沢に入り、以前石川・Yさん、東京・Mさんが大きな美晶を”拾った”、気になって
いた辺りを探査した。大きな露頭に晶洞がいくつかあったが、中の水晶は小さい。
A・Sさんが、山肌を掘りはじめると、ペグマタイトの破片が出てすぐ、約4cm角の長石
の完全結晶が出た。『 晶洞(ガマ)だ!! 』。交替しながら約4時間かけて掘り進む
と直径60cmはある大きな晶洞だった。
採集した水晶は最大10cmあまりで、色の薄い上品な煙水晶で、長石は5kgを超えて
いた。いつものように、2人の名前をとって、ここを”黒平第3中澤晶洞”と名付けた。
昼食後、ひとまず採集品を隠して、さらに奥地の未探査エリアを片っ端から調べる
ことにした。既に”ぼうず”の心配はなく、心には余裕がある。
とある、枝沢の1つのガレ場で石英片を発見し、その急斜面を上に2人で追いかけ
A・Sさんが6cmの水晶の完品を発見した。この上に晶洞があるのは間違いない。
しかし、秋の日暮れは早く、採集品の山分け、帰路の難所を考えると、引上げの
刻限だった。
帰宅後、山分けしてもらった水晶を洗うと、薄い煙水晶の完品で、『今までで一番』
の黒平産水晶だった。( A・Sさんも同じだ、と言っていた )
10本以上水晶が生えた巨大な長石も、『なかなかのもの』だろう。煙水晶の
表面やインクルージョンを観察すると、チタン鉱物の「鋭錐石」と「ルチル(金紅石)」
があった。
次回、目星をつけた範囲での本格採集を楽しみにしている。同行いただいた石友
A・Sさんに、厚く御礼を申し上げる。
( 2007年10月採集 )
こうすれば確実、という採集方法はないが、石友のMさん、A・Sさんなどを見てい
ると、広い範囲をくまなく探索する人が晶洞を開ける確率が高いようなので、私も
見習っている。
黒平には多くの人が入っており、”こんな所まで”、と思われる場所も掘られてい
る。今回晶洞が出たのは、”常識的”には、誰も掘らない場所だった。
(1) 煙水晶(石英)【Smokey QUARTZ(QUARTZ):SiO2】
向こう側が透けて見える、色の薄い上品な煙水晶で、同じ晶洞から出たの
に個体によって色に濃淡がある。形状も、大きく分けて2通りある。
@ ”太っちょ”・・・・・・・・・・長さに比べ直径が大きい、ことから名付けた。
”メタボ”(?)
A ”スマート”・・・・・・・・・・ほっそりと、径に比べ長い。
この晶洞の水晶に「インクルージョン」があるらしい事は採集した段階で気
付いていたが、それが何かは現場ではわからなかった。
帰宅後、洗浄して表面に付着した微細な粉末状の赤鉄鉱(ベンガラ)を取り
除いた段階で、明らかになってきた。
それらは、チタン鉱物の「鋭錐石」と「ルチル(金紅石)」だった。
(2) 鋭錐石【ANATASE :TiO2】
真っ黒い金属光沢、板状、あるいはサイコロ状で、水晶に完全に埋もれたり
半ば埋もれたり、あるいは表面の長石の上に見られる。
鋭錐石は、反復双晶のためくびれがある錐面が発達した8面体(正方錐)とし
て観察されることが多いが、ここの標本は底面(c面)が発達した”サイコロ状”
の珍しい結晶をしている。
色は、A・Sさんが採集したものには、オレンジ〜赤色のものもあったようだ。
Danaの”System of Mineralogy ” を見ると、今回観察できたと同じものの結
晶図も記載されており、珍しくはないようだ。( 乙女鉱山産も同じような結晶
だった、と記憶している )
(3) ルチル(金紅石)【RUTILE :TiO2】
真っ黒い金属光沢、細柱状結晶で、水晶に半ば埋もれて、鋭錐石と共に産
出した。
ご承知のように、ルチル、鋭錐石そして板チタン石【BROOKITE】は、”同質異
像”(最近の呼び名は、「多形」?)の関係があり、化学成分は同じだが結晶の
形が違う。
今回のように、2種が共生することは多いが、3種が揃って出た標本は未見で
ある。
(4) 微斜長石【MICROCLINE :KAlSi3O8】
白色、ガラス光沢の短柱〜長柱状結晶で、晶洞の内壁を埋めるように産出
する。この地域では、長柱状のものは極めて希で、短柱状〜平板状にみえる
ものがほとんどを占めている。微斜長石の上には、「波状連晶をなす長石」も
観察できるものがある。
下の写真の標本は、平行連晶をなす微斜長石の上に、10本あまりのごく薄い
煙水晶が生えた素晴らしい標本である。
益富先生の「鉱物」にある、『数個共生の煙水晶がすべて平行しているのに
疑問をもちたい』、の一文を思い出させる標本でもある。
(5) この他、別な枝沢では、「透明水晶」、「チタン鉄鉱(ルチル?)」なども採集でき
た。
”もし、この日○○に行っていれば、このように立派な煙水晶に巡り会うこともな
かった”わけで、『一期一会』の要素があるのもミネラル・ウオッチングを楽しくし
ている要因かも知れない。
(2) 以前のページで”2C”の関係について、Collaboration(協同)とCompetition(競争)
と書いてみた。
Collaboration(協同)の一番望ましい形が、Complement(補完)ではないだろう
か。
つまり、同行する個々人の持ち味を生かし、最大の成果を上げられれば最高
だろう。
私は、××さんが巨晶を拾った、とかペグマタイトが落ちていた場所などをほと
んど記憶しており『 産地近く 』 までは案内できる。後は、晶洞(ガマ)を発見
する”嗅覚”と”忍耐力”が人並み以上に優れているA・Sさんの出番である。
2人のComplement(補完)関係の成果の1つが、”黒平第3中澤晶洞”だろう。
(3) 後日、某産地に案内した愛知・Dさんが、ネットオークションで「黒平の煙水晶」が
5,000円で出ていたので入札したら、最高値がすぐに更新され、落札価格が6万円
(8万円?)だった、と話してくれた。
「黒平の煙水晶」には、それだけの魅力があるようだ。