福島県産”飴石”(貝化石中の方解石結晶)

1. 初めに

   2006年1月、千葉県印西市にある『貝化石中の方解石』産地を訪れ、その結果を
  HPに掲載したところ、福島県の愛読者・Kさんから、「福島県でも貝化石中に方解石の
  結晶が産出する場所がある。ただし、採集はさせてもらえなかった」とのメールをいた
  だいた。

千葉県印西市の貝化石に伴う方解石
( Calcite on Shell Fossil from Inzai City , Chiba Pref. )

   その後、テレビだったか情報誌だったかで、『福島県のある道の駅で貝化石を販売
  している 』との情報を得た。

   茨城県ひたちなか市にある、最先端半導体工場から技術コンサルタントとして
  招請され2006年7月に赴任した。
   仕事が軌道に乗るまでは、『ハンマに封印』してという決意で赴任したが、最初の
  1週間の現状分析で、改善策提言の粗筋が読め、2週間目の週末には骨董市やミネラル
  ウオッチングで産地を回る余裕も出てきた。
   真っ先に訪れて見たい場所の1つが、この貝化石中の方解石産地であった。これらの
  貝化石を産出する採石会社を訪れ、平地学研究会の会員であること、富田会長の紹介で
  来たことなどを応対に出た社長にお話しすると、事務所に飾ってある貝、鯨骨、植物な
  どの化石を手にとって見せてくれ、貝化石の中の方解石結晶を”飴石”呼んでいる、と
  教えてくれた。

             
      飴石(貝化石中の方解石)           鮫の歯

   盆の入りで、社長は忙しいご様子だったが、採掘場の見学をお願いすると、私の人品
  骨柄をしげしげと見回した後、『 採集は許可していないが、観察だけなら案内します 』
  と、車で約15分ほどの採掘現場に案内してくれた。
   ここで、化石の産状などを観察した後、社長にお礼を述べ、「道の駅」に向かった。
   なるほど、「道の駅」には、地元の高校の先生の名前で、貝化石が展示されており
  1つ1000円前後で即売もしている。

        貝化石展示品

      ここで、たまたま、貝化石の空隙の中に、あめ色の犬牙状方解石が結晶した”飴石”と
  呼べるものや貝化石、脊椎動物(鯨)の骨の化石などを購入できた。

   この採掘場にある貝化石は、この会社の主力商品の大切な原材料であり、無断で採掘
  しないようにして欲しい。また、「道の駅」で販売しているのは、単なる貝化石がほとん
  どで、よほど運が良くないと”飴石”には巡り会えないようです。

   ( 2006年8月入手 )

2. 産地

   福島県の海岸から離れた山間部にある場所で、海に生息した貝や鯨の化石が採集できる
  ことには驚かされるとともに、大自然の営みには驚嘆させられる。

3. 産状と採集方法

 3.1 産状

   福島県立博物館の「図説 福島県の化石」によれば、ここの産状は次のとおりである。

   『 この周辺には久保田層と呼ばれる中新世後期の前期(1100万年前〜900万年前)の
    堆積物が分布している。
    (下部は、中新世中期までさかのぼるとの見方もある)
     久保田層の下部からは、豊富な貝化石が密集して産し、一部は採掘され、肥料などに
    利用されている。
     貝化石は、「カネハラカガミ」「シオバラザル」「ハタイサルボウ」など浅い海や
    潮間帯に住んでいた貝が中心で、これらはお隣の栃木県北部の塩原町の化石群と似て
    いることから「塩原動物群」と呼ばれている。
     久保田層からは、鯨や鮫の歯など海に住む脊椎動物の化石も見つかっている 』

    社長に案内していただいた貝化石の採掘場では、高さ約15mの崖をベンチカット
   している。
    貝化石は、見える範囲の全層に見られるのだが、下層には「牡蠣」などもみられ
   層によって、生息した貝の種類、量や化石の保存状態が違っている。

        福島貝化石産地【採掘場に立つ社長】

 3.2 採集方法

    社長から、『 あのあたりが、”飴石”がでやすいところ 』と教えていただいた
   が、今回は見学だけに止まった。

4. 採集鉱物

   厳密には、”現金採集”鉱物です。

 (1)飴石(貝化石中の方解石結晶)【Calcite on Shell Fossil:CaCO3】
     貝化石の空隙の中に、方解石が結晶し成長しているものが、ごくごく稀に観察で
    きる。
     方解石が成長するためには、カルシウム(Ca)の存在が不可欠であり、しかも空隙が
    なければならない。
     従って、団塊状に貝化石が密集している場所がねらい目である。
     方解石は、犬牙状、菱面体そして柱状と各種の結晶が観察できる。白色透明と
    飴色(琥珀色)のものがあるが、着色の原因は硫化鉄鉱に伴う褐鉄鉱脈が観察できる
    ところから、これに起因すると考えられる。

        飴石(貝化石中の方解石結晶)

 (2)化石【Fossil:―】
     正式には鉱物とは呼べないが、ここではいろいろな動植物化石を採集できる。
     貝・・・・・・2枚貝、巻貝
     植物・・・・・木の葉、炭化した木材など
     脊椎動物・・・鯨骨、サメの歯など

         
           巻貝                鯨骨
                   採集化石

5.おわりに

 (1) 事前の予約なしに突然訪れたにもかかわらず、忙しい中、採掘場まで案内していた
    だき、入口のお社で、安全祈願までしていただいた社長に、厚く御礼を申し上げます。
     礼状の返事に、『 技術士として、工場の診断をして欲しい 』 とあったので
    このような形で、お礼ができればと考えている。

     また、この地域の化石に関する資料や情報を送っていただいた、平地学研究会の
    富田会長と会員・S氏に厚く御礼申し上げます。

 (2) この採掘場にある貝化石は、この会社の主力商品の大切な原材料であり、無断で
    採掘しないで欲しい。

 (3) 道の駅には、江戸時代天領であったこの地の代官・寺西重次郎封元(じゅうじろう
    たかもと)の遺徳をしのぶコーナが設けられている。

     寺西8ケ条

     封元は、寛政4年(1792年)、天領の塙領6万石、小名浜領3万石、合わせて9万石を
    支配するため磐城国白川郡塙代官所に着任した。
     このころの東北地方は、天明の大飢饉(1782年〜87年)に見舞われた直後で、封元は
    『寺西8ケ条』をつくって、村人を教え諭したという。

    1)天はおそろし
    2)地は大切
    3)父母は大事
    4)子は不憫、可愛
    5)夫婦睦まじく
    6)兄弟なかよく
    7)職分を出精
    8)諸人愛嬌

     子供の虐待、自然災害など身近で暗いニュースの多い現在、心すべき言葉である。

 (4) 今回、”飴石”なるものがあることを初めて知った。インターネットで調べてみると
    1912年に米国誕生石商組合が制定した8月の誕生石が”飴石”で、夫婦愛や和合が宝石
    言葉とある。
     これは、黄緑色をした橄欖石(Peridot)のことで、この地方で呼んでいる”飴石”
    とは全くの別物である。

6.参考文献

 1)福島県立博物館:図説 福島県の化石,同館,平成5年
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