奈良県穴虫のサファイア(鋼玉) その1

    奈良県穴虫のサファイア(鋼玉) その1

1. 初めに

   2009年6月、「月遅れGWミネラル・ウオッチング」で、延べ53名の皆さんと楽しい2日間を
  過ごさせていただいた。
   長野県川上村湯沼鉱泉に宿泊して、宴会、「オークション」そして「玉手箱」の後の楽しみ
  は、何といっても「大人の時間」だ。

   今回不参加だったYさんが、雑誌「M」に載っている事が話題の1つになった。雑誌「M」は
  なかなか入手できないので、茨城・Tさんが重品を3冊提供してくれ、急遽開いたジャンケン
  大会の勝者の手に収まった。

   参加者の最近の採集品を拝見する機会があったが、奈良・Yさんが某所で採集した
  「ブルー・トパズ」は結晶の完全さ、色、透明感そして大きさからして、まちがいなく『日本一』
  の折り紙がつくものだった。
   次にYさんが取り出したのは、「穴虫のサファイア」だった。丸ケースに、大粒のものだけ
  約200ケ、もう1つには1,500ケあまり納まっていた。見つけるたびに、”正”の字を書いて
  1ケずつ数えた、と聞いて、呆れたのを通り越し、その徹底振りには感心した。

   Yさんが「サファイアが入った砂を送りましょうか?」、と言ってくれたので、いただくことに
  した。
   ミネラル・ウオッチングが終わって10日ほどして、「100gの砂」と「マニュアル」そして「鉄礬
  柘榴石」、「チタン鉄鉱」が送られてきた。
   砂が入った袋には”青玉 100粒以上含?”と書かれ、100粒以上採れたかどうかで、腕の
  良し悪しがわかる仕掛けになっているようだ。

       川砂が入った袋【奈良・Yさんの恵与品】

   「マニュアル」に従い、妻が挑戦し、「117粒を発見した」、と言ったが、私が見るとサファイ
  アでないものが混じっていて、正確には115粒だった。これでも、マズマズ合格なのだろう。

   私は、「マニュアル」にない、実体顕微鏡を使う方法で妻の選鉱カスの中から、さらに33個
  のサファイアを発見し、合計148個になった。
   サファイアを選びながら、「高温石英」「珪線石」「正長石」「紫蘇輝石(頑火輝石もしくは
  鉄珪輝石)」なども選り分けた。

   私が発見した中には、コランダム(鋼玉)結晶の理想形である『六角柱状』のものがいくつ
  かあり、”Our Collection” を飾ることになった。

   集中してサファイアを探していると暫し(しばし)暑さを忘れることができた。貴重な川砂を
  恵与してくれた奈良の石友・Yさんに深く感謝している。
   ( 2009年7月採集 )

2. 産地

     
 Yさんが送ってくれた川砂の袋に
『奈良県香芝市穴虫 竹田川産』、
とあり地図の穴虫周辺を探したが
「竹田川」が見つからない。

 近鉄南大阪線・二上山駅周辺の
小さな流れなのだろう、と想像
している。


3. 産状と採集方法

 3.1 産状
     2002年11月、奈良の石友・Aさん親子に案内していただき、この附近の産地を訪れた
    ことがあった。

     草下先生の「鉱物採集フィールド・ガイド」に、『 奈良県と大阪府の境にある二上山の
    黒雲母安山岩の中に、細粒のざくろ石、チタン鉄鉱とともに、青色の鋼玉が多少含まれ
    ている 』、との書かれているので探しに行った。

   ・奈良県香芝市穴虫のざくろ石
    ( Almandine of Anamushi , Kashiba City , Nara Pref. )

     結果は、HPにも書いたとおり、”多量の鉄礬柘榴石”を採集しただけで、未練が残る
    産地の1つだ。

 3.2 採集方法
  (1) Yさん流
       Yさんの”ロゴ・マーク(?)”入りのA4サイズの用紙3ページにわたって、「用意する
      道具類」、「作業工程」そして「選別の順番」を詳しく書いてくれた。

     

