東京飯田橋の「ミネラル・マーケット」には昨年に続いて、4回目の訪問をした。特急列車
の遅れで、着いたときには既に開場していた。
東京の石友・Mさん、千葉の石友・Yさんなどに挨拶もそこそこに、会場を一巡し、目ぼしい
標本を探す。今回は、「山梨県の水晶」に力点を置いたとプレアナウンスがあったとおり
「八幡山の水晶・単晶 15万円」など、値段も立派な標本が目白押しだった。
とあるブースに「黒平のトパズ」があったので、この1点だけ購入した。
午後、新宿で「ミネラルフェア」を見て回ったが、国産標本をおいてあるブースは限られ
しかも品揃えは今ひとつで、結局何も購入しなかった。
来年からは、「ミネラルマーケット」だけにしようか、とも考えている。
帰宅後、「黒平産TOPAZ」について調べてみた。明治40年(1907年)に出版された、和田
維四郎の「本邦鉱物標本」によって、『 黒平のTOPAZ(当時は、「黄宝石」) 』 が世に
知られるようになって、奇しくも、今年(2007年)は100周年にあたることが判明した。
この記念すべき年に、「黒平のトパズ」を入手できたのも、何かの縁であろう。
( 2007年6月採集 )
名称 | 場所 (最寄り駅) | 出店数 | 入場料 | 内容 | 備 考 | ミネラルマーケット 2007 | レインボービル (JR 飯田橋) | 約30 | 無料 |
主にアマチュアが 自分の採集品を販売 鉱物がメイン 化石、ジェムは少数 | 1日だけ開催 | 第20回東京国際 ミネラルフェア | センチュリ ハイアット (JR新宿) | 約150 | 通し券2,000円 当日券1,000円 |
業者による販売 鉱物、化石、ジェム ジェムが多い | 4日間開催 |
それ以来、フィールドやミネラルショーでは、日本産鉱物50種+【番外】、計54種を
2005年に、岐阜県木積沢で「苗木石」、京都府白川で「褐簾石」の2点を自力で採集し
3.2 購入国産標本
長径70mm×短径55mm×高50mm
妻には
(家庭平和維持)
黒平産のトパズがいつごろから知られるようになったのかを調べてみた。
以上の結果、黒平のTOPAZ は、明治39年(1906年)に発見されたことが明らかになった。
むしろ、「黒平産TOPAZ」として印象に残っているのは、2001年に東京大学で開催さ
4.2 TOPAZの和名
『 此鉱は我国に産出する結晶鉱物中最も貴重なるものにして、・・・・・・・・ 』
ちなみに、明治末年に”宝石”を冠する鉱物は、他にサファイアが『藍宝石』、ルビーが
「黄宝石」が一般的に使われていたかと言うと必ずしもそうではなく、「黄玉石」「黄宝石」
この記念すべき年に、「黒平のトパズ」を入手できたのも、何かの縁であろう。
( 20年近く前、甲府に転勤して間もなく、同じようなことを言って妻を丸め込んで「小尾
(2) 最近、ミネラルショーなどの”売りたて”を見て回っても、一時ほど購入したいと思う標本
今後、「ミネラルショー」は”眼の保養”だけになることが多そうだ。
(3) 石友を案内したり、その下見を兼ねて、最近黒平を何回か訪れている。ほぼ行く度に
鉱物コレクターの資格審査
( How Many Specimens do you have ? , Qualification of Mineral Collector )
積極的に追いかけるようにしている。
2007年2月に秋田荒川鉱山の三角式黄銅鉱結晶をオークションで購入し、49種( 49/54
=91% )が揃ったが、この先が一段と厳しくなってきた。
残り5種を求めて、各ブースを丹念に見て回ったが、1つも見つからなかった。
No 産地 鉱物
5 秋田県太良 方鉛鉱(八面体と六面体の集形)
19 徳島県眉山 ルチル
30 秋田県日三市 荒川石(ベスジェリ石<原文のまま>)
45 大分県尾平 灰鉄輝石(結晶)
【番外】 北海道手稲 手稲石
今回購入したのは、山梨県産の標本1点のみであった。
産 地 鉱 物 産 状 価 格 備 考
山梨県黒平 トパズ
(黄玉)
【TOPAZ】
重さ400グラム=2,000カラット
○万円
5,000円
、と言ってある
酒黄色
へき開し
柱面のみ
4. 山梨県黒平産トパズ
4.1 トパズの発見
山梨県甲府市黒平町は、現在でも「水晶」、「天河石」そして「希元素鉱物」などのペグマ
