水晶で作られた石器 その9

             水晶で作られた石器 その9

1. はじめに

    長かった冬も終わり、2015年よりも2日早い3月23日には甲府地方でも桜の開花宣言がだされ、
   春本番だ。
    2016年4月11日に『地球一周旅行』に出発するのを目の前にして、何かと慌ただしいのだが、恒例
   の『春のミネラル・ウオッチング』が開催できそうもないことを湯沼鉱泉の社長とお姐さんにお断りすべく、
   川上村を訪れたのは、4月1日だった。
    甲府盆地の桜は満開でも、山梨県の標高の高い清里では、蕾がわずかにピンク色に染まる程度で、
   川上村に入ると硬い蕾のままだった。

    湯沼鉱泉への道すがら、冬の間に鈍った身体のリハビリを兼ね、石器観察を楽しむことにした。
   ( 2016年4月 観察 )

2. 産地

    ミネラル・ウオッチングで通っている長野県川上村の道路脇にあるレタス畑や原野に数多くの旧石器
   から縄文時代の遺跡がある。もちろん、遺跡に指定されている範囲には立ち入りできないが、そこを
   外れた場所が観察ポイントだ。

     
                石器観察地
           【耕されるのを待つレタス畑】

3. 産状と観察方法

    畑を耕したときに掘り起こされた土が凍ったり溶けたりしてバラバラに崩れたり、雨にあたったり、霜柱
   で持ち上げられたり、風に吹かれたりして、石器が表面に露出していることがある。これらを観察するの
   だ。
    畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。

    この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の
   植え付けが始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。12月から2月までは雪に覆われているから、
   実質、観察できるのは限られた期間になる。

    石器や土器は川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住んでいる場
   所と田畑や原野のままの場所があるように、数千年まえでも人々にとって住みやすい場所とそうでない
   場所があったのだ。
    それらの場所は、先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶
   しておいて重点的に観察するのが良さそうだ。

4. 観察標本

 4.1 石器材料
      今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を下表に示す。

石材の種類 色・産地など 遺   跡   名 観察数
Kの西 Kの東 Kの北 BD YS 比率
黒曜石 187 32 180 9 2 410 84%
  2       2 0%
他県産 3 2 3   1 9 2%
頁岩   6         6 1%
チャート 青白 32 9 8 4   53 11%
3         3 1%
石英(水晶)   1   2     3 1%
合計   232 45 193 13 3 486 100%

      1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、そして今回(2016年)の調査結
        果を比較して図に示す。
         比率に大きな変化は見られないことから、この地域の石器材料のおおまかな比率とみて間
        違いないだろう。

         
                2010年                   2014年                  2016年
                                石器に使われた鉱物・岩石内訳

      2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、90%近くを占めている。以前単身赴
         任していた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照
         的だ。

         ・ 千葉県で石器拾い
         ( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )

         八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相
         俟(あいま)っての結果だろう。
      3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、材料入手
         の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。

          ・ 石器作りに挑戦
           ( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )

         ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手
        できる石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。

 4.2 水晶製石器の産出状況
      川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれたYさんに教えていただいた水晶石器の産地は、
     旧石器時代のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓し、今回もそこを
     探索した。

      今までに訪れた産地で確認できた水晶製石器の状況を一覧表に示す。

                        ◎:数個確認    ○:産出確認     ×:産出未確認
 区 分          遺   跡 (時代)    備考
  YD
(旧石器)
  KD
(旧石器)
  KK
(旧石器)
  YK
(縄文)
  YS
(旧石器)
  BD
(旧石器)
 
水晶製石器   ×   ×   ○   ×   ×   ×  
水晶(石英)塊   ×   ○   ○   ×   ○  ○  
水晶剥片   ×   ◎   ○   ○   ○   ◎  
結晶面が見える水晶   ×   ○   ×   ×   ○  ×  
備      考 2010年に初訪問
コンスタントに観察
2016年も観察
 2013年初訪問
2016年は未訪問
2015年初訪問
2016年未確認
 

      過去に訪れて観察できた遺跡では、水晶(石英)の塊や剥片を確認できた。この結果から、
     水晶の塊や剥片は広い範囲で観察できることが明らかになった。しかし、それらは塊だったり剥片
     で、「水晶製石器」と呼べそうなものは、KK遺跡でしか確認できていない。
      今回観察できた水晶製石器は3個だった。

