郵便物逓送用 封鉛(ふうえん:Sealing Lead)の研究(1)

1. はじめに

    2014年度のノーベル物理学賞は、青色発光ダイオード(LED)を開発した日本人3名に与えられ
   ることになった。開発の最大の壁は質の良い窒化ガリウム(GaN)結晶を造ることにあった。1962年、
   最初に開発された赤色LEDにはガリウムヒ素(GaAs)結晶が使われている。
    ガリウムは、1875年にフランス人ボアボードランにより、ピレネー山脈にある鉱山産の閃亜鉛鉱
   から発見された。その性質や密度までが周期律表を”空席”にして存在を予告していたメンデレー
   エフの予言通りだった。ガリウムの名は、ボアボードランの祖国・フランスのラテン名・ガリア(Gallia:
   カエサルは「ガリア戦記」を書き残している)にちなんで名づけられた。
    シリコン(Si)、ガリウム(Ga)はじめ、前(19)世紀までに発見された元素の新しい用途が発明・発
   見され、われわれの文明が大きく進歩した世紀と20世紀を総括することもできよう。

    元素を明確に定義したのは、18世紀後半に活躍したフランスが生んだ天才・ラボアジェ(1743〜
   1794年)だった。このころすでに知られていた元素は、炭素(C)、硫黄(S)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、鉛
   (Pb)、銅(Cu)、水銀(Hg)、銀(Ag)、金(Au)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、リン(P)、アンチモン(Sb)、そ
   して亜鉛(Zn)など10種あまりだった。
    金や銀は『貴金属』、鉛は『卑金属』だと小学校で習った記憶があり、“安っぽくて価値のない金
   属“だ、とばかり思い込んでいた。

    2014年9月、地方都市の骨董市を巡っていると、小箱の中に麻紐の切れ端を噛んだ直径1センチ
   ほどの鉛の塊があった。表面に『〒』のマーク、裏面に『飯田』などの都市名が圧印されているの
   で、私の趣味の一つ、郵趣品に違いないと思い、圧印が鮮明なものを選んで11個購入した。

    
           小さな鉛の塊

    15年ほど昔、茨城県に初めて単身赴任していた時にも骨董市で同じようなものを買って仕舞い
   っぱなしになっているのを思い出して探し出してみると、『関釜間舩(船)内』と圧印したものなども
   ある。

        
          表・『桜と〒』             裏・『飯田 No.1』          裏・『関釜間舩内 第三』

    明治時代、郵便物を送る袋の口を麻紐で結わえたが、逓送する途中で中身を抜き取られるのを
   防ぐ目的で封をした鉛だろうと想像した。

    手紙の別名を『封書(ふうしょ)』というように、差出す前に糊で封をする。外国映画で封筒の蓋に
   溶けた蝋(ろう)をたらし、指輪の印璽(いんじ)を押しつけて封をする場面を見たことがあるだろう。
    この封蝋(ふうろう:Sealing Wax)と同じ役割をこの鉛の小さな塊に持たせていたわけで、『封鉛』
   と呼ばれている。

    私は趣味の一つのミネラル・ウオッチングは、主に鉱物(われわれの生活に有用な地下資源)や
   鉱山(それらを採掘する場所)について研究している。
    鉛は融点が低く、軟らかく加工しやすい金属で、古代エジプト時代から使われてきた。最近では、
   『卑金属』は“死語”になり、われわれの日常生活を支えている金属にふさわしい『ベース・メタル』
   と呼ばれ、居場所を与えられたのは喜ばしい。
    しかし、鉛は毒性が問題になり、使わない方向にある。『封鉛』が記憶のかなたに消え去る前に、
   現物とともに記録として残しておきたいという想いが強い。
   ( 2000年頃と2014年9月入手 2014年10月作成 )

2. 元素としての鉛と用途

    鉛は金・銀・銅などとともに古くから知られていた金属で、古代エジプトでは紀元前3400年ごろ、
   中国やインドでは紀元前1000年ごろすでに知られていた。
    鉛は硫化鉱物の方鉛鉱【GALENA:PbS】から取り出されているが、近年では廃棄された鉛蓄電
   池などからも回収されているようだ。
    鉛には、204Pbとウラン(U)が崩壊してできた206Pb、207Pb、そしてトリウム(Th)が崩壊してでき
   る208Pbの4つの同位体があり、その存在比は鉱山(産地)によって異なる。これらの比から、
   考古遺物の産地や年代を同定できる。