タイト鉱物産地として知られており、訪れる人も多い。
出典 出版年
(西暦) 記 述 内 容 備 考
日本鉱物誌
第1版明治37年
(1904年)記述なし
「黄宝石(TOPAZ)」
の産地として、3箇所
美濃(岐阜県)
伊勢(三重県)
近江(滋賀県)本邦鉱物標本 明治40年
(1907年)
甲斐中巨摩郡宮本村字黒平産
明治39年(1906年)の新発見にして
その新鮮なるものは淡褐色透明なり
其日光に曝(さら)されたるものは酒黄色に
変し、晶面は簡単にして且表面粗鬆なる
もの多し
本品は横径70×50ミリにして
長さ50ミリあり
酒黄色にして(結晶面)∞P(m面)
∞P2-(l面)、2P∞-(f面)
鮮明なるも晶面上無数の條線を現わし
平滑ならす
暗赤色の「モナサイト」を包嚢す
「黄宝石(TOPAZ)」
の産地として、上記の
3産地も記載
このとき発見されたトパズはどのようなものなのなのかを東京大学総合研究博物館の
データベースで調べると現在(株)三菱マテリアルに所蔵されている標本らしい。
『 明治39年発見、モナズ石を包有 』、とあるが、大きさが『 6×5×4.5cm』、と「本邦鉱物
標本」の記述と若干違うのが気になる。
黒平産トパズ
【東京大学総合研究博物館DBより引用】
れた「和田鉱物標本展」に出品された ”菱餅状”のものである。これは、今回購入した
ものと産状が酷似しており、買う気になった大きな理由であった。
黒平産”菱餅状”トパズ
【東京大学総合研究博物館DBより引用】
「日本鉱物誌(第1版)」と「本邦鉱物標本」には、TOPAZの和名として『黄宝石』が付け
られている。これは”黄色い宝石”という意味で、「日本鉱物誌」にある次のようなTOPAZの
説明文からも名づけられた理由をうかがい知ることができる。
『紅宝石』呼ばれただけである。
そして「黄玉」の3つの呼び名が使われていたようだ。
しかし、「黄宝石」の名は、昭和9年(1934年)に使われたのが最後のようで、このころ
TOPAZの鉱物としての和名は、「黄玉」に統一されたらしい。
( 宝飾の世界では、今でもTOPAZ の和名として「黄宝石」が使われている。 )
呼び名 初出年
(西暦) 出 典 備 考
黄玉石 明治26年
(1893年)「三重県下の鉱物」
地質学雑誌
黄玉 明治27年
(1894年)「近江国大谷山の黄玉」
地質学雑誌
黄宝石 明治32年
(1899年)「液体入黄宝石」
地質学雑誌
5. おわりに
(1) 明治40年(1907年)に出版された、和田維四郎の「本邦鉱物標本」によって、『 黒平の
TOPAZ(当時は、「黄宝石」) 』 が世に知られるようになって、奇しくも、今年(2007年)は
その100周年にあたる。
八幡山の母岩付き日本式双晶」を購入したのも、今では良い想い出である )
が少なくなっている。
その理由は、
@ 欲しい標本が出ていない。
「日本産50種」の残り5種のように、自分が欲しいと思う標本が市場にない。
A ネットオークションが充実し、”毎日が売りたて(現金採集日)”状態
自分が欲しい鉱物を”アラート機能”に登録しておけば、オークションに出たときに
自動的にメールで教えてくれ、見逃すことも少ない。
B 我が家の事情
「これ以上買ってどうするの」、と妻の声
( 子どもたちは、鉱物に全く興味がないし、孫はどうなることやら・・・・・・・・・
そうなると、「ただの石」どころか「邪魔な石」になって、捨てられるのがオチ )
晶洞を開け、「水晶」「長石」「希元素鉱物」などを採集した。
あるとき、「ガドリン石」などベリリウム鉱物を伴う晶洞で「トパズ」を採集した。これに
ついては、別な機会に報告したい。
6. 参考文献
1)和田 維四郎:日本鉱物誌(第1版),東京築地活版製造所,明治37年
2)和田 維四郎:本邦物標本,東京築地活版製造所,明治40年
3)岡本要八郎、桜井欽一:「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査
地学研究Vol.10 No.5,1958年
4)原田 準平 監修:日本産鉱物文献集 1872〜1956,日本産鉱物文献集編集員会
1959年
5)田賀井 篤平編:和田鉱物標本,東京大学出版会,2001年
6)東京国際ミネラル協会:第20回東京国際ミネラルフェア公式ガイドブック
東京国際ミネラル協会,2007年