2018年春、神奈川の私立一貫校のK先生から、「7年生(中学1年生)の鉱物の授業で、案内して欲しい」と
連絡があり、7月上旬に案内することになった。
2週間前に小中学生44名を案内したばかりだったが、前日に下見と準備をしておいた。お蔭で事故もなく、
最後に子どもたちが「楽しかった!!」、と喜んでくれ、疲れが一挙に吹き飛んだ。
来年案内する予定のクラスの先生も同行してくれたので、2019年も気を緩めずに対応する心算だ。
( 2018年7月 実施 )
一番危険が潜んでいるのは「貯鉱場」との往復で渡河する梓川(あずさがわ)だ。過去には、雨が降り続き
濁流が渦巻き渡河するのは危険と判断し延期したことがあったほどだ。
2週間前に流木を利用した仮設の橋を修復しておいたが、前の週に降った雨の影響が心配だった。材木と釘を
買って大工道具と一緒に持参した。
現地に行くと、橋の横木が2、3か所流されていた。流木も年月が経ち弱くなってきているので、中州側の橋げた
を作り直し、橋脚のスパンを短くすることにした。
スパンをl、荷重をw、とすると、橋のたわみδは、δ ∝ wl3 だからスパンを10%短くすると、たわみは30%弱
小さくなる計算だ。
まるまる2時間近い補修作業だった。こうして、前回よりも”ガッシリ”した橋が完成した。
湯沼鉱泉に行くと、社長もお姐さんも不在だった。子ども達に食べてもらう大き目のスイカを置き、「水晶洞」の
出口にいつものサプライズを仕掛けて帰った。
一行が到着したのは8時45分を過ぎていた。列車の中で気分が悪くなった子がいたためらしい。朝一番に
新宿を出る特急はカーブが多い山間部を走るのに適した新型振り子型で、2018年11月23日から運行開始
している。どうも、振り子型車両だと”酔う”という人が少なくない。
私も一度、2018年1月に新型車両に乗ったが、各座席にはAC電源のコンセントがあり、バッテリーの残量を
気にしないでPCや携帯端末を使えるのは魅力だ。(酔うことはなかった)
開口一番、K先生に「レンタカーは?」、と聞くと「引き継ぎがうまくなくて、予約をしていない・・・・」、とのこと。
私を含めて14名だから、ワンボックスが2台は必要だ。期待しないで「駅レンタカー」に行くと、案の定「準備
できません」、とのこと。その代わり、「トヨタさんなら、あるかも」、と教えてくれた。
100mほど離れたトヨタに行くと、「10人乗りと普通乗用車が準備できる」と言うので、”ノー・チョイス”で
申し込む。10人乗りが普通免許で運転できるか心配だったが、問題ないとのこと。
支払をしている間に、子ども達と初対面の挨拶だ。『安全第一』を守ることを伝える。
思いがけないトラブルはあったが、私が10人乗り、保護者の父親が乗用車を運転し、9時に駅を出発した。
近くのスマートICから高速に入る。10人乗りは、やはり車体が大きく重いせいか、加速性能が今一つで、70
〜80キロで”のろのろ”走る。
(2) 野辺山「JR最高地点」でイレ休憩
須玉ICで降り、野辺山「JR最高地点」を目指す。朝ドンヨリ曇っていたが、晴れ間が見えだして、”晴れ男”
健在だ。(K先生は、”雨女”とのこと)
清里を過ぎ、野辺山の「JR最高地点」でトイレ休憩だ。ここには、「幸せの鐘」があるのだがこれを鳴らすの
が意外と難しい。”幸せを掴むということは簡単ではない”というとことを教えてくれているようだ。
ここで、記念の集合写真を撮る。
事前に時刻表で調べておいた通り、10時少し前に小淵沢行きの列車が来た。列車をバックに写真を撮ること
ができた。
再びJR小海線(現在は、「八ヶ岳高原鉄道」というらしい)の踏切を渡り、川上村に入る。未明から始まった
特産のレタスの収穫作業はほとんど終わったようで、レタス畑の人影はまばらだ。夏の日差しが畑のビニールに
反射してまぶしい。
「川上村の世帯の平均年収が2,500万円」と説明すると、K先生は”ビックリ”していた。
(3) 甲武信鉱山貯鉱場跡
秋山集落の手前から、梓川沿いに進むと『町田市自然休暇村』の施設がある。10人乗りが狭い林道を
走れるか心配だったが、余裕だ。
駐車スペースに車を停め、長靴に履き替えて、採集用具とお弁当を持って出発だ。ここから300mくらい上流
にある「貯鉱場」を目指す。
踏み分け道の脇にある白に黒い斑(まだら)模様の岩石を掻いてクイズだ。「この岩石の名前は?」。
「御影石」、という答えが聞こえたが、正式には「花崗岩」だ。
硬い花崗岩が”ボロボロ”になって、眞砂(マサ)になるので、起こり得ないようなことが起きた時に『まさか』
という語源だとも話す。(「諸説あり」、というのも付け加えた)
さて、問題の梓川の渡河だが、前日の下見で気づいたが川の水量は今までになく少ない。いつもの水位
より40センチ以上低い気がする。ロープが張ってあるので先生や私が手助けしなくても、子どもたちは”スイ
