その後の産地の様子も知りたいので、丸2年ぶりに訪れた。開発はその後も
記憶を辿りながら古い産地を訪れると、周りの様子は激変し、以前千葉のTさん
それでも、その周辺で2枚貝に共生する犬牙状方解石を観察することができた。中に
前にも述べたように、似たような地形(地質)の場所は他にもあり、今後さらに
約15万年前・・・・・・・・・印西市がある一帯を含め、関東地方の大部分が”古東京湾”と
この海に生息していた斧足(ふそく)類(2枚貝)、腹足類
〜約1万年前・・・・・・・箱根火山や古富士山はじめ関東地方の火山活動で噴出した
〜現在・・・・・・・・・・・・海面の低下と房総地方の隆起に伴って、印西市周辺は北総台地
貝化石を含む層は2つあり、下(古いほう)を「上岩橋層」、上(新しいほう)を「木下層」と
千葉県立印旛高校入口の露頭を含む木下公園一帯が平成14年(2002年)3月
大昔、内湾の浅い海の底にあった地方ならどこでも貝化石が残っているはずだが、
砂地に堆積した貝殻は、永い年月の間に酸性の水に溶けて、砂の層を通して下に流れ
ここ、印西市の産地で入手した貝化石に伴う方解石をその形態、色などの違いで
”飴石”は極めて少ない
(2) 貝化石の観察地点の何箇所かは国の天然記念物に指定され、採集ができないのは無論
この場所は、当分採集できそうなので、「採集会」の候補地の1つと考えている。
(3) 化石と鉱物
「千葉県銚子市長崎鼻の石炭にともなう琥珀」は、既にHPに掲載したように、単に
しかし、銚子市で「琥珀」を採集した、という情報もあるので、まだまだ諦めた訳では
( Calcite on Shell Fossil from Inzai City , Chiba Pref. )
継続されており、新しく立派な道路ができたり、建設中だった建物が完成したり
で、道に迷ってしまうほどだった。
からいただいた情報どおり、かつての産地はコンクリートブロックで覆われていた。
産地【2008年2月】
は、砂鉄が錆びた「針鉄鉱(褐鉄鉱)」で茶色く色づいた、福島県塙町で”飴石”と呼ぶ
黄土色・透明な方解石も見られた。
( "Ameishi"(Calcite on Shell Fossil ) from Fukushima Pref. )
開発が進むにつれ、”ヒョッコリ”新産地が姿を現すことを期待して、時々見回って
見ようと考えている。
( 2008年2月採集 )
2. 産地
印西市中央公民館で販売している「木下貝層」(900円)には、観察地点(産地)
の地図が記載されているが、開発に伴って過去に観察できた個所が消滅したり、
逆に新たに産地が生まれているようだ。
昭和63年(1988年)の第1版に記載された地点を”赤丸数字”、平成16年(2004年)
の第3版に記載されたものを”黒丸白抜き数字”で示す。
a) ”黒丸白抜き数字”だけの地点は、昭和63年(1998年)以降、新たに確認された
b) ”赤丸数字”だけの地点は、平成16年(2004年)現在消滅した
c) ”黒丸白抜き数字”と”赤丸数字”併記の地点は、昭和63年(1998年)〜
平成16年(2004年)まで継続して確認できた
「観察地点」【「木下貝層」第1版、第3版を編集】
3. 産状と採集方法
「木下貝層」誌によれば、この産地が生れに至った歴史(地史)は次のようであった。
呼ばれる浅い海の底にあった。
(巻貝のなかま)の死骸が海底の砂や一部泥に堆積した。
軽石(パミスと呼ばれる)や火山灰(ローム層と呼ばれる)が
貝の層を覆うように堆積
と呼ばれる小高い丘が残され、貝化石はその地層の中に層を
なして保存されている。
呼ぶ。「上岩橋層」から産出する貝化石は、エゾタマキなど寒い気候に適応した種類で
その当時、ここは比較的寒冷な環境だったことが推測できる。
「木下層」からは、ヌマコダキガイなど汽水性(大きな川の河口のように塩水と真水が
混じった環境)を好む貝や、アサリなどの暖流系の貝が含まれており、当時温暖化が
進み、海も徐々に深くなっていたことをうかがわせる。
また、アカニシなどの巻貝は肉食で、2枚貝を捕食しており、餌である2枚貝が多く
生息していたところに集まってきた、と考えられる。
アカニシ(Rapana venosa)
