石友からの贈りもの 鹿児島県川尻海岸の『苦土かんらん石』







               石友からの贈り物
         鹿児島県川尻海岸の『苦土かんらん石』

1. 初めに

    会社で、Webメールをチェックすると、「お待たせしました!!」、というタイトルのメールがあ
   った。送信者は、古くからの石友・Tさんだ。何のことか、と思いながら、本文を開いてみた。

    『 お約束の苦土かんらん石を貴宅に届けました。
     勿論不在ゆえ、ドアノブにぶら下げてあります。
     この石を欲しがる人は少なく、持ち去る人はいないと思いますので、
     ゆっくりとお仕事にお励みください。                         』

    正月に鉱物同志会の新年会でお会いした時に、「川尻海岸で採集した『苦土かんらん石』を
   その内送る」、と言っていたのを思い出した。( 私は、とうに忘れていた )

    風邪をひいたらしく咳もでるので、そそくさと仕事を片付け帰宅すると、ドアノブに袋がぶら
   下がっていた。中には、ギッチリ黒い砂が詰まった350ccのペットボトルと九州産のミカン、そ
   していつものユーモアのある手紙が入っていた。

    『・・・・・川尻海岸で、2011年6月23日採集したものです。・・・・・・・・・ペットボトルを太陽光
      に当てると”黄金色”に輝いてみることができます。(1mm程度です)
                                            1/25 11:00AM      』

    朝は朝日が差し込む前に家を出て、帰ってくると真っ暗で、太陽光の下で見る機会がなか
   った。週末に山梨から妻も来て、30歳になった3男のバースディ・パーティを家族と祝う予定
   だったが、風邪が悪化し、孫娘にうつしては大変と、ドタキャンしてもらった。

    週末、山梨に戻らず単身赴任先で土曜日の朝を迎えた。いつもより2時間以上遅い8時前
   に起きると、朝日がサンサンと射し込んでいた。朝日に向けたペットボトルをグルグルと回す
   と、Tさんの手紙にあった通り、”黄金色(ウグイス色)”の粒が光る。

    その日の午後、孫娘を連れて3男一家が見舞いに来てくれた。実体顕微鏡を引っ張り出し
   3歳の孫娘に、「苦土かんらん石」を見せてあげると、ウグイス色(黄金色?)の粒に大喜びだ
   った。
    磁石で「磁鉄鉱」を選び出し、箱の中に入れて、下に置いた磁石で動かすと磁鉄鉱の粒が
   踊り、これまた大喜びだった。コップ半分くらいの苦土かんらん石を含む砂をお土産に渡した。
    こうして、後継者を、シッカリ育成している。

    以前、奈良の石友・Yさんから送っていただいた二上山からの川砂100gから「サファイア」を
   選び出すやり方と結果を次のページに掲載した。

    ・奈良県穴虫のサファイア(鋼玉) その1
     ( Sapphire (CORUNDUM) from Anamushi - Part 1-, Nara Pref. )

    孫娘との遊びの中で、「黒砂」から、「苦土かんらん石」を選び出すヒントが得られた。磁石
   を使って「磁鉄鉱」を取り除き、含有率が高くなった所でパンニングしてみたが、石英や角閃
   石そして普通輝石と比重の差が大きくないので揺り分けるのは厳しいことを悟り、顕微鏡下で
   つま楊枝でピックアップするもっとも地道な方法にした。

    こうして、何とか標本ビンに入れて飾れるだけの量を確保したが、所要時間は、延べ5時間
   だった。

    貴重な「黒砂」を恵与いただいた石友・Tさんに、厚く御礼申し上げる。
   ( 2013年1月〜2月 選別 )

2. 産地

    開聞岳の東にある弓状の川尻海岸が産地とのこと。

     川尻海岸

3. 産状と採集方法

   「苦土かんらん石」は、開聞岳の噴火で流出した玄武岩質溶岩の斑晶として含まれていたも
  のが溶岩の風化で抜け落ちて海岸に打ち寄せられたものらしい。波の力で自然に揺り分けら
  れ、集まっている真っ黒い砂を集めるだけのお手軽採集法とのこと。