「用意するもの」
 ・ 白いA4サイズの紙
 ・ スプーン
 ・ 磁石(強力なネオジム磁石が望ましい)
 ・ ピンセットまたは爪楊枝
 ・ 標本箱
 ・ ミネラライト

「作業工程」
 @ スプーン半分の砂を紙の上に広げる
 A 磁石でざくろ石などの鉄系鉱物を除く
 B サファイア(青色鉱物)をピックアップ
 C 紙を180度回転させ、再選別

「選別の順番」
 @ サファイア
 A 珪線石
 B 頑火輝石
 C ジルコン(ミネラライト使用)


       妻は、これに従って、ものの1時間で選別を終え、「117粒」を発見した。

  (2) 私流【実体顕微鏡を活用】
       私の専門の1つが、「パターン認識」で、人が目視で検査した場合、必ず”見落とし”
      (サファイアを見逃している)と”虚報”(サファイアでないものをサファイアと判断する)
      があると信じている。

      そこで、妻が選別した残り砂を選別することにした。Yさんのマニュアルには、同じ
     人がもう一度、(同じ方法で)選別するだけで、”採集率が20%アップする”、とあった
     が、方法を変えてみることにした。

    @ 検査皿に川砂を入れる。
       

 検査皿(直径約5cmのプラスチック容器の蓋)
に、川砂を散布する。
 ( 粒同士が重ならないように )


    A 実体顕微鏡下で検査
       

 検査皿を上から下に、左右に動かしながら
選別する。


    B サファイア 発見!!
       

 鉄礬ざくろ石の赤系が多い視野の中で
サファイアは、透明〜半透明、鮮やかな
青色で目立つ。

 ほかの鉱物も同時に見つける。
( これが難しい )


    C 回収
       
 サファイアとそれ以外の鉱物を
分けて、プラスチック丸ケースに
回収する。

 楊枝の先端を唾で湿らせると
簡単に吸着
 丸ケースの端で楊枝を叩くと
簡単に離れる。
(離れないのは唾のつけ過ぎ)


      この方法だと、妻が選んだカスから、10粒近い六角形の理想的な結晶を含め33粒
     のサファイアが見つかった。
      この方法は、時間が掛かるのが欠点で、私は延べ6時間かかった。
      ( 物は考えようで、欠点は、「長く楽しめる」、という長所にもなる )

4. 産出鉱物

   今回は、サファイア(鋼玉)のみ紹介する。

鉱物種名
    俗名
  【英名:組成】
  標 本 写 真  備  考
鋼玉(コランダム)
サファイア(Sapphire)
【CORUNDUM:Al3O3

            薄板状


          六角柱状〜厚板状

 六角柱状、板状が
理想形


      結晶図
   【検索図鑑から引用】

5. おわりに

 (1) サファイアの含有率
      Yさんが送ってくれた川砂の重さは100g、とあったが、念のため自宅の秤で計測した
     ところピッタリ100gだった。
      さすがに、几帳面なYさんだ。( 計り直すお前のほうが一段上だ・・・蔭の声 )

       ピッタリ 100g!

      採集できたサファイアの重さは計測していないが、単純に1mm角、厚さ0.5mm、
     比重を4.0として、148個の重量Wは次のようになる。

      W = 1× 1×0.5×10-3×4×148 ≒ 0.3g

      Yさん流の単位を使えば、『1カラット』余り、真に、宝石クラスだ。
      このような貴重な川砂を贈ってくれたYさんに、厚く御礼申し上げる。

 (2) ランキング
      Yさんのことだから、何人かに砂を送り、誰が何個発見したかを記録しているに違い
     ない。
      ランキングの発表が楽しみだ。

 (3) 次なる楽しみ
      サファイアを選びながら、色が変わっている、結晶形がシッカリしているなど面白い
     鉱物を選り分けておいた。これらを分類、同定するのが次なる楽しみだ。
      ( 赤い「鉄礬柘榴石」が紛れ込んでいるのは”ご愛嬌” )

       分類待ちの鉱物たち

6. 参考文献

 1) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
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