千葉県八岡(ようか)海岸のソーダ沸石

     千葉県八岡(ようか)海岸のソーダ沸石

1. 初めに

   某電子部品メーカーから招請をいただき、技術コンサルタントとして2008年1月
  千葉県に単身赴任した。
   持って行く荷物はできるだけ少なくしようと、鉱物関係の本は、草下先生の「鉱物
  採集フィールドガイド」ほか数冊だった。

   「鉱物採集フィールドガイド」を読み直してみると、『千葉県安房鴨川の鉱物産地』
  なる一章があり、「ソーダ沸石」などの沸石系のほかに”ラブラドライト”系の鉱物が
  採集できるとある。
   この本が書かれて、30年近くが経ち、産地の様子を石友・Yさん、Mさんに尋ねた
  ところ、産地地図と採集品の写真が載った産地案内をメールしていただいた。

   2008年2月初旬、単身赴任の”行状監督”に来た妻と、八岡海岸を訪れた。石友
  Yさん、Mさんの情報のお蔭で、迷うことなく産地に到着でき、教えられたポイントで
  沸石脈が走る転石を叩くと、「ソーダ沸石」などが採集できた。しかし、転石はかつて
  採石場か鉱山(?)が稼行していた当時のもので、訪れる人に叩かれる度に減って
  しまい、良品は得にくくなっているようだ。

   ”ラブラドライト”の正体は”中性長石”らしいが、桜井先生のコレクションにただ1点
  あっただけという、『幻の鉱物』と言われるだけに、簡単には見つからなかった。

   千葉県東南部、太平洋に面した暖かいはずの産地だが、この日は肌寒い1日だ
  った。それでも、「長崎鼻のピンクの霰石」に勝るとも劣らない綺麗な沸石を採集で
  き、『石(鉱物)なし県』と聞いていたイメージを修正しつつある。

   産地情報を教えていただいたYさん、Mさんに厚く御礼申し上げる。
   ( 2008年2月採集 )

2. 産地

    「鉱物採集フィールドガイド」に掲載されている地図を引用させていただく。この
   本に稼働中とあった採石場も既に休止して久しいらしく、附近の様子はだいぶ変
   わっている。

       
            地図                 海岸
        【フィードガイドから引用】 
                      産地

3. 産状と採集方法

   海岸には、枕状溶岩、礫岩などの転石がゴロゴロしている。大きなものは、大人
  ふた抱え(周囲約3m)以上もある。沸石類は、真っ白い沸石脈が走る赤褐色〜茶
  褐色の転石の中にある。
   転石のいくつかには、削岩機であけた丸い穴が開いており、これら転石は、鉱山
  の採掘か採石で生じたものと考えられる。
   沸石の脈が見える転石を4kgの大ハンマやタガネと2kgハンマで割ると、晶洞が
  現われることがあり、そこに「沸石の結晶」が見られることが多い。

     削岩機による穴のあいた転石

4. 産出鉱物

 (1) ソーダ沸石【NATROLITE:Na2Al2Si3O10・2H2O】
     透明〜白色、四角い柱状で、先端が低い錐面の特徴ある結晶で晶洞の中に
    見られる。
     変成を受けた黒くて硬い母岩に網目状に走る、脈状のソーダ沸石の太い部
    分に晶洞が来ることが多いようだ。

      ソーダ沸石

     このほか、「方沸石」や稀れに「魚眼石」が採れる、との情報もあるが、確認で
    きなかった。( ルーペを忘れてしまった )

5. おわりに 

 (1) 千葉県の鉱物

     千葉に来て2週間、落ち着いたころに、ご当地の石友・Mさんから次のような
    メールをいただいた。

     『 もうはハンマーの封印はハズレたのでしょうか? 

       科学博物館 データベース登録鉱物標本は50種 計223個ありました。
      『石無し県』にしては多いのかもしれません。
       主な産地としては、富津市 銚子市 鴨川市 南房総市 峯岡山 安房郡
      等がありますが、中でも鴨川市の太海はNatrolite(ソーダ沸石)の産地として
      有名で、房総の先っぽの方にはzeolite(沸石類)の産地が沢山あるようです。
       太海(ふとみ)のNatrolite(ソーダ沸石)は多分MHさんの図鑑にも美晶が
      載っていることでしょうね。

       個人的にはNatrolite(ソーダ沸石)が千葉県の代表的美晶鉱物の一つだと
      思っております。                                   』

       全国各都道府県を代表する鉱物を『 県の鉱物 』として、HPに掲載した。

『 県の鉱物 』
( Mineral of Prefecture )

       これによると、千葉県の鉱物は、『ソーダ沸石』である。産地は、「太海(ふ
      とみ) 」とあるが、今回訪れたと同じ場所を指しているようだ。
       益富地学会館監修の「日本の鉱物」にも、千葉県鴨川市八岡山太海産の
      「ソーダ沸石」が記載されている。

 (2) 鴨川のラブラドライト
      「鉱物採集フィールドガイド」には、鴨川地域で採集された”ラブラドライト”に
     ついて次のように記している。

      『 かつて明治の末かか大正の初めころ、この地域の海岸から青紫色のみ
       ごとな閃光を放つ長石がひと塊見つかったことがある。
        ・・・灰褐色の塊状でおそらくラブラドル長石だろうといわれていた。しかし
       鴨川地区のどこから産したのかはっきりした報告がなく、幻の鉱物と言わ
       れている 』

      桜井先生のコレクションにただ1点あっただけという、『幻の鉱物』と言われる
     だけに、簡単には見つからなかったが、引き続き探してみる価値はありそうだ。

6. 参考文献 

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 2) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 3) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
inserted by FC2 system