    ・ 一ノ瀬銭
     ( Old Coin "Ichinose-sen" , Tokyo )

    鉛は密度が11.35g/cm3と銀の10.5g/cm3よりも大きく、持つとズシリと重い。昔、アメリカで金の
   代りに鉛で造って金メッキした贋金がでたことがあるくらいだ。
    鉛はX線やガンマ(γ)線などの放射線を遮蔽する能力が高く、レントゲン写真をとるときに重た
   い腰巻のようなものを着けるが、これには鉛が使われ、有害な放射線から生殖機能を守ってくれ
   ている。
    わが国では化粧品の「おしろい(白粉)」として炭酸鉛【PbCO3】が永年使われていたがその毒性
   から1935年に販売が禁止になった。

    私が車の免許をとった1970年ごろ、有鉛ガソリンにはノッキングが起きにくくするアンチノック剤と
   して4エチル鉛【(C2H54Pb】が添加してあった。排気ガス中の鉛によって「鉛中毒」が起き、間もな
   く無鉛ガソリンになった。
    その頃の車のトラブルといえば、「ガス欠(ガソリン切れ)」と「バッテリー上がり(過放電)」 、そして
   「パンク」だった。
    当時の鉛蓄電池(バッテリー)は、性能も良くなく、半ドアで室内灯が点けっぱなしになっている
   だけで忽(たちま)ち、バッテリーがあがってしまった。
    最近では、室内灯に消費電力の少ないLEDが採用された上、車も賢くなり、半ドアを警告音やラ
   ンプで知らせてくれるので、この20年くらいバッテリーのトラブルは皆無だ。
    ( エンジンの性能が向上し、オートマが増えたこともあって、「ノッキング」の意味がわかる人や
     体験した人は少なくなり、”死語”になっているかも知れない )

    【閑話休題】
    われわれに身近な鉛の用途としては、釣りの錘(おもり)だろうか。板状の鉛は、チュウインガム
   と同じように指で引きちぎることができ、釣り糸に巻き付けられるくらい軟らかい。「ガン玉」と呼ぶ
   玉状の鉛は、釣り糸を挟んで歯で噛むと錘は動かなくなる。
    めったにしか飲む機会はないが高級ワインなどはコルク栓の周りを鉛で覆って封をしている。こ
   れはコルクを通してワインが酸化するのを防ぐのが目的だろが、もしかしたら中味が入れ替えられ
   るのを防ぐ目的もあるかも知れない。そうだとすると、郵便物の「封鉛」と同じ目的ということになる。

3. 封蝋( Sealing Wax )と封鉛( Sealing Lead )

    欧米には、書状(手紙)を入れた封筒の蓋に溶けた蝋をたらし印璽(いんじ)を押しつける『封蝋』
   の習慣がある。これによって、途中で開封すればすぐに露見する仕掛けだ。開封して偽の印璽を
   押す手もあるが、精巧な印璽の偽造は容易でなく、結果的に搬送途中で開封されるのを防ぐ目的
   を果たしている。

     
              封蝋
         【wikipediaより引用】

    明治4年3月1日(旧暦、太陽暦の4月20日)に東京-大阪間の試行という形で新しい郵便制度が
   始まった。わずか2年後の明治6年4月1日からは、現在と同じ国内のどこまでも均一郵便料金とい
   う形で全国に展開された。これと同時に、封筒に現金を入れて送る「現金書留」制度もスタートした。
    郵便配達人は現金を持ち歩くので、賊に襲われたときの安全のために拳銃を携行した。郵便物
   をまとめて袋(郵袋:ゆうたい)に入れて送るとき、途中で抜き取られるのを防ぐために考えだされ
   たのが『封鉛』だった。
    郵袋の口を縛った後で結び目から先に封鉛をつけておけば、麻紐から封鉛を切り離さなければ
   口を開けられない仕組みだ、と想像する。

4. 封鉛の分類

    200年ごろに入手したもの50個と今回入手したもの合わせて封鉛は全部で61個ある。これらを
   観察してみると、郵便物の消印のように何種類かある。大坂(現大阪)のように、2種類の封鉛を
   使っていた局もある。

