栃木県足尾町鉛沢の気泡入り紫水晶

       栃木県足尾町鉛沢の気泡入り紫水晶

1. 初めに

   2005年GW採集会の一環で、栃木県足尾町の「鉛沢」を訪れ、参加者の皆さんには
  ほぼ満足の頂ける採集結果であったらしい。( 慾を言えば、キリがない )
   2005年8月、湯沼鉱泉を訪れると、栃木県のSさん一家が宿泊しており、社長の一声で
  甲武信鉱山を案内したのは、既報の通りである。
   その後、Sさんから、「栃木県の万珠鉱山なら案内できます」 との連絡を頂き、紫水晶と
  ”モットラム石”(正式には、石でなく、鉱と言うらしい)の産地を案内していただくことになった。
   万珠鉱山だけでは2時間もあれば充分と読み、せっかく栃木県まで行くのなら、「鉛沢」を
  久しぶりに訪れることにした。
    2005年のGWに参加できなかった古い石友だけに声を掛け、ミニミニ採集会となった。
   参加者は、Sさん一家のほか、長野県・Iさん、埼玉県・Tさんとその友人Oさんで総勢7名の
  こじんまりとしたものであった。参加者には予め、『坊主の可能性があり、遠くから参加する
  場合、ダメージを少なくするため、他の産地も回るように 』 とお知らせをした。
   産地を訪れると「2005年GW採集会のフォローアップ」で報告した通り、”プロ”の手口で
  徹底的に採集され尽くした感があり、ズリに立って、暫し呆然とした。
   意を取り直し、銘々、ここぞと思う場所で採集し、参加者からは”予想以上の成果だった” と
  喜んでいただいた。( 予告編が効いたようです )
   私は、ズリで紫色の濃い小さな群晶を掘り当て、よくよく見ると、”気泡”が入っているでは
  ないか。思わぬ、拾物に”ニンマリ”です。帰宅後、過去に採集した紫水晶をよくよく見ると
  小さな気泡や水が入ったものは、3本に1本くらいの高い比率で存在する。

   ” 皆様も過去の採集品を見直されては如何でしょうか? ”

   もう採れないとされる鉛沢ですが、『 もう は 未だなり、未だ は もうなり 』 の古い諺を
   思い返しています。
  (2005年10月採集)

2. 産地

    既に、情報があると思いますので割愛させていただきます。

3. 産状と採集方法

    これも詳細は割愛させていただきますが、” ひたすら掘るだけ ” でしょうか。

           
         Sさん母娘               Iさん               Tさん

4. 採集鉱物

 (1)気泡入り紫水晶【Amethyst including Water & Gas:SiO2】
     紫水晶の内部に、最大5mm程度の水晶の形やそれの角が丸まったような形をした
    空洞がある。( 鉱物学的には”負晶” という )。これを充たす形で水やガス(時として
    両方)が含まれている。気泡はポテンシャルエネルギー的に一番安定な状態の球形を
    しており、その周りを”水”が取り巻いている。したがって、これは、正しくは、気体と液体を
    内包する紫水晶とすべきかも知れません。
     肉眼でははっきりしないが、40倍の実態顕微鏡下で水晶を傾けると気泡は上の方に
    移動するのが確認でき、間違いなく”気体”である。

       
          全体                気泡部拡大
                 気泡入り紫水晶

    和田 維四郎が明治37年(1904年)に著わした 「 日本鉱物誌 」に、佐渡相川産の
   ”液体を包嚢する水晶”が羽後(現秋田県)・太良、羽後・阿仁産の同種の産状の
   ものと並んで記載されているのが本邦での” 気泡入り水晶 ” の初めと思われる。
    紫水晶では同書に磐城・小原(現宮城県・雨塚山) 産のものに気体及び液体の
   包嚢物を有するとある。

