北極圏をめぐる地球一周の旅 【スリランカで宝石探し】 ( Tour around the World & Arctic Circle 2016<BR>       - Jewelry Hunting in Srilanka - )









      北極圏をめぐる地球一周の旅  【スリランカで宝石探し】

       ( Tour around the World & Arctic Circle 2016
                           - Jewelry Hunting in Srilanka - )

1. はじめに

    4/22の深夜にシンガポールを出港して27日早朝にスリランカに入港する予定だ。スリランカでの「宝石
   探し」が間近に迫っていた。当日までに、やっておかなければならないことは次の2点だった。

    @ 参加者に日程・準備するものなどを徹底
       国内でもそうだが、ミネラル・ウオッチングを開催するときに心がけている「参加者の安全」は最優
      先だし、地球一周の旅では『帰船時間の厳守』も大事なポイントだ。
       これに間に合わないと船の出発を遅らせ1,000人以上の乗客に迷惑をかけることになる。万一
      船が出発してしまうと、次の寄港地のキプロスで12日後に合流するためのホテル代や航空券代
      などが余分な出費になってしまう。

    A 受け入れ側のS氏との連絡
       既に参加者19名とメールで伝えてあったが、車何台で迎えにくるのか、ピックアップしてくれる場
      所や時間なども決まっていなかった。

    @とAは密接に関係し、参加者の数が増減すればそれをS氏側に伝えなければならないし、S氏側の
   受け入れ状況が明らかになったり変更があればそれを参加者に伝える必要がある。そんなわけで衛星
   通信を使ったメールでのやり取りと船内での「参加者説明会」が欠かせない。

    こうして、『スリランカでの宝石探し』開催に向けて着々と動き出していった。

   ( 2016年4月開催 6月報告 )

2. S氏との連絡

    私は次のような事をS氏に確認しておきたくてメールで問い合わせたところ、その回答をメールでいただ
   いた。

    1) 19名に増えたが送迎してもらえるか。
       → 可能

    2) 宝石採掘場の見学時、写真撮影はOKか。
        「海外旅行情報誌」によれば、撮影したらお金を要求されたとあるので、確認しておく必要が
       あった。
        → OK

    3) 採集した鉱物は持ち帰りOKか。買うこともできるか。
        → 普通の標本は持ち帰りOK 宝石級のものは買うこともできる。

    4) 宝石を研磨している場所の見学は可能か。
        → 可能

    5) 研磨した宝石の購入は可能か。
        → 可能

    6) 宝石関連博物館の見学可能か。
        「宝石探し」をするラトナプラの町には、「宝石学博物館(Gemlogical Museum)」や「宝石局
       博物館( Gem Bureau Museum )など、いくつか宝石関連の博物館があるが、それらの内の1つを
       見学できるか。
        → 可能

    7) 送迎代と昼食代は10,000円の中に入っているか。
        → 含まれている。

    8) ヤシの葉で作った紙・パピラ(Papira)で作ったお土産品とヤシの葉を買うことはできるか。
        次のページで、スリランカには仏教の経文を書くのに、「パピラ」と呼ぶヤシの葉を加工した紙の
       ようなものがあることを紹介した。スリランカを訪れるので、「パピラ」とその原料となっているヤシの
       葉を入手したいと思っていた。

       ・ 葉書(はがき)の起源 『多羅葉(たらよう)』
       ( ”Tarayo” Origin of Post Card , Ibaraki Pref. )

        → 回答なし。

    こちらの希望がほとんど受け入れられた、盛りだくさんのツアーになりそうだった。これが、後で影響する
   ことになるとは予想できなかった。

    逆に、S氏の方からは、次のような問い合わせがあり、次のように回答した。

    a) コロンボ港は広いので、船名・到着する埠頭を教えて欲しい。
       → 旅行会社が配布した港の地図には、埠頭には「GATE1」と「GATE3」があり、「GATE3」まで1キロ
         前後歩くのに対して、「GATE1」までは、200メートルもない近い距離だった。当然、「GATE1」で
         出迎えてもらうのが一番だ。
         旅行会社に「GATE1」から出入りできるのかを確認すると、「わからない」という回答だった。
         「出入りできるからGATEというので、出入りできるかどうかわからなければ地図に書くべきでは
         ない」と文句を言った。しばらくして、「GATE1から出入りできます」と回答があり、ここで出迎え
         てもらうよう回答した。(これが最初のつまずきの原因となった)

