茨城県花園山の鉱物 その2

        茨城県花園山の鉱物 その2

1. 初めに

   栃木県の石友・Sさん一家と長野県川上村の湯沼鉱泉社長の仲立ちで知り合って早くも
  5年目を迎えようとしている。娘のYさんは、この春、高校の入学試験にパスし、新しい世界に
  飛び立とうとしている。
   高校入試に合格したら、Yさんの誕生石の「サファイア」を探すミネラル・ウオッチングに
  行くことを約束していたが、それが叶う日が訪れた。

   2009年3月末の土曜日、Sさん一家と「北茨城IC」の出口で落ち合い、花園神社を目指した。
   千葉県の石友・Tさんに教えてもらった「ブルー方解石」の産地を訪れると既に先客がいた。
  青い縞状の方解石を採集し、早々に産地を後にした。

    次に向った「サファイア」の産地は、2008年12月にTさんと訪れて以来、だれも訪れた
   形跡がなく、Sさんの奥さんとYさんは目ざとく「紅柱石に伴うサファイアの巨晶」「母岩付き
   モナズ石」
などを表面で採集した。
    私は、試してみたいと思っていたパンニングに挑戦し、「モナズ石」「ジルコン」そして「鉄
   コルンブ石」などを採集した。

    花園渓谷から吹き上げる風はまだまだ冷たいが、林道脇には蕗の薹も顔をだし、春の
   訪れを告げていた。

      蕗の薹

    Yさん、私、それぞれ新しい道に進む春だが、またご一緒できるのを楽しみにお別れした。

   今回訪れた産地は、一般にはあまり知られていないようで、「紅石英のズリ」は全く手付
  かず状態だった。このような貴重な産地を教えてくれたTさんに厚く御礼申し上げる。
  ( 2009年3月採集 )

2. 産地

   常磐道「北茨城IC」で下り、すぐに左折し、花園の標識に従って進む。水沼ダムの上を
  通り、花園神社域に至る。ここまで、約10kmで、信号も少なく、20分程度だ。

   今回訪れた場所は、Tさんが教えてくれれるまで、私が全く知らない場所だった。ただここ
  には鍾乳洞があり、知っている人は知っているようで、先客が1名いた。「紅石英」の産地
  は、かつて珪長石を掘った跡らしく、地表に点々と石英が見られ、「紅石英」もある。
  ただ大きな露頭などは見当たらず、小規模な露天掘りで終わったようだ。ズリを少し掘ると
  5cmを超える「紅柱石」、「鉄電気石」などの良晶が出てくる。

        
           鍾乳洞前のYさん       紅石英産地の母娘
                   産地【2009年3月】

3. 産状と採集方法

   「茨城の自然をたずねて」によれば、花園神社から西には、竹貫(たかぬき)変成岩が
  露出し、この岩は地下約20kmで高温の変成作用を受けた粗粒の片麻岩、とある。
   この黒雲母片麻岩が高温・高圧で溶けて紅柱石、柘榴石になったらしい。また、一部に
  花崗岩が貫入し、もともとあった石灰岩体に変成作用を与え、粗粒晶質石灰岩(大理石)
  に変化し、この際ストロンチウムによって水色に色づいた、と考えられる。

      ブルー方解石【縞寒水石】

   私のHPで、「茨城県真弓山の「大理石(寒水石)」を紹介したが、茨城県常陸太田市から
  スカルン鉱床とされる福島県いわき市の八茎鉱山に至る一帯には石灰岩帯が広がっている
  ようで、その中ほどに位置するようだ。

   ・茨城県真弓山の「大理石(寒水石)」
    ( "Kansuiseki" Marble from Mt.Mayumi , Ibaraki Pref. )

   2008年12月のミネラル・ウオッチングの経験を生かし、ポリバケツを持参し、途中の沢で
  水を汲み、ズリで採集した標本をこれまた持参した歯ブラシで洗ったり、擦ったりして、肉眼や
  ルーペで確認した。Sさんの奥さんとYさんは表面採集で母岩付き良品を採集した。
   私は、パンニングを試み、おもしろい結果が得られた。

        
            ポリバケツ             パンニング
                   花園山採集方法

4. 産出鉱物

   一部の標本は、2008年12月に採集したものです。
 (1) 鉄コルンブ石【FERROCOLUMBITE:FeNb2O6
     黒色、板状結晶の集合として産する。頭が尖っているのが特徴。

     鉄コルンブ石【長さ 2mm】

 (2) 紅柱石【ANDALUSITE:Al2SiO5
     その名の通り、紅色〜白色、の柱状結晶が平行に集合(平行連晶)し、全体として
    先細り柱状で産出する。紅柱石の回りを紅柱石から変質した白雲母が覆っていること
    もある。
     拡大画像を見れば、細い柱状の結晶が集合していることから『柱石』、と言われる
    理由がわかるだろう。

