水晶で作られた石器 その10

1. はじめに

    長かった冬も終りを迎えようとしている。2017年の冬は、雪こそさほど多くなかったが、寒い日にはマイナス7度を
   を記録し、寒さが厳しい日があった。
    しかし、3月に入ると氷点下に下がらない朝もあり、庭の梅も満開になり、春の気配が感じられるようになった。

    2010年3月に、八ヶ岳周辺で水晶製の石器を探し始めて7回目の春を迎えた。時には雪まじりの八ヶ岳颪
   (おろし)が吹きすさぶく中、畑の隅から隅まで黙々と歩く石器探しは、春の訪れを肌で実感するのと同時に、
   冬の間家に籠っていて鈍(なま)った身体を農耕やミネラル・ウオッチングができる体に鍛え直す、リハビリ期間
   にもなっている。

    暖かな日が続いた3月初旬、例年より2週間くらい早いが、石器観察を楽しむことにした。
   ( 2017年3月 観察 5月 報告)

2. 産地

    ミネラル・ウオッチングで通っている長野県川上村の道路脇にあるレタス畑や原野に、数多くの旧石器から
   縄文時代の遺跡がある。もちろん、遺跡に指定されている範囲には立ち入りできないが、そこを外れた場所が
   観察ポイントだ。

     
                      石器観察地

3. 産状と観察方法

    畑を耕したときに掘り起こされた土が凍ったり、霜柱で持ち上げられてから溶けるのを繰り返し、バラバラに崩
   れ、雨にあたったり、風に吹かれたりして表層の土が取り除かれると、石器が畑の表面に露出していることがあ
   る。これらを観察するのだ。
    畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。

     
                 ”キラリ”と光る石器

    この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
   始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。早い年だと11月中旬から2月下旬までは雪に覆われているから、
   実質、観察できるのは限られた期間になる。
    また、石器や土器を採集する愛好家は少なくないようで、畑には先行者が歩いた足跡を確認できることも
   少なくない。そんなこともあって、いつ行くかは重要なポイントになる。
    暦月によって観察できる確率がどのように変化するか、シミュレーションした結果を下図に示す。好機は秋と
   冬にあるのだが、最適期は限られてしまう。

     
                    石器観察確率のシミュレーション

    また、石器や土器は南牧村や川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住ん
   でいる場所と田畑や原野のままの場所があるように、1万数千年前でも人々にとって住みやすい場所とそうで
   ない場所があったのだ。
    それらの場所を先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶しておいて
   そこを重点的に観察するのが良さそうだ。

4. 観察標本

 4.1 石器材料
      今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を下表に示す。

石材の種類 色など    写       真 遺跡別
観察数
(ケ)
観察数合計
西 個数
(ケ)
比率
黒曜石
25 71 387 483 88%

9     9 2%
灰色
(他県産)

5 3   8 1%
頁岩
3 2 6 11 2%
チャート 青白
3 19 18 40 7%

       
石英(水晶)  
         
瑪瑙(めのう)  
         
合計     45 95 411 551 100%

      1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、全壊の2016年、そして今回(2017年)
        の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られないことから、この地域の石器材料
        のおおまかな比率とみて間違いないだろう。

         
                2010年                   2014年                  2016年
                                石器に使われた鉱物・岩石内訳

      2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、90%近くを占めている。以前単身赴任して
        いた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。

         ・ 千葉県で石器拾い
         ( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )

         八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あい
        ま)っての結果だろう。

      3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶
        が豊富にあるのだから、材料入手の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。

          ・ 石器作りに挑戦
           ( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )

         ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手できる
        石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。

 4.2 水晶製石器の産出状況
      川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれたYさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
     のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。