「木下層」の標式地として国の天然記念物の指定地になった。
従って、ここでは採集ができず、観察するだけとなる。
印旛高校脇露頭【国の天然記念物】
限られた場所にしか残っていないのは、次のように説明される。
去り、化石として残るチャンスがない。貝化石が残るには、酸性の水が地層内にしみ込ま
ない条件、すなわち水を通さない粘土層が上にあることが必要となる。
印西市北部の貝化石産地付近の地層柱状模式図を見れば、よく理解できる。
印西市北部の地層柱状模式図
4. 産出鉱物
(1) 方解石【CALCITE:CaCO3】
私が採集(含む現金採集)したことがある「貝化石に伴う方解石」の産地は国内に
2箇所ある。1つは、ここ千葉県印西市、もう一箇所は福島県塙町である。
分類してみると、次の通りである。
区 分 説 明 代表例 備考
形 態
貝化石の殻の空隙(内側)に
犬牙状結晶が成長
外側【ザルガイ科】
内側
巻貝のアカニシも
同様な形態
貝化石の殻の空隙(内側)に
方解石が蓄積
方解石の表面が
モールド(Mold:内型)の
ようになっている
モールド【ニッコウガイ科】
モールド【イタヤガイ科】
縁の方が、”犬牙状”に
成長している場合もある
貝化石の殻は見当たらないが
樹枝状に方解石が成長
樹枝状
『自然銅』や『自然金』などを
思わせる結晶形態色
”飴石”と呼ぶ
黄土色・透明な方解石
”飴石”
着色の原因は、砂鉄
(磁鉄鉱)が酸化した
(錆びた)「針鉄鉱(褐鉄鉱)」と
考えられる
(確率 5%以下)
5.おわりに
(1) 印西市中央公民館の貝化石展示
印西市の中央公民館には、地元で採集された化石が200点前後展示してある。ここ
では「木下貝層」の表紙を飾っているアカニシの空洞に晶出した犬牙状方解石の現物
を目近に見ることができ、一見の価値がある。
また、ここで、「木下貝層」の本も購入できる。(900円)
展示全容 アカニシと犬牙状方解石
印西市中央公民館の貝化石展示
である。何箇所かは私有地で、立ち入りも了解が必要である。今回も居合わせた人に
了解を得て拾わせていただいた。
私が今回貝化石に伴う方解石を採集した場所は、この地図には記載されていない
場所である。それだけ貴重な産地を教えてくれた中学の後輩・Nさんに改めて厚く
御礼申し上げる。
一般に化石は鉱物とは見なされないが、特定のものについては、鉱物に含める
場合もあるようだ。それらについて、私が知っている範囲でまとめてみた。
鉱物名 産 状 代表的な産地 備考
黄鉄鉱 アンモナイトの表面に
薄く晶出したもの
石炭の中に
薄く層をなすこともあるドイツ 真鍮ブラシで擦って
作っているという説もある珪化木 木材の繊維組織を蛋白石が
置き換えたもの茨城県玉川
岐阜県川辺町 岐阜県中川辺産のもののように
部分的に方解石に置き換わって
いるものもある蛋白石
(オパール)月のお下がり
月珠(つきのたま)
巻貝の一種、ビカリア・カローサの
貝殻の中に珪酸が入り込み
蛋白石(オパール)の内型(モールド)を
つくったもの
オーストラリアでは、2枚貝を
オパールが置き換えたものを
産する。岐阜県瑞浪市月吉
オーストラリア 「雲根志」の著者・木内石亭が
明和4年(1767年)に
月吉を訪れている琥珀 樹脂が変質して琥珀酸(C40H64O4)を
生じたもの岩手県久慈
福島県いわき市不純なものを薫陸(くんろく)と
呼んだ
参考文献3)に”くんりく”と
あるが、誤り石炭 植物が炭化したもの
琥珀の小さな粒を含む場合もある福島県
福岡県
千葉県銚子市
廃油ボールの固まったものを
石炭と誤認識しやすい石油
海底に堆積した有孔虫、魚類の脂肪
花粉などが変質し、さらに地熱で
変質した新潟県
燐鉱
鳥の糞化石が珊瑚礁の石灰岩と
反応してできたもの沖縄県
珪華 蛋白石、温泉の沈殿物で
木の葉の跡を残すことがある長野県中房温泉
灰華 石灰泉の湧出口にできる沈殿物で
木の葉の跡を残すことがある山梨県増富温泉
”廃油ボール”が固まったものだった。
ない。
6.参考文献
1) 印西市教育委員会編:木下貝層 -印西の貝化石図集- 第1版,同委員会,昭和63年
2) 印西市教育委員会編:木下貝層 -印西の貝化石図集- 第3版,同委員会,平成16年