スイ”橋を渡ってくる。
ただ、荷重(w)を小さくするため、橋は一人が渡り終えたら次の人、というルールにしたので、一人当たり
30秒前後かかる。13名全員渡り終えるのに5分以上掛かり、全員ズリに着いたのは11時10分だった。
(4) 「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング
@ 昭和25年ごろまで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで採掘した
品位の高い鉱石を索道(ケーブル)で「貯鉱場」まで運んでいた。
A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁などが
起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーションでいろいろな
鉱物が生まれた。
B それは、今から1,200万年くらい前だった。
ここでの採集方法は、つぎのように3通りあることを説明し、実演して見せる。
@ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、持参
した金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れ
ないように。
A 川岸には崖になっている場所があり、そこを熊手で掘ると水晶などが次々に出てくる。
B 私が持参した9つのパンニング皿を交代で使って土砂をパンニングすると、「自然金」や
「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重たい鉱物
が採集できる。
泥を洗って採集するので、「緑水晶」なども見つけやすい。
パンニングの実演をすると、比重の大きい重い鉱物がパンニング皿の底に残る。水晶のカケラのように見える
重たい石は「灰重石」だと説明する。
( 「水晶洞」で紫外線を照射し、”蛍光”することを説明する、と伝える )
今回も「鉱物図鑑」代わりに、ここで採集できる鉱物の特徴や産出頻度を一覧表にまとめた『甲武信鉱山
の鉱物チェックリスト』を一人ひとりに配った。
採集開始すると、すさまじい勢いで質問攻めだ。「これは何ですか」、と採集した鉱物の名前を聞いてくる。
「方解石」、「緑水晶」・・・・・・・、と次々に答える。
しばらく質問が続いたので、「これ何でしょう」、と聞きにくる子には逆に「何だと思う。こっちから見ると断面
は六角だよ」、と特徴を説明すると、自信なさそうに小さな声で「水晶・・・・・・・」、と正解だ。すかさず、
「良く解ったね。」、と褒めてあげる。
素晴らしい標本を採集した子がいると全員に集まってもらい、鉱物名や特徴をなどと解説する。透明で
厚みのある方解石を採集した子がいたので、さらに劈開させて「複屈折」して一本の線が2本に見える角度
があることや、「アイスランドスパー(アイスランドの石)」と呼び、アイスランドからは方解石を描く切手が発行
されていることなどを説明する。
・
北極圏をめぐる地球一周の旅 【アイスランド】
( Tour around the World & Arctic Circle 2016 , - Iceland - )
(5) 「金だ!!」
「金がありました!!」、と一人の子が興奮気味に叫ぶ。「ここに一杯落ちている」と、水面を指差す。確か
に水の中に金色にキラキラ光る粒が見える。
「黒雲母が風化して金色に見える。金と間違う人がいるので『愚か者の金』という」と解説するとその子は
納得したが、その後も同じような質問を何人かの子から受けた。
子どもたちは、パンニングの有効性に気付いたようで、大勢が安全な”淀み(よどみ)”に集まってパンニング
皿を揺すっている。パンニングの最後の仕上げを頼まれて「灰重石」などの重い鉱物の揺り分け方を実演す
る。こうして、念願の「ホセ鉱A」を手にした子もいた。
40分ほどたち、「チェックリスト」に採集済みの”〇”も増え、ちょうど12時になったので昼食にする。
12時20分に「貯鉱場」を後にした。
社長が鉱物に興味を持ったのは30代で、40年以上前のことらしい。山を掘り崩していたら「緑水晶の日本
式双晶」が出てきたので、「水晶洞」を作ったのがバブル絶頂期の30年ほど前らしい。
後で私が次のように補足説明した。
1) 誕生した当時の状態で観察できる『草入り日本式双晶』
およそ1,200万年前、できた透緑閃石の針が入った水晶、しかも2枚の水晶が蝶の羽
のように84度33分の角度で合わさった日本式双晶を誕生した当時の状態で観察できる
貴重な展示施設だ。
川上村で観察できる鉱物の一級標本を余すところなく展示しているのと日本各地、
