山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶

       山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶

1. はじめに

   いつも産地を案内してもらっている、長野県の石友・”YY(ワイワイ)コンビ”
  大Yさんが、『 べスブ石巨晶がでる、長野県・□□を案内する 」 と言ってくれ
  採集日時を決めた。
   その前夜、大Yさんから電話が入った。『小Yさんが、向山鉱山で幅15cm、長さ
  30cmの平板(ひらばん)水晶を採った!! 』
  □□は、次回にして、明日は
  向山鉱山に行くことが即決した。
   小Yさんが、向山鉱山に一人で行くとは聞いていたが、妻のアッシー君で家に足
  止めをくい、同行できなかったのが悔やまれた。

   翌日、いつもの場所でYYコンビと待ち合わせ、向山の露頭に向かった。そこには
  横1mはある晶洞が”ポッカリ”口を開けていた。

   大Yさんが、晶洞の続き、小Yさんが晶洞の延長線に狙い付けて掘りはじめた。
  間もなく、小Yさんが 『晶洞が開いた!!』 と叫ぶ。近寄ってみると、直径30cm
  あまり、ガマ粘土に石英の破片が混じった晶洞だ。これは、期待できる。

   小Yさんが取り出す水晶にベッタリついたガマ粘土を拭いながら、頭付だけ残し
  選別する。六角柱状に平板も混じり、大きなものは20cm近い。

   昼食前に、午前中の採集品を3人で分配。小Yさんは、前日採集したのより良品
  で気に入ったのを2、3本、大Yさんが群晶と20cm近い大きな平板、そして私は
  ”予約しておいた11cmの平板”のほか単晶などをいただいた。

   昼食を食べながら作戦を練り、午後、少し離れたポイントを掘りはじめて間もなく
  大Yさんが 『晶洞が開いた!!』 、それからしばらくして、ようやく私も『晶洞が
  開いた!!』 となった。
   採集品を、仲良く(?)分配し、足取りも軽く引き上げた。3人の感想は、『 これ
  で、向山鉱山の東側は卒業だ 』

   帰宅して、クリーニングを終えた巨晶と美晶を並べて妻に見せると 『 わ〜 
  スゴイ!! 持つべきものは石友だね 』
 と夫婦してYYコンビに感謝している。
  ( 2007年8月採集 )

2. 産地

   産地の詳細は、前のページに記載したので割愛する。

3. 産状と採集方法

   前のページにも書いたが、向山鉱山は水晶を目的に採掘した。掘るのは男性で
  推測だが、選鉱は黒平など地元の女性で、小さな水晶の頭無しまで丁寧に拾っ
  たようだ。その結果、ズリでは大きなものどころか、小さな頭付きすら良品は期待
  できない。
   したがって、露頭を叩いての”ベテラン向き採集”となる。

   晶洞には2種類ある。
    @ 石英の結晶面に囲まれた三角錐状の空間
    A 円筒状空間

   @のタイプは、奥行きが10cmを超えるくらい空間が広くないと水晶の結晶は
  見当たらない。Aのタイプは、ガマ粘土が充満し、黒平や乙女鉱山と同じように
  水晶の良品が期待できる。
   晶洞の壁にあったはずの水晶は、ほとんどがガマ粘土と共に、底に溜まってい
  て、地殻変動の激しさを物語っている。そのせいか、群晶は少なかった。