    b) コロンボ港入港時間
       → 朝6時の予定だが、入国審査などがあり、船から降りられるのは7時ごろ。

    b) MHの服装の特徴を教えて欲しい。
       → 迷彩色の帽子、緑色のTシャツ、赤いバッグを背負っている。

    これで、出迎えの車とスンナリ落ち合えると思っていた。

3. 「直前説明会」

    「宝石探しの旅」の前夜、参加者に集まってもらい、「直前説明会」を開催することにした。この日の
   朝9時少し前、赤道直下に近いスリランカの手前を走っている船の左舷(進行方向左側)に虹が見え
   た。この時、霧雨のような細かい雨が局所的に降り、太陽光が雨粒で分散し、赤〜紫の虹が見えた。
   国内で見る虹は「一重」がほとんどだが、強い太陽光のせいか、珍しい「二重」の虹が見られられた。

     
                     「二重の虹」
   

    これは、明日の「宝石探し」の”瑞兆(良いことのきざし)”ではないかと、一人ほくそ笑んだ。

    「直前説明会」では、「事前説明会」の内容にその後明確になった事項を加え、「宝石探し」が”安
   全”に”帰船時間を守り”そして、”成果のあるもの”にするための最終確認だった。

    ( 国内で開催しているミネラル・ウオッチングでは、リピーターの参加者が多く、参加者同士が顔見
     知りで、実施される内容も知っていることや鉱物採集の経験もソコソコあり、メールで伝達すれば
     十分なのだが、スリランカでの宝石探しは初めて会った人で鉱物採集の経験が全くない人がほとん
     どで、念には念を入れる必要があった。 )

    「事前説明会」を聞いて、参加を辞退する人が出て、その穴を埋める形で新たな参加者が入りメン
   バーの顔触れが一部変更になった。さらに、体調を崩したIさんの奥さんが前日になって急に参加でき
   なくなり、参加者は19名から18名になった。

    以前に開いた「事前説明会」の内容を補充する形で説明した。説明は、英語で行った。なぜなら、
   参加者には米国籍の人が2人、台湾国籍の人が1人いるためだ。私の易しい英語なら、日本人も理
   解できるはずだ。
    説明は30分ほどで終わり、「あねご」が会費15,000円と資料印刷代など5ドルの会費を徴収し、「早
   寝 良い夢 早起き( Early bird gets more warms )を合言葉に、21時前に解散した。

     
                       表紙

     
                 実施要領と参加者名簿

     
                日程の予定・服装・注意点など

     
                     ラトナプラへの道

     
                     ラトナプラ案内

     
                    ラトナプラの博物館

                   「直前説明会」資料

4. 「スリランカで宝石探し」

 4.1 出発まで
      スリランカのコロンボ港入港時間は、6時の予定だった。朝4時半に起きて身支度を整え、デッキに
     出ると外はまだ真っ暗だった。実は前の夜に、『時差調整』で、30分時計を進ませたので、余計に
     暗く感じる。港と市街の明かりがまたたいている。
      昨夜準備しておいたザックの中身や身支度をチェックする。迷彩色の帽子をかぶるつもりだったが
     スリランカは数年前まで反政府勢力との内戦状態にあったので、軍人が被る迷彩色の帽子はマズ
     イだろうと無色の白い帽子に変更した。
      5時を過ぎたので「あねご」に電話するとすでに起きていた。朝食は5:45からの予定だが、前夜の
     打ち合わせで5:30から4階食堂の前に並ぶことにした。

