山梨県甲府市黒平の希産鉱物

         山梨県甲府市黒平の希産鉱物

1. 初めに

   2007年8月から10月にかけて、山梨県甲府市黒平町の水晶産地を何回か訪れ
  その結果については、HPに掲載した通りである。

山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶
( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine , Kurobera Town
 Kofu City , Yamanashi Pref. )

山梨県甲府市黒平の煙水晶
( Smokey QUARTZ from Kurobera , Kofu City , Yamanashi Pref. )

    前々から、長野県の”YY(わいわい)コンビ”に、黒平の煙水晶産地を案内して
   欲しい、頼まれていた。そこで、石友のA・Sさんを交え、”黒平第3中澤晶洞”
   手始めに、”最も黒平らしい場所”を案内した。
    ”黒平第3中澤晶洞”を見た2人は、『 こんな場所か。良くめっけたナ。これじゃ
   俺たちには探せない 』
、を繰り返していた。

    いくつかの沢と尾根を効率よく見て回るため、「鶯の谷渡り」、「尾根越え」を繰
   り返し、最後の沢で、小Yさんが黒平としては、大きな「ガマ(晶洞)」を開け、松茸
   水晶を採集できた。
    ( ガマの中の水晶は、割れて完形品が少なく、長石は褐鉄鉱で汚れていた )
    しかし、ペグマタイト産地は勝手が違うらしく、大Yさんは、小さな群晶をいくつか
   持ち帰っただけだった。

    私は、「紫水晶」、「苗木石」などの希元素鉱物、そして「鉄礬ザクロ石の美晶」
   など希産鉱物を採集でき、大満足の一日だった。
    12月に入ると林道が閉鎖されたりして、黒平での採集が楽しめるのも、後1、2
   週間である。
    同行いただいた、”YYコンビ”とA・Sさんに、厚く御礼を申し上げます。
    ( 2007年11月 採集 )

2. 産地

   黒平について、多くの情報があるので、詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

   水晶や長石そして希元素鉱物などのペグマタイト鉱物は、ペグマタイトの晶洞
  (Pocket)とその周辺の石英、長石帯にある。
   水晶や長石の良品を探そうと思えば、ガマ(晶洞)を開けるのが一番だが、希
  元素鉱物などは、自然崩落したペグマタイト片(誰も欲しがらない)から発見でき
  ることが多い。

      
       小Yさんと”お初ガマ”           採集品
                  産状と採集品

4. 産出鉱物

    今回の採集・探査行で採集できたのは、@ 希元素鉱物A ペグマタイト鉱物
   (水晶、長石、ざくろ石など)、そしてB チタン鉱物である。
    以下、私の採集経験から、”希産”と考えているものから、順に紹介する。

 (1) 鉄礬ざくろ石【ALMANDINE:Fe3Al2(SiO43
      黒〜赤〜橙赤、ガラス光沢の24面体の結晶で、微斜長石と曹長石の晶洞
     部分に見られる。通常、黒平では産出そのものが少なく、希に産出しても、
     長石の中に、粒状や脈状で産出することが多い。
      下の写真の標本は、色・形・透明感が”宝石級”で、黒平は無論、山梨県で
     採集したマイコレクションの中で一番の”美晶”である。

      鉄礬ざくろ石の美晶【径8mm】

 (2) 緑簾石【EPIDOTE:Ca2Fe3+Al2(SiO4)(Si2O7)O(OH)】
      緑黒色、ガラス光沢の細い柱状結晶が何本か平行して、水晶の上に成長
     している。

        
         全体【横45mm】             拡大
                     緑簾石

 (3) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8
      白色、ガラス光沢の柱状結晶が2つ、”V字型”に双晶した「蝶形双晶」で、
     微斜長石は、”掃いて捨てるほどある”が、このような”双晶”を過去に見た
     ことがなかった。
      このような明瞭な双晶なので、名前が付いているのではないかと、Danaの
     ” A System of Mineralogy ”を紐解いてみたが、見あたらない。
      インターネットで調べると、 ”ペリクリン( Pericline )双晶”の結晶図に似て
     いるのだが、確証はない。
      周囲の「曹長石」は、”アルバイト双晶”をなしている。

