秩父鉱山・渦の沢の燐灰石

秩父鉱山・渦の沢の燐灰石

1.初めに

 東京都のTさん親子に、大黒川原のスカルン鉱物産地を案内していただいた後
Tさん親子が行ったことがない(正確には、行ったが場所が分からなかった)
渦の沢の燐灰石産地を訪れた。
 2002年秋の鉱物観察会初日最後に渦の沢を訪れたが燐灰石を含む露頭は
跡形も無く、燐灰石を含む転石もめっきり少なく産地がまるで変ってしまっており
大いに驚ろかされ、かろうじて何人かが頭付き結晶を観察しましたが、『絶産』を
宣言した。
 Tさんには、頭付きを採集するのは期待しないように話したが、運良くTさん初め
全員が頭付きを採集できた。
 この時期は、木々の木の葉がなく、しかも天気が良かったのが好結果に結びついた
ようです。
(2003年3月観察)

2.産地

 私の住む山梨県・甲府から、国道140号線で、1998年に開通した雁坂トンネルを
通り、埼玉県に入り、中津川を経由して、「彩の国ふれあいの森・森林科学館」をめざす。
 悪路を覚悟すれば、長野県川上村から、三国峠を越える道もあるが、夜間5時以降
通行止めなので、注意が必要です。
 「彩の国ふれあいの森・森林科学館」の先、約300mに右に登る急な坂があり
その上が「炭焼き体験場」になっている。この左奥に枯れ沢(幅は広い)があリ
この沢を約250m遡上すると左手に、鉱山跡を思わせる石組みがあり、孔雀石が
点々と見える枯れ沢があり、これとの合流点の高台が産地です。
 「渦の沢」は通称で、国土地理院2万5000分の1の地形図「中津峡」での正式名は
「ベッドの沢」です。
渦の沢燐灰石産地【2002年8月撮影】

3.産状と観察方法

 ここの燐灰石は、磁鉄鉱の晶洞部分に、緑簾石や灰鉄輝石を伴って柱状結晶で
産出した。かつては、晶洞を含む磁鉄鉱の露頭があり、そこで観察したが
 その露頭は、影も形も無い。磁鉄鉱の塊の転石すらほとんどない。
 緑簾石(?)の塊の転石には燐灰石が入ったものがあるが、石が硬い上に
空隙が無いため、へき開してしまい、頭付きは観察できません。

4 観察鉱物

(1)燐灰石【Apatite:Ca5(PO4)3F】
 表面の光沢は強く、白濁した水晶と似た6角柱状で頭が尖った結晶です。神奈川県
玄倉(くろくら)の標本に優るとも劣らないものでしたが、頭付きは少ない。
 それでも、全員頭付きを観察しました。
母岩付き結晶
(2)磁鉄鉱【Magnetite:Fe2O4】
 磁鉄鉱塊の晶洞に緑簾石や灰鉄輝石の結晶と共に、八面体をした自形結晶が
見られる。
母岩付磁鉄鉱【結晶7mm】
(3)その他、黄銅鉱とそれに伴う孔雀石などが観察できます。

5.おわりに

(1)2002年8月、10月に訪れたときは、頭付き「燐灰石」を観察するのは至難の技と
思われましたが、今回比較的簡単に、全員が頭付きを観察できました。
 @産地の木々の葉が落ち、ズリが明るい。
 A快晴で、回りが明るい。
 環境が、観察結果に大きく影響する事を改めて認識した次第です。

6.参考文献

1)梅沢俊一:鉱物産地案内シリーズ 鉱物産地をたずねて<増補改訂版>
         梅沢俊一,1995年
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