元小学生とミネラル・ウオッチング










         元小学生とミネラル・ウオッチング

1. はじめに

    私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと春と秋にミネラル・
   ウオッチングを開催するようになって17年目を迎えた。
    2000年ごろから、長野県川上村にある湯沼鉱泉を定宿にして、1泊2日で長野県や山梨県
   の産地を巡るようになった。
    HPを見た家族から参加申し込みが相次ぎ、小中学生とその両親、兄弟姉妹が参加者の半分
   を占めるようになった。

    新潟・Kさん、千葉・Y君、O姉弟、東京・K姉妹、神奈川・H君、静岡・M姉弟、Y兄弟、愛知・
   S君、Y君、奈良・T君などが常連になった。
    2002年に小川山で開催したミネラル・ウオッチングのページを読み返すと、『小学生トリオ』という
   言葉も見られる。それにしても、このページの写真を見ているとお父さん、お母さんは若かった。

    ・ 2002年5月連休採集会 −小川山の鉱物-
    (Minerals of Mt.Ogawa , Mineral Hunting in Golden Week 2002, Nagano Pref.)

    この中の一人、O家のHさんは、音大を卒業し、演劇関係に進んでいて、ミネラル・ウオッチングに
   行きたがっている、と父親のOさんからメールをいただいた。
    いきなり甲武信鉱山での採集は厳しいだろうと思い、小中学生を案内するのと同じく、10年以
   上昔、泊まったことのある湯沼鉱泉「水晶洞」を見学し、貯鉱場でミネラル・ウオッチングを提案し
   たところ、Hさんの両親のほか、友人一名も参加することになった。

    2015年8月末、甲府のホテルで一行と会ったが、Hさんは私が正面から顔を見るのが気恥しい
   くらいの美人に成長していた。
    私の車で野辺山のJR最高地点で休憩、甲武信鉱山の貯鉱場に行くと偶然、兵庫県の石友・
   N夫妻に遭遇した。Nさんの奥さんは「小さいときから、Hさんは可愛かったのよ」、とよく覚えていた。
    一緒にミネラル・ウオッチングし、スイカを食べていると雨が降り出した。湯沼鉱泉に行き社長に
   会い、「水晶洞」を案内した。10年以上前にはなかった鉱物などを重点に説明した。

    社長を囲んで記念写真を撮り、湯沼鉱泉を後にし、19時に無事ホテルに送り届けることができ
   た。
    往復の車中での楽しい語らい、ミネラル・ウオッチングでの触れ合いは、10数年前に時間を引き
   戻してくれ、古希を祝った私も若返った気分だ。
    往年の小中学生と親が一堂に会するミネラル・ウオッチングを開催できれば、と願っている。
    ( 2015年8月 見学・採集 )

2. 甲武信鉱山貯鉱場へ

 (1) 13年ぶりの再会
      9時前に甲府市内のホテルでHさんと両親、そして友人・Mさんにお会いした。小学生のころの
     面影が残っていてHさんだとすぐにわかったが、正面から見るのが気恥ずかしいぐらい美しい女性
     に変身していた。
      再会の挨拶の後、私の車に乗っていただき、近くのSAからETCで高速道路に入り、須玉ICで
     降りる。途中のコンビニで昼食を調達し、野辺山のJR最高地点(1,375m)に着いたのは10
     時少し前だった。

 (2) 野辺山JR最高地点で
      心配した天気も今のところ大丈夫そうで、八ヶ岳の頂は雲に隠れているが青空も少し見える。
     まずは、JR最高地点で記念写真を撮る。

          
               Hさんと友人・Mさん(左)               記念碑の前で
                             JR最高地点【野辺山】

      間もなく、”カン、カン、カン”と踏切の警報器が鳴って列車の通過を知らせてくれる。10時前
     に着いたのはこれに間に合わせるためだったのだ。この列車はもともと蒸気機関車で引っ張って
     いて、♪♪ 汽車の窓か〜ら ハンカチふれば〜 ♪♪ で始まる『高原列車』のモデルだと聞いた
     ことがある。
      今ではジーゼルカー(気動車)になっているが、時代を反映して坂道を下るときに発電した
     電気を蓄電し、電池の力で走るハイブリッド車両も運行しているようだ。

      ここには「幸せの鐘」があるので、皆さんに撞(つ)いてもらうが、音を出すのは意外と難しくて
     なかなかきれいな音が出ないのだ。

          
                     Hさん                        Mさん
                            「幸せの鐘」を鳴らすのは・・・・・

      休憩を終えて出発しようとすると、再び、”カン、カン、カン”と踏切の警報器が鳴って列車が
     近づいてきた。乗客も疎(まば)らな「臨時列車」で、Oさん一行を歓迎して大サービスしてくれて
     いるようだ。

