郵便物逓送用 封鉛(ふうえん:Sealing Lead)の研究(2)

1. はじめに

    骨董市で入手した小さな鉛の塊は、「封鉛(ふうえん)」と呼び、郵便物を送る袋の口を縛った麻
   紐の端末に封をするのに使用したものだ。

        
          表・『桜と〒』             裏・『飯田 No.1』          裏・『関釜間舩内 第三』
                            マイ・コレクション『』の一部

    「封鉛」を分類する私案を「甲府郵趣」2014年11月号に寄稿すると同時に、次のページに掲載した。

    ・郵便物逓送用 封鉛(ふうえん:Sealing Lead)の研究(1)
     ( Study of Japanese Postal Sealing Lead -No1-, Yamanashi Pref. )

    「封鉛」のルーツは中世ヨーロッパで手紙や文書に封をするために始まった「封蝋」だ。「封蝋」で
   封緘した手紙を探していると、ドイツから出品しているオークションで落札できた。
    ( 何事も、願えば叶う )
    送られてきた現物を観察すると、異文化で発生した「封蝋」のもつ機能を期待されて「封鉛」がわ
   が国の郵便業務の中に導入された理由がスンナリと理解できた。
    「封鉛」について引き続き研究していく所存なので、読者のご指導をよろしくお願いする。
    ( 2014年10月入手 11月作成 )

2. 「封蝋」で封緘した郵便物

     
                            表

     
                            裏

    入手したのは、デンマーク宛の封書だ。当時の平面路(船便)での書状の郵便料金は距離に関
   係なく、重さ20グラムまで10銭だった。旧大正毛紙と呼ばれる、赤や青などの着色繊維を混ぜて
   漉いた用紙に印刷してある「田沢10銭切手」を一枚だけ貼った『適正一枚貼』だ。
    切手の刷色が暗い青色(Steel Blue)の上に青色の消印が押されていて読みにくいのだが、次の
  ように判読できる。

    YOKOHAMA
      26.8.14
      JAPAN

    今からちょうど100年前の1914年(大正3年)8月26日、横浜局の欧文印が押されている。

    Europe(ヨーロッパ)宛でよく見かけるのは、平面路の Via Siberia (シベリア経由) と指定したもの
    だが、この封書は Via Canada or U.S.A (カナダ または 米国経由) になっている。
    これは、前月(7月)に勃発した第一次世界大戦の影響で、差出人がシベリア横断でなくこの時点
   で参戦していなかったアメリカかカナダ経由を選択したのだろう。

    裏面は、「封蝋」で封印しているだけで、糊付けはしていない。また、この封筒には差出人の情報
   (氏名・住所など)は一切書かれていないのは奇異な印象だ。

3. 『封蝋(ふうろう:Sealing Wax)』

    入手した封書の「封蝋」部分を観察すると、いろいろなことが明らかになる。

     
              「封蝋」部拡大

    <材質>
     封蝋は、ハチミツの巣から取れる蜜蝋あるいは櫨(はぜ)や漆(うるし)など漆科の植物の実を
    絞って採った木蝋などに、装飾性を与える硫化水銀(朱)などの着色剤を混ぜている。飛騨高山
    土産の「和蝋燭(わろうそく)」は、櫨の実を絞って作っていたとNHKの朝ドラでみた記憶があるが
    あれも「封蝋」に使えるのだろう。

    <デザイン>
     思ったよりシンプルで、「家紋」などではなく個人を識別する『シンボル』的なものだ。封筒に差出
    人情報が書いてなくても「封蝋」を見ただけで受取人は誰からのものか特定できたはずだ。

4. 「封蝋」の機能

    封蝋のもつ機能として次のようなものが考えられる。

     (1) 事故の未然防止
          開封して中身を盗み読みしたり、抜き取ったら露見することを周知させることで事故の
         発生を抑止する効果を狙った。
     (2) 差出人情報の秘匿
          差出人情報が書いていなくても受取人だけがわかるというのは、競争の激しいビジネス
         (封蝋が生まれた中世なら軍事)や男女間(小生には経験はないが・・・・)の手紙では
         便利だろう。 
     (3) 装飾性
          封筒は古今東西を問わず白い紙でつくられた四角い袋だ。決まり切った色、形に個性を
         出そうとすると表面は流麗な宛名書き、裏面は「封蝋」だ。

    封蝋のもつ機能を期待されて「封鉛」が導入されたと考えるのは自然だろう。「封鉛」には(1)の
   機能が最重要視されたことは言わずもがなだろう。

5. おわりに

 (1) 『郵便検閲( Postal Censorship )』
      せっかく「封蝋」で封緘した手紙だったが、経由地のアメリカで検閲を受け、開封されている。
     封筒に書かれた発信日”24.Aug.14” の前日、8月23日に日本はドイツに宣戦布告したばかりだ
     った。第一次世界大戦で中立を守ったデンマーク宛だが、参戦したばかりの日本からの手紙と
     いう理由で検閲を受けたのだろうか。
      ( アメリカが参戦するのは、3年近く後の1917年4月だ )

      戦前の「大日本帝國憲法」第26条に『日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外 信書ノ祕密ヲ
     侵サルヽコトナシ』
とあり、昭和21年11月に公布され翌年5月から施行された現行憲法21条も、
     『表現の自由と通信の秘密遵守』を定めている。

      ところが、この期間に占領軍によって『民間郵便の検閲』が行われていた。この時代の郵便物
     も私の研究テーマのひとつだ。

 (2) 最近のMH農園
      甲府盆地の朝夕はメッキリ寒くなり、先週には初霜・初氷を観測した。初霜が当ると、冬物野菜
     は一段と甘みが、ねぎなどは柔らかさが増す。
      暑さから寒さに急激に変化し、雨が少ない甲府盆地は大陸気候に似ているせいか、「チンゲン
     菜」や「ターサイ」などの中国菜の栽培に適しているようだ。少し種まき時期が遅かったかと懸念
     したが大きく成長して収穫期を迎えている。

          
                  「チンゲン菜」                      「ターサイ」

      2013年3月に単身赴任から戻るときにM氏にいただいた落花生は甲府盆地で2世代目が育ち
     今日試しに掘ってみたらシッカリ実が入っていた。生落花生を殻ごと塩茹でにして食べてみたら
     買ったものとは比べ物にならないほど美味しい。(ビールがあればさらに良かったが・・・・)

      大きく成長し、結球し始めた白菜の葉をめくると繭にくるまった蝶が越冬していた。厳しい甲府
     盆地の冬を越して春になれば飛び立つだろう。

          
            収穫した落花生                     蝶の越冬

 (3) 『2014年採集納め』
      この時期になると、採集納めをいつ、どこに行こうかと計画しているだけで楽しくて”わくわく”す
     る。この季節なので、暖かくて、できれば「車横付け」の産地が良いな〜、と虫の良いことを考え
     ているMHだ。

6. 参考文献

 1) (財)日本郵趣協会カタログ委員会編:日本切手専門カタログ,(株) 日本郵趣出版,2000年
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