鉱物採集の技(11) 標本小箱【その2】







         鉱物採集の技(11) 標本小箱【その2】

1. はじめに

    鉱物をある程度集めると、その整理、保管が問題になる。せっかく採集した標本が家の軒
   先で雨風に曝(さら)されているくらいなら、むしろ採集しないほうが鉱物に対して親切だろう。
    採集した鉱物は、ラベルを添えてしかるべき標本小箱に入れて展示(保管)して、居場所を
   与えて初めて、鉱物標本としての価値が出てくると思う。

    昔から、標本小箱は、縦・横の大きさ決まっているようだ。横寸法は1クラス大きいサイズの
   縦寸法になっている。これは、内寸が横60cm、縦52.5cmの木製標本箱に並べると、小なら
   横にして7×6=42個、中なら縦にして4×7=28個、そして大なら横にして5×4=20個の標本が
   ピッタリ納まるからだ。

呼称 横(cm) 縦(cm)
 小 7.5 6
 中 9 7.5
 大 11 9
特大 12.5 11

    山梨に住む私は、2001年ごろまで、今はない東京千駄木の鉱物標本店・「凡地学」から郵
   送してもらい標本小箱を購入していた。お気に入りの標本小箱の手持ちが無くなり、注文した
   ところ、箱屋さんが廃業して入手が不可能とのことだった。
    ( 2013年7月現在、標本小箱は各社から販売されており、中津川市鉱物博物館など自然史
     系博物館やインターネットでも購入できる。 )

    そこで、標本小箱を自作できないだろうかと考え、必要な道具を揃えて、挑戦した結果、
   ”廃品”を利用したにしてはマズマズの出来栄えで、コスト(人件費除き)も市販の何分の一
   以下だし、何より『地球にやさしい』ので、皆さまにも紹介する。
    このページは、2001年に作成したページに、その後の技術改善を加えて、リニューアルした
   ものだ。
   ( 2001年10月情報 2013年 リニューアル )

2. 必要な道具・部品

    標本小箱作成に必要な道具・部品で特別なものと言えば「製本テープ」くらいだ。他のものは
   コンビニや100円ショップ(今は、「100均」か)などで簡単に入手できる。
    ( もっとも、最近では「製本テープ」も100均においてある時代になった )

 (1) ボール紙
      文道具店などでも売っているが、注文した本が送られてくる厚手の封筒、菓子箱、そして
     Yシャツなどの型紙などを再利用するので費用は”ゼロ円”だ。

       
                 素材のボール紙
             【古書店からの厚紙製封筒】

 (2) 型紙(テンプレート)
      自作をはじめた2001年ころ、ものさしとボールペン(鉛筆)を使って、縦横の寸法を測り、
     印をつけ、カッターで切っていた。これは、何とも能率が悪い。
      そこで、「小」から「特大」までの型紙を作り、これに合わせて素材のボール紙を切るよう
     に”改善(Kaizen)”した。

        各種型紙

 (3) ものさし
      長さ30cm、プラスチック製のスケール(ものさし)だ。100円ショップにある。これにも、
     一工夫してある。
      型紙に合わせ切ったボール紙の端から2cmの位置の四隅を切り落とし、”山折り”部分
     に浅い切れ目を入れるのだが、カットするガイドになるエッジから2cmを残して「テープ」を
     貼っておく。

        全体
        ”一工夫”
                    ものさし

 (4) カッター
      刃先を折ると新しい切刃がでてくるタイプで、これも100円ショップにある。

 (5) カッティング・マット
      ボール紙を切る時に机やテーブルにキズをつけないようにするための下敷だ。これも
     100円ショップで手に入る。

 (6) 接着剤
      チューブに入った水溶性木工用ボンドで酢酸が入っているので、”すっぱい”匂いがする。
     これも100円ショップにある。

        接着剤

 (7) 輪ゴム
        接着後のバインドに使う。

 (8) 製本テープ
      ホームセンターの製本コーナや100均で購入する。
      ホームセンター・・・・幅30mm長さ10mのもので540円
      100均・・・・・・・・・・・幅35mm、長さ2.5mのもので100円 (消費税除く)

