山梨県北部でのミネラルウオッチング

          山梨県北部でのミネラルウオッチング

1. 初めに

   2005年も余すところ1ケ月となり、山梨県内の林道が通行止めになるのも目近である。
  そうなると、夏場には比較的簡単に行けた産地でも訪れるのが不可能になる。そんな
  矢先、石川県の石友・Yさんが山梨県でのミネラルウオッチングを楽しみたいと来甲され
  2日間にわたり山梨県北方の産地をご一緒した。
   初日に水晶峠、鈴庫鉱山、平澤、2日目に黒平の奥、そして増富鉱山を訪れ
  それぞれの産地の現状を把握すると共に、代表的な標本を確認していただいた。
   黒平を訪れた2日目、発達した低気圧が日本海を通過した影響で、朝の内は雪が舞い
  それが上がり晴れ間が見えたかと思うと強風に煽られ、急崖でのミネラルウオッチングは
  ヒヤヒヤものだった。その帰り、産地のガレとは全く関係ない場所で、Yさんが
  ビックリするような大きな水晶を採集し、『 黒平 恐るべし 』 との感想を残して
  無事帰宅された。

      大きな水晶を手に満面笑みのYさん

   山梨県内の鉱物産地は広い範囲にまたがり、まだまだ隠れた標本が眠っているよう
  ですの、今後も皆さんとご一緒するのを楽しみにしています。
  ( 2005年11月 採集 )

2. 産地

   山梨県北方の鉱物産地と代表的な標本そして現状を一覧表にまとめてみた。

  産  地   代 表 的 標 本   現       状  備     考
小尾八幡山水晶、日本式双晶、燐灰石 スリガラス状水晶採集可能  
水晶峠山入り水晶、緑水晶、日本式双晶表面採集でもそこそこ採集可能 既報
 12/1〜翌年5/31まで
林道閉鎖のため
アプローチ困難
乙女鉱山水晶、日本式双晶、灰重石、ライン鉱採集禁止との情報あり    
鈴庫鉱山カニュク石、硫化鉱物と2次鉱物カニュク石は採集可能    
平澤鉱山氷長石、板チタン石、ルチル、水晶氷長石は激減    
平澤採石場跡チタン石、燐灰石チタン石はかろうじて採集可能    
竹森ススキ(苦土電気石)入り水晶
鋭錐石、板チタン石
 採集禁止    
大菩薩峠褐簾石褐簾石は採集できると思われる 冬季、林道閉鎖
裂石煙水晶、緑簾石 採石場が閉鎖して
10年以上経ち良品採集困難
    
増富鉱山銅藍、硫砒銅鉱、銅の2次鉱物 極めて狭い範囲で少量採集可    
増富温泉石灰華 観察のみ 「増富の湯」(700円)は
ミネラルウオッチングの後
最適
黒平地区
(含む向山)
煙水晶、カリ長石、アマゾナイト
緑柱石、希元素鉱物
 思いがけない良品に
出会うチャンスあり
    

3. 産状と採集方法

   今回訪れた産地の産状と観察・採集方法を一覧表に示します。

  産  地      産  状   観察・採集方法  備     考
水晶峠 水晶鉱山のズリ
および真砂化した
ペグマタイト脈
 表面採集、ズリや脈を掘る 既報
鈴庫鉱山 鉱山ズリ 表面採集、ズリを掘る 坑道も残っている
平澤採石場跡 花崗閃緑岩中の
石英脈の晶洞に産する
 母岩をハンマーと
タガネで割る
    
黒平地区
(含む向山)
 ペグマタイトや石英脈に伴う晶洞 水晶や長石のカケラを
手がかりに晶洞を探す
 向山地区には坑道が
多数残っている
増富鉱山 銅鉱山ズリ、貯鉱場跡 表面採集、ズリを掘る貯鉱場跡あり
増富温泉 温泉成分が沈殿して
石灰華が層をなす
 観察・測定のみ
 ガイガーカウンターで
調査した結果
特に高い放射能レベルは
測定できなかった
 案内板の説明には
以前は川岸に達するほどの規模であった
とある

4. 産出鉱物

   これらの産地で観察・採集できた鉱物を紹介します。
  産 地  鉱物名   成    分    標      本  備考  
鈴庫鉱山カニュク石
Kankite
Fe'''AsO4
・3.5H2O

      ウグイス色部分
 スコロド石【Scorodite:Fe'''AsO4・2H2O】より
水が1.5分子多いのが採集のヒント
 ズリのある深さ(水位レベルに近い)に
層をなし生成している
 チェコスロバキア(現在の国名?)
クトナホラと鈴庫鉱山でしか
産しないとされた含水正砒第二鉄
 クトナホラは、クトナホラ石
【Kutnahorite:CaMn(CO3)2】の
原産地(?)
硫酸鉛鉱
Anglesite
PbSO4 方鉛鉱の表面を覆うように
白色結晶集合として生成
菫青石
Cordierite
Mg2Al4Si5O18
・nH2O
 緑黒色ガラス光沢結晶として
石英に埋没して産出
 一部、白雲母
【Muscovite:KAl2Si3O10(OH)2】
に変化している
平澤採石場跡チタン石
(クサビ石)
Titanite
CaTiSiO5 鉄電気石と共生
黒平地区煙水晶
Smokey Quartz
SiO2
         全体


 インクルージョン
   (内包物)拡大

 内包物は黒雲母(?)
増富鉱山銅藍
Covellite
CuS 新鮮なものは紫色だが
現在採集できるものは
ほとんど黒色に変色
 六角板状で
多孔質石英(水晶)の
空隙部分に産する
 貯鉱場跡で小さなものを採集
硫砒銅鉱
Enargite
Cu3AsS4
      針状結晶
 木目の細かい(俗に白粉肌と呼ぶ)
石英に埋没して青黒い針状結晶と
その集合体で産する
 ズリの特定部分でのみ採集可能

5. おわりに

 (1) Yさんにとって初めての山梨県北部でのミネラルウオッチングであった。黒平の奥では
    産地から戻る途中、私の後ろを歩いていたYさんが、素っ頓狂な声を張り上げた。
     松の木の根元に、10cmほどの水晶が転がっていたのを発見したからであった。
     ( 先を歩いていた私は、全く気付かなかった。同じようなことが、2005年の春にも
      あったことを思い出している )
     Yさんは、
     『 黒平 恐るべし 』 
      との、感想を残して帰られた。

 (2) 一週間後に、東京から「柳沢峠」を越えて山梨に戻った。峠付近はこの冬初めての
    本格的な雪になり、側溝に落ちた車を何台か見かけ、パトカーと救急車ともすれ違った。
     これから、本格的な冬を迎え、訪れることができる産地は限られ、採集品の観察や
    来春以降に備え、文献調査が主体の日々になりそうです。

      柳沢峠【2005年12月】

 (3) 鈴庫鉱山は、カニュク石以外、目ぼしい鉱物は何もないだろうと思っていたが
    今回「硫酸鉛鉱」を観察でき、「ブーランジェ鉱」や「車骨鉱」まであると文献にはあり
    再訪せねば、と思い直しています。
     さらに、山梨県北部には、広大な範囲にペグマタイト地帯が広がっており、2005年は
    他府県への遠征の合間に、某地域を重点に探索したが、まだまだ訪れていない地域が
    たくさんある。
     何とか、足腰が達者な内に、制覇したいと考えている。

6. 参考文献

 1)中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 2)益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
 3)松原 聰:日本産鉱物種1992,鉱物情報,1992年
 4)加藤昭、松原 聰:鉱物採集の旅−1 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
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