『 1975年の2月、ウラン資源調査のため国立科学博物館の専門の方とともに
雪入の採石所を案内することになった。雪入からは、少量ながら燐灰ウラン石
燐銅ウラン石という、ウランを含む鉱物が見つかっていたからである。
採石所では、石材として使いものにならないペグマタイトの部分はズリ石として
捨ててあることが多く、私たちにはありがたい。ズリ石の山に腰を下ろして
叩いているうちに、博物館の加藤(昭)博士が、首をかしげて一片の石を拾い
あげたのだ。
「 どう見ても、これはミトリダト石という、燐酸塩鉱物としか思えない。・・・・・」と
言うのである。私どもアマチュアが見ても(見ると?)、うすぎたない石英の破片の
上に、青苔かと思われる草緑色の皮膜がついているだけの代物である。「こういう
ものがあるというのは、もしかすると燐酸塩ペグマタイトがある証拠かもしれない」
ともおっしゃる。
加藤氏が首をかしげた直後、「あっ、これだ!」ともう一人が声を上げた。何と
仲間の一人がずっと腰をかけていた石塊に、鮮やかなブルーの鉱物がくっついて
いるのを認めたのだ。・・・・・・・・・・・ちょっと見ただけでも7、8種類の見なれない
鉱物がたちまち見出されたのだから一大事だ。・・・・・・・・・・・。こうして、日本最初の
燐酸塩ペグマタイトが確認され、その後、隣合せの採石所からも見つかって
約20種余りの燐を含む鉱物が同定された。このうち、日本新産が14種、新鉱物が
1種含まれている。いってみれば、日本の鉱物研究史上、画期的な発見となった。』
それから、四半世紀余りが経った2006年の年明け早々に訪れ、「雪入ふれあいの
里公園」に展示してある燐酸塩鉱物やウラン鉱物などを見た後、ホルンフェルスに伴う
「菫青石」を確認できた。
燐酸塩鉱物、ウラン鉱物の産状を確認できたので、暖かくなったら再訪を考えている。
( 2006年1月採集 )
かつての採石場の跡に、自然観察・学習の場として建物が作られ、ズリが整備され
1990年ごろ訪れた時の面影はかろうじてコンクリートの擁壁に残っているくらいです。
地質年代 | 説 明 図 | 説 明 | 中生代中ごろ (2億年〜1億5000万年前) |
深い海底に大陸から運ばれた 泥や砂が堆積し厚い地層を つくった。 |
中生代末〜新世代初め (6500万年前ごろ) |
”筑波山”のもとになる 斑レイ岩マグマが入り込み 次に花崗岩マグマが入り込んだ。 マグマの熱で、まわりの泥岩や 砂岩が変成を受け、ホルンフェルスと 呼ばれる硬い岩石に変わった。 海底が隆起し(持ち上がり) 陸地になった。 |
〜現在 |
地表が雨や風でけずられ 山の形が造られた。 筑波山を造っている斑レイ岩は 硬くてけずられにくいので より高い山頂として残った。 |
3.2 雪入の岩石と鉱物
雪入で発見された鉱物が「雪入ふれあいの里公園」の建物の中に展示されており
鉱物とその産状を理解することができます。
緑柱石、ザクロ石、電気石などは既にHPで紹介していますので、雪入ならではの
燐酸塩鉱物と変り種として金鉱石を示します。
鉱 物 名 (英名) | 化 学 式 | 写 真 | 説 明 | 燐銅ウラン石(Torbernite) | Cu(UO2)2(PO4)2 ・10_12H2O |
濃青緑色、鱗片状で 産する。 |
燐灰ウラン石 (Autunite) | Ca(UO2)2(PO4)2 ・10_12H2O |
黄色〜淡黄色の土状 または鱗片状の結晶が集合。 ミネラライトで黄緑色の 蛍光を示す。 |
燐灰石 (Apatite) | Ca5(PO4)3(F,Cl,OH) |
淡黄緑色の皮膜状で 産する。 |
鉄天藍石(Scorzalite) | FeAl2(PO4)2(OH)2 |
モンブラ石に伴って 青緑色の細かい粒状で 産する。 |
金鉱石 (Gold Ore) | Au |
大正〜昭和の初めに試掘した 白い石英の中の黒い筋(銀黒)に 金や銀が含まれる。 |
3.3 採集方法
公園内での採集はできませんので、観察するだけです。駐車場に車をとめ、左側から
建物の裏に回り込み、自然観察路を約500mほど登ると「風の池」がある。
自然観察路のそこここに白いペグマタイト脈やホルンフェルス脈が見られ、晴れた
日には白雲母がキラキラ光っている。
「風の池」の西側には、ペグマタイト脈の説明板があり、それによると粘板岩(ホルン
ヘルス)と両雲母花崗岩に幅数メートルのペグマタイト脈が入り込んでいるのが観察
できる。また、池の北側の採石場の壁面であった所にも、幅数十センチの白いペグマ
タイト脈が数条認められる。
各種のペグマタイト鉱物は、「風の池」の水辺近くで観察できる。
公園に至る林道脇にペグマタイトやホルンフェルスの転石があり、そこからなら
採集できます。
(2)鉄礬柘榴石【Almandine:Fe3Al2(SiO4)3】
花崗岩ペグマタイトの白雲母に接した部分に、赤〜赤黒いガラス光沢の結晶で産する
大きさは、最大でも2mm程度と小さなものである。
『 「新鉱物」発見という世界初への挑戦には,それを支えるさまざまな人や石との出会いが
あり,また失敗談やフィールドでのハプニングなどのさまざまなドラマがある。
長年に渡って実際にフィールドを歩いて調査してきた著者が,発見にまつわる物語や
三宅島噴火などを紹介して石から見た自然観を語る 』
早速注文したので、到着次第、眼を通して、「雪入」での様子などが書かれているのか
確認してみたい。( ただ、「フィールドガイド」には雪入から新鉱物が発見された、とあるが
実際は発見されていないので、記述されていないかもしれない )
(2) 「雪入山てくてくNo10」によれば、採石所が稼行する以前、雪入山一帯は、茅葺屋根の
材料となる茅(すすき)が生える「茅場」と松林があっただけであったらしい。
採石所が休止して20年以上がたち、昔の環境に戻りつつあるようで、4年ほど前に訪れ
たとき、自然観察路のあちこちにイノシシの暴れた跡が残されていた。
燐酸塩鉱物などを観察できるチャンスはますます少なくなりそうです。