元素を明確に定義したのは、18世紀後半に活躍したフランスが生んだ天才・ラボアジェ(1743〜
1794年)だった。このころすでに知られていた元素は、炭素(C)、硫黄(S)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、鉛
(Pb)、銅(Cu)、水銀(Hg)、銀(Ag)、金(Au)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、リン(P)、アンチモン(Sb)、そ
して亜鉛(Zn)など10種あまりだった。
金や銀は『貴金属』、鉛は『卑金属』だと小学校で習った記憶があり、“安っぽくて価値のない金
属“だ、とばかり思い込んでいた。
2014年9月、地方都市の骨董市を巡っていると、小箱の中に麻紐の切れ端を噛んだ直径1センチ
ほどの鉛の塊があった。表面に『〒』のマーク、裏面に『飯田』などの都市名が圧印されているの
で、私の趣味の一つ、郵趣品に違いないと思い、圧印が鮮明なものを選んで11個購入した。
15年ほど昔、茨城県に初めて単身赴任していた時にも骨董市で同じようなものを買って仕舞い
っぱなしになっているのを思い出して探し出してみると、『関釜間舩(船)内』と圧印したものなども
ある。
明治時代、郵便物を送る袋の口を麻紐で結わえたが、逓送する途中で中身を抜き取られるのを
防ぐ目的で封をした鉛だろうと想像した。
手紙の別名を『封書(ふうしょ)』というように、差出す前に糊で封をする。外国映画で封筒の蓋に
溶けた蝋(ろう)をたらし、指輪の印璽(いんじ)を押しつけて封をする場面を見たことがあるだろう。
この封蝋(ふうろう:Sealing Wax)と同じ役割をこの鉛の小さな塊に持たせていたわけで、『封鉛』
と呼ばれている。
私は趣味の一つのミネラル・ウオッチングは、主に鉱物(われわれの生活に有用な地下資源)や
鉱山(それらを採掘する場所)について研究している。
鉛は融点が低く、軟らかく加工しやすい金属で、古代エジプト時代から使われてきた。最近では、
『卑金属』は“死語”になり、われわれの日常生活を支えている金属にふさわしい『ベース・メタル』
と呼ばれ、居場所を与えられたのは喜ばしい。
しかし、鉛は毒性が問題になり、使わない方向にある。『封鉛』が記憶のかなたに消え去る前に、
現物とともに記録として残しておきたいという想いが強い。
( 2000年頃と2014年9月入手 2014年10月作成 )
・ 一ノ瀬銭
( Old Coin "Ichinose-sen" , Tokyo )
鉛は密度が11.35g/cm3と銀の10.5g/cm3よりも大きく、持つとズシリと重い。昔、アメリカで金の
代りに鉛で造って金メッキした贋金がでたことがあるくらいだ。
鉛はX線やガンマ(γ)線などの放射線を遮蔽する能力が高く、レントゲン写真をとるときに重た
い腰巻のようなものを着けるが、これには鉛が使われ、有害な放射線から生殖機能を守ってくれ
ている。
わが国では化粧品の「おしろい(白粉)」として炭酸鉛【PbCO3】が永年使われていたがその毒性
から1935年に販売が禁止になった。
私が車の免許をとった1970年ごろ、有鉛ガソリンにはノッキングが起きにくくするアンチノック剤と
して4エチル鉛【(C2H5)4Pb】が添加してあった。排気ガス中の鉛によって「鉛中毒」が起き、間もな
く無鉛ガソリンになった。
その頃の車のトラブルといえば、「ガス欠(ガソリン切れ)」と「バッテリー上がり(過放電)」
、そして
「パンク」だった。
当時の鉛蓄電池(バッテリー)は、性能も良くなく、半ドアで室内灯が点けっぱなしになっている
だけで忽(たちま)ち、バッテリーがあがってしまった。
最近では、室内灯に消費電力の少ないLEDが採用された上、車も賢くなり、半ドアを警告音やラ
ンプで知らせてくれるので、この20年くらいバッテリーのトラブルは皆無だ。
( エンジンの性能が向上し、オートマが増えたこともあって、「ノッキング」の意味がわかる人や
体験した人は少なくなり、”死語”になっているかも知れない )
【閑話休題】