         
     中央に〒がある二重丸印風           丸二印風           『長野係員』表記の丸二風
                     『大坂』局の封鉛

    これらの収集品を分類し、一覧表にまとめてみた。

      「封鉛」分類
     

    ・ 封鉛は郵便業務に使われたので当然のように郵便消印に似ている。
    ・ 封鉛の「封」と“○○もどき”を意味する「風」が同じ発音なので、二重丸消印風の意味で
      「二重丸封」、同様に「丸二封」、そして「船内封」3種類に基本分類・命名した。
    ・ 「二重丸封」と「丸二封」には、局名のほかに「係員(けいいん)」と表記されているものもある。
    ・ 「船内封」があるので鉄道郵便の「鉄郵封」もあるはずだと期待している。
      ( 「係員」は鉄道郵便だと説く人もいる )

5. おわりに

 (1) 皆様にお願い
       私の趣味は、鉱物・鉱山、郵趣・絵葉書、古銭、古書・・・・・と雑多で、家の2階の2部屋は
      それらで占拠されている。息子の嫁さんや孫娘たちが来ても、2階は”OFF LIMIT”だ。
       残りの時間を考えるとそろそろ整理の時期になっている。何回かの単身赴任で買い集めた
      品々が家のアチコチに分散して置いてある。整理の手始めは『棚卸(たなおろし)』なので、
      アチコチに置いてある同じものを集めて、重複しているものは処分し、不足しているものは買
      い足して資料としてまとめておこうと思い立った。その手始めが『封鉛』だ。

       私の「封鉛研究」は緒についたばかりで、浅学非才で年金暮らしの身の悲しさ、知識もなけ
      れば持っている現物も少ない。今後、研究を進める上で皆様のご支援とご教示をお願いする。
       具体的には、

       1) 封鉛を適価でお譲りください。(重品の交換含む)
       2) お持ちの知見・先人の研究結果などをご教示ください。

       このページをまとめているとき、届いた郵便物が麻紐で十文字に結わえてあった。いまどき
      麻紐で梱包したものを見るのは珍しく、『封鉛』研究のために神様が遣わされたのでは、と何
      事も都合よく解釈する『天呆穿人』である。

       
          麻紐で十文字に結わえた郵便物

 (2) 富士山初冠雪
       2014年10月16日、富士山の頂上が雪で覆われているのが甲府盆地からも観察できた。

       
            甲府盆地からの富士山

       甲府盆地に冬が近いことを知らせる富士山の初冠雪は地元では毎年ちょっとしたニュース
      になっている。平年は9月30日だから、今年は半月ほど遅かったことになる。奈良の石友・Y
      さんにいただいた『眉刷毛万年青(まゆはけおもと)』が9月末に清楚な純白の花をつけ、初
      冠雪が近いのではないかと思っていたが、台風18号、19号の襲来で遅れたようだ。

       それだけ暖かかったせいか、畑ではトマトが盛りだし、お盆に種を蒔いたトウモロコシも収穫
      を迎えている。

          
                   トマト                       トウモロコシ

       道の駅のような「農の駅」でご婦人からトウモロコシの簡単で美味しいゆで方を教えてもらっ
      たのでご紹介する。
       1) 薄皮を数枚残し皮をむく。
       2) ラップで包む。
       3) 皿に載せ、レンジで”チン” (わが家のレンジは旧式なので7分30秒)
       4) ラップをはがし、残りの皮や毛をとる。(熱いのでやけどに注意)

          
                 ラップで包む                  ”チン”して出来上がり

 (3) 黒豆ご飯
       兵庫のN夫妻から「丹波の黒豆」を送っていただいた。この時期、丹波地方は「天空の城」
      から思い浮かぶように、朝霧が立ち込め、この水分が黒豆の味を一段と深いものにする、と
      NHKの朝の番組で紹介していた。その中で、「黒豆ご飯」や「ナスのずんだ和え」などという
      料理があることも知った。
       茹でて食べるしか知らない私たち夫婦だが、「黒豆ご飯」にして食べたところ、黒豆の甘味
      がご飯に染みて美味しくて、いくらでも食べられそうだが”カロリー制限”で自制した。

       
                  黒豆ご飯

       これで、間近になった『秋のミネラル・ウオッチング』も元気で楽しめそうだ。

6. 参考文献

 1) (財)日本郵趣協会カタログ委員会編:日本切手専門カタログ,(株) 日本郵趣出版,2000年
 2) 桜井 弘編:元素111の新知識 第2版,講談社,2009年
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