        
           採集品        ペリクリン双晶図【ネットより引用】
          【幅52mm】
                微斜長石”蝶形双晶”

 (4) 苗木石/変種ジルコン/ジルコン【Naegite/Altered Zircon/ZIRCON :ZrSiO4
      鮮緑色〜褐色、油脂〜ガラス光沢をしめす、平板状の結晶で「苗木石」
     【Naegite :(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4】の典型の1つである。
      下の写真の標本は、結晶図の a面 が成長した「平板状」で、カリ長石(微
     斜長石)の間に結晶が成長している。
      周辺の長石に”ハロ【Halo:放射性色暈(しきうん)】”は見られない。

        
           平板状結晶    結晶図【日本希元素鉱物から引用】
                苗木石(変種ジルコン)

 (5) チタン鉱物
     過去にも、チタン鉱物を採集した枝沢で、今回も微小なものだがチタン鉱物
    を採集できた。

   @ 鋭錐石【ANATASE :TiO2
      赤みがかった黒、金属〜ガラス光沢、8面体(正方錐)で、長軸と直角方向に
     条線がある特徴的な結晶として、雲母にサンドイッチされた形で長石の上に見ら
     れる。

         
             採集品             結晶図
                    【”System of Mineralogy ”から引用】
                      鋭錐石 
 (6) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
      今回訪れた産地の枝沢で、過去に「紫水晶」を採集したことがあった。同じ
     沢で、今回も「紫水晶」を採集でき、”まぐれ”でないことが立証できた。
      別な枝沢では、「松茸水晶」が多いことが経験的にわかっていたが、今回
     小Yさん、そして私が開けた晶洞からも多かった。

      @ 紫水晶【Amethyst:SiO2
          大きな水晶の結晶面の上に成長した小さな水晶群が”薄っすら紫色”
         を示している。
          雨塚山や鉛沢など、金属鉱山に近い場所から産出する紫水晶と違
         い、ペグマタイト産地で産出するものは一般的に色が薄いようだ。

           
              全体【横14cm】            部分
                         紫水晶

      A 松茸水晶【Scepter QUARTZ:SiO2
          松茸水晶は、2つの水晶の結晶軸(c軸)を共有する”同軸双晶”なの
         だが、下の写真のように、結晶軸が交叉しているように見えるサンプル
         も多い。( 頭が傾いている )

         松茸水晶【高さ20mm】

5. おわりに 

 (1) ”YYコンビ”は、黒平のようなペグマタイト産地での採集が初めて、とのことで
    採集方法の勝手が違い、最初のうち戸惑っておられた。
     小Yさんは、向山鉱山でガマを次々と開けているだけのことはあり、ここでも
    黒平としては大きなガマを最後の枝沢で開けた。さすがである。
    ( 開けた場所は、1週間ほど前、愛知県のKW氏一行を案内したときに、T氏が
     ガマを開けた場所から2mしか離れていない )

 (2) 10日ほど前、石友・Mさんとの探査行で、黒平集落の方々から、水晶産地の
    情報を聞いた。
     10年ほど前に紫水晶産地として、老婦人から聞いた地名■■■の場所は
    お聞きした3人が3人とも知っていて、『 ▲▲▲の奥だ 』、と話してくれた。
     今回訪れた場所は、方角的には合っているのだが、10年前にいただいた
    サンプルとは産状が違うので困惑している。

     違う「紫水晶」産地が隠れているようだ。

 (3) この1週間ほどの間に、黒平の紅葉は進み、標高の高い水晶産地では、ほと
    んどの木々が葉を落してしまっている。それが、厚く”落ち葉のジュータン”とな
    って地山やガレを覆ってしまっていて、採集しにくかった。
     採集の好機は既に過ぎたようだ。

      ”落ち葉のジュータン”

6. 参考文献

 1) Edward S. Dana: A System of Mineralogy 6th Edition
               John Wiley & Sons, INC ,1920年
 2) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 3) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年
 4) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
 5) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 6) 松原 聡:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
 7) 加藤 昭:鉱物種一覧,小室宝飾,2005年
 8) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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