      今回は、一か所の産地を訪れただけなので、水晶製石器は観察できなかった。

      今までに訪れた産地で確認できた水晶製石器の状況を一覧表に示す。

                        ◎:数個確認    ○:産出確認     ×:産出未確認
 区 分          遺   跡 (時代)    備考
  YD
(旧石器)
  KD
(旧石器)
  KK
(旧石器)
  YK
(縄文)
  YS
(旧石器)
  BD
(旧石器)
 
水晶製石器   ×   ×   ○   ×   ×   ×  
水晶(石英)塊   ×   ○   ○   ×   ○  ○  
水晶剥片   ×   ◎   ○   ○   ○   ◎  
結晶面が見える水晶   ×   ○   ×   ×   ○  ×  
備      考 2010年に初訪問
コンスタントに観察
2016年も観察
2017年は、KDのみ訪問
 2013年初訪問
2016年は未訪問
2017年は未訪問
2015年初訪問
2016年未確認 2017年は未訪問
 

 4.2 観察石器と遺物
     今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。

     @ 尖頭器(Point)とも呼ばれる”石槍”
     A スクレーパー(掻器)
     B マイクロ・ブレード(細石器)
     C 石鏃(矢じり)

      それらの観察できた石器の一部を紹介する。

石器名 観察地
(時代)
材質 写真 説明
石槍
(ポイント)
KDの北
(旧石器)
黒曜石      
              長さ 22mm
石槍としては
小型
KDの東
(旧石器)
チャート         
              長さ 35mm
 
スクレーパー
(掻器)
KDの西
(旧石器)
チャート
           長さ 25mm
 獣皮から肉を
剥がしたり
革をなめす
のに使用
頁岩
             長さ 37mm
マイクロ・ブレード
(細石器)
KDの北
(旧石器)
黒曜石     
             長さ 17mm
 
石鏃
(矢じり)
KDの東
(旧石器)
安山岩       
             長さ 25mm
磨製石器で、
縄文時代になって
狩猟で使った矢じり

川上村の16世紀の採金遺跡や
千葉県の縄文遺跡などで、
安山岩の「磨石」は見かけるが
石鏃は珍しい

5. おわりに

 5.1 『地球一周の旅』
      2016年、『地球一周の旅』に出発したのが4月11日だった。日記を読み返すと、このページを書いている
     5月8日には、早朝からスエズ運河を通過していた。

      1年後の2017年、年明け早々に突然妻の母の介護を引き受けることになった。絵にかいたような『老々
     介護』だ。さらに、首都圏にある家が老朽化し、その修繕も急を要する状態になっていた。
      そんな訳で、月に何度か、延べ日数にして月の半分は首都圏に行ったり来たりしなければならない状況
     になっている。このページも1ケ月以上遅れてのレポートだ。

      もしも、今年の4月に『地球一周の旅』に出発する予定にしていたら、キャンセルせざるを得なかっただろ
     う。その意味では、『良いときに、行っておいた』ことになる。

 5.2 『月遅れGWミネラル・ウオッチング』
      GWに孫娘一家が帰省したので、2016年夏休みの自由研究の延長で「水晶探し」に長野県川上村の
     「甲武信鉱山貯鉱場」を訪れた。帰りに、湯沼鉱泉に挨拶に寄ると、GWの最中とあって30人近くの宿泊
     客がいたが、それ以外の日には宿泊客が少ないと、社長とお姐さんがこぼしていた。
      ミズバショウが見納めになっていた。

        
                 「甲武信鉱山貯鉱場」                「湯沼鉱泉」のミズバショウ

6. 参考文献

 1) 戸沢 充則執筆:矢出川遺跡群,長野県考古学会 矢出川遺跡群保存委員会,1983年
 2) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 3) 山梨県立考古博物館編:第23回特別展 縄文時代の暮らし 山の民と海の民
                     同館,2005年
 4) ミュージアムパーク茨城県自然博物館編:第44回企画展 ザ・ストーンワールド
                               −人と石の自然史−,同館,2008年
 5) 国立歴史民族博物館編:企画展示 縄文はいつからか!?,同館,2009年


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