岐阜県洞戸鉱山梅保木坑の日本式双晶

岐阜県洞戸鉱山梅保木坑の日本式双晶

1.初めに

 加藤・松原・野村先生共著の「鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-」に
「岐阜市北方の接触鉱床とスカルン鉱物」の章があり、洞戸鉱山はじめ、
山梨の私にとって魅惑的な鉱物産地が目白押しに紹介してある。
 この本には、洞戸鉱山(梅保木坑)では、柘榴石や珪灰鉄鉱が採集できると
あり、別な文献には「紫水晶の日本式双晶」も採集できるとある。
 2002年6月に、愛知県の石友Kさんと息子のS君の案内で、梅保木坑を
目指したが、冬の雪害で折れた杉の倒木に行く手を阻まれ、ズリに
到達できなかった。
 静岡県の石友のYさん親子が、何回か訪れ、日本式双晶を採集したとの
情報をいただき、Yさんの案内で、「紫水晶の日本式双晶を求めて」の
ミニ採集会となった。
 奈良のAさんの息子T君が「日本式双晶」、Yさんの息子Y君が
「珪灰鉄鉱」のそれぞれ、”博物館級”を採集し、盛り上がったミニ採集会と
なった。
 私にとっては、1年ぶりの再挑戦であり、小学生に負けじと頑張って
日本式双晶、珪灰鉄鉱など、この産地の代表的な標本を一通り採集できた。
(2003年8月採集)

2.産地

 産地への道順、位置などは各種のガイドブックに紹介されていますので、割愛します。
倒木を乗り越えながらのアプローチは、結構大変です。

     倒木を乗り越える参加者一行

3.産状と採集方法

 「日本鉱産誌」によれば、洞戸鉱山は古生代の粘板岩、砂岩、チャート
 石灰岩とこれらを石英斑岩が貫く典型的なスカルン鉱床です。
  1939年、1942〜44年にかけ、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘した時に
 これに伴って透輝石の美晶、水晶の日本式双晶が産出したことで有名になったようです。
 梅保木坑は、試掘坑と思われる深さ3m位の坑道の前に約10畳敷ズリがある、
 狭い産地です。

      梅保木坑

 ズリでは、熊手で掘るグループ、表面採集する人、沢でフルイ掛けするグループと
思い思いの採集スタイルで、”博物館級”に挑戦です。

           
     愛知のHさん         長野のIさん          私ども

     
     奈良のAさん         兵庫のNさん         静岡のYさん

4.産出鉱物

(1)日本式双晶【Japanese Law Twin of Rock Crystal: SiO2】
   ズリに到着早々、Yさんの息子のS君が、表面採集で日本式双晶を採集した。
   さすが、場慣れしている。やがて、『中川さん、日本式双晶がありました』と
   Aさんの息子のT君が持ってきたのは、”3連双晶(0度型)”で、表面には
   いくつか珪灰鉄鉱も晶出した博物館級と呼べる代物であった。
    やがて、何人かから鑑定が持ち込まれ、いずれも日本式双晶であった。
    私は、自宅に持ち帰った水晶を片っ端から調べて、ようやく1個発見した。
         
     左【採集:T君 撮影:Aさん】      【採集、撮影:Mineral Hunters】
(2)紫水晶【Amethyst: SiO2】
    ”紫石英”と呼ぶカケラは、比較的多いが、結晶面の見える紫水晶、まして
   頭付きなど夢のまた夢であるが、幸運にも、”両錐”を採集できた。

    紫水晶【両錐】
(3)珪灰鉄鉱【Ilvaite:CaFe2FeO(Si2O7)(OH)】
   珪灰鉄鉱は、”長柱状”で産出すると図鑑にはありますが、梅保木では、”粒状”で
   産出する。
    埋もれた方解石が溶けて結晶が顔を出したものや、水晶の上に結晶が晶出した
   ものがある。
    Yさんの息子Y君が採集したものは、方解石の母岩に約5mmの結晶が10個前後
   付いた、今では”博物館級”の標本でした。
    ここの珪灰鉄鉱は、”R面”がついていることでも知られているが、採集できた
   標本の数が少なく、特定できていない。

     珪灰鉄鉱
(4)石榴石【Garnet:Ca3Al2(SiO4)3-Ca3Fe2(SiO4)3】
   ここのザクロ石は、灰バン〜灰鉄ザクロ石と言われ、緑〜茶褐色〜黒色まで
   各種の色のザクロ石が採集できる。
    1cmを越える大きなものは、結晶の数面が見えるだけで、全周完全な結晶は
   5mm以下の小さなものです。

     灰バン(灰鉄?)ザクロ石
(5)魚眼石【Apophyllite:KCa4Si8O20(F,OH)・8H2O】
   破断面が、特有の真珠光沢を示す魚眼石をYさんが採集したが、量的には極めて
   少ない。魚眼石には、珪灰鉄鉱を伴うと、文献にはありますが、この標本には
   随伴していなかった。

5.おわりに

(1)1年越しの「洞戸鉱山・梅保木坑」で、代表的な標本を一通り採集することができた。
   案内していただいた、石友のYさんに厚く御礼申し上げます。
(2)洞戸鉱山梅保木坑の日本式双晶は、お世辞にも美しいとは、言えませんが
   ”洞戸型日本式双晶”と呼ぶ人もある、独特なものですので、1つは標本箱に
   加えたい。
(3)この産地は、夏場でも”ヒル”に悩まされることがないのが、何よりです。

6.参考文献

1)加藤昭、松原聡、野村松光共著:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
2)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 T-b(銅・鉛・亜鉛),東京地学協会,昭和31年
3)名古屋鉱物同好会編:東海 鉱物採集 ガイドブック,七賢出版,1996年
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