    晶洞【Aタイプ】
 

4. 産出鉱物

   今回の向山鉱山での採集品は、水晶だけだった。形、大きさ、インクルージョン
  も多様で、今ままで採集した水晶の中で、一番美しい部類に入るものもある。

 (1) 水晶【QUARTZ:SiO2
     今回採集できた水晶を一覧表にまとめてみた。

  区   分  説    明   標   本   例   備    考
平板
(ひらばん)
 ”平板”とは
扁平な晶癖をもつ
水晶の俗称

  高さ7cm【私の採集品】

  
      高さ11cm
   【小Yさんの恵与品】

 
柱状結晶  六角柱状の
もっともありふれた
結晶
  
       高さ11cm
 先端は、ポイント(点)
でなく、線になっている
平行連晶  上下軸(c軸)が
平行な結晶が2つ以上
集合している
   
       高さ6.5cm
 全体として
1つの水晶に
なっている
板状結晶集合  湾曲した薄板状
結晶が積み重なった
”奇怪”な結晶
   
       高さ17cm
 全体として、両錐の
結晶になっている

 どのように、こんな
結晶が成長するのか
大いに興味がある

群晶
(ぐんしょう)
 水晶結晶が
集合したもの

       横12cm
 
水入り水晶  空隙の中に
液体(水?)を含む
  
       高さ7cm
 中の液体は
表面張力で
丸まって集合して
いる

【既報】と同じ産状
だが、気泡が大きく
数も多い

5.おわりに

 (1) 『 平板(ひらばん)水晶とは、扁平な晶癖をもつ水晶の俗称 』 と前のページ
    にも書いた。しからば、その定義はどうなっているのか、知りたいところである。

     ”板”という字は、”木偏”であるところから、”板”や”角(柱)材”のように、もとも
    とは木材の呼び名からきていることは容易に想像できる。

     木材の規格では、幅と厚みで”板”と”角(柱)材”を区別しているようだ。幅:厚さ
    の比率が 2.25:1 、つまり幅が厚さの2倍強までは”角(柱)、それを越えると
    ”板”になるようだ。

     鉱物の世界では。結晶の形を”板状”とか”短(長)柱状”など呼ぶことがあるが
    その定義は見たことも聞いたこともない。木材にならうと 『 幅が厚さの2.5〜3倍
    以上あれば板 』 と考えて良いのではないだろうか。

     この定義で向山鉱山産の水晶を見直してみると、頭付き水晶の内、平板は約
    10%で、前のページで 「 多くが”平板”」 と書いたのは、訂正が必要である。

    ( 先端が”点(ポイント)”でなく、”線”になっていると、”幅が広い”と錯覚して、
     『平板』 と思い込んでしまうようだ )

 (2) 私が単身赴任から戻った2007年4月以降、まるで ”月替りメニュー”のように
    新しい産地が発見されている。2007年8月も、新たな1ページが加わった。
     この産地は、わかりにくく、途中には意外に危険な場所もあるので、訪れる場合
    は十分注意したい。

 (3) 産地への道すがら、あるいは採集している間、四方山(よもやま)話に花が
    咲く。これも、単独行にはない、集団でのミネラルウオッチングの楽しみの1つで
    ある。

     小Yさんが、『 3人の干支(えと)は、”申(サル)”、”酉(鳥)、”戌(イヌ) だ』
    と言い出した。3人は、”桃太郎の家来、猿、キジ、犬 トリオ” なのだ。

     そう言えば、賢い(?)犬が、産地情報を調べ、嗅覚を生かし産地まで案内し
    現地ではキジが高所から全体を眺めてポイントを見つけ、猿は引っかく(欠き
    採る)という風に役割分担が決まっているようだ。

    ( ただ、いつも同じ役割かというとそうでもなさそうで、それがうまく行く秘訣か )

 (4) 向山鉱山では、各種の水晶が採掘され、その特長は次のように文献に紹介され
    ている。

     @色・・・・・・無色、白色(表面曇り)、草入り
     A晶相・・・・柱状単晶のみで、双晶は産出しない。
     B特徴・・・・透明度が高く美しい。
             草入りが多く、青(緑?)色草入り、枯れ草(電気石?)入り
             小型のトッコ多産

     今回、透明度が高く、美しい水晶は採集できたが、『草入り』や『トッコ(群晶の
    こと)』の良品は採集できていない。
     近々、それらを探索してみたいと計画している。

6.参考文献

 1)神津俶祐:水晶の日本式双晶に就て(T)」,岩石鉱物鉱床学誌第17巻第1号,昭和12年
 2)角田謙朗:山梨県の水晶案内,山梨地学第20号〜第26,27合併号,1976〜1984年
 3)益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
 4)中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
inserted by FC2 system