私の都合や怪しい空模様とニラメッコして、2010年4月中旬に『”アズラの森”できれいな石拾
い』、と題して開催する事にした。
開催週の1週間前、ここを訪れたYさんから、「2人で2時間探して貧弱な藍銅鉱が3ケ」、とメ
ールで報告があった。おまけに、開催日の前日、東京はじめ関東各地で40何年ぶりの遅い積
雪のニュースがあり、暖かいはずの千葉でも積雪があった。参加予定の那須のHさんから、
「朝10cmの積雪」とのメールが入り、産地近くの温泉宿に問い合わせると「積雪2cm」だった。
迷った挙句、「決行、ただし不安な方は参加見送り下さい」、と前日の午後1時に参加予定者
にメールした。
『雪の明日は洗濯日和』のことわざ通り、当日は朝から晴れ上がり、集合時間になるとポカポ
カと春うららな陽気に包まれた。女性4名を含め、13名の参加があり、初めての方もあり、自己
紹介の後、”アズラの森”を目指した。
産地には、前日降った雪が斑(まだら)になって残っていたが、ズリの思い思いの場所に散っ
て表面観察や掘り返していると、早々と、横浜Tさんの奥さんから「あった!!」の声があがる。
やがて、横浜・Kさん、初参加の那須・Aさんなど、次々と歓声があがる。
1時間もすると、皆さん「これぞ!」、と言える標本を採集できたようだ。昼食の時間も近いの
で、私を含む健脚(?)組3人は尾根を越えた反対側のズリ探査に出掛けた。そこは未だ雪に
覆われ、まだ本格的な採集は無理だった。
13時過ぎに下山を開始し、全員無事駐車場に戻ったのは、13:30過ぎだった。
無時帰宅した参加者の皆さんから、きれいな採集品の写真と共に、「案内がなければ無理」
とのお礼のメールが届き、一時は”絶産”か”中止”かと思い悩んだ当方として”ホッと”胸を
なで下ろしている。
産地は絶産ではないものの、良品の採集は年々難しくなっているようだ。
( 2010年4月採集 )
回収銅を採取していたとされる沈殿池跡は、平坦に整地され、打ち捨てられて赤<錆びた
トロッコや巻上げ機械など、あちこちに鉱山の名残を留めている。
2.2 小来川鉱山の概要
大正6年(1917年)、小百鉱山の技師と思われる鳥山氏によって記述された「小来川鉱山
調査報告」に詳しく記されているので興味のある方は、既報を参照願いたい。
草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」には、『昭和42年(1967年)ごろ、・・グラフ雑誌に
ズリの表面採集やズリ石を掘り返して”緑色”や”青色”の2次鉱物がついた標本を探すが、
(2) ポスンジャク石【Posnjakite:Cu4(SO4)(OH)6・2H2O】
(3) ラング石【Langite:Cu4(SO4)(OH)6・2H2O】
(4) 石膏【Gypsum:CaSO4・2H2O】
(5) 孔雀石【Malachite:Cu2(CO3)(OH)2】
(6) 銅緑ばん【Melanterite;(Fe,Cu)SO4・7H2O】
このほか、Aさんが素晴らしい「赤銅鉱」を採集した。
今回参加者が多く、『私なら探さないポイントを探す』人がいて、美品の発見につながった
(2) 久々のミネラル・ウオッチング
草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」の小来川鉱山の章に、『現在最上坑は崩落して
今回の参加者・Hさんが、15年ほど前に山を越えたことがあるというので、案内していただ
( Secondary Minerals from Okorogawa Mine , Tochigi Pref. )
「鉱脈のカンテラ−孔雀石」と題して、日光市の小来川鉱山というところから産出した、みご
とな緑色の鉱物のカラー写真がのっていた』、とあるように、昭和40年代まで稼行していた
ようだ。
3. 産状と採集方法
小来川鉱山は、珪質泥岩に貫入した黄銅鉱や黄鉄鉱の鉱脈で、閉山して久しいためズリの
鉱石は、褐鉄鉱に覆われているものが多い。
10年近く前、初めて訪れたころはもっと青緑色の2次鉱物を含むズリ石が多かったのだが、
今ではほとんど目に入らない。
藍銅鉱は、”アズラの森”と呼ぶ、ごく限られた場所でしか採集できない。
ズリ石はドロドロで、雨に洗われた後の表面採集が一番良いようだ。
アズラの森採集風景
4. 産出鉱物
(1) 藍銅鉱【Azurite:Cu3(CO3)2(OH)2】
濃紺色の単斜晶系の単結晶やそれらがバラの花(球顆)状に集合した形で産出する。緑
色の孔雀石と共生したり、表面を孔雀石が覆っているもの、あるいは真っ黒な黒銅鉱【Ten
orite:CuO】に変化したものもある。
藍銅鉱は、日本画の絵の具の1つ”群青(ぐんじょう)”の原料として珍重されている。
採集・Kさんの奥さん 採集・撮影
撮影・Kさん Tさんの奥さん
藍銅鉱
天青色、燐片状結晶で産する。松原先生の「日本産鉱物種」に数少ない国内産地の1つ
として、小来川鉱山の名があげられている。
ポスンジャク石【2006年11月採集】
ポスンジャク石と化学組成が同じで、結晶系が違ういわゆる”同質異像”関係
にある。
青みがかった緑色、ガラス質半透明の四角い結晶で、ポスンジャク石の間に点在する。
ラング石【2006年11月採集】
白色〜半透明、ガラス質で先の尖った薄板状結晶として産出する。
石膏
銅鉱床の酸化帯に青緑色、皮膜状〜針状結晶が放射状に集合した形で産出する。
孔雀石【採集・撮影:Tさんの奥さん】
淡い緑〜青色で、粒状や鍾乳石状で産出する。
銅緑ばん【2006年11月採集】
5. おわりに
(1) ”アズラの森”
「”アズラの森”は、10m四方くらいの狭い範囲」、過去のHPに書いてある。今回訪れて
10m四方はなさそうだと感じた。
ここを訪れたのは2006年11月、栃木県の石友・Sさん一家を案内した時以来だったが、そ
の時と変わらない程度に「藍銅鉱」は採集できた。
ようだ。
私たち夫婦にとって、今回は2009年10月以来の久々のミネラル・ウオッチングだった。
私は通勤で朝夕合計1時間のウオーキングが利いているのか、さほど苦しい思いはしない
で済んだ。
いて通り抜けはできないが、実は向こう側の斜面に抜けていて、ここにも大きなズリが残っ
ている。体力の残っている人は、がんばって山を越えてみたら良い。・・・・・・』、あるのが
記憶に残っていた。
いた。これについては、別な機会に報告したい。
6. 参考文献
1) 鳥山 栄治:「小来川鉱山調査報告」,小百鉱山,大正6年(1917年)
2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
3) 松原 聡:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年