    今までに採集した頭なしを含む紫水晶の中からランダムに20ケ選び、肉眼と16倍の
   ルーペで調べてみると、他にも気泡や水などインクルージョンの入ったものは簡単に
   見つかった。
    空洞の中に何も入っていないように見えるのは、水だけが充満していると判断した。
   なぜなら、負晶の面が、”全反射”を起こし、銀色に光って見え、中に気体(真空)以外の
   紫水晶と屈折率が違う物質が含まれていることを現わしているからである。
    注)”全反射”とは、入射した光が全部界面(この場合、紫水晶と負晶の表面)で反射する
      現象である。プールの中から水面を見ると、真上のあたりは景色が良く見えるのに
      遠くの景色は、水面が銀色に光って全く見えなかったことを思い浮かべてもらえば
      よいでしょう。
   

インクルージョン
  (内包物)
確認数(ケ)比率(%)    備   考
水のみ   5   25
  ”全反射”で銀色に光る
水+気泡   2   10”球”が確認できるもの
他の鉱物   1    5  
       角閃石?
 なし  12   60   
 合計  20  100   

     以上の結果から
    @水や気泡を内包するものは35%と、おおよそ3本に1本という高い比率で存在する。
    Aどちらかと言えば、気泡を含むものは約1/10の確率で少ない。
    B気泡(=水)が動くのを確認できるものは、1/20以下の確率で極めて稀。

     また、水晶の表面に、水晶の断面と同じ六角形をしたを”骸晶”を観察できるものが
    ある。水晶が成長する過程で水晶内部にこのような状態が起こり、この凹みに入った
    熱水や気泡(時に両方)が水晶の成長で蓋をされ、閉じ込められたと考えられる。
     これらのことから、鉛沢の紫水晶は、堆積岩(角礫岩)の割れ目に侵入した珪素(Si)や
    紫色の元になった3価の鉄(Fe)などを溶かし込んだ”熱水”から成長した、と推測できる。

    表面の骸晶

5. おわりに

 (1)魚釣りや囲碁・将棋などの一般的に”趣味”と称されるものの例に漏れず、鉱物採集では
   ” 採った標本の大きさ、美しさを競う ” のが楽しみの1つではあるが、それだけに
   終わりたくないと思い、今回採集した紫水晶のノインクルージョン(内包物)や表面の骸晶の
   有無などを観察し、それが何かなどを推理し、この鉱物のでき方を考えることができた。
    今後も、このようなスタイルを少しでも増やしてみたい。

 (2)『 もう は 未だなり、未だ は もうなり 』
    2005年GW採集会のフォローアップ以来約5ヶ月ぶりに鉛沢を訪ねてみると、最近は
   ”もう 採れない” との情報が広まったのか、訪れる人も少ないらしく、産地の状況に
   あまり変化が見られなかった。

    NHK教育テレビで朝に放送される Konishiki が登場する子供向け番組を見ていると
   含蓄の多い日本の古い諺が紹介されている。その中に、題記のものがあった。
    株取引などで使われる ”もう底値は未だ下がり、未だ上がるはもう下がっている”が
   その具体例でしょう。
    これを鉱物採集の世界に当てはめてみると、” もう採れないは未だ採れ、未だ採れるは
   もう採れない” と言うことでしょうか。鉛沢は、まさにそのような状況です。
    「日本鉱物誌」にある長さ15cmの紫水晶を採ろうとすれば多分採れないが、1、2cmの
   可愛らしい頭付きを採ろうと思えば、まだ採れそうです。

 (3)帰途、庚申川の川原に下り、「渡良瀬桜石」と呼ばれる菫青石を採集した。Sさんの娘
   Yさんが花びらが良く見える佳品を採集したのをはじめ、皆さん記念の品を採集できた
   ようです。若干1名、心残りの人もいたようです。

    菫青石産地で記念撮影

6. 参考文献

 1)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
 2)和田維四郎著:日本鉱物誌第1版,和田維四郎,明治37年(1904年)
 3)益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
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