やまなし伝統工芸館の水晶展示(その2)

やまなし伝統工芸館の水晶展示(その2)

1.初めに

 2月も末になり、ようやく鉱物採集に行ける状態になり、今年の採集初め
として、黒平・向山鉱山で水晶を採集した。
 2月29日に、石和町の「帝京大学山梨文化財研究所」でシンポジウム
『生産遺跡から探る「モノづくり」の歴史』の第1回として、「金山・銀山の
技術」が開催されたのを聴講した。
 昼休みには、隣接する「やまなし伝統工芸館」の展示がこの日は無料で
観覧できるとのことで、訪れた。
 HPの記録をみると、この前訪れたのは、2001年1月で、3年ぶりの訪問で
あったが鉱物展示などは、殆んど以前のままであった。
 1階の山梨県の伝統産業である、水晶・貴石彫刻の原材料の採掘から
完成品までを展示しているコーナには、黒平、八幡山、乙女鉱山などの標本が
展示してあり、山梨県の水晶産地と産出鉱物を知る事ができる。
 2階には、特別展示やお土産ショップもあり、山梨県の詫間氏の
収集品のうち、水晶関係を集めて「特別展示-水晶原石展-」として
今でも展示している。
(2004年2月訪問)

 やまなし伝統工芸館

2.場所

 国道20号線を東京方面から甲府に向かって走り、石和温泉駅入口を過ぎると、
「四日市場」の信号がある。ここを左折すると、約100mで、左手に茶水晶を
イメージしたような建物が見え、ここが「やまなし伝統工芸館」です。
 大型バスが10台以上停められる駐車場がある。
 入り口脇には、直径1m以上もある、緑色も鮮やかな「ひすい原石」がデーンと
おいてあります。

    【新潟県糸魚川産】

3. 展示内容

  1階は、水晶彫刻、印伝などの山梨県の伝統工芸品を展示していますが、約1/2の
  スペースが水晶や宝飾関係の展示です。
  2階は、特別展示室、図書室、ミュージアム・ショップなどがあります。

 3.1 1階常設展示【水晶産地と採掘】
   山梨県の水晶産地、鉱山名、産出した水晶の特徴、採掘方法や産出した鉱物まで、
  ジオラマや写真、図と実物を使って展示している。

     山梨県水晶概観

  (1)山梨県の水晶産地と産状
      山梨県内にあった、「乙女」のような有名鉱山から、「バッタリ」のように
     名前だけで、その存在がベールに包まれた鉱山まで、産地が地図の上にプロット
     してあります。

       
         水晶産地        産地別産状

  (2)山梨県産水晶と特徴
      実際に採集に行って見ると、尾根1つ越えただけで、水晶の産状・産出する水晶の
     特徴がガラリと変るのには驚かされますが、地質学・鉱物学的には、キチンとした
     理論に則っているようです。
     産地と特徴

  (3)黒平・向山鉱山の坑道
      黒平町の向山鉱山には30を超える坑道があったとされ、その内に6つの坑道の
     断面図が掲示してあり、改めて規模の大きさを認識できます。

       
         出穴            神楽殿穴

       
        明電穴           大戸屋相場穴

       
        大穴             トッコ穴

  (4)採掘道具と採掘の様子
      ハンマ、タガネなど鉱物採集の一般的な道具のほかに、”くじり”と呼ばれる
     水晶を晶洞から掻き取るための道具は平成の水晶採掘人も持ち歩いているのを
     見ると、人間は進歩しているようで、そうでもないことを知ります。

       
         採掘道具             採掘の様子

  (5)竹森水晶坑の盛況
      私のHPのい別なページにも掲載したように、”水晶を掘れば破産する”
     言われたほど、水晶採掘は”ハイリスク・ローリターン”だったようです。
      その中でも、例外的に盛況を呈したのは、塩山市・竹森の「水晶山」だった
     ようです。

 竹森水晶坑の盛況【明治12〜18年頃】

 3.2 1階常設展示【産出鉱物】
    産出した鉱物では、水晶、長石のほかに、黒平産のアマゾナイト(天河石)や
   トパーズも展示してあります。
    山梨県産鉄礬ザクロ石の中に、「和田峠産の満バンザクロ石」が混じっているのは
   ご愛嬌です。

    
   山梨産鉱物【左から天河石、電気石、トパーズ、ザクロ石】

         
        バッタリ坑               八幡山

     八幡山産双晶【科学博物館収蔵】
             山梨産水晶

 3.3 1階常設展示【水晶加工】
    山梨県の水晶稼行の歴史は、金桜神社の神官による水晶玉の加工に始まるとされ
   初期の手作業、大正期の大量生産時代の始まりそして超音波を用いた穴あけ加工に
   代表されるハイテクの導入と歩んできています。

            
  金桜神社神官による水晶玉加工   大量生産の始まり【大正初期】

         
       機械による水晶切断        超音波による穴あけ

4. 2階展示
  2階には、特別展示やお土産ショップもあり、山梨県の詫間氏の
  収集品のうち、日本各地の水晶はじめメノウ、人工水晶にいたるまで
  「特別展示-水晶原石展-」として今でも展示している。

 4.1 「特別展示-水晶原石展-」
   日本各地から外国産まで、色々な産地の変った色・形の水晶を
  所狭し、と展示している。
  

  「特別展示-水晶原石展-」詫間コレクション

    数ある標本の中で、目を引かれたのは、両錐水晶と対をなす、黒平産の
   日本式双晶と奈良県川迫鉱山の小さな水晶である。
     
     黒平産日本式双晶【10cm】    奈良県・川迫鉱山産
             詫間水晶コレクションの一部

 4.2 「天然の美と形展」
    2階の廊下部分で、色とりどりの鉱物を集めた特別企画展「天然の美と形展」が
   開催されている。
  

   このほか、2階には図書室があり、今まで放映された、山梨の水晶関係のビデオを
  自由に見たり、鉱物関係の書籍を閲覧できる。

5.おわりに

(1)今まで気付かなかった(見過ごしていた)向山鉱山の坑道の断面図をはじめ、貴重な
   資料が展示してあることに、改めて気付きました。
   これらの資料をキチンと纏めて見たいと考えています。
(2)しかし、前の日に行った向山鉱山の坑の名前と坑道の図面が一致していないのが
   気にかかります。地学ガイドの地図を頼りに産地を訪れても、坑道のあるべき場所に
   なかったり、坑道の形状が記述と違っていることが、ままあります。
    藤原翁をはじめ、当時の様子を知っている方々が亡くなっている今となっては
   どれが正しいのか知るすべもありません。
(3)奈良県・川迫鉱山産の水晶は、奈良県の石友・Aさんが4月に案内していただける
   予定になっており、今から楽しみです。
(4)「やまなし伝統工芸館」にはホームページがあるので、展示内容や休館日を確認して
   行かれると良いでしょう。

「やまなし伝統工芸館」

6.参考文献

1)やまなし伝統工芸館編:パンフレット,同館,2004年
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