         
                 コロンボ港入港前                  朝食前の集合

      朝食を済ませ、6:45の集合時間に舷門(げんもん)と呼ぶ3階に通じる4階食堂前に集合する
     計画だった。集合していない人は部屋に電話して確認した。しかし、Nさんが部屋にもいない。
      6:45になったころ、Nさんがひょっこり姿を現した。その姿はリラックスしたもので、とてもこれから宝
     石探しに行く姿とは思えない。さらにNさんの口から出た、「今6:15でしょう。集合の6:45までまだ
     30分ありますね」、というのには一同口アングリだった。
      どうやら、前日の『時差調整』を忘れていたようだ。慌てて部屋に戻って支度をしたNさんが駆け
     つけて全員が揃った。

      やがて、舷門に通じる鎖が外され、船の外に全員が出た。外は快晴の青空で、宝石探しにピッ
     タリの天気だった。
      ここで、円陣を組んで拳を突き上げ、この催しの成功を全員で誓った。

      
                       出陣式

      だが、ここでひと悶着あった。旅行会社の事前説明では「GATE1」から出られるというので、そこに
     行ってみると何台かのバスが停まっていた。バスの傍に立っている現地の人に、「Sさんですか?」と
     尋ねると、違うという。これは、旅行会社が手配したもので、S氏が手配してくれたものではなかった。

      船の中で冗談まじりに、「あねご」から「行ってみたら迎えの車が来ていないんじゃないの」と言わ
     れてはいたが、それが現実になりそうで、私の顔はこわばった。
      そのとき、英語が達者なTさん(米国籍だから当然か)が、「MH、現地の人が出入り口は向こう
     にある「GATE3」らしい」、と船の方向と逆の方向を指さして教えてくれた。そこから500mほど歩くと
     警備員が立っているゲートがあった。そこを抜けて外に出るとバスや車が数台停まっていて、現地
     の人に「Sさんですか」と英語で尋ねると何人目かに、「Sです」という日本に留学経験があり、日本
     語を流ちょうに話す人にようやく巡り合った。

      ( 後で知ったのだが、旅行会社が出られると言った「GATE1」は中国人専用で、それ以外の人
       の出入りは許されていないようだ。中国系企業によってスリランカの土地が買い占められたり、
       公共工事のほとんどが中国系企業によって独占されているようだ。 )

       ここでまた勘違いが起きた。私はS氏とはメールでのやり取りをしただけで、会ったことがなく当然
      顔を知らなかった。当然S氏が宝石鉱山主だと思っていた。初対面の挨拶の後、バスに乗り込ん
      だ。バスは、旅行会社がツアーのためにチャーターしているものより、1ランクも2ランクも上の日本国
      内でもデラックスバスの部類に入るものだった。

         
                   S氏と記念写真                デラックッスバスに乗り込む

 4.2 コロンボの大渋滞
      バスが動き出した。海岸添いの片側2車線ある道路を高速で走っていると、たかだか120キロしか
     ないラトナプラの町まで1時間半もあれば着きそうな気がした。
      20年ぶりにスリランカを訪れた「あねご」は、道路の脇に立ち並ぶ立派な高層ビルに、「内戦の
     砲撃や爆撃で蜂の巣のようになって、倒壊寸前のビル群だったのに・・・・・・」と感無量の面もちだ
     った。

      
                スリランカのビル群
              【あねごのカメラで撮影】

      コロンボを発って20分もしないうちに東に進む。するととたんに大渋滞だ。渋滞緩和のために一方
     通行にするなど工夫はしているのだが、いかんせん通勤時間帯はバス、乗用車、ツクツクと呼ばれ
     る小型乗り合い三輪車さらにオートバイまで加わって大混雑だ。
      信号機は消され、ところどころに警察官が立っているのだが、彼らは何もしない。何かすればそれ
     が原因でさらに渋滞がひどくなることを彼らは経験で知っているかのようだ。
      高速道路も開通しているのだが、いかんせん部分的で、全国をつなぐ大動脈にはなっていないよ
     うだ。

