”アズラの森”で きれいな石拾い

        ”アズラの森”で きれいな 石拾い

1. 初めに

    2010年の春は日本各地が異常気象に見舞われている。例年なら関東地方のフィールドで
   ミネラル・ウオッチングが楽しめるはずの3月になっても産地は雪に覆われていて引き返した、
   とのメールを千葉県の石友・Yさんからいただいた。同時に、”アズラの森”に行きたいので
   情報が欲しいとあった。
    同じようなメールがHPの読者からもあり、地図を添えてお送りしたのだが、分かりにくい産地
   にもかかわらずこれだけ行きたい人がいるなら、いっそのこと案内しよう、とミニ・採集会を開
   催することにした。

    私の都合や怪しい空模様とニラメッコして、2010年4月中旬に『”アズラの森”できれいな石拾
   い』、と題して開催する事にした。
    開催週の1週間前、ここを訪れたYさんから、「2人で2時間探して貧弱な藍銅鉱が3ケ」、とメ
   ールで報告があった。おまけに、開催日の前日、東京はじめ関東各地で40何年ぶりの遅い積
   雪のニュースがあり、暖かいはずの千葉でも積雪があった。参加予定の那須のHさんから、
   「朝10cmの積雪」とのメールが入り、産地近くの温泉宿に問い合わせると「積雪2cm」だった。
    迷った挙句、「決行、ただし不安な方は参加見送り下さい」、と前日の午後1時に参加予定者
   にメールした。

     小来川の春

    『雪の明日は洗濯日和』のことわざ通り、当日は朝から晴れ上がり、集合時間になるとポカポ
   カと春うららな陽気に包まれた。女性4名を含め、13名の参加があり、初めての方もあり、自己
   紹介の後、”アズラの森”を目指した。

    産地には、前日降った雪が斑(まだら)になって残っていたが、ズリの思い思いの場所に散っ
   て表面観察や掘り返していると、早々と、横浜Tさんの奥さんから「あった!!」の声があがる。
    やがて、横浜・Kさん、初参加の那須・Aさんなど、次々と歓声があがる。

    1時間もすると、皆さん「これぞ!」、と言える標本を採集できたようだ。昼食の時間も近いの
   で、私を含む健脚(?)組3人は尾根を越えた反対側のズリ探査に出掛けた。そこは未だ雪に
   覆われ、まだ本格的な採集は無理だった。

    13時過ぎに下山を開始し、全員無事駐車場に戻ったのは、13:30過ぎだった。

    無時帰宅した参加者の皆さんから、きれいな採集品の写真と共に、「案内がなければ無理」
   とのお礼のメールが届き、一時は”絶産””中止”かと思い悩んだ当方として”ホッと”胸を
   なで下ろしている。
    産地は絶産ではないものの、良品の採集は年々難しくなっているようだ。
   ( 2010年4月採集 )

2. 産地

 2.1 位置
      東北道「鹿沼IC」でおり、板荷を過ぎ、小来川に向かって走る。小来川温泉を過ぎ峠道に
     差し掛かって間もなく、左に入る林道がある。入口には、以前チェーンが張ってあったが、
     今は外されていた。
      東京方面からの参加者の何組かは、「今市IC」から集合したが、ICからの距離はこちらの
     ほうが圧倒的に近いようだ。
      林道を約100m行くと、右側にコンクリートを打った平坦地があり、ここに駐車するのが
     無難だろう。(車にブッシュで擦り傷がつくのが嫌な人は、林道入口に駐車が無難)
      4WD車なら更に200m程上のスペースまで乗り入れできそうだ。

      回収銅を採取していたとされる沈殿池跡は、平坦に整地され、打ち捨てられて赤<錆びた
     トロッコや巻上げ機械など、あちこちに鉱山の名残を留めている。

          
            沈殿池跡ズリ             ウインチ
                    小来川鉱山跡
                 【撮影:Tさんの奥さん】

 2.2 小来川鉱山の概要

     大正6年(1917年)、小百鉱山の技師と思われる鳥山氏によって記述された「小来川鉱山
    調査報告」に詳しく記されているので興味のある方は、既報を参照願いたい。

     ・栃木県小来川(おころがわ)鉱山の2次鉱物
      ( Secondary Minerals from Okorogawa Mine , Tochigi Pref. )