    今回開発(?)した、「黒砂」から『苦土かんらん石』を選別する方法は次の通りだ。

 (1) 磁性鉱物の除去
      「黒砂」は文字通り真っ黒で、鉄分を含んでいる感じがした。松原先生の「日本産鉱物
     型録」では、苦土かんらん石の化学組成を【Mg2SiO4】、鉄かんらん石を【Fe2SiO4】として
     いる。
      加藤先生の「造岩鉱物」には、鉄かんらん石-苦土かんらん石-マンガンかんらん石の
     間には、連続固溶系が成立するとある。
      つまり、理想的な化学式は、「日本産鉱物型録」に示す通りなのだが、実際に産出する
     かんらん石の化学式は、【(Mg,Fe2+,Mn2+2SiO4】で表わされ、これらの内、Mg,Fe,Mn
     のいずれが多いかで名前が決まることになる。

      孫娘を驚かそう(喜ばそう?)、と「黒砂」に磁石を近づけると、黒い粒が飛びついた。つ
     まり、磁性を帯びたものがあるということだ。理想的な苦土かんらん石は、鉄(Fe)を全く含
     まないのだから磁性はないはずだ。逆に言えば、磁石に吸いつくものは”純粋な”苦土か
     んらん石でないことになる。こうして、磁石に吸いつくものを取り除いた。
      この磁石選鉱の結果、下の写真に示すように、「黒砂」の量は半分以下になり、気のせ
     いか、「黒砂」よりも色が「オリーブ色」に近づいたような気がする。

      
            磁石選鉱結果
        【手前磁石で取り除いたもの】

 (2) ふるい選別
      より純粋な「苦土かんらん石」を選び出したが、粒の大きさは2mmクラスから”粉”のよう
     なものまである。
      「100均」で売っている料理用のふるいを用いて、粉のようなものを取り除いたら、1/10
     くらいが取り除かれた。

       選鉱用ふるい

 (3) つま楊枝選別
      最後は、実体顕微鏡下で、唾液で濡らしたつま楊枝で「オリーブ色」の『苦土かんらん石』
     だけをピックアップする。
      こうして得られた『苦土かんらん石』をビンに入れて終了だ。

       ビンに詰める

4. 産出鉱物

 (1) オリビン/苦土かんらん石【Olivine/FORSTERITE(Mg2SiO)4
      オリビンの名前からもわかるように、オリーブ油のような緑褐色の粒状で、大きさは1mm
     前後がほとんどで、最大でも2mmだ。波に洗われ、擦れ合ったせいか表面がスリガラス状
     になっているため、半透明なものが多い。しかし、内部は完全に透明だ。

       「苦土かんらん石」

      「苦土」となっているが、実体顕微鏡下で磁石を近づけてみると、吸いついたり、移動した
     りと、少なからず鉄(Fe)が含まれているようだ。
      つまり、Mg > Fe2+ なので、便宜上「苦土」と呼んでいるだけだ。

5.おわりに

 (1) 九州の鉱物
      ミネラル・ウオッチングを目的に九州を訪れたことはない。茨城県に単身赴任していた
     2006年の秋、私の還暦を記念して、妻と西九州を訪れたことがあった。

     ・2006年秋 西九州の観光・鉱物採集旅行
      ( Sightseeing and Mineral Watching Tour in Western Kyusyu , Fall 2006

      「西九州の**・鉱物採集旅行」と副題がついているが、既報の通り、雲仙の噴気孔で
     自然硫黄と明礬を採集したくらいだった。

      そんな訳で、九州の鉱物の多くが購入したもので、石友・Tさんから恵与いただいた「苦
     土かんらん石」は、お金に代えられない貴重な標本だ。

      同じ千葉県に住んでいて、距離的にはさほどないのだが、日中の国道16号線の渋滞は
     相当なもので、運転するのにも疲れるはずだ。それをものともせずに訪れてくれるほどに
     体調が回復しているのは同慶の至りだ。