       
         全体              拡大
                 紅柱石

 (3) サファイア/鋼玉【Sapphire/CORUNDUM:Al2O3
     目が良いYさんは当然としても、『青色系が苦手』なはずのSさんの奥さんも、目ざとく
    母岩付きの巨晶を表面で採集した。
    ( 2008年暮れにTさん一行と訪れたときに掘り返した紅柱石が雨に洗われ見つけやすく
      なったようだ )

     今回も、約50%の紅柱石には「サファイア(鋼玉)」が見られた。
    ( Sさん一家から、帰宅後、水で洗ったらいろいろなタイプのサファイアがあった、とメール
      で知らせてくれた )

      サファイア【紅柱石に伴う】

 (4) 鉄電気石【SCHORL:NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
     真っ黒でガラス光沢の柱状結晶で産する。大きなものは、径3cm、長さ10cmに及ぶ
    鉄電気石の中や周辺に希元素鉱物が見られる。

     写真の標本は、理由(わけ)あって、古い石友の1人・千葉のT氏にお贈りした。

      鉄電気石【横 20cm】

 (5) 煙水晶/石英【Smoky QUARTZ/QUARTZ:SiO2
     花園山周辺のペグマタイトは晶洞性でなく、脈状であったためか、六角柱状の水晶は
    極ごく、希にしか採集できない。
     今回も、何面か結晶面が見え柱状を示すものを1ケだけ採集できた。石英は、放射能の
    影響か黒く色づいた『煙水晶』になっている。
     ほかの産地なら見向きもしない代物だが、「花園山」なので標本として持ち帰った。

      煙水晶【縦 4cm】

 (6) 紅石英【Rose Quartz/QUARTZ:SiO2
      ほんのりと紅色に染まった石英が塊状で産出する。珪長石を採掘し、小割りしたとき
     不純物が多いということで捨てられたらしく、大きな塊は少なく、5cmもあれば大きな
     ほうだ。
      「宝石・鉱物手帳」には、紅石英(ローズ・クオーツ)のピンク色は、チタン(Ti)やAl
     (アルミニューム)に起因する、とある。花園山には、チタンを含む「チタン鉄鉱」やアルミ
     ニュームを含む「鋼玉」や「紅柱石」があるので納得である。

      紅石英【横 5cm】

 (7) 希元素鉱物【Rare Element Minerals】
      今回採集できた希元素鉱物を一覧表に示す。

No   鉱  物  種
    【 英  名 】
  説      明    写        真  備  考
1ジルコン
【ZIRCON】
 黄褐色、ガラス光沢の
頭が尖った細柱状で
産する
 母岩付

黄緑色の
ゼノタイムと共生

2ゼノタイム
【XENOTIME-(Y)】
 黄緑色、油脂光沢の
複錐8面体結晶で産する
母岩付き
パンニング
両方採集可

 写真のものは
パンニング品で
ジルコンと平行連晶を
なす典型的な
標本

3モナズ石
【MONAZITE-(Ce)】
 黄色、ガラス光沢の
薄板状〜粒状結晶で
産する

      分離品


      母岩付

母岩付き
パンニング
両方採集可

 Yさんは、母岩に
1cmを超える
結晶がついた
標本を採集

5. おわりに 

 (1) 旅立ちの春
      読者の皆さんの中にも、卒業、進学、進級、退職、入社、昇進、転勤そして転職などの
     節目を迎えている人も多いはずだ。

      ミネラル・ウオッチングに参加する子どもたちのほとんどが、高校生になると鉱物から
     離れてしまう。だが、Yさんからは
      『高校生になっても、ミネラル・ウオッチングを続けます!!』
     との心強いメールを貰った。

      2008年1月末から1年2ケ月余り、石友・Mさんに言わせると『石梨県』の千葉県に単身
     赴任していた。2009年3月末でコンサルティングが一段落し、『山梨県』の自宅に帰って
     きた。

      Sさん一家と知り合う仲立ちをしてくれた長野県川上村にある湯沼鉱泉社長に挨拶に
     行くのが山梨でのミネラル・ウオッチング初(ぞめ)になりそうだ。

6. 参考文献

 1) 長島乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会,1960年
 2)        :茨城の自然をたずねて,,
 3) 中津川鉱物博物館:第10回企画展 長島鉱物コレクションと蛭川の鉱物
                展示標本一覧,同館,2006年
 4) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 5) 地質情報整備・活用機構編著:宝石・鉱物手帳,JTBパブリッシング,2009年
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