2019年10月 ミニ・ミネラルウオッチング

              ( Mini Mineral Watching in Yamanashi Oct. 2019 )

1. はじめに

    2019年は、恒例のミネラル・ウオッチングを一度も開催できなかった。妻の母親の介護だけでなく、妻の入院・
   手術・治療、その上8月から東京都心のマンションでの生活が始まり、自然とは縁遠い生活を余儀なくされている
   からだ。

    そんな時、茨城の石友。K兄弟から「2016年に挑戦して断念したガマ開けに再チャレンジしたい」、とのメールが
   あった。気分転換と鈍った身体の試しにちょうど良いし、日帰りなら何とか日程も都合が付けられそうなので応諾
   した。
    これを知った東京・Kさんも参加する事になったが、残念乍ら仕事の都合で直前でキャンセルになった。

    台風19号の影響で、中央道が不通になっているなど、直前まで実施できるか気を揉んだ。開催4日前、山梨に
   戻るのに、東京→熱海→小田原→富士→鰍沢→甲府と遠回りするしかなかった。
    東京の家が雨漏りするとの連絡を受け、中央道が再開した翌日に走ってみると崖崩れの傷跡も生々しかったが、
   車線規制などもなく、スムースだった。

     
               中央道崖崩れ箇所
         【この程度で1週間も不通になる???】

    K兄弟は前日夜私の家の近くのSAで車中泊するというが、私しかいないので何もできないが拙宅に0時前に来て
   いただき、布団の上で寝ていただいた。
    翌朝6時に起きて、活動開始だ。台風の影響で小雨が降っているが、坑道内での採集なので問題なしだ。産地
   に向かう道路に「通行止」の表示が出ていなかったので油断して走って行くと、突然「通行止」の表示が出ていた。
   その先で崖崩れしていて、防護ネットが大きく膨らんで、路上には岩塊が散らばっている。

        
                  BEFORE                           AFTER
                                 崖崩れ

    こちらは屈強な男3人(1人は??)がいて、大岩を動かせる金梃(かなてこ)、最悪小さく割るハンマとタガネも
   揃っているので、ものの5分で車が通れるだけの道幅を確保した。
    産地近くの駐車場に着いたのが7時だった。K兄弟にとっては1時間もかからずに産地に来れる羨ましいわが家の
   立地だ。
    ( 逆に、私にとっては、『終の棲家』を決めかねる悩みの種だ )
    ( 2019年10月 観察 )

2. 産地

    この産地は「ペグマタイト」誌などにも紹介されている有名な場所なので詳細は割愛する。沢沿いの道から
   見覚えのある踏みわけ道を辿(たど)り、枝沢を詰めると坑口が見える。ここの坑道に入るのは2016年秋以来だから
   ほぼ3年ぶりだ。
    小雨模様で坑口付近は肌寒かったが、坑内は15℃前後あって暖かく感じられ、ハンマーを振っていると汗ばんで
   くるほどなので、冬のミネラル・ウオッチングにはピッタリの場所だ。
    冬眠中の蝙蝠(コウモリ)たちが、突然の闖(ちん)入者に驚き、飛び交う。

        
                  坑口                      越冬する蝙蝠(コウモリ)
                【2012年】
                                 産地

3. 産状と採集方法

    坑道は、花崗岩に貫入した石英脈の空洞(ガマ:晶洞)の中に成長した水晶を求めて掘られたもので、入口や
   途中に広い”ドーム”があり、その近くには”削岩機”のドリルの孔が残されているので、戦争中(70年以上前)に
   「水晶振動子」用の水晶を掘った時期もあったと思われる。
     100メートルを超えそうな坑道の奥に行くにしたがって、人ひとりが四つん這いで進むのがやっとの広さしかなく、
   そこは古い時代に採掘されたものと思われる。

    
                  坑道内で”ガマ掘り”

    水晶、とりわけ砒酸塩鉱物は坑道内の特定の場所でのみ採集できる。石英脈には、褐鉄鉱などで茶褐色に
   染まった部分が見られ、砒酸塩鉱物はこのような場所から産出するようだ。
    砒酸塩鉱物は、砒素(As)、鉄(Fe)を含む「硫砒鉄鉱」などや鉛(Pb)、ビスマス(Bi)を含む鉱物が分解し、
   成長が終わった後の石英(水晶)の表面に2次鉱物として生成したようだ。

    採集方法は、石英脈をハンマとタガネで掻き取るのだが、堅いのでそれなりの装備と腕力が必要だろう。
    空腹に気付いて時計を見ると12時だった。外に出ると少し寒いが防寒具がいるほどではなかった。コンロでお湯を
   沸かし、カップ麺をいただくのは冬のミネラル・ウオッチングの定番だ。

