長野県長和町 「黒耀石体験ミュージアム」2019  石槍作りに挑戦!!







              長野県長和町 「黒耀石体験ミュージアム」2019

              石槍作りに挑戦!!

1. はじめに

    長野県「和田峠」の日本一美しい『まん礬石榴石』産地の近くにある長野県小県(ちいさがた)郡長和町の
   「黒耀石体験ミュージアム」を訪れたのは、2013年の夏だった。その時のことは、次のページで紹介しておいた。
    つい2、3年前だとばかり思い込んでいたが、6年も経っていた。

    ・ 長野県長和町 「黒耀石体験ミュージアム」
     ( Obsidian Museum of Archaeology , Nagawa Town ,Nagano Pref. )

    2013年に訪れた時、このミュージアムの売りである”石器づくり体験”ができなかったのが何よりの
   心残りだった。
    同じ小県郡にある武石(たけし)村でのミネラル・ウオッチングを終え、甲府に戻るルートは来た時と逆に
   佐久に出て佐久往還を通るのは、運転は楽だが芸がない。紅葉、と言ってもこの辺りは”黄葉”が多いのだ
   が、これを愛でながら和田峠の手前を白樺湖に向かい茅野か富士見辺りで国道20号線に出るのも良さそう
   だ。後者のルートを選択すると、途中にある「黒耀石体験ミュージアム」にも立ち寄れるメリットもある。

    武石村でのミネラル・ウオッチングの後、持参したガスコンロで湯を沸かし、カップ麺とおにぎりで早めの昼食
   を終え、25キロ先のミュージアムを目指した。

    13時少し前にミュージアムに到着し、突然なので無理かと思ったが、係員の皆さんのお蔭で”石器づくり
   体験”を指導していただけることになった。
    およそ2時間、”マンツーマン”でなくて、”ウーマンツーマン”で指導していただき、”メキメキ”上達し(??)、
   念願だった『石槍』を4つ製作できた。

    自分で作ってみて、”以外と簡単にできる”のは驚きだった。それと同時に、私を指導してくれた女性が作っ
   たほうが年季が入っているだけあって私のより数段レベルが高いものだった。

    旧石器から縄文時代、石器は狩猟で使う男性が作ったものだとばかり思い込んでいたが、強い力が必要
   な訳ではなく、根気と繊細な感覚があれば女性でも十分できるし、むしろ女性の方が向いているのではない
   だろうかと思い始めている。これこそ、”体験したからこそ解る”ことだろう。

      
                      集団での石器作りを描く絵はがき
                    【集団でしかも男性だけだが本当だろうか?】

    「黒耀石体験ミュージアム」については上記のページを参照してください。なお、開館しているか、とか石器
   作りが体験ができるかなどは、事前に電話で確認して行かれることをお薦めする。
    ( 2019年11月 体験 )

2. 「石器作りに必要なモノ」

    石器作りに必要なモノは驚くほど少なく、簡単なものだ。B ゴーグル(メガネ)や C 手袋 などは当時は
   なかったから、当然使わないでやったはずだ。

    @ マット
      太ももの上に掛け、石を割る時にかかる衝撃を和らげると同時に、石器作りで生じる剥片が衣類に
     付着し(刺さら)ないようにカバーする役目を果たす。当時の人は、使わなかったか、獣の皮や蔓や草で
     編んだマットなどを使ったかもしれない。
      自宅に戻って、厚手のカーペットの切れ端を使ってみたが、十分使える。

    A 鹿の角
      石を叩いて成形するハンマーの役目を果たす。適度な重さと硬さがある一方、石器よりも柔らかいことが
     必要なようだ。

    B ゴーグル(メガネ)
      言うまでもなく、目に剥片が飛び込むのを防止する。

    C 手袋
      石器の鋭いエッジで手指を切ったり、剥片が刺さったりするのを防ぐ。当時の人は、獣の皮などで石器を
     包んで握ったことも考えられる。(どこかで見た画像が先入観念として刷りこまれているかもしれない)

    D 剥片
      石器作りで一番重要なのは、材料となる剥片だと思い知らされた。1、2回体験しある程度慣れてくると、
     ”でき上がった石器の良し悪しは、技術云々よりも、剥片の形でで8〜9割かた決まってしまう”
、と言うのが
     私の得た結論だ。
   

         
                   マット                         鹿の角と手袋
                                 必要なモノ

      ちなみに、必要な費用は入館料300円+体験料3,000円でした。

3. 「石器作り」を習う

    これらの道具類と剥片4個をあてがわれて、石器作りの体験がスタートだ。まずは女性インストラクターが
   黒曜石の剥片を割って、形を整えながらエッジ(刃)を立てる(鋭くする)のを見学する。
    右利きの場合、左足の太ももにマットを2枚重ねにして敷き、手袋をはめた右手に持った鹿の角をハンマー
   のように振り下ろして、軍手をはめた左手でもった剥片の縁を掻き落としていく。

    見ていると狙ったポイントから剥片が”パシッ、パシッ”と(実際は、マットを叩く”パン、パン”という音しか聞こ
   えない)掻き落とされ、イメージした形に近づいて行く。時々手を休め、できかけの石器全体を見て、修正す
   る。

      
                お手本を示してくれるインストラクター

    道具を渡され、MHの番だ。恐る恐る黒耀石の剥片の縁の狙ったポイントを叩こうとするがを当らずにマットを
   叩く”空振り”だ。それで慌てて叩き直す。たまに当ると深くえぐれてしまい、縁が”ギザギザ”になってしまう。
    私がやっている姿を写真に撮ってもらったが、インストラクターとの差は一目瞭然だ。要するに”ヘッピリ腰”
   なのだ。

      
                      恐る恐る叩くMH

    早速、インストラクターから”ダメ出し”だ。

     @ ”ポン、ポン”と叩いているが、狙いすまして”バシッ”と叩く。
     A 剥片を持つ左腕に対して、鹿の角のハンマーは直角に。
       (写真を見ると、私は45〜60度くらいで叩いていた)

4. 石器作りに挑戦だ!!

