湯沼鉱泉の板チタン石付き水晶

湯沼鉱泉の板チタン石付き水晶

1.初めに

今年は、甲府地方も冬の訪れが例年より早く、40日近くも早く朝の最低気温が
零下になるほどで、採集に行くのも及び腰になりがちです。
最近届いた「ペグマタイト」誌を読むと、『水晶の日本式三連双晶やエステレル式双晶が
あちこちで見つかり、この機会に古い標本の総点検をしてみては如何でしょう』とある。
9月〜11月初旬にかけ、チタン鉱物を求めて平沢、竹森、水晶峠の御堂川などを訪れた。
既報のように、鋭錐石は採集できたが、どの産地でも板チタン石は見つからなかった。
以前、神戸大医学生のTさんから、『長野県川上村湯沼産の角閃石入り水晶に、鋭錐石が
ついているものもあるそうで、確率は10%弱とのこと。未確認情報では、板チタン石も
可能性あり』とのメールをいただいたことを思い出した。
そこで、湯沼で採集した水晶をルーペで良く見てみると、鋭錐石と共生する板チタン石が
付いたものが1個体ありました。
(2002年11月観察)

2.産地

場所は、湯沼鉱泉の社長に場所を教えてもらうと良いでしょう。
湯沼の角閃石入り水晶産地

3.産状と採集方法

湯沼鉱泉の社長の話では、ここでは、褐鉄鉱を採掘したそうです。晶洞の水晶を
渇鉄鉱が埋めたようで、水晶が無数に入った渇鉄鉱の大きな塊が転がっています。
板樋で、鉱石を山裾まで落とした際に、こぼれたものが、ズリになっているようです。
落ち葉の下の、赤玉土状のところを、小さなツルハシや熊手で掘り返して、採集します。

4.観察鉱物

(1)板チタン石【Brookite:TiO2】
黄褐色透明の六角板状で鋭錐石に伴って産出します。表面の光輝の強いのも特徴です。
水晶からチョットだけ頭を出した形です。
鋭錐石のついた水晶に板チタン石がある確率は、10%以下と予想します。
板チタン石【鋭錐石と共生】

5.おわりに

(1)鋭錐石、板チタン石、ルチル(金紅石)の化学式は”TiO2"で同じですが
結晶系はそれぞれ正方晶系、斜方晶系、正方晶系で、結晶の形はまるで違います。
これら3兄弟が、どのような条件で生まれるのか良くわかりませんが、”ルチル”が
ないとは言い切れません。
この産地の水晶には、ほとんど”角閃石”が入っていますが、もしかしたら”ルチル”が
入っているものがあるのでは・・・・・・。
(2)湯沼鉱泉の社長からは、『小さな産地なので、1人数本にとどめ、採り過ぎ
ないように』との注意を受けています。産地保護に、ご協力をお願い致します。

6.参考文献

1)松原聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1987年
inserted by FC2 system