     
            石英の塊と剥片【最大 4cm】

 4.2 観察石器と遺物
     今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。

     @ 水晶(石英)原石
     A 尖頭器(Point)とも呼ばれる”石槍”
     B ナイフ形石器
     C 剥片石器

      それらの観察できた石器の一部を紹介する。

石器名 観察地
(時代)
材質 写真 説明
石槍
(ポイント)
KDの西
(旧石器)
黒曜石      
         長さ 25mm
石槍としては
小型
KDの東
(旧石器)
黒曜石      
         長さ 31mm
ナイフ
スクレーパー
(掻器)
KDの西
(旧石器)
黒曜石
        長さ 42mm,25mm
獣皮から肉を
剥がしたり
革をなめす
のに使用

5. おわりに

 5.1 『地球一周の旅』
      『地球一周の旅』に出発まで4日と残り少なくなってきた。チェックリストをもとに、携行品をスーツ
     ケースに詰め込むことにしたが、小さめのスーツケース1つには納まりそうもないので、もう一つ買い足
     した。
      これから先、夫婦で海外旅行をする時に妻が使えば無駄になるものでもないし、とそれなりの理
     屈もついた。しかも、船旅の良さは、宅配便がスーツケースや段ボール箱などを船室まで運んでお
     いてくれるサービスがあるので、さっそく利用した。

      ロシアの「メンデレーエフ博物館」などを個人で訪れようとすると、ビザが必要ということで、2度東
     京のロシア大使館を訪れ、ようやく出発5日前にビザを受け取ることができた。
      今回の旅は、”ミネラル・ウオッチング”だけでなく、”観光”の要素も強いので、本格的な写真を
     撮りたいと思い、念願だった有名なN社の”一眼レフ”を3月末に購入した。
      撮影する前の準備を始めたところ、”測光機能エラー”が出た。マニュアルを読むと、このエラーが
     出たら、”N社サービス機関にご相談ください”、とあり重症のようだ。
      サービス部門に電話すると、あれこれ確認の指示があり、診断の結果、宮城県のサービス部門
     に送ることになった。「出発まで10日ほどしかなく、修理が終わらなければ大枚を叩いて買った意味
     が無くなるから、間に合うように頼む」との手紙を添えて送った。
      5日ほど経って、修理が終わったとのメールがあり、翌日にカメラが戻ってきた。正常に撮影できる
     のを確認できたのは、出発5日前だった。

      4ケ月近く留守にするので、不在の間家族(妻)が困らないように、できるだけのことはしておくこと
     にした。
      第一は、『MH農園』だ。今年は、1ケ月以上早くに農作業を開始し、ジャガイモ、ネギ、サトイモ
     ゴマなど植えられる苗や播ける種は済ませておいた。未だ植えるのに早いトマトなどは、植え付け
     る場所がわかるように、棒を組み合わせた棚をこしらえておいた。
      さらに、「マニュアル」を作成し、作物毎にやるべき作業が解るようにしておいた。

      
                 「MH農園」

      一番肝心なのは、”万が一”の場合の対応だ。年老いた母親がいるし、私自身が行先でテロに
     遭わないとも限らない。
      2015年12月に旅行説明会ではエジプトを訪れる予定だったが、1月に届いた案内ではいつの間
     にかキプロスに変更になっていた。出発間近になって、訪れる予定だったベルギーは、ブリュッセルで
     のテロ事件の影響で寄港が中止になり、その代わりイギリス・ドーバーに急きょ変更になったくらいだ。

      誰かに万が一のことがあった場合についても、ケース・バイ・ケースの対応策を「マニュアル」にして
     説明しておいた。どうやら、今回の旅は、”終活”の第一歩でもあるようだ。

6. 参考文献

 1) 戸沢 充則執筆:矢出川遺跡群,長野県考古学会 矢出川遺跡群保存委員会,1983年
 2) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 3) 山梨県立考古博物館編:第23回特別展 縄文時代の暮らし 山の民と海の民
                     同館,2005年
 4) ミュージアムパーク茨城県自然博物館編:第44回企画展 ザ・ストーンワールド
                               −人と石の自然史−,同館,2008年
 5) 国立歴史民族博物館編:企画展示 縄文はいつからか!?,同館,2009年


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