    ある程度叩けるようになったところで、一人でやらせてくれた。ただ、次にどうするか迷うような時には適切に
   アドバイスしてくれた。

    記憶を確かなものにするのと、復習の意味もあり、自分なりに石器作りのプロセスを図にしてみた。
    

      
                       石器作りのプロセス

    @ 「石取り(いしとり)」
      宝石の場合、原石を指輪にするかペンダントトップにするかなどの用途を決め、さらにどの部分を生かす
     かを決めることを「石取り」と呼び、でき上がった宝飾品の価値を決定する重要な行程らしい。石器作り
     でも同じで、剥片を見て、これは石鏃用、こちらは石匙用、そしてこれは石槍用、と用途を決める。

      
                    剥片の用途を決める

      渡された黒耀石の剥片4つはすべてが石槍に向いたものではなかったが、”ノー・チョイス”だから、それを
     最大限生かした石槍に仕上げるしかないのだ。
      インストラクターは剥片の形(大きさ、厚さ、屈曲度)、特性(クリストバライトなどの不純物の有無)を
     見ただけで最終形がイメージできるようだが、初めてのまだ私には難しいとみて、白い色鉛筆を使って
     最終形を描いてくれた。

      線を目安に大きく掻き取ることになる。当然、クリストバル石を含む部分は初期の段階で取り除くのだが
     そこを取ろうとすると肝心な残そうと思っていた箇所から割れてしまうことがある。
      インストラクターは、「そういうことが何回もあるんですよ」、と慰めてくれる。気を取り直して、残った部分で
     作り得る最大の形をイメージし直す。

         
             クリストバル石を含む箇所                    最終形を描く
         【取り除こうとしたら手前で割れた!!】
                                 「石取り」

    A 「形を整えながら刃を立てる」
      石器は刃物と同じで鋭いエッジ(縁)が必要だ。形だけ整えようとするとエッジが鈍(なま)ってしまい役に
     立たない。しかもエッジは鋸(のこぎり)のように飛び飛びに立っていてはダメで、包丁のように連続して立っ
     ていなければならないのだ。

      ”刃を立てようとすれば形が崩れ、形を整えようとするとエッジが鈍る”、この矛盾をどう解決するかが石器
     作りの要諦だと悟ったMHだった。

    2時間ほど悪戦苦闘した結果、なんとか4つの石槍を作り上げることができた。最大のものが長さ57ミリ、
   幅31ミリだ。

      
                       完成した「石槍」

    エッジを横から見ると理想的には滑らかな曲線になるべきだが鋸歯状に凹凸が見られる。エッジを正面から
   見ると一直線上にあるべきだが、左右に蛇行している。紙を切ると”スパッ”と切れる部位は少なく、”ガサ、
   ガサ”と引っかかってしまい、今一つだ。

         
                 横から見る                        正面から見る
                                「エッジ」の形状

    インストラクターからは、「ここまで形ができない人がいるんですよ。以前にやったことがあるんですか」、とお褒め
   とも慰めの言葉ともつかぬ評価を頂いた。
    最後に、「作った石槍にはミュージアムのイニシャル”M”を彫らせていただきます」、と言って電動ルーターで
   刻印してくれた。
    これらが、どこかの遺跡(畑)にでも紛れ込んで、無用な混乱を引き起こさないための予防策のようだ。

      
                 イニシャル
       【Mineralhunters”M"ではありません】 爲念

5. おわりに

 (1) 念願叶った『石器作りに挑戦』
      2019年10月、11月と2回にわたり八ヶ岳山麓で石器拾いを楽しんだ。このテーマだけで、すでにHPを
     15回更新しているので、この回数以上通ったことは確かだ。
      今までに、石鏃(矢じり)や石匙そしてナイフ形石器などは製作された時の姿をほぼ完全に残した
     『完形品』をまれに見つける事があるのだが、石槍は途中で折れて廃棄されたと思われるものがほとんど
     だった。

      ”なければ作る”主義の”Mineralhunters”なので、今回念願が叶って「石槍」作りに挑戦でき、”それ
     らしいモノ”を4ケ作ることができた。

      長野県伊那市神子柴(みこしば)遺跡から出土した石槍と比較するとあまりにも稚拙なできだ。石槍
     作りの基本は学べたし、必要な道具類も手に入っているので、これから始まるストーブ・リーグに取り組んで
     みようと思っている。
 (2) 『黒曜石学』
      アメリカに本部をもつ「国際黒曜石学会(IAOS:International Association for Obsidian
     Studies )」なる組織のHPにある、「黒曜石原産地カタログ」のページには、世界中の黒曜石原産地の
     リストがある。
      これを見ると、太平洋を取り巻く日本、パプアニューギニア、ニュージーランド、南北アメリカなど環太平洋
     火山帯に集中している。

      太平洋ポリネシアの火山島・イースター島にあるモアイ像の眼は黒耀石で作られているという。ぜひ見て
     みたいものだ。

6. 参考文献

 1) 堤 隆:黒曜石 3万年の旅,ニッポン放送出版協会,2004年
 2) 木村 英明:北の黒曜石の道 白滝遺跡群,新泉社,2004年
 3) 大竹 幸恵:黒曜石の原産地を探る 鷹山遺跡群,新泉社,2010年
 4) 黒曜石体験ミュージアム:案内パンフレット,同館,2013年
inserted by FC2 system