      近いうち、『恵方・南々東』をご一緒しましょう。

         
                千葉から                     山梨から
               【鴨川方面】                   【伊豆方面】
                           2013年の恵方

 (2) 『 帰去来之辞 』
      2010年3月、千葉に2度目の単身赴任して、アッというまに3年が過ぎた。この間、東日本
     大震災という人生で一度経験するかしないかという大災害に会い、これを乗り越え、今日に
     至っている。
      このたび、この3月で赴任の任期が終わることが決まった。4月からは、山梨に帰り、
     『晴鉱(耕)雨読』の生活に戻れそうだ。

      帰任が決まる1週間ほど前、九州のS社に勤める後輩・Uさんから、『 ナースが聞いた
     「死ぬ前に語られる後悔」トップ5 』 、なるメールが送られてきた。彼は、総務畑が長く
     毎週水曜日に、このようなメールを送ってくれている。

      これによると、『後悔のトップ5』は、次の通りだ。

      『 1. 「自分自身に忠実に生きれば良かった」
          「他人に望まれるように」ではなく、「自分らしく生きれば良かった」という後悔。
         これがもっとも多いそうです。
          人生の終わりに、達成できなかった夢がたくさんあったことに患者たちは気づくの
         だそう。
          ああしておけばよかった、という気持ちを抱えたまま世を去らなければならない
         ことに、人は強く無念を感じるようです。

          2. 「あんなに一生懸命働かなくても良かった」
          男性の多くがこの後悔をするとのこと。仕事に時間を費やしすぎず、もっと家族と
         一緒に過ごせば良かった、と感じるのだそうです。

        3. 「もっと自分の気持ちを表す勇気を持てば良かった」
          世間でうまくやっていくために感情を殺していた結果、可もなく不可もない存在で
         終わってしまった、という無念が最後に訪れるようです。

        4. 「友人関係を続けていれば良かった」
          人生最後の数週間に、人は友人の本当のありがたさに気がつくのだそうです。
         そして、連絡が途絶えてしまったかつての友達に想いを馳せるのだとか。
          もっと友達との関係を大切にしておくべきだった、という後悔を覚えるようです。

        5. 「自分をもっと幸せにしてあげればよかった」
          「幸福は自分で選ぶもの」だと気づいていない人がとても多い。旧習やパターンに
         絡めとられた人生を「快適」と思ってしまったこと。
          変化を無意識に恐れ「選択」を避けていた人生に気づき、悔いを抱えたまま世を
         去っていく人が多いようです。                                』

      多分、若い人はこれを読んでも何とも思わないだる。私のように、平均寿命まで生きて
     10年、余命を全うしたとしても20年足らずのものにとっては、重いものがある。

      2012年の暮れ近く、昔の職場のOB会があり、初めて参加した。10年目を迎えたのだが、
     現役のつもりの私にとって縁遠いものに思われ今まで参加しなかった。しかし、2011年の
     この会の席上で、私の先輩・Aさんが倒れ、帰らぬ人になったと聞いた。
      葬儀に参列し、亡くなってから会っても遅いことに気づき、生きている間に先輩や後輩に
     会って置きたい、と思い参加した次第だ。

       OB会

6. 参考文献

 1) 工業技術院地質調査所:日本鉱産誌(BI-C),東京地学協会,昭和29年
 2) 吉村 豊文:日本のマンガン鉱床補遺 後編,吉村豊文教授記念事業会,昭和44年
 3) 平井 進:山梨県増穂鉱山・落合鉱山,鉱物情報,1984年
 4) 加藤 昭:マンガン鉱物読本,関東鉱物同好会,1998年
 5) 松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
 6) 宮島 宏:日本の新鉱物,フォッサマグナミュージアム,2000年
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