群馬県桐生市梅田鉱山の鉱物

            群馬県桐生市梅田鉱山の鉱物

1. 初めに

   2007年GWの前半は恒例のミネラルウオッチングを楽しみ、後半は、「著名人シリーズ」
  と題して、人名の付いた鉱物を求めて、群馬県、栃木県の産地を回ることにした。
   群馬県西ノ牧(あるいは、西牧:さいもく)鉱山、栃木県西澤金山に続いて最後に訪れた
  のは、「鈴木さん」、「長島さん」 で有名な「茂倉沢(もぐらさわ)鉱山」だった。

   東京の石友・Mさんと、”ここぞ” と狙ったポイントで採集したが、すっかりアテが外れ
  バラ輝石すらチラホラで、”ご両人”には会えず仕舞いであった。

   昼食を摂って、午後の採集をどうしようかと思っていると、Mさんの口から「梅田鉱山」の
  名前が出た。桐生市の北に「梅田」という地区があり、そこにあった鉱山なので「梅田鉱山」
  と名づけられたらしい。
   桐生市周辺にあるのでマンガン鉱山かと思いきや、「鉄重石」「蛍石」などを産出した鉱山
  で、茨城県高取鉱山と似た産状だったらしい。

   Mさんの事前調査のお蔭で、さほど苦労せずに旧坑とその前のズリに到達でき、目的の
  鉱物を採集できた。また、Mさんが発見した露頭を苦労して崩し、発見した晶洞から「褐鉄鉱
  にまみれた水晶の群晶」を採集した。帰宅して蓚酸に漬けておいたところ褐鉄鉱が溶け去
  り、”ピカピカの群晶”が誕生した。

   新しい産地を案内していただき、素晴らしい水晶の群晶を採集させてくれたMさんに厚く
  御礼申し上げる。
  ( 2007年5月採集 )

2. 産地

   産地は、桐生市北方の梅田地区にある。「日本鉱産誌」など手持ちの文献やインターネ
  ットで調べたが、「梅田鉱山」の名前は発見できなかった。
   今回の探査行でも、最終的には地元の人に聞き込みを行い、”勘”を頼りに、いくつかの
  坑口とズリを探し出した。
   沢筋に、古い時代のものと思われる手掘りの小さな坑口と戦時中に機械掘りされた比較
  間口の大きな坑口がいくつか見られ、その前に小規模なズリが残されている。

      
           明治ごろ(?)        戦時中(?) 
                  梅田鉱山坑

3. 産状と採集方法

   粘板岩に貫入した石英脈に伴う鉱床のようで、この脈を追いかけるように坑道が掘られ
  ている。露頭の石英脈の晶洞部分に一部針鉄鉱(褐鉄鉱)に覆われた水晶が見られる。
   採集は、坑口前のズリで石英を含むズリ石を探すか、露頭の石英脈を追いかけて脈石
  をハンマとタガネで割って、晶洞を探す。

4. 産出鉱物

 (1) 鉄重石【FERBERITE:[(Fe,Mn)WO4
      黒色、板状〜塊状で石英の中に産する。へき開を示しす。石英の空隙の中に先端が
     尖った『ライン鉱』を思わせるような結晶も見られる。

    鉄重石

 (2) 自然硫黄【SULFUR:S】
     黄色、石英の空隙を埋める塊状で産する。

    自然硫黄

 (3) 蛍石【FLUORITE:CaF2
     無色〜緑〜紫色の塊状で石英の中に産する。まれに、石英の晶洞の中に八面体自
    形結晶を示す場合がある。
     無色のものは、石英と判別しにくいが、へき開があることで識別できる。なお、ミネラ
    ライトで蛍光を示さない。

    蛍石

 (4) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
     細柱状結晶で、透明感が強く、根元の『白い雲』が一段と透明感を引きたたせている。
    また、根元の部分に小さな針水晶を纏っているのも面白い。1本、1本の水晶は最大でも
    3cmで大きくはないが、群晶となると一段と美しい。

    水晶の群晶

 (5) このほか、自形結晶を示す硫砒鉄鉱などを確認できたが、いずれも小さなものが多い
    のが残念である。

5. おわりに

 (1) 私が調べた範囲では、文献やインターネットに「梅田鉱山」の名前はなく、訪れたことも
    ない新しい産地だった。
     この鉱山で採掘していたであろう鉱物を採集でき、その上思いがけない場所で、素晴
    らしい水晶の群晶も採集できた。案内いただいた石友・Mさんに厚く御礼申し上げる。

 (2) 水晶の群晶を採集したときには、褐鉄鉱に覆われ、全然見栄えのしない代物だったが
    蓚酸に3週間近く漬けておいたところ、見違えるような美しい標本に生まれ変わった。
     もともと「がま(晶洞)出し」で、褐鉄鉱に覆われていたのが幸いし先端や柱面に傷が
    ほとんどなかったのが良かった。
     それにしても、” 標本を生かすも殺すもクリーニング次第 ”、と思い知った次第で
    ある。

6. 参考文献

 1)松原 聰:日本の鉱物,株式会社学習研究社,2003年
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