        製本テープ【100均で購入品】

      色は何色かあるが、最初は「黒」が無難だろう。

 (9) 鋏
        製本テープの切り込み、切断に使う。

3. 作り方

    順を追って作り方を説明する。
    1ケずつ、(1) 〜(9)のステップをやるのは”非能率”なので、私の場合、次のような作業
   グループでまとめてやっている。
    従って、作業グループの進捗や気の向き加減で、グループ別に”仕掛(しかかり)”が発生
   する。
    それと、”自家用”小箱の場合、製本テープを巻く必要性を全く感じないので、ステップ(6)
   で完成だ。

     1グループ   (1)
     2グループ   (2)〜(4)
     3グループ   (5)〜(6) 【自家用小箱 完成】
     4グループ   (7)〜(9)

 (1) ボール紙を型紙の大きさに切る
      ・ 隅が直角になるように、ボール紙の2つの辺を切る。
        ( 直角になっている用紙を使う場合、この作業はスキップ )

          
                     前                           後
                                            【右上が直角の隅】
                              「直角」をだす

      ・ 隅が合うようにボール紙に型紙を重ね、ものさしを型紙にあて、位置を決めて、1つの
       辺をカットする。同様に、残りの辺もカットする。

        自作をはじめた2001年ころ、型紙の外周を鉛筆でなぞって、切る大きさを卦書(けが
       き)していたが、この作業が不要な事を”発見”し、作業を簡略化した。

          
         ものさしを型紙に当てカット位置を決める       残りの1辺も同じようにカット

 (2) カットする位置が端から2cmになるようにものさしを当て、切り込み深さを加減しながら、
    カッターで切る。
     実は、この前に、紙の裏表を決める必要がある。汚れや印刷パターンがない(少ない)面
    を表にして、裏側に「山折り線」を入れる。表が小箱の内側になるのだ。
     次の写真の左側が表になる面だ。

          
               右は素材そのままで”×”            右は宛名書きがあり”×”
                                紙の表裏判定

     ものさしの裏に貼ってある「テープ」のエッジとボール紙の端を合わせると、自動的にもの
    さしのカット位置が端から2cmになる。

     A:隅になる部分 切り落とすので深く切り込む
     B:山折り部    浅く切り込む
     C:隅になる部分 切り落とすので深く切り込む

          
                 位置出し                     カットライン

     A部とC部の正確な長さは、2cmだが、2、3mmなら長くても短くても問題ない。

 (3) 4辺について、(2)を繰り返す。

 (4) 4隅の切り落とし
      A部、C部が2cmより長いと、4隅は自動的に切り落とされるが、短いと繋がったままに
     なる。このような場合、カッターでつながっている部分を「山折り線」に沿って切り離して
     やる。
      ( この作業が無駄と思うなら、少し出来栄えは落ちるが、A部、C部の長さを2cm+α
       にすればよい )

        隅落し【手直し作業】

 (5) 山折り線に従って折る。
      このときの折れ曲がりやすさで、山折れ線の切り込み深さを調節する。簡単に折れ
     曲がらないほうが、小箱はじょうぶになるが、折れ目が波打ってしまうようだと浅すぎる。

        箱折り

      ここまでくると”箱”らしくなってくる。

 (6) 接着剤を塗り、組み立てる
      20mmの長さの部分に、タップリと(はみ出しても気にしない)接着剤を付け、輪ゴムを
     掛ける。
      輪ゴムを掛けてから、外側にはみだした接着剤を指先で箱の内側に押し込んでやる。