         
                    朝の大渋滞                    高速道路
                    【あねご撮影】

      渋滞に身を任せながら、時としてツクツクを3台も追い越すという離れ業を演じながらバスは進む。
     すると突然S氏のスマホが鳴り、私に「S氏の奥さんのHさんから電話です」、と渡された。Hさんは日本
     人で日本に留学した経験があるS氏と結婚して、テレビ番組『世界の果ての日本人妻』なるテレビ
     番組でも紹介されたとた」と聞いてはいた。Hさんは、「遠いところ来ていただき」、と長旅をねぎらって
     くれ、「主人と私はこちらで待っています」と聞いて仰天した。
      出迎えに出てガイドしてくれているSさんが鉱山主だと思っていたのだが、同姓のコンサルタント兼
     ガイド業の人だった。

 4.3 紅茶の本場で『ティ・タイム』

      東に走ること約1時間半、アウィッサーウェッラで南に進む。2時間走ったところの「テーハウス」で
     トイレ休憩だ。
      トイレに行ったものの、どちらに入るべきか、入り口の表示を見て悩んだ。男女どちらも同じ赤色で
     良く見比べて男がどちらかわかるほどだった。

         
                   女性                     男性
                             トイレの表示

      【後日談】
      海外旅行でのトラブルの1つがトイレ問題だ。この後、南欧、西欧、北ヨーロッパ、そして中南米と旅を続け
     たが、国によって「トイレ事情」が違い、これを解説したら一冊の本が書けそうだ。

      ・ 数が少ない、あっても故障で使えない
      ・ 有料の場所が多い
      ・ 必ずしも紙がない
      ・ きれいなところもあれば汚いところもある

       ドイツなどでトイレに入る場合、男性用か女性用か判断の難しさを次のような小話で読んだことを思い出
      した。

       ドイツを旅行した日本人男性がトイレを探して、ようやく見つけて入ろうとした。一方のドアには、”DAMEN"
      とあり、「ダーメ」だと思った。もう一方のドアには、”HERREN"とあり、「ヘェレン(入れん)」と思った。
       この話の落ちがどうだっかは、とうに忘れてしまった。

      会計の「あねご」が、スリランカ名産の紅茶とケーキをセットで頼んでくれた。茶葉をポットに入れて
     熱湯を注ぎ、ひとりひとり分を抽出する本格的なもので、まどろっこしいほど時間がかかる。幹線道
     路沿いにあるとはいえ、外国の観光客が訪れるのは希のようで、”おもてなし”がぎこちないが、それ
     はそれで好感を抱かせた。

         
               一杯いっぱい心を込めて煎れる           紅茶とケーキのセット

      会計の「あねご」から、「一人分60円だった」と知らされ、みなさんがスリランカの物価の安さを初め
     て実感した。

 4.4 近代的『宝石採掘場』で宝石探し

      トイレ休憩で元気を取り戻した一行は、再びバスに乗り込んだ。目的のラトゥナプラの入り口にある
     レストランの駐車場でバスは停まった。そこには、鉱山主のS氏と奥さんのHさんが待っていた。簡単な
     挨拶の後、小型バスに乗り換えた。S氏が2人いるので、混同しないように、ガイド業の方をS1さん、
     鉱山主の方をS2さんと呼ぶように「あねご」と決めた。

         
                    小型バス                     S2夫妻

      小型バスは、ゴム林の中の凹凸のある細い道をゆっくりと進む。すると行く手に近代的な宝石採
     掘場が出現した。大型の建設機械で掘り出した土砂を大量の水を流しながら比重が重い『宝石』
     をマス目の中に自動的に回収しようという仕掛けだ。

         
                  採掘用建設機械                 宝石選別機

      ここでの「宝石探し」は、採掘場や選別機の周辺に落ちている鉱物を拾うことだった。ペグマタイト
     質の花崗岩(石英、長石、雲母などの鉱物が大きく結晶した巨晶花崗岩と呼ぶ)が風化してボロ
     ボロになった砂の中に硬くて風化しにくい宝石や鉱物が混じっているからだ。

      国内で開催するミネラル・ウオッチングでも同じだが、経験の全くない人や浅い人たちは、誰かが
     良品を出した場所に集まる傾向がある。今回の旅に「鉱物」の本を持ち込んでいるほどで鉱物に
     詳しい米国人・Tさんは、狙った場所の表面をじっくり観察しているなど十人十色の採集風景だ。