われわれに身近な鉛の用途としては、釣りの錘(おもり)だろうか。板状の鉛は、チュウインガム
と同じように指で引きちぎることができ、釣り糸に巻き付けられるくらい軟らかい。「ガン玉」と呼ぶ
玉状の鉛は、釣り糸を挟んで歯で噛むと錘は動かなくなる。
めったにしか飲む機会はないが高級ワインなどはコルク栓の周りを鉛で覆って封をしている。こ
れはコルクを通してワインが酸化するのを防ぐのが目的だろが、もしかしたら中味が入れ替えられ
るのを防ぐ目的もあるかも知れない。そうだとすると、郵便物の「封鉛」と同じ目的ということになる。
明治4年3月1日(旧暦、太陽暦の4月20日)に東京-大阪間の試行という形で新しい郵便制度が
始まった。わずか2年後の明治6年4月1日からは、現在と同じ国内のどこまでも均一郵便料金とい
う形で全国に展開された。これと同時に、封筒に現金を入れて送る「現金書留」制度もスタートした。
郵便配達人は現金を持ち歩くので、賊に襲われたときの安全のために拳銃を携行した。郵便物
をまとめて袋(郵袋:ゆうたい)に入れて送るとき、途中で抜き取られるのを防ぐために考えだされ
たのが『封鉛』だった。
郵袋の口を縛った後で結び目から先に封鉛をつけておけば、麻紐から封鉛を切り離さなければ
口を開けられない仕組みだ、と想像する。
これらの収集品を分類し、一覧表にまとめてみた。
「封鉛」分類
・ 封鉛は郵便業務に使われたので当然のように郵便消印に似ている。
・ 封鉛の「封」と“○○もどき”を意味する「風」が同じ発音なので、二重丸消印風の意味で
「二重丸封」、同様に「丸二封」、そして「船内封」の3種類に基本分類・命名した。
・ 「二重丸封」と「丸二封」には、局名のほかに「係員(けいいん)」と表記されているものもある。
・ 「船内封」があるので鉄道郵便の「鉄郵封」もあるはずだと期待している。
( 「係員」は鉄道郵便だと説く人もいる )
私の「封鉛研究」は緒についたばかりで、浅学非才で年金暮らしの身の悲しさ、知識もなけ
れば持っている現物も少ない。今後、研究を進める上で皆様のご支援とご教示をお願いする。
具体的には、
1) 封鉛を適価でお譲りください。(重品の交換含む)
2) お持ちの知見・先人の研究結果などをご教示ください。
このページをまとめているとき、届いた郵便物が麻紐で十文字に結わえてあった。いまどき
麻紐で梱包したものを見るのは珍しく、『封鉛』研究のために神様が遣わされたのでは、と何
事も都合よく解釈する『天呆穿人』である。
(2) 富士山初冠雪
2014年10月16日、富士山の頂上が雪で覆われているのが甲府盆地からも観察できた。
甲府盆地に冬が近いことを知らせる富士山の初冠雪は地元では毎年ちょっとしたニュース
になっている。平年は9月30日だから、今年は半月ほど遅かったことになる。奈良の石友・Y
さんにいただいた『眉刷毛万年青(まゆはけおもと)』が9月末に清楚な純白の花をつけ、初
冠雪が近いのではないかと思っていたが、台風18号、19号の襲来で遅れたようだ。
それだけ暖かかったせいか、畑ではトマトが盛りだし、お盆に種を蒔いたトウモロコシも収穫
を迎えている。
道の駅のような「農の駅」でご婦人からトウモロコシの簡単で美味しいゆで方を教えてもらっ
たのでご紹介する。
1) 薄皮を数枚残し皮をむく。
2) ラップで包む。
3) 皿に載せ、レンジで”チン” (わが家のレンジは旧式なので7分30秒)
4) ラップをはがし、残りの皮や毛をとる。(熱いのでやけどに注意)
(3) 黒豆ご飯
兵庫のN夫妻から「丹波の黒豆」を送っていただいた。この時期、丹波地方は「天空の城」
から思い浮かぶように、朝霧が立ち込め、この水分が黒豆の味を一段と深いものにする、と
NHKの朝の番組で紹介していた。その中で、「黒豆ご飯」や「ナスのずんだ和え」などという
料理があることも知った。
茹でて食べるしか知らない私たち夫婦だが、「黒豆ご飯」にして食べたところ、黒豆の甘味
がご飯に染みて美味しくて、いくらでも食べられそうだが”カロリー制限”で自制した。
これで、間近になった『秋のミネラル・ウオッチング』も元気で楽しめそうだ。