      草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」には、『昭和42年(1967年)ごろ、・・グラフ雑誌に
     「鉱脈のカンテラ−孔雀石」と題して、日光市の小来川鉱山というところから産出した、みご
     とな緑色の鉱物のカラー写真がのっていた』
、とあるように、昭和40年代まで稼行していた
     ようだ。

3. 産状と採集方法

    小来川鉱山は、珪質泥岩に貫入した黄銅鉱や黄鉄鉱の鉱脈で、閉山して久しいためズリの
   鉱石は、褐鉄鉱に覆われているものが多い。
    10年近く前、初めて訪れたころはもっと青緑色の2次鉱物を含むズリ石が多かったのだが、
   今ではほとんど目に入らない。
    藍銅鉱は、”アズラの森”と呼ぶ、ごく限られた場所でしか採集できない。

    ズリの表面採集やズリ石を掘り返して”緑色””青色”の2次鉱物がついた標本を探すが、
   ズリ石はドロドロで、雨に洗われた後の表面採集が一番良いようだ。

     アズラの森採集風景

4. 産出鉱物

 (1) 藍銅鉱【Azurite:Cu3(CO3)2(OH)2
      濃紺色の単斜晶系の単結晶やそれらがバラの花(球顆)状に集合した形で産出する。緑
     色の孔雀石と共生したり、表面を孔雀石が覆っているもの、あるいは真っ黒な黒銅鉱【Ten
     orite:CuO】に変化したものもある。
      藍銅鉱は、日本画の絵の具の1つ”群青(ぐんじょう)”の原料として珍重されている。

         
           採集・Kさんの奥さん                  採集・撮影
              撮影・Kさん                   Tさんの奥さん
                             藍銅鉱

 (2) ポスンジャク石【Posnjakite:Cu4(SO4)(OH)6・2H2O】
      天青色、燐片状結晶で産する。松原先生の「日本産鉱物種」に数少ない国内産地の1つ
     として、小来川鉱山の名があげられている。

       ポスンジャク石【2006年11月採集】

 (3) ラング石【Langite:Cu4(SO4)(OH)6・2H2O】
      ポスンジャク石と化学組成が同じで、結晶系が違ういわゆる”同質異像”関係
     にある。
      青みがかった緑色、ガラス質半透明の四角い結晶で、ポスンジャク石の間に点在する。

       ラング石【2006年11月採集】

 (4) 石膏【Gypsum:CaSO4・2H2O】
      白色〜半透明、ガラス質で先の尖った薄板状結晶として産出する。

       石膏

 (5) 孔雀石【Malachite:Cu2(CO3)(OH)2
      銅鉱床の酸化帯に青緑色、皮膜状〜針状結晶が放射状に集合した形で産出する。

       孔雀石【採集・撮影:Tさんの奥さん】

 (6) 銅緑ばん【Melanterite;(Fe,Cu)SO4・7HO】
      淡い緑〜青色で、粒状や鍾乳石状で産出する。

       銅緑ばん【2006年11月採集】

      このほか、Aさんが素晴らしい「赤銅鉱」を採集した。

5. おわりに

 (1) ”アズラの森”
      「”アズラの森”は、10m四方くらいの狭い範囲」、過去のHPに書いてある。今回訪れて
     10m四方はなさそうだと感じた。
      ここを訪れたのは2006年11月、栃木県の石友・Sさん一家を案内した時以来だったが、そ
     の時と変わらない程度に「藍銅鉱」は採集できた。

      今回参加者が多く、『私なら探さないポイントを探す』人がいて、美品の発見につながった
     ようだ。

 (2) 久々のミネラル・ウオッチング
      私たち夫婦にとって、今回は2009年10月以来の久々のミネラル・ウオッチングだった。
     私は通勤で朝夕合計1時間のウオーキングが利いているのか、さほど苦しい思いはしない
     で済んだ。

      草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」の小来川鉱山の章に、『現在最上坑は崩落して
     いて通り抜けはできないが、実は向こう側の斜面に抜けていて、ここにも大きなズリが残っ
     ている。体力の残っている人は、がんばって山を越えてみたら良い。・・・・・・』
、あるのが
     記憶に残っていた。

      今回の参加者・Hさんが、15年ほど前に山を越えたことがあるというので、案内していただ
     いた。これについては、別な機会に報告したい。

6. 参考文献

 1) 鳥山 栄治:「小来川鉱山調査報告」,小百鉱山,大正6年(1917年)
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聡:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
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