群馬県桐生市梅田鉱山の水晶







          群馬県桐生市梅田鉱山の水晶

1. 初めに

    『 2011年のミネラル・ウオッチング初 』をどこにしようか迷っている内に1月
   も半ばに差しかかっていた。
    年明けに私のHPを読んだ群馬県のNさんから、「群馬県桐生市の梅田鉱山」を
   教えて欲しい、とメールがあったのを思い出し、『松竹梅の梅だ(田)!!、と決め
   た。われながら単純でお目出度い人だ。

    と言いつつ、梅田鉱山を訪れようと思ったのは、いくつか理由がある。

    (1) Nさんに地図を描いて送ろうと思ったが、入り口がどのあたりだったか
       記憶が定かでなくなっていたので、再確認する必要があった。
    (2) 北関東で開催される「骨董市」のついでに回る心算(つもり)
    (3) 近くの「茂倉沢鉱山」にも、”運試し”で立ち寄れる。
    (4) 2007年5月に採集した水晶をHPに掲載したところ、透明感がある綺麗な水
       晶の群晶、ということで何人かから問い合わせがあった。

          水晶の群晶【2007年5月採集】

        産地のその後も知りたかったし、2007年以降、「露頭叩き」にも慣れた
       ので、もしかしたら、前回より素晴らしい晶洞(ガマ)が開くのではないか
       という”助平心”

    「骨董市」を回って、桐生市街に入ったのは、10時近くだった。ここだろうと思っ
   た場所に行くと、案の定 ”目印”が見当らない。しかたなく、上流に向かうと、
   ようやく”目印”があった。
    いくつかある坑道の中も調査しようと思い、沢を遡るが、大きな滝に行く手を
   阻まれ、迂回して、梅田鉱山のズリに到着した。

       
         つららの垂れる沢            行く手を阻む滝
                    梅田鉱山への道

    露頭を見て驚いた。石英脈を抜くような形で大きく掘り込まれている。掘り方、
   最後の始末をみると、”ド素人”ではなく”手馴れたグループ”の仕業と読んだ。
    幸い露頭の一部に透明感のある、この産地特有の水晶を含む晶洞が残っていて、
   大きめに掻き取って下山した。「褐鉄鉱」で覆われているので、蓚酸液に漬け、
   クリーニングして、どんなに”化ける”かが楽しみだ。

    帰途、遅い昼食を食べに「梅田ふるさとセンター」に立ち寄ると、『桐生之銘石』の
   コーナーに、「サラサ石」と「桜石」が展示してあった。

     この後、「茂倉沢鉱山」に立ち寄ったが、鈴木、長島両氏とも不在だった。念の
    ため、バラ輝石は全て持ち帰った。暇をみて、ルーペ片手に日だまりで小割りす
    るのが楽しみだ。

    『 2011年のミネラル・ウオッチング初 』は、”目出度さも中ぐらいおらが春”
   のようで、今年も仕事の傍ら、多くの石友とミネラル・ウオッチングを楽しみたいと
   思っている。
   ( 2011年1月採集 2011年5月 洗浄後写真掲載 )

2. 産地

    産地は、鉱山名が示すように、桐生市北方の梅田地区にある。「日本鉱産誌」など
   手持ちの文献やインターネットで調べた範囲では、「梅田鉱山」の名前は発見できな
   かった。
    前回、同行したM氏が探してくれたようなものだったので、”目印”の位置を忘れ
   てしまい、今回の探査行でも、最終的には地元の人に聞き込みで”目印”を探し出
   した。
    60歳以上の地元男性は、子供のころ遊んだ山に坑口があることを知っているよ
   うだ。どこの鉱山跡でも似たようなものだが、女性は、鉱山が閉山になってしばらく
   経ってからお嫁に来た人が多いので、昔のことを知らない人がほとんどで、珍文
   漢文(チンプンカンプン)だ。

    沢筋に、古い時代のものと思われる手掘りの小さな坑口と戦時中に機械掘りされた
   比較間口の大きな坑口がいくつか見られ、その前に小規模なズリが残されている。

       
           明治ごろ(?)          戦時中(?) 
                    梅田鉱山坑

3. 産状と採集方法

   粘板岩に貫入した石英脈に伴う鉱床のようで、この脈を追いかけるように坑道が掘ら
  れている。坑道から離れた露頭の石英脈の晶洞部分に一部針鉄鉱(褐鉄鉱)に覆われた
  水晶が見られる。
   採集は、坑口前のズリで石英を含むズリ石を探すか、露頭の石英脈を追いかけて脈石
  をハンマとタガネで割って、晶洞を探す。

