以前のページで、『 母岩付の方が標本の価値は高い 』、と書いたが、母岩付の場
合、産状・成因(できかた)そして共生鉱物などががわかるので学術的に貴重なのがそ
の理由の1つである。
さらに、母岩付のまま存在する確率が低い上、採集するのが難しく、さらに適当な標
本サイズに整形するのも難しく、それだけ存在するのが稀だからである。
これは、日本式双晶として一番市場に流通している「奈留島産」のもので、分離単晶
は1,000円以下で買え、母岩付は数万円していることで理解できるだろう。
運よく母岩付で採集した標本を、バランス良い標本に整形する方法をお知らせしたい
と思う。ただし、この方法は、騒音、粉塵を発生するので、マンション等、集合住宅に
お住まいの方々には、残念ながらお勧めできかねる。
( 2007年8月作成 )
今の私の持論は、 『 標本は母岩付で大きいほど良い 』 である。なぜなら、小さ
く整形するのはいつでもできるからである。
ただし、母岩付の場合は、”主体鉱物と母岩のバランス”が重要で、母岩の部分が
不釣合いに大きすぎると肝心な標本部分が”貧弱”に見えてしまう。
また、母岩に不要な突起などがあると、見た目にも安定感が悪い。
下の標本写真で、主体鉱物(この場合水晶)と母岩の大きさの割合がどのくらいがよ
いのか、読者の皆さんにも判断していただきい。
多くの読者は、標本Aは母岩がもう少し大きい方が良い、標本Bはバランスが良く
標本Cは、母岩が大きすぎて、”間が抜けている”、と思われたのではないだろうか。
ちなみに、主体鉱物の最大高さと母岩部分の高さは、つぎの表の通りである。
標本 | 主体鉱物の最大高さ H1(cm) | 母岩の高さ H2(cm) | 高さの比 H1/H2 | 私の評価 | 備 考 | A | 3.5 | 1.5 | 2.3 | △ |
採集した時点で 母岩(ゲス板)の 厚さはこれしか なかった |
B | 10.0 | 10.0 | 1.0 | ○ | B | 3.0 | 15.0 | 0.2 | × | 整形待ち状態 |
これから見ると、主体鉱物の高さと母岩の高さ(厚さ)の比は、1.0前後が良さそうで
ある。
全体としての形も、△(三角形)、台形、□(長方形【縦長〜横長】)そして○(球、楕
円体)などがバランスも良いだろう。
私が従来実行していた標本の整形方法は、次の2通りだった。
No | 方 法 | 説明 | メリット(利点) | デメリット(欠点) | 備 考 | 1 | ハンマで一撃 |
標本を手に持ったり 足で抑えてハンマで 一撃する | ハンマだけで簡単 |
割り損なうと肝心な 標本を飛ばしたり 母岩に醜い打痕が 残る |
フィールドでの粗い 整形に一般的に使わ れる |
2 | タガネを当てて 割る |
標本を床面に置き 手に持ったタガネを ハンマで叩き、タガネを 当てた箇所から 割る 標本を片足で抑えて おくと割りやすい |
簡単 |
母岩が硬かったり 層理(われやすい方向)が あると予定外の方法に割れ 標本を台無しにする |
一般的な整形方法 タガネには「角」「平」の 2種類あるが、整形には 「平」が良い |
4.1 使用するもの
(1) ディスクグラインダ・・・・・・・・・・・・・・「ディスクグラインダ」などの名称でホーム
センターで売っている。
特売で1,980円(通常3,000円以下)
(2) ダイヤモンドカッタ・・・・・・・・・・・・・・CDのような薄い円盤で周辺にダイヤモンドの
粒子を埋め込んである。
特売で5枚980円(1枚売りで500円前後〜)
(3) 平タガネ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダイヤモンドカッタで付けた溝に平タガネの
ハンマ 先端を入れて、ハンマで叩き標本を割る。
4.2 整形手順
私が甲武信鉱山・第3松茸産地で採集した「まりも入り松茸水晶の群晶」を例に
整形の手順を説明する。
No | 手 順 説 明 | 写 真 | 備 考 | 1 |
ダイヤモンドカッタで 溝を入れる線を決める @標本の正面を決める Aどこを残すか (=どこを捨てるか)を 決める B標本の裏側に境界線 (=カット予定線)を引く | 写真省略 |
一番時間をかける
カットした線が正面から |
2 |
ダイヤモンドカッタで 線に沿って溝を入れる |
【注意】 切断時、粉塵を吸わないよう 風向きを考え、必要なら 防塵マスクを付ける
騒音がするので、隣近所から |
3 |
平タガネを溝に入れ ハンマで軽く叩きながら 溝に沿って割る |
平タガネの先端くさび部が 溝にかろうじて入る程度 だと、割る力が有効に 働く
標本の下にはクッション |
4 | 完成 |
左:捨てる 右:残す |
カットした面が気になるなら 小さな角タガネで表面を 割って、わざと凹凸をつけ ても良い
この後、「クリーニング」 |
石友・Mさんにこの話をしたら、『 私も使っています 』、とのことで、知っている
人は”密かに愛用”しているようだ。
(2) 私の趣味の1つに、切手や古い封筒、葉書などを収集する「郵趣」がある。収集
分野の呼び名の1つに「エンタイア」がある。
これは、もともと英語の”Entire"から出た言葉で、”完全な”という意味から、切手
を貼った封筒が実際に郵便局で印を押され、あて先に送られ、内容物の手紙等も
残っている状態のものを指している。
私が切手収集を始めた今から50年ほど前の中学生だったころ、『切手収集は、
家にある封筒から切手の部分だけを切り抜いて切手だけを集める』、とされていた。
これによって、全国の小中高生が家にあった明治時代からの貴重なエンタイアを
この世から消滅させてしまったのは返す返す残念なことだ。
今になって、「エンタイア」は、単片切手の数倍〜数十倍で取引されている。
( この裏に、商業主義の魔手があったかどうかは知らないが )
『 鉱物標本は地底からの便り 』、というようなことがある本に書いてあった、と
記憶している。
母岩付き標本は、母岩(封筒)と鉱物(手紙)が完全に揃ったいわば”エンタイア”
である。
これが、私の持論の1つ、 『 標本は母岩付で大きいほど良い 』 の理由で
ある。