鉱物採集の技(5) 標本のクリーニング(二次鉱物の洗浄)

    鉱物採集の技(5) 標本のクリーニング
                 (二次鉱物の洗浄)

1. 初めに

    2010年4月、この年最初のミニ採集会を栃木県小来川鉱山の『アズラの森』で開催したのは
   既報の通りである。

    ・”アズラの森”で きれいな 石拾い
     ( Beautiful Mineral Hunting at "Azuranomori " , Tochigi Pref. )

    みなさん、”満足の一品”を採集できたようで、勧進元として”ホッ”と胸をなで下ろした次第だ。
   夫婦して良品を採集したKさんから、「私は参加できないが、恒例の月遅れミネラル・ウオッチング
   の『玉手箱(オークション?)』用に重品を送ります」、とのありがたいメールをいただいた。

    さて、参加者の多くから、『 どうやって綺麗にするのか 』、との質問が相次いだ。その都度、
   現地で簡単に説明はしたが、あらためて説明しておこうと思い立ち、このページをまとめた。

    この方法を教えてくれたのは、古い石友・Mさんで、この場を借りて厚く御礼申し上げる。
    ( 2010年5月作成 )

2. クリーニング法

    採集した二次鉱物は、本来美しいはずだが、”ドロ”や”褐鉄鉱”などにまみれていることが多く
   標本に加えるのを躊躇するケースも多い。
    「アズラの森の藍銅鉱」も、雪解けの泥にまみれ、どこに着いているのかすら定かでない標本
   が多かった。

    普通の標本はトリミング(整形)が終わった後、ぬるま湯や水の中で、柔らかい歯ブラシでゴシ
   ゴシ洗うのが一般的な洗浄方法だ。壊れやすい結晶が母岩の表面にたくさんついていたり、晶
   洞の中に生えているような結晶の場合、ブラシでこすると、壊れたり母岩から外れてしまい標本
   の価値を減らしてしまう。
    このような標本は、水道の水を流しっぱなしにして、その下に置いて流水の力で清浄にする。
   しっかり母岩に着いている標本なら、図に示すように、蛇口を指で押さえ、水を強い勢いでほと
   走しらせ、勢いよく飛ぶ水を標本に当て、標本を回しながら結晶のスキマや穴の中の泥や枯葉
   を洗い流す。
    水の勢いで結晶が折れたり、吹き飛ばされるような繊細な鉱物は、蛇口を細め、水をタラタラ
   滴下させ、その下に長い時間置いておくと綺麗になる。

    
                勢いよく              タラタラ
                 水洗法 【「鉱物採集の旅」から引用】

    勢い良い水で洗うと標本から跳ね返った水が辺りをビジョビジョにして奥さんの顰蹙(ひんしゅく)
   を買うのが目に見えているし、忙しく働いている人には、タラタラ水を流して長い時間待っている
   余裕もないのでないだろうか。

    そんな読者にお勧めのクリーニング法を紹介する。

3. 二次鉱物のクリーニング法

 3.1 準備するもの

   (1) 「手間なしブライト」・・・・・・・・・・・・・2袋(800cc)
        マツキヨなどで売っている「衣料用漂泊剤」 成分は、昔、”オキシフル”の名で傷口の
       消毒に使った「過酸化水素(H2O2)」を界面活性剤に混ぜたもののようだ。
        pH(ペーハー)を調整してあるが弱酸性なので、目に入ったらすぐ流水で洗い流すなど
       安全上の注意が必要だ。
        値段は、1袋120円程度だろう。最近、機能アップした上位の高額商品「スーパー・・・・」
       も出ているが、一番安いので十分だ。

           
                袋                  注意書き
                    「手間なしブライト」

   (2) フタ付きプラスチック容器
        「100均」にある、20cm×30cm×深さ20cm前後のフタ付きプラスチック容器を購入

 3.2 クリーニング手順

   (1) 標本の水洗い(前洗浄)
        私は、持ち帰った標本を庭にある水道を使って上記の「水洗法」で水洗いして、新聞紙
       の上に並べ軽く水を切る。

   (2) 容器に「手間なしブライト」を入れる。”原液のまま”で、薄めない。

   (3) 二次鉱物を入れる。
        標本全体が液面より下になるよう、入れる数を制限したり重ならないようにする。大きな
       標本の場合、容器を斜めにして液の深さを深くして入れる。素手のままで大丈夫。
        盛んに泡が出て、少し臭いもするので、フタを閉め、密閉しておく。

           
             入れた直後                   15分経過   
                        「クリーニング中」

   (4) 後水洗
        1昼夜「手間なしブライト」につけたら素手でつかんで出して、洗面器等に入れ、ぬるま
       湯で3、4回、泡が出なくなるまで洗い流す。標本が隠れるタップリの水に漬けておく。

         後水洗

        1日、2回程度(朝、夕)、水を取り換え、2〜3日たってから、新聞紙の上に並べて、日陰
       で乾燥させる。

   (4) 「手間なしブライト」の処理
        「手間なしブライト」は、フタをして冷暗所に保管し、再利用する。使用する頻度にもよるが、
       週1回程度の洗浄なら3ケ月は使える。
        ドロドロに黒くなってきたり、洗浄力が落ちたと思ったら、お風呂場や洗面所から下水に
       液体の部分だけ流す。容器の底にたまっている小石や泥は、庭に捨てるか、ゴミとして出
       す。

4. クリーニングの効果

    このようにしてクリーニングした私たち夫婦の『アズラの森』の採集品をご覧いただこう。すっか
   り、”別嬪(べっぴん)さん”に変身したのには、われながら驚いている。
    ( Before/After で、対比すれば良かった、と後になって気付いた )

        
               全体                     拡大
                       私の採集品

        
               全体                     拡大
                       妻の採集品
                     『アズラの森』産 藍銅鉱

    妻曰(いわ)く、「私の採集品のほうが、結晶の粒が大きく、立派!!」 ごもっとも。

5. おわりに

 (1) 注意とお願い
      この方法は、すべての二次鉱物に対しての有効性と安全性(標本にダメージを与えない)
     を確認できていない。
      不安な場合、小さな標本で効果と安全性を確かめてから一級標本をクリーニングして下さ
     い。

6. 参考文献

 1) 桜井 欽一、加藤 昭:鉱物採集の旅 関東地方とその周辺,築地書館,1972年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
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