    
            冬の定番・熱いカップ麺

4. 観察鉱物

 (1) 水晶【QUARTZ:Si2
      堅い石英の中にできた晶洞の中に水晶が見られる。ここの石英の堅さは”半端”でなく、K兄弟をして、「○○沢
     のガマ開けは楽だった」、と言わしめるほどだ。

      採集を始めて2時間余り経ったころ、叩いたタガネが”スポッ”と吸い込まれるように入った。”ガマだ!!”7
     穴の周りを広げていくと、中には硫化鉱物が見られない「水晶ガマ」だ。K兄がドライバーで掻き出し、K弟が
     チェックすると、「頭付の水晶」が何個か確認できた。
      採集した水晶を並べてみると、最大でも6センチ余りだが”ガマ出し”らしく、キズ一つない。比較のために置い
     た500円硬貨の下にあるのは、この産地特有で「日本式双晶」の片割れを連想させる幅広の平板水晶で透明
     感も申し分ない。
       

         
                     産地にて                        塩酸洗浄後【撮影:K弟】
                                     水晶

 (2) 毒鉄鉱【PHARMACOSIDERITE:KFe3+4(AsO4)3(OH)4・6-7H2O】
      青緑色透明、四角い薄板状〜サイコロ状の六面体の結晶で”三角穴”と呼ぶ、多形水晶(石英)が作る
     空間(晶洞)に産出する。ここでは、一辺が最大1cmクラスの結晶も観察でき、『日本一』と呼んでも過言では
     ないだろう。

         
                  全体                            部分
                                   毒鉄鉱

5. おわりに

 (1) 1年ぶりのミネラル・ウオッチング
      最後にミネラル・ウオッチングを開催したのは2018年10月だった。

 2018年秋のミネラル・ウオッチング
 ( Mineral Watching Tour , Autumn 2018 , Nagano & Yamanashi Pref. )

      本格的なミネラル・ウオッチングは1年ぶりになる。K兄弟からのお誘いを受けたは良いが、気がかりなことが2点
     あった。

      @ 体力の衰え?
        産地まで1時間弱歩けるか、そして重たいハンマを叩き続けられるか。
        ただ歩くだけでなく重たい採集道具などを背負っているのだ。今回重たいハンマや金梃はK兄弟が運んで
    くれたが、私のリュックには10本近いタガネやヘッドランプ2個の他、カップ麺用の2リットルの水、ガスボンベ、
    湯沸し用ナベなどが納められ、重量は10キロ近くありそうだ。しかも産地までは、途中まで緩やかな上り坂で
    産地近くには急坂もある。

        しかし、これは杞憂に終わった。途中2回ほど休憩を入れたが、息が乱れることもなく産地に到着できた。

        考えてみると、東京に来て、車を運転することがなくなり、もっぱら歩いている。山梨にいた時の数倍、
       ほぼ毎日歩いているのだ。甲府にいた7月と、ここに来てからの9月のスマホの万歩計データを比較してみると
       歩数の差は歴然だ。

            
                 2019年7月(甲府にいた時)           2019年9月(東京に来てから)
                                   万歩計データ

         万歩計代わりのスマホにはこの日歩いた歩数が”12,333歩”と記されていた。産地を後にするとき
        ”8,000歩”余りだったから、片道”4,000歩”、往復で”8,000歩”およそ5キロ余り歩いたことになる。
         とすると、12,000-8,000=4,000回は、ハンマを叩いた回数を胸ポケットに入れて置いたスマホが
        ”歩数”だと勘違いしてカウントしたことになる。

         2キロと5キロ近いハンマを叩き続ける体力・気力も健在だと確認できた。

      A 採集の”勘”の鈍化
         採集では、産地に到着できることが大前提だ。昔訪れた産地のなかには、目印やルートを忘れてしまい
        辿り着けない場所もある。
         ”ガマ開け”には、露頭の岩に走る石英脈の方向などを読んで叩く場所を決める”勘”が重要だ。今回、
        ”ガマ”が開いたということは、”勘”もそれほど鈍っていないようだ。

       20人、30人の大勢の人達を案内してのミネラル・ウオッチングの開催は難しいが、数名でのミニ・ミネラル・
      ウオッチングなら何とかなりそうだとの手ごたえが得られた。

       「○沢の紫水晶」など、往年の花形産地を少人数で訪れてみたい、と思っている。

6. 参考文献

 1) 加藤 昭:硫化鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年
 2) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 3) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 4) 高田雅介:日本産鉱物の結晶形態,「ペグマタイト」誌100号記念出版,2010年
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