         
               良いものが出たところに集まる            ジックリ表面観察

      ここを1時間弱で切り上げて、小型バスに乗って次なる舞台に移動した。そこは古典的な宝石採
     掘場で、「地球の歩き方」にも紹介されているのと同じような場所だった。

 4.5 『ラトゥナ・プラ(宝石の町)』

      スリランカ(旧セイロン)は昔から、宝石と紅茶で有名だ。その中でも、われわれが訪れたラトゥナ
     プラは代表的な宝石の産地だ。
      ラトゥナは宝石、プラは都を意味し、まさに宝石の町だ。この町の地図を見ると、町の周辺には宝
     石の採掘場、3か所の宝石関連博物館があり、町の名前にふさわしい。

      
                        ナトゥラプラの地図

      われわれは町の北西(左上)にある「第1採掘場」で宝石探しを楽しんだ後、ナトゥラプラの町に
     入ったことになる。
      町の中心部には、この町のランドマークの時計塔が見えてくる。まだ12時前だが、時計の針は3時
     30分を示しているのはご愛敬だ。
      スリランカは日本と同じ大乗仏教で、町には仏教関係の施設も多い。S1さんの話では、「昔は
     村々の通りにお釈迦様の像が沢山飾られ、日々手を合わせていたが最近は信仰心も薄れてきた」
     とのこと。それでも、宝石採掘地を所有しているのが「仏教省」で宝石を採掘するとその売り上げの
     50%を納入しなければならないなど隠然たる力を持っているようだ。最近建てられた大きなお釈迦
     様の像が道路脇に建っていた。
     ( われわれが訪れた4月は、8日が日本でも「花まつり」で知られるお釈迦様の誕生日で、道路が
      一段と渋滞する月だった )

         
             ランドマークの「時計塔」                  釈迦像

 4.6 古典的な『宝石採掘場』で宝石探し

      小型バスを降りて、人家の間を抜けて宝石採掘場に向かうと一軒の民家の庭先に住民たちが
     集まっている。この人たちにとって、日本人、しかもこれほど大勢の日本人を見るのは初めての出来
     事らしい。この日「宝石探し」に大勢の日本人が来るという噂は村中に広まっていただろう。
      住民たちの中には、真っ白い歯を見せて”ニヤニヤ”笑いながら、「あんたらもこの暑い中、物好き
     だね」と話し合っているかのようだった。

      
              好奇の眼の住民が出迎え

      100mも行かないうちに川が見えてきた。川岸に立った一行の中には、膝が”がくがく”振えた人が
     いたはずだ。それもそのはず、幅10メートル以上ある川には橋などなく、一抱えほどの丸木が一本
     渡され、手すりの代わりに頼りなさそうな細いロープが張ってあるだけだった。足を踏み外せは、3メー
     トルほど下のよどんだ泥水の中に墜落してしまう。水の深さが判らないのも不気味だった。
     ( まさか、ワニが住んでいるとまでは思わなかたっが )

         
                              丸木橋で川を渡る

     この丸木橋を渡るのは難しいと判断した女性などは100メートルほど上流で対岸に渡ることにした。

      対岸に渡ると、そこには作業員の小屋のようなものがあり、その先には宝石を採掘する竪坑が開
     いていた。さしずめ、日本の「釣瓶(つるべ)井戸」のようなものだ。S氏と作業員に先導され、私と
     TさんとIさんの3人が穴を降りることになった。

      このような穴に入るときに起こりやすいのが、メタンガスなどの発生による酸素欠乏による事故だ。
     S氏から、「前の日から換気ファンを動かして空気を送っているから安全だ」と聞かされても、心配だ。

      以前福島県の沼尻硫黄鉱山跡でのミネラル・ウオッチングの時に、同行した石友・Tさんが、「MH、
     ガス(低酸素の空気)を一息吸ったらお終いだヨ 」と話していたのを思い出した。
      竪坑の壁枠の横木に足をかけ、竹のポールを握りながら”ソロリ”、”ソロリ”と降りていく。縦坑は
     日本の鉱山と同じように『女人禁制』になっているそうで、採掘地の選定に「地鎮祭」を行うのと同
     じように宗教的な理由かららしい。