 (3) 川上村へ
      川上村に入ると道路の両側にレタス畑が続く。今は収穫の時期で、夜明け前から始まる作
     業は一段落したらしく畑の人影も疎らだ。川上村は周囲を山々に囲まれていて、その緑の美
     しさに皆さん感嘆していた。
      この日は午後天気が崩れるとの予報なので、「水晶洞」見学の前にミネラル・ウオッチングを
     楽しんでもらうことにして、甲武信鉱山貯鉱場を目指す。

3. 「甲武信鉱山貯鉱場」でミネラル・ウオッチング

 (1) 貯鉱場へ
      「湯沼鉱泉」への入口を通り過ぎ、梓川の上流に向かう。駐車場には兵庫ナンバーの見慣れ
     た車が停まっているので、石友・N夫妻がすでに来ているようだ。
      Hさんに手伝ってもらいMH農園のスイカを冷たい梓川に浸す。

       
                  スイカを冷やす

      長靴を履いて渡河の準備をしてもらい、お昼と採集道具を背にして出発だ。道端の花崗岩
     の露頭を前に、ここにあった甲武信鉱山の鉱石や鉱物ができたプロセスなどを説明する。
      いつも心配な梓川の水量は思ったより少なく、安全に渡り切ることができた。
      貯鉱場のズリにはN夫妻がおられ、再会の挨拶のあと、記念写真を撮る。N夫妻は、湯沼鉱
     泉のお客を増やそうと友人を連れたり、夫婦だけで月に1、2度利用してくれているようだ。

       
                   再会記念写真
                  【N夫妻と」合流】

 (2) 「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング
      皆さんに前の晩に印刷した「チェック・リスト」を渡し、ここで採れる代表的な鉱物とその難易度
     を解説する。
      ズリ表面の観察だけでも「方解石」や「ザクロ石」は簡単に採集できることをデモする。次は
     パンニングの実演だ。ズリの土砂をスコップでパンニング皿に入れ、川岸の淀(よど)みまで運び
     パンニングして見せる。泥が洗い流されて、「緑水晶」などが簡単に見つかることや「灰重石」、
     「自然金」、そして「ホセ鉱」など比重の大きな重鉱物がパンニング皿の底に残ることなどを実演
     する。
      こうして見つかった「灰重石」を持参した暗幕代わりの風呂敷で囲った中でミネラライトの紫外
     線を当てると”青白く蛍光する”ことも知ってもらう。
      「方解石」にはどこまで細かく割ってもマッチ箱をひしゃげたような形になる”へき開”の性質が
     あることを説明する。
      一本の線が2本に見える”複屈折”の性質を説明しようとしたが、透明度が良くなくて観察で
     きなかったので、透明な標本を手に入れたときに説明することにして、採集スタートだ。

      まずは、パンニングに挑戦だが、皆さん初めてなので苦戦する。手を取ってコツを伝授すると
     要領がつかめたようだ。

       
                  パンニングするHさんとMさん

      採集した「灰重石」や「ホセ鉱」そして「自然金」などの貴重な標本は持参したプラスチックの
     標本ケースに収納していただく。水晶やザクロ石はビニール袋だ。

      パンニングを始めて間もなく、Oさんの奥さんが「変なくっつき方をした水晶があるのですが」
     私を呼んだ。「どれどれ」と見てみると完全な『Y字型・日本式双晶』だ。大きさも1.5センチ近
     くあり、この産地としては大きな部類だ。さっそく、プラスチックケースに収納だ。

      お腹(なか)が空(す)いたと思って時計を見ると12時30分過ぎだ。皆さん集まって、輪になって
     昼食をいただく。HさんとMさんが野の花をバックに倒木に腰かけて食べている姿が絵になったので、
     ”パチリ”。

       
               野の花をバックにHさんとMさん

      昼食の後、採集再開だ。Hさんが、「きれいな方解石があった」というので行ってみると、透明
     感のある塊を小さな金づちで叩いて劈開片をこしらえていた。それを「チェック・リスト」の十字線
     の上に置くと”ハッキリ”2重に見える『アイスランド・スパー』と呼べる優れものだ。皆さんに集まっ
     てもらい、”複屈折”の説明だ。このカケラをMさんと私がいただいた。