          
                接着剤塗布                     接着剤の処理
                               組み立て

      箱の内側に接着剤が回り込むくらいの方が箱の強度が高くて好都合。

        箱の内側への接着剤回り込み

      接着剤は速乾性なので、1時間もあれば、シッカリ固まる。固まったのを確認し、次の
     作業に進む。

        乾燥待ち

 (7) 製本テープを巻く
      製本テープの裏紙をはがし、平らな面におき、小箱を転がすようにして、4周に巻き、
     合わせ目が2、3mmオーバラップするようにしてテープを鋏で切る。
      テープの幅が30mmの場合、内側に折り曲げる部分と箱の底に折り曲げる部分が5mm
     ずつにする。
      テープの幅が35mmの場合、内側に折り曲げる部分は5mm、箱の底に折り曲げる部分は
     10mmになる。

        テープ巻き

 (8) 内側へのテープ巻きつけ
     小箱の隅、4箇所の製本テープに鋏を入れる。小箱の内側にテープを折り、巻きつける。
    隅は、爪でゴシゴシと擦ると、ピッタリと貼り付けられる。

          
                 テープ"I"カット                      折り曲げ
                           内側へのテープ巻きつけ

 (9) 裏底のテープ巻きつけ
      小箱の裏のテープは、隅に向かって4箇所 V字形に鋏を入れ、テープを底に貼り付ける。

          
                 テープ"V"カット                      折り曲げ
                             裏底テープ巻き付け

      こうして小箱は完成だ。

        完成した小箱

4. おわりに

 (1) 2001年に標本小箱の自作を始めて、10年以上経ったが今でも続いている。ミネラル・ウオ
    ッチングの”ストーブ・リーグ”に、炬燵に入り、テレビを見ながらでもできるので、お試しあれ。

 (2) 自作標本小箱のメリットは、次の通りだ。
    a) 市販品より安い( 人件費をいれたらメチャ高くなる )
       簡単に、横9cm、縦7.5cmの中サイズのものの原価を計算してみる。

       ・ 紙代       ゼロ(廃品利用)
       ・ テープ代     15 円(1巻で7個できる)
       ・ 道具代      ≒ゼロ(あり合わせのもので十分可)

       製本テープで巻いても15円、巻かなければ1円以下と、市販品の1/100だ。これが、
      私が製本テープを巻かない大きな理由だ。

    b) 標本の大きさに合わせて、自分の好みの大きさができる。大きな箱の場合、用紙を
      ボール紙でなく、薄手の段ボールにすることで強度もアップできる。
      ( サイズの標準化とは逆行しますが・・・・・ )

    c) ボール紙は廃品をリユース(再利用)するので環境にやさしい。

    d) 製本テープの色を変えることで、鉱物の産地(都道府県や地域)区分や分類区分などが
      でき、標本の整理、検索がしやすくなる。

 (3) 近況
      今日、7月8日、九州から東海地方まで、梅雨明け宣言が出された。平年より2週間くらい
     早いようだ。山梨県も梅雨が明けたかのような天気で、この日全国一の暑さを記録した。
      梅雨の間の雨量が少なく、水不足にならねば良いが、と祈っている。
      ( 陽が傾いたこれから、農園の水やりと収穫だ )

      1ケ月ほど前に収穫した梅の実を梅干しにした。”シソ”を入れ、紅色に染まった梅を
     土用が近い今日から数日、天日に干す作業が始まった。これが、”梅干し”の語源なんだ、
     と妙に納得した。

        梅干し

      梅雨が明け、本格的なミネラル・ウオッチングのシーズンを迎えた。小中学生から大学
     生、そして大人まで、野外研修講師の依頼を頂いている。
      先月末には、先生方を案内しての下見も終え、先週末はいつかのミネラル・ウオッチン
     グのため、北関東の産地の下見を終えたばかりだ。皆さんとお会いできるのを楽しみにし
     ている。

5. 参考文献

 1) 櫻井 欽一、加藤 昭:鉱物採集の旅 関東地方とその周辺、筑地書館,1972年
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