この産地については、長島乙吉・弘三親子の「日本希元素鉱物」で読んだことがある
だけで、訪れるのは初めてだった。
あらかじめ「日本希元素鉱物」の記述を地図に落として作成したルート・マップを持参
し、産地探索を開始した。
この本が出版されたのが1960年で、すでに半世紀が経ち、産地の変貌振りは激しく
「日本希元素鉱物」にはない巨大な砂防ダムがいくつもあり、いくつかの産出ポイント
はそれらの下に埋もれてしまったようだ。
とある沢筋を遡ると、先頭を行く私の眼に”青緑色のカリ長石”が飛び込んできた。
思わず、「アマゾナイト(天河石)があった!!」、と後続のMさんに向って叫ぶ。辺りを
良く見ると、アチコチに大人の頭大から拳大の「アマゾナイト」がある。やがて、約10cm
もある”結晶”も現れた。
沢を遡ってペグマタイト質の転石が見られなくなったり、源頭まで詰めきると沢の合流
点まで引き返し別な沢を攻めることを何回か繰り返した。
別なポイントで、「チンワルド雲母」を伴うペグマタイト塊を割ると、破面に茶褐色の四
角柱状結晶があり、その周囲の長石には”ピンク色のハロ”が来ていて、狙っていた
「山口石(Yamaguchilite)」に間違いなさそうだ。
ほかにも、Mさんが「褐簾石」、私も「イットロ蛍石」など、「日本希元素鉱物」に産出が
報告されている鉱物をいくつか採集できた。
ルート・マップに実際歩いたルートを重ねてみると、この日訪れたかった目的地よりも
はるか手前を探索していたことになるようだ。
1日も早く再訪したいのだが、これからイベントが続き、次回探査は来春以降になりそ
うだ。
案内、同行いただいたMさんに厚く御礼申し上げる。
( 2009年10月 採集 )
今回、初めての産地ということもあり、「日本希元素鉱物」の記述をもとに、”目印”と
”距離”を地図に落としたルート・マップを作成して持参した。そして、実際に歩いたコー
スと産出した鉱物をマップに書き加えてみた。
この地域の「アマゾナイト」も乾くと青緑色が薄れ普通の長石と見分けが付きにくい
ものが多いので、沢筋など、水分を含んだ場所で採集するのが良いようだ。
逆に、「紫色の蛍石」は、乾燥すると紫色に見えるのだが、水に濡れていると煙石英
のように見えて見逃してしまう。何とも、悩ましい限りだ。
(1) 山口石/変種ジルコン【Yamaguchilite/ZIRCON:ZrSiO4】
帰宅後、採集した標本を実体顕微鏡下で観察したところ、「山口石」の産状には、
いくつかあるのが判明した。
@ 曹長石ペグマタイトの中に産する。茶褐色の正方柱状で、周囲の長石が
”ハロでピンク色”に染まっている。【現地で気づいたタイプ】
A 黒雲母に埋もれて産する。【明るい場所でルーペで確認できた】
「山口石」の名は、ここに産するリン(P)を多量に含む変種ジルコンに東大・木村
教授などが付けたものだが、「苗木石」同様に、鉱物種としては認められていない。
同じ中津川市にある苗木地方(高山や蛭川を含む)で採集できる「苗木石」との
外観的な違いは、下の表に示すように色しかない。
鉱物名 | 俗 名 | 理想的な化学式 | 外観色 | 結 晶 図 | ジルコン (変種ジルコン) | 苗木石 | (Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4 | 緑色 |
結晶図 【日本希元素鉱物から引用】 |
山口石 | (Zr,Hf,Y,etc)(Si,P)O4 | 褐色 |
これにより、変種ジルコンの内、緑色のものを「苗木石」、褐色のものを「山口石」と
簡単に呼ばれているが、色だけで決定するのは危険、ともされてもいる。
しかし、私のような”甘茶”が判断できる基準は色しかないので、「山口石」として
ある。
(2) アマゾナイト/天河石(微斜長石)【Amazonite(MICROCLINE):KAlSi3O8】
カリ長石の一種、微斜長石で白〜黄〜緑〜青色の柱状結晶で産出する。図鑑
にあるような分離単結晶の採集は難しいが、今回、ほとんど結晶面で囲まれた美晶
を表面採集できた。残念ながら、青緑色は薄く、塊状のものの中には、濃い色のも
のがある。
青緑色に着色しているのは、微量に含まれる鉛(Pb)の影響とされている。希元素
鉱物に含まれるウラン(U)やトリウム(Th)などの放射性元素は、崩壊し最終的には
安定な鉛(Pb)になる。
「アマゾナイト」は、希元素鉱物の”道しるべ”となりそうだ。
(3) チンワルド雲母【TINNWALDITE:KLiFeAl(AlSi3)O10(F,OH)2】
「長島鉱物鉱物コレクション」には「(六角)厚板状」の分離結晶と「薄板状母岩付」
の写真が記載されている。
今回採集できたのは、厚板状の母岩付きだ。
(4) 蛍石【FLUORITE:CaF2】
透明〜紫色で、小結晶が集合した脈〜塊状でペグマタイトの石英、長石に接して
見られる。
”甘茶”の私が、「イットロ蛍石」ではないだろうか、と考える根拠は、次の3点であ
る。
@ 近接する黒雲母の中に、(1)で紹介したイットリウム(Y)に富む「山口石」が
ある。
A 紫外線(短波長)で蛍光しない。
B 紫色(通常、黄色とされるが、福島県水晶山産に”紫色”もあるらしい
ただ、「日本希元素鉱物」のイットロ蛍石の項に、この産地のものは
『ザクロ石に伴って産し、淡黄緑色・・・・・』、とあるので・・・・・)
ミネラル・ウオッチングを終えて帰宅するとき、国道19号線を北上すると、長野県
南木曽町に『柿其(かきぞれ)渓谷』があるのを知った。”ぞれ”には、”其(それ)”
の漢字をあてている。
インターネットで調べると、静岡県の飯田線に『大嵐(おおぞれ)駅』がある。
どちらも訪れたことがないので判らないが、”ぞれ”、と呼ばれる地形から名付けら
れたのだろうか。
(2) 産地再訪
これから、小学生の出前授業、恒例の秋のミネラル・ウオッチングがあり、それが
終わると3男の嫁さんの出産、そして姪の結婚式とイベントが続く。
冒頭に、次回探査は来春以降になりそうだ、と書いたが「菱柱状の錫石」や益富、
桜井両先生が発見したという「トパズ」の魅力も大きく、再訪のチャンスをうかがって
いる。