         
                    竪坑                   縦坑を降りるMH

      縦坑を6、7メートル降りると、底には水が溜まり、植物が腐敗した臭いが漂っている。底からはいく
     つかの方向に横穴が広がっている。横穴は崩落を防ぐため一抱えもある坑木でガッシリと支えられ
     ている。しかし、この坑道は採掘を止めて放棄されているようで、採掘の様子は観察できなかった。
      坑道に入った日本人は希だろうと思い、記念の写真を撮影してもらい撤収することにした。

      
               縦坑の底で記念写真

      恐ろしい思いをした後は喉が”カラカラ”に乾くのが人間の習性だ。あねごの20年前の経験で、安
     全な飲み水などないはずだからと、船の売店で1.5リットルミネラルウオーターを6本ほど買い込んで
     持って来ていた。バスの中からS1 さんに、「キングココナツのジュースを飲みたい」とお願いしたのが
     スマホでS2さんに伝わっていて、それが待っていた。
      ポカリスエットを濃くしたような味で、そのまま身体に吸収されるような気がした。

      
           ココナツジュースを一気飲み

      ここでの採集方法は、現地の人が竹で編んだ大きなザルのようなパンニング道具で揺り分けて取
     り除いた”揺りカス”の山から探し出す、いわば『ズリ採集』だ。

      
                   宝の山を漁る参加者

      帰りは、全員が川の浅瀬を渡ることにした。しかし深いところはひざ上10センチくらいあり、ズボンの
     スソが濡れた人もいた。あねごはこの川を渡る様子を「○○○○難民」のようだと称した。

      
               川を渡る難民たち!?

 4.7 古典的採集方法見学と宝石探し

      次に案内してもらったのは、数百メートル離れた場所にあるS2氏が所有する宝石の選別所だった。
     ここでは採取した宝石を含む土砂をホースで洗った後、竹で編んだ大きなザルのようなパンニング道
     具を使って、腰近くまである水溜まりに入った現地の人が2人、比重の大きい宝石や鉱物を揺り分
     ける作業を見せてくれた。
      MHは、日本から持参したパンニング皿を使って、パンニングに挑戦だ。現地の何人かが、この日本
     人は何を始めるのだろう、と興味深そうに見ていた。

         
               古典的パンニング                パンニングするMH

    現地の人がパンニングして宝石や鉱物などを含む砂利が中央部に残った大きなザルを水槽の中か
   ら出して水を切り、まずは女性陣が前日にシンガポールで買ったトレイに取り分け、その中から宝石や
   鉱物を探してもらう。

         
             宝石を含む砂利をとりわけ              トレイの上で選鉱

      選鉱の様子を見ていると十人十色だ。涼しい木陰でジックリ選び出すIさん、とりあえず何でも持
     って帰ろうというYさん、どのやり方が正解だったかは船に戻ってから明らかになる。

      
              木陰でジックリSさん              とりあえず持ち帰るYさん
                             【あねご撮影】

     この日はスリランカでも100年ぶりという記録的な暑さで、暑さに慣れているはずで木陰にいたS1さん
    のシャツが汗で”びっしょり”濡れている事からもお分かりいただけるだろう。

      
            現地の人も汗びっしょりの猛暑
                 【あねご撮影】

 4.8 昼食を食べて

     時計はすでに午後2時を回っていた。宝石探しを切り上げて、大型バスから小型バスに乗り換えた
    場所にあったレストランに戻った。すでに昼食の準備は整えられ、清潔な白いテーブルクロスがかかっ
    たテーブルの上には一人1本ずつ、ペットボトル入りのミネラルウオーターが並んでいた。
     「口にできるような生水はないからペットボトルで持って行こう」、と言って持参したあねごの予想は
    良い方向に外れた格好だった。

     昼食はバイキング形式のカレーを中心にしたスリランカ料理で、われわれ日本人の口にも合う味付
    けだった。デザートもしゃれたスイーツが何種類か並び、日本の地方都市のレストランと遜色ない内容
    だった。