    露頭

4. 産出鉱物

 (1) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
     細柱状結晶で、透明感が強い。採取したては、下の写真のように「褐鉄鉱」に
    覆われているが、蓚酸液に3週間(冬場なので5週間か)も漬けておけば、見違
    えるようになるはずだ。
     前回採集した水晶は、冒頭の写真に載せたように、先端がシャープで透明感
    があり、根元の『白い雲』が一段と透明感を引きたたせている。
     また、根元の部分に小さな針水晶を纏っているのも面白い。1本、1本の水晶は
    最大でも3cmで大きくはないが、群晶となると一段と美しい。

        
           クリーニング前               クリーニング後
                        水晶の群晶

5. おわりに

 (1) 『桐生之銘石』
      「梅田ふるさとセンター」に立ち寄ると、『桐生之銘石』のコーナーに、「サラサ
     石」と「桜石」が展示してあった。

      『桐生之銘石』

      日本地質学会 会員 藤井 光男氏撰文の説明書きがあるので、引用させて
     いただく。

      『 「サラサ石」
         桐生川の「サラサ石」は、その模様が織物の更紗(さらさ)に似ている、
        ということで付けられた名前ですが、岩質からいえばチャートです。
         本来チャートは、微生物が海底に堆積してつくられます。しかし、「サラサ
        石」は、普通のチャートと大分異なっています。「サラサ石」は、いつ頃どの
        ようにしてできたのか謎となっています。
         想像するに、今から2億年前頃に地下の深部で、チャートが何らかの熱
        を受けてつくられたものと思われます。なぜ他の色でなく、赤と白の「サラ
        サ石」なのか全くの謎です。

        「桜石」
          「サラサ石」が桐生川の銘石ならば、「桜石」は、渡良瀬川の銘石です。
         「サクラ(桜)石」は、今からおよそ1億年前に深さ何千メートルもの地底
         で、砂岩や粘板岩がマグマの熱を受けて部分的に変質したものです。
          この変質した部分が結昌(晶)して、ちょうど桜の花びらに見える訳で
         す。したがって、「サクラ(桜)石」の学名は、「キンセイ石(菫青石)フォル
         ンフェルス」といいます。
          このように、真暗な地の底で咲いた1億年前の石の花弁、これが「サク
         ラ(桜)石」なのです。
                       平成5年(1993年)夏日 田中 慎太郎  84歳  』

      ご承知の方も多いかと思うが、群馬県桐生市は「織物の町」として夙(つと)に
     有名だ(だった?)。
      織物の町にふさわしい、「サラサ石」だ。
      「桜石」は、足尾町から流れる渡良瀬川とその支流で産出する「菫青石」で、
     紫水晶で有名になった「鉛沢」附近の川でも採れることは、別なページで紹介
     した。

      ・栃木県足尾町鉛沢の気泡入り紫水晶
       ( Amethyst of Namarisawa including Water & Gas , Ashio Town , Tochigi Pref. )

      このページでは、「桜石」の写真を掲載していないので、下に、「サラサ石」と
     並べて紹介する。

         
               「サラサ石」                     「桜石」
                            『桐生之銘石』
                      【梅田ふるさとセンター展示品】

 (2) ミネラル・ウオッチング専門用語
      群馬県のNさんに、産地情報をお知らせして間もなく、「 お蔭さまで、迷わず
     産地に到着できました。雪が積もっていたので、MHが残しておいてくれた水晶
     のついた石を拾って帰ってきました」、とお礼のメールがあった。

      ただ、「露頭というのは鉱脈のことですか? ・・・・ズリというのは捨石のこと
     ですか?最近になって調べているのですが的確な説明がなされているページが
     インターネットで見つけられずにいます。教えていただけると有難いです。」、と
     あった。
      私が、当たり前に使っている用語が通じていなかったことに愕然とすると同時
     に、真面目な用語集も必要だな、と痛感している。

       ・ミネラル・ウオッチング用語集
        ( Terminology of Mineral Watching , Ibaraki Pref. )

6. 参考文献

 1)松原 聰:日本の鉱物,株式会社学習研究社,2003年
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