          
                横線が2重に見える                         縦線が2重に見える
                                                 【結晶を90度時計方向に回転】
                               『アイスランド・スパー』級「方解石」
                                      【採集:Hさん】

      「チェック・リスト」を確認すると、採れていないのは「自然金」と「母岩付ホセ鉱」だ。Mさんの
     パンニング皿の底に残った土砂を揺りわけてあげると、「肉眼サイズの自然金」があったので、拡
     大レンズ付きのプラスチックケースに収納した。
      残るは、「母岩付ホセ鉱」だ。N夫妻がいる方に場所を替え、それらしい石を叩くが、金と紛ら
     わしい表面が金色に錆びた「硫砒鉄鉱」があるだけだ。ふと、傍らを見ると、〇色の△△△石が
     混じった大きなズリ石がったので、叩きやすい場所を叩いて破面を見ると銀白色に光っている。
      ルーペで確認すると「ホセ鉱」だ。私が叩き、Nさんの奥さんがルーペで確認して、何とか人数
     分の標本を確保でき、それを分配した。

          
                      全体                                    部分
                                                  【ひも状結晶の左端、金色部分が自然金】
                                    自然金を伴う「ホセ鉱A」

 (3) 撤収
      天気予報通り、雲行きが怪しくなってきたので撤収だ。帰りは上流側にある丸木橋をN夫妻
     に手を貸してもらい無事に渡り切る。

       
           丸木橋をN夫妻のサポートで渡るOさんの奥さん

 (4) スイカを食べて
      行きしなに冷やしておいたスイカを引き上げて、包丁で切り分けてみんなでいただく。雨粒が
     大きくなってきたので早々に湯沼鉱泉に向かうことにした。

       
                      スイカをいただく

4. 湯沼鉱泉「天然水晶洞」見学

 (1) 社長と再会
      湯沼鉱泉に着くころには雨脚が強くなっていた。社長に13年前に小川山に行って宿泊した
     O一家と友人・Mさんを紹介する。社長にとっては、大勢のお客の内の一人としてしか、記憶に
     ないのは無理からぬことだろう。

 (2) 「天然水晶洞」見学
      雨が小降りになったのを見計らって、「天然水晶洞」の見学に出発だ。洞の入口にもみられる
     この周辺に多い「大理石(晶質石灰岩)」が先ほど訪れた貯鉱場にあった花崗岩とコラボして
     各種の鉱物や水晶が生まれたことを説明してから入洞だ。

      中では、Oさん一家が知らないここ10年で増えた新しい展示品に重点を置いて説明する。
     それも、やはり展示の目玉は『緑水晶の日本式双晶』だ。駆け足で説明したつもりだったが
     ついつい熱が入り、事務所に戻ったのは1時間以上たってからだった。

      いつもなら、「天然水晶洞」の出口で『水晶さがし』のサプライズがあるのだが、雨も降っている
     ので、事務所に戻ってから、6月のミネラル・ウオッチングで採集し、塩酸できれいにクリーニング
     した水晶を一人1つずつ持ち帰っていただいた。
      N夫妻からは、前日に採集した甲武信鉱山の「ベスブ石」をプレゼントしていただいた。そうこう
     している内に、夕闇が迫ってきたので、社長を囲んで記念写真を撮って、湯沼鉱泉を後にした。

       
                   社長を囲んで記念写真

 (3) 「ナナーズ」でお買い物
      川上村にあるスーパー・コンビニエンス・ストア「ナナーズ」では、地元の農産物だけでなくいろ
     いろな品が安く購入できるので立ち寄った。

 (4) お別れ
      Oさん一行をホテルに無事送り届けて、名残惜しいがお別れした。遠路来ていただいた、Oさん
     一行とミネラル・ウオッチングしていると10数年前に時間を引き戻してくれ、古希を祝った私も
     若返った気分だ。

5. おわりに

 (1) 「同窓会」開催
      皆さんをミネラル・ウオッチングに案内しはじめたころは、お父さん、お母さんは40代から50代の
     働き盛りで、小川山の入口まで2時間で行くことができた。子どもたちは、もっと元気で、林道を
     走り回っていた記憶がある。

      あれから、15年以上が経ち、お父さん、お母さんの多くが還暦を過ぎたたか間近になっている。
     私の妻のように、小川山に行くことなど、とうに難しくなっている人も多い。

      往年の小中学生と親が一堂に会するミネラル・ウオッチングを開催できれば、と願っている。

6. 参考文献

 1) 小出 五郎:長野県川上村川端下附近の鉱物 我等の鉱物,昭和16年
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