      
              昼食のスリランカ料理

      昼食の後、Hさんから宝石が当たる「阿弥陀くじ」のサプライズがあった。宝石は、サファイアやアメ
     シスト(紫水晶)などいろいろなものがあり、市価2,000円から5,000円と聞き皆さんの眼の色が変わ
     った。

 4.9 コロンボで『現金採集』

      時間は16時近くで、宝石研磨所や鉱物博物館を見る余裕はない。何人か研磨した宝石を買
     いたいという希望があったので、S2 さんの知り合いの事務所を訪ねたが、何の反応もなかった。
      仕方なく、コロンボの港に戻ることにして、ラトゥナプラの町を後にした。

      行きと同じコースを逆にたどる。行きに立ち寄った「ティハウス」に立ち寄り、トイレ休憩だ。コロンボ到
     着が19時を過ぎることが予想されたので、お腹が空くだろうと「あねご」がカレーパン(45円)とジュース
     (45円)を仕入れて、皆さんに配ってくれた。

      ここに着くころからS1さんの天気予報通り雲行きが怪しくなって、再び出発するころには本降りに
     なっていた。熱帯特有の通り雨・「スコール」だ。一時はワイパーを一番早くしても前が見えないほど
     の激しい土砂降りだった。

      
            スコールの中をバスはばく進

      S1さんのスマホが鳴った。「S2さんが研磨した宝石や原石を持って追いかけている」とのことで、われ
     われが買い物をするスーパーマーケットの駐車場で落ち合うことになった。
      快調に飛ばしていたバスだったが、18時ごろコロンボが近づくにつれ退勤時のラッシュアワーになり
     道路は大渋滞だ。カメラのGPSで確認すると、ドライバーは遠回りでも空いている道路を探して走っ
     てくれているようだった。

      19時ごろ、港近くのスーパーマーケットにバスは停車した。スーパーとは言っても、宝石店などもある
     土産物店のイメージだ。ここで、皆さんに渡した6,500ルピー(5,000円)の現地通貨をきれいに使い
     果たしていだだくことにした。
      6,500ルピーでは最低でも2〜3万ルピーの宝石は無理だが、民芸品などの駄物なら山ほどくる。
     何を買うか迷っていると、S1さんのお薦めはやはり「紅茶」だ。缶に入ったものが約700ルピー(500円)
     で、3缶買い求めた。

      そうこうしていると、研磨した宝石や原石を持ったS2さんがバスの中で待っているという知らせが届
     いた。薄暗いバスの中で、S2さんが広げてくれた研磨した宝石には関心はないが、原石には食指を
     動かされるものが2つあったので、購入することにした。スリランカで『現金採集』だ。どちらもサファイア
     で、1つは透明感が高いもの、もう1つは表面がすりガラス状だが結晶が大きいものだ。値段は、2つ
     合わせて○万円だった。

         
                透明感が高い                     表面すりガラス状
                【長さ 11ミリ】                       【長さ 26ミリ】
                           スリランカ産「サファイア原石」

 4.10 帰船

      20時にスーパーマーケットを出てバスに乗って船に向かう。バスを降りて第3ゲートをくぐると、懐かし
     い船が見えてきた。船に戻ったのは、20時25分で、この日の帰船リミット21時まで30分ほどしかなか
     った。

         
               われわれの帰りを待つ船                 帰還記念写真

      すでに船のレストランの夕食の時間は終わっていて、9階にある居酒屋「波へい」で、打ち上げを
     兼ねて夕食だ。これが、上陸した日の「あねご」グループの恒例になった。
                                     )

5. おわりに

 (1) 『宝石探し』報告会
      われわれ18名がスリランカで「宝石探し」をすることは行く前から船内で噂になっていた。28日には
     ”石ころ”をたくさん持ち帰ったことは船内の多くの人が知っていた。一方、朝食の際、同じテーブルに
     座ったある業界では少しは有名な男が、「1人15,000円とって、20名近く集めてツアーに行った男が
     いて、だいぶ儲けたようだ」、という趣旨の発言をした。
      乗船した時、事務局から乗客全員に対して”この船の噂”という説明があったが、事実を知らされ
     ないと噂が噂を呼んでトンデモナイ話になるようだ。そのためには、客観的な事実を伝える必要があ
     る。