そして外国産の鉱物まで展示している。
2) 個人で建てた博物館
鉱物を展示している博物館は全国にあるが、それらのほとんどは国・都道府県・市などが
税金を使って建てたものだ。
「水晶洞」は、社長が個人のお金〇億円をかけて、そのほとんどを自分が重機を動かして
建設したものだ。
3) 貴重な川上犬
湯沼鉱泉では、この地方で猟犬として育てられていた川上犬の保存にも力を注いでいて
飼育している川上犬の中には、「狼爪」が残っているものもいて、オオカミに近い犬とされて
いる。
「水晶洞」に向かって歩くと、ケージの中で飼育している川上犬が1匹だけ”ノソノソ”と近寄ってくる。以前は、
少なくても5、6匹は元気に駆け寄ってきたのだが・・・・・・・・・・・。「川上犬」と子どもたちの出会いが味気
なくなってきているのは残念だ。
陸橋を渡って「水晶洞」に向かうと、灰色をした大小の岩がある。これらは「大理石(方解石)」だ。この
地域には石灰岩が多い。何億年か前、南の暖かいサンゴ礁がプレートに乗って北上し日本列島にくっついた
ものだ。(地学で言う「付加体」)
地下深くでできた花崗岩が吹き上がり、接触した石灰岩は融けてユックリ冷えて結晶の大きな方解石に
なり、石灰岩のカルシウムを受け取った石英分がザクロ石などに変化したことを説明する。
「水晶洞」に入ると、外の暑さが嘘のように”ヒンヤリ”と涼しいのを通り越して肌寒いくらいだ。
磁鉄鉱に磁石を近づけて鉱物の「磁性」を体感したり、どこの国、産地の日本式双晶が2枚の水晶がなす
角度が一定なことの不思議さに驚いている。
全国の石人が寄贈した都道府県の鉱物を前に、「夏休みにおじいちゃんやおばあちゃんの家に遊びに行っ
たら、鉱物採集を楽しむ」ことをアドバイスする。
やはり見どころの『緑水晶の日本式双晶』、『甲武信鉱山貯鉱場の自然金』などに人だかりがしている。
いつもの事だが、意外と人気なのが「蛍光鉱物」だった。懐中電灯の光では”ただの石ころ”にしか見えない
山口県喜和田鉱山産の「灰重石」とアメリカ・フランクリン鉱山産の「珪亜鉛鉱」が紫外線を浴びるとカラフル
に蛍光するその変化が面白いようだ。
ここで、この日採集した「灰重石」に持参したミネラ・ライトの紫外線を当てると青白く蛍光することを観察
してもらう。
ここだと、暗幕代りの風呂敷を使う必要がなく、皆も見やすいようだ。
「水晶洞」を出ると、『水晶さがし』のサプライズが待っている。過去のミネラル・ウオッチングでガマから採集
し、「標本玉手箱」で引き取り手のなかった泥や褐鉄鉱に覆われた水晶を預かって塩酸で洗浄し、前の日
に隠しておいてそれを探してもらおうという趣向だ。
”一人1つ”というルールにしたので、3つも4つも採って、どれにするか悩んでいる子もいる。大きな群晶や
「両錐」の水晶を採った子もいる。
湯沼鉱泉の前庭で、「水晶洞」を見学して感じたことを社長に一人ひとり報告してもらう。一人一人の
感想に社長は丁寧にコメントを返してくれる。目の前には、次なるサプライズの「スイカ」が待っている。
湯沼鉱泉を14時15分に出て、来た道を逆に戻り、途中で給油してレンタカー会社に車を戻したのは、特急が
出発する30分前だった。ここで子ども達とはお別れだ。
皆さんに聞くと「楽しかった!!」と喜んでくれた。
私の持論の1つに、『ミネラル・ウオッチング(鉱物採集)は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。嬉々として
水晶を探す小中学生と教育関係者を見ていて、その感を一層深くした。参加した皆さんが、鉱物を通して、
自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
おもてなしをしてくれた、湯沼鉱泉の社長とお姐さんに感謝している。
(2) 「貯鉱場、恐るべし」
過去に、貯鉱場で「自然金」や「ホセ鉱A」などの素晴らしい標本を採集しているので、ここ数年は本気で
採集したことはなかった。
今回、子ども達に見せる「自然金」のサンプルを採集しようとパンニングすると結晶形が独特で、脂ぎった
光沢の標本があった。手に持つと”ズシリ”と重く、後で測ってみると、長さが22ミリもあり、今まで採集した中で
最大クラスの「灰重石」だった。
” 49’s ” (フォーティ・ナイナーズ)、転じて「掘っても無いな〜」、と言われているようだが、まだまだ良品が
隠れているようだ。「貯鉱場、恐るべし」
(3) MH農園のスイカ
もう少し遅い時期だとMH農園のスイカを味わっていただけるのだが、今年はスイカの苗を買い損ね、種を播
いて苗を作り、畑に定植したのが6月末だった。ネットをかけて乾燥防止をしたのと、水やりのお蔭で全部の
苗が根付き、元気に伸びている。
この分だと、収穫まであと2ケ月、9月に入ってからになりそうだ。