山梨県甲府市黒平向山鉱山の露頭で晶洞を開け、水晶の巨晶・美晶を採集したのは
既報の通りである。この露頭は、堅いのなんの、話の他で、持参したタガネの先がすぐ
丸くなったり、下手に叩くと”3叩き半”で、折れて、使い物にならなくなってしまう。
いつも、最低5、6本は新品状態のタガネを持参するが、帰りは丸坊主で使い物になる
のは、全く残っていない日も多かった。
何回か向山鉱山の露頭に通っていると、あることに気付いた。
@ タガネは、形状・サイズによって、丸まり、あるいは折れにくいものがある。
そもそも、タガネで岩を割る理論はどうなっているのだろうか。理論を知ってお
けば、『百戦危うからず』
A タガネの上手な使い方
下手にタガネを使うと、”3叩き半”で、肝心な先端が折れて使い物にならなくな
ってしまう。折れる原因が解れば、対策できるはずだ。
B 折れたり、丸くなったタガネの再利用
先が丸くなったタガネを1回使っただけで”ポイ”と捨ててしまうのは、わが家の
財政状況が許さないし、資源の無駄使いは慎まねばならない。
産地に捨てられていたり、岩に刺さったままのタガネは回収・再利用してあげ
れば、タガネも”成仏”できるだろう。
@〜B について、私なりの理論と経験をお伝えしたい。
( 2007年11月作成 )
@ 圧縮に強い。・・・・・・・・・・積み重ねて石垣、建物など
A 引っ張りに弱い・・・・・・・・1枚岩で橋などを造る場合、アーチ(弓)形に反った
形状にして、引っ張り力を分散させる
B 衝撃に弱い・・・・・・・・・・・”ガツン”という衝撃でなく、”ジワ〜”っと加重が掛か
る土台など
( 逆に言えば、割るのには”衝撃”を加える )
これらの強みを封じ、弱点を攻めれば、割りやすいことになる。
(2) タガネの種類と形状
下の表に、タガネの種類と形状を示す。
呼称(よび名) | 写 真 | 主 な 用 途 | 備 考 | 直(ちょく)タガネ チスタガネ |
直タガネ | 穴をあける 岩を割る | 平(ひら)タガネ |
正面 側面 平タガネ | 割れ目を広げる 岩を割る 岩を切る |
(3) タガネの形状
読者の皆さんは、タガネの先端を”マジマジ”とご覧になったことがあるだろうか?
先端のクローズ・アップ写真を見ていただこう。テーパー(細り)が”2段”になっている
ことに気付くだろう。これが、タガネの秘密なのである。
この先端部分は、炭素(C)の含有率が高く、モリブデン(Mo)やバナジウム(V)などの
特殊元素を含み、強靭さを与えている。製造過程では、高温から水や油などに急激に
入れて冷却する”焼入れ”と呼ばれる熱処理を施し、硬さを得ている。
折れたタガネの断面を見ると、銀灰色で金属と言うより瀬戸物などを思い起こさせ
微細な粒状(マルテンサイト)組織になっていることがわかる。
反対端の叩く部分は、炭素(C)の含有量を少し減らし、特殊元素を含まなくても
粘り強さを与えている。長く使い込んでいくと、塑性変形(粘土細工のように”ぐにゃ
ぐにゃ”に変形する)し、鼓形に広がり、やがて”メクレ”てくるが、決して折れたりは
しない。
(4) タガネに働く力
タガネの先端は、”くさび形”をしている。これは、力学的には身近な”ネジ”などと
同じように加えた力で何倍かの力を生み出す『増力機構』と呼ばれる。さらに打ち
込んだ力を直角方向の力に変換し、硬い岩石を割る。
( ネジを使ったジャッキで、1トン以上もある自動車が持ち上げられる原理と同じ )
ハンマで叩いた力を与で、得られる割る力は、次の式で与えられる。
R=(F/2)/sin(θ/2)・・・・・・・・・・・・・(式1)
ここで
R : 割る力(岩石に働く引っ張り力)
F : ハンマで加えた力
θ : くさびの角度
理論的には、くさびの角度【θ】が小さいほど割る力【R】は大きくなるのだが、機械
的な強度が低下し、折れやすくなるので、その兼ね合いで上の写真のような先端の
形状になっている。
@手を打つのが怖くてタガネの下の方を持つ → ”ぐらぐら”する → タガネに横方
向の無理な力が働く → タガネが折れる、ハンマがそれて手を打つ → @
という”悪循環”に陥っているのが初心者なのではないだろうか。
ト ラ ブ ル | 原 因 | 対 応 策 | 備 考 | 手を打ってケガをする |
怖くて、タガネの先端に 近い部分を握る
タガネの頭だけ見ていて |
握った手から10mm程度 タガネの頭が出るように 持つ
タガネの先端を見て、確実に |
上を持ちすぎて ハンマとタガネの間に 手を挟まないように注意
自分の手を打つような |
タガネを折る |
怖くて、タガネの先端に 近い部分を握る
最初から太くて長いタガネを
岩を割るため、打ち込んだ |
同上
最初は、細くて短いタガネ
バールを打ち込んで | タガネが減る (磨耗する) | タガネに頼りすぎる
ただ岩を割ろうとする |
凸部を落とすときはタガネを 使わず、ハンマだけで落とす
岩石の面をハンマで強打し
母岩の弱いところ(割れ目 |
昔は、露頭の前で火を焚き |
4.1 使用するもの
(1) グラインダ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホームセンターで売っている。
特売で3,980円(通常5,000円以下)
「グラインダ」の代わりに、HPの「採集の技・整形」で
説明した「ディスクグラインダ」でも良い。ただし、
ダイヤモンドカッタの代わりに、「刃とぎ用砥石」を
取り付ける。
(2) 水をいれた容器・・・・・・・・・・・・・・イチゴのパックなどでよい。
熱くなったタガネを急冷する
4.2 研磨手順
タガネ全体が、新品と似た形状になるよう、タガネをグラインダの砥石に押し付け
削っていく。時々(1分に1回程度)、タガネの先約5cmを水に急に入れ、焼きが鈍(な
ま)る(鉄の質が軟らかくなる)のを防ぐ。
( 水に入れたとき、”ジュ”と音がすればよい )
強く押し付け過ぎるとグラインダの回転が止まるので、時々離して、砥石が正規の
回転数になるのを待つ。
4.3 研磨前後比較
研磨前後のタガネの先端を比較して示す。”新品同様”になること請け合いである。
結論は、『 弘法、筆を選ばず 』 である。
つまり、メーカーの違いよりも、使い方やタガネのサイズの選択などの方が重要だと
言うことである。良いと言われる「△△△印チスタガネ」が”3叩き半”で折れるのを
目撃したこともある。
(2) タガネをグラインダで研磨していると、削り取られた鉄粉が燃えて、線香花火のような
火花を出す。
この火花を見れば、炭素の含有量が何パーセントか凡そ見当がつき、”斬れる”か
どうかも感触でわかる。
まさにタガネは、”武士の大小(大刀と脇差)”みたいなものである。
( 女性の場合、”薙刀と懐剣” であろうか )