では、私が素晴らしい「自然銅」、田口鉱山では母岩付きの「パイマン」を多数
     採集できたのもKDさんのお蔭だった。
      2日目は、岐阜県苗木地方を案内していただき、当時稼行していたKDさんが懇意にしている
     採石場で「トパズ」や「蛍石」などを思う存分採集させていただいたのも良い思い出だ。

      あれから、20年が経ち、この間、私は東京、茨城そして千葉と単身赴任し、KDさんは郵便局
     の幹部としてあちこちの局を異動し、年に1度会えるかどうかになってしまった。

      切手に載った産地・鉱物のうち、No3の「吉川の水苦土石」とNo8の「八名井のソーダ沸石」
     産地は訪れたことがない。
      No3 の近くには、「中宇利鉱山」や「黄楊野の霰石」産地などがあり、そちらを優先し、素通り
     していた。
      No8の産地は、名前すら記憶になかったが、改めて「鉱物採集の旅 東海地方をたずねて」
     を読みなおすと、次のような記述がある。

       『 ・・・・愛知県東南部には、以上のほかにも鉱物産地はたくさんあります。・・・・・・・・
        特に、新城市八名井(やない)、豊橋市・・・・・・・・・・                     』

      この本が書かれてから30年以上が経ち、現在産地がどうなっているのか、訪れてみたいと
     考えている。

 (2) 「鉱物切手」の難しさ
      KDさんから送っていただいた切手を見て、写真があまりにも小さく、鉱物の魅力を十分に伝
     えられないのが残念だ。
      このことは、冒頭に紹介した、写真付き切手「山梨県乙女鉱山産双晶」を作成した時にも感じ
     たことだった。

      切手のサイズは、横32mm×縦38mmあるのだが、発行国英語名と額面の「NIPPON 80」や
     発行所和名「日本郵便」などの定型印刷部分をのぞくと、フレーム切手のフレームの内寸は
     横24mm×縦24mmになってしまう。このなかに鉱物英語名を入れると、鉱物写真のスペースは
     横24mm×縦19.5mmしかない。
      No2の「水晶」の場合、高さが19mmと2cm足らずになってしまう。このサイズの水晶が眼に
     ついたとしても、「日本式双晶」などのめずらしい結晶系や興味深いインクルージョン(内包物)
     でもないかぎり持って帰る気にはならないだろう。

      No1の「パイマン」も、フレーム切手の”地”の写真と同じ大きさ(横50mm×縦50mm)あれば、
     もっと鉱物の魅力を伝えられるのに、残念だ。

 (3) ”宛名人不明”
      KDさんからだけでなく、湯之奥金山博物館のK学芸員はじめ大勢の人や組織から、「郵便物
     が差出人に戻されてきたのですが、何かあったのですか」、と電話やメールで問い合わせが
     相次いだ。
      某自動車保険会社は、送った証拠(?)に、差出人戻しになった封筒そのものを別な封筒に
     入れて送り直してくれた。

     
                    「あて所に尋ね
                     あたりません
                 RETURN UNKNOWN」

      ”宛先人不明”になった経緯を調べてみた。3年間の単身赴任の間、毎年3月初めに、私宛の
     郵便物は、山梨県から千葉県の単身赴任先に自動的に転送される『転居届』を出していたの
     だが、2013年3月初めに3月末で山梨に戻るのが決まったので、『転居届』を出し忘れていた
     のだ。

      これに気づいて、3月中旬、千葉県から山梨県に移動する『転居届』をだして、私の所在が
     どこなのか公的に証明され、郵便物もちゃんと届くようになった。
      妻が同じ住所に住み続けているにもかかわらず、いとも簡単に”所在不明”になってしまう
     現代社会の薄情さを思い知らされた2週間だった。

6. 参考文献

 1) ?(柿)本 喜多朗:愛知県産 岩石並鉱物採集必携 蔵版,つはもの社,昭和16年
 2) 加藤 昭、松原 聰:野村 松光:鉱物採集の旅 東海地方をたずねて,築地書館,1983年
 3) 宮島 宏:日本の新鉱物,フォッサマグナミュージアム,2000年
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