      まずは、向かいに座った男と同席している人々を納得させる必要がある。「15,000円集めたが、
     5,000円は現地通貨に両替して参加者に戻した。デラックスバスと小型バスを乗り継いで延べ13時
     間、往復300キロを移動し、昼食、お茶そしてお土産が付いていたから、旅行会社のツアーに比べ
     約1/3の料金だ」と話すと、その男はそそくさと席を立って行った。

      この話を「あねご」にすると、少し憤慨した様子だったが、「報告会を開きましょう」という提案に賛
     成してくれ、参加者向けの実施報告書と会計報告書を自ら作成してくれた。
      このページは、「あねご」が作成したこれらの資料に負うところが大きい。

      5月5日、船客向けに「スリランカで宝石探し」の報告会を開催した。第1部の「スリランカ宝石探
     しの旅」を「あねご」が、第2部の「スリランカの宝石鉱床と採集鉱物」を私とその標本を採集した人
     が宝石(鉱物)を発見した時の様子などを交えて話した。

      
                 「スリランカで宝石探し」報告会 表紙

         
                 説明する「あねご」            採集した時の様子を説明するYさん
              女人禁制の縦坑に3名が入る

 (2) 『採集標本人気コンテスト』
      スリランカで宝石を採集してきたという噂が船内に広がると、「どんな宝石を採ってきたのか見せて
     ください」、と8階の私の指定席に多くの人が訪れるようになった。
      子どもの日の5月5日、採集してきた宝石や鉱物を一堂に展示して、お気に入りの標本に投票し
     てもらい、投票してくれた人にはスリランカの鉱物を1つ差し上げる『採集標本人気コンテスト』を開
     催した。

      宝石探しの参加者には、採集して来た宝石や鉱物を次のような手順で洗浄・分類・鑑定して
     「コンテスト」に出品してもらうようにした。沢山採集してきた標本は、投票者に配る標本として提供
     をお願いしたところ、300個以上が集まった。

       
            鉱物標本整理のステップ

      使い古した歯ブラシを使って、標本を水洗いし、トイレのペーパータオルの上に並べて乾燥する。
     それらを色・形など似ているもの別に分類し、それらが何という鉱物かを日本から持参した「鉱物書」
     と見比べながら最終的に名前を決定する。

         
               分類するYさんとIさん              鑑定する外国人のTさんとLさん

      人気コンテストには大勢の観客が集まり、一時はプロムナードデッキの通行に支障が出兼ねない
     有様だった。店番を私がやっていたが、Yさんが来てくれ、”門前の小僧”よろしく、展示してある鉱物
     について講釈してくれるまでになった。

         
               押し寄せたギャラリー                 鉱物を解説するYさん

      結局、船客の約20%に当たる188名がコンテストに投票してくれ、優勝したのは「黄水晶(シトリン・
     トパズ)」を採集したFさんだった。

      
                       コンテストの結果

        
      

 (3) 『帰船時間』
      スリランカ以降、旅行会社が手配したツアーが渋滞などで遅れると帰船時間を延長して対応し
     出港が遅れることがたびたびあった。しかし、個人が計画した(自主企画)で帰船が遅れた場合、
     船が待ってくれる保証はない。

      船に乗り遅れると厄介なことになる。この日はパスポートを持たずに出ているため、出国の手続き
     きの為には大使館なり領事館に飛び込んでパスポートを再発行してもらう必要がある。
      次の目的地はスエズ運河を渡った先のキプロスで、船に合流できるのは12日後の5月9日で、航空
     券や滞在するホテルの手配、その費用などを考えると頭が痛くなる。
      そんなわけで、「宝石探し」では、「あねご」がタイム・キーパーも兼ね、「安全」と並んで「帰船時
     間の厳守」が至上命題だったことを報告会でも発表した。

      
                  自主企画の留意点

      これから先も帰船時間は気にして行動する癖がついた。それも、10日後の7月13日にハワイに上
     陸、14日に出港するのが最後になる。

6. 参考文献

 1) 地球の歩き方編集室編:各国編,ダイヤモンドビッグ社,2013年


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