中学生とミネラルウオッチング 2017年7月











        中学生とミネラルウオッチング 2017年7月

1. はじめに

    私のHPを読んだK県の私立小中一貫校のR・H先生から『クラスの小学6年生18名を鉱物採集に
   連れて行きたいのだが、適当な場所を教えて欲しい』、と相談のメールをいただいたのは、2007年
   9月の初めだった。
    10月に山梨県の水晶産地に案内したところ、生徒だけでなく付添いの保護者や引率の先生方
   にも好評で、同校の恒例行事になった。
    この話が他校にも広まり、神奈川や東京そして横浜の学校や違った学年のこどもたちを案内して
   欲しい、という依頼が飛び込むようになった。それが、いつしか各学校の恒例行事になっていった。

    2017年春、横浜の私立一貫校のM先生から、「7年生(中学1年生)の鉱物の授業で、案内して
   欲しい」との連絡があり、7月中旬に案内することになった。M先生は前の年にご一緒しているので
   下見もなく、3日目に甲武信鉱山に行き、湯沼鉱泉との調整や産地の下見を済ませておいた。

    例年だと梅雨末期の豪雨の後だと、千曲川の源流の一つ・梓川が濁流で渡れず延期することも
   あったのだが、今年は九州で豪雨による被害が出ているのに、甲信地方は水不足状態でその心配も
   なかった。

    当日、甲府駅で中学生9名、先生・保護者3名を出迎えて挨拶のあと、レンタカー2台に分乗し、
   長野県川上村を目指す。途中、野辺山にある「JR最高地点」でトイレ休憩し、記念写真を撮り、
   「貯鉱場」に向けて出発だ。
    難所の梓川は、昨年補強した丸木橋が健在で、M先生と私が川の要所に立って、皆さんを手助け
   すると全員無事に渡り切った。
    貯鉱場では、全員に「チェックリスト」を渡し、採集方法を実演して見せ、採集した「灰重石」がミネラ
   ライトの紫外線で青白く蛍光するのをみて、皆さんビックリだ。
    1時間ほどたち、「チェックリスト」に採集済みの”〇”も増えたころ、昼食だ。まだ未練のある子たちが
   最後の追い込みをかけ、皆さん満足して産地を後にした。

    車に戻るとサプライズが待っていた。行きしなに梓川に浸しておいた、夏のミネラル・ウオッチング恒例の
   冷えたMH農園、ではなくて購入した『スイカ』も皆さんに大好評だった。
    10時半過ぎに湯沼鉱泉に着き、社長とお姐さんにあいさつし、「水晶洞」の見学だ。1,200万年前に
   生まれたままの状態で展示してある『緑水晶の日本式双晶』などに釘づけになり動こうとしない子等を
   急(せ)かせるようにして洞を出ると、『水晶さがし』のサプライズだ。
    湯沼鉱泉を後にし、途中レンタカーに給油し、甲府駅で皆さんとお別れした。

    私の持論の1つに、『ミネラル・ウオッチング(鉱物採集)は、水晶に始まり、水晶に終わる』
   ある。嬉々として水晶を探す中学生と教育関係者を見ていて、その感を一層深くした。参加した
   皆さんが、鉱物を通して、自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
    おもてなしをしてくれた湯沼鉱泉の社長とお姐さんに感謝している。
    ( 2017年7月 観察 )

2. 甲武信鉱山「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング

 (1) 甲府駅で子どもたちに自己紹介
      甲府駅の改札口に行くと、未だ改札を出ないでいる子どもたちの姿が見える。やがて、M先生に
     引率されて子どもたちが改札を出てきたので、「信玄公の銅像」前で自己紹介とあいさつだ。

      @ 鉱物は、植物、動物と違って再生しない。余分に採らない。採った標本は、洗浄・
        整理して記録に残し、家族にも見て楽しんでもらう。
        およそ1,200万年前に誕生した水晶やいろいろな鉱物にとって出会う最初の人間が君だ。
      A 自然は美しい。しかし、危険が潜んでいるので引率の先生の注意を守り、事故
        がないようにしよう。
      B 「水晶洞」の見学の後、社長に感想を伝える。

 (2) 野辺山「JR最高地点」を目指せ
      レンタカーを2台借り、1台を私、もう1台を保護者のお母さんが運転してくれる。長野県出身という
     ことで、高速も走り慣れているようなので安心だ。
      「双葉SA」からETCで中央道に入ると、3連休前で車は少ない。「須玉IC」で降りて、清里を過ぎ、
     野辺山の「JR最高地点」でトイレ休憩だ。

      快晴で抜けるような青空で八ヶ岳が間近に迫って見える。ここには、「幸せの鐘」があるのだが
     これを鳴らすのが意外と難しい。”幸せを掴むということは簡単ではない”というとことを教えてくれ
     ているようだ。

      
             「幸せの鐘」の前で記念写真

      車に乗って踏切抜けたと思ったら、警報が鳴って、遮断機が下り始めた。小海線の「高原列車」が
     来るようだ。1時間に1本位しか通らない列車に会えるだけでもラッキーだ。

      
                   高原列車

      この近くの「金峰山(きんぷさん)」が見える場所に車を止め、「金峰山」が花崗岩の中心地で
     その周辺で水晶が採れることなどを説明する。

      再びJR小海線の踏切を渡り、川上村に入る。未明から始まった特産のレタスの収穫作業は
     ほとんど終わったようで、レタス畑の人影はまばらだ。真夏の日差しが畑のビニールに反射して
     まぶしい。気温は26℃と甲府よりは5℃くらい低いが、川上村としては暑いほうだ。

 (3) 甲武信鉱山貯鉱場跡
      秋山集落の手前から、梓川沿いに進み、甲武信鉱山への林道を入るとすぐに駐車場があ
      る。車を降りて、あらかじめ伝えてあった採集・収納道具をリュックに詰め、長靴に履き替える。
       日直の「スイカ係」の子らに手伝ってもらい、スイカを梓川の流れに沈めて冷やしておく。そして
      出発だ。
       踏み分け道の脇にある白に黒い斑(まだら)模様の岩石を掻いてクイズだ。「この岩石の名
      前は?」。こどもたちから異口同音に「花崗岩!!」、と元気な答えが返る。

       さて、問題の梓川の渡河だが、川の水量は今までになく少ない。M先生と私が要所に立っが
      子どもたちは手助けが不要なほどだ。

      貯鉱場の跡に立って、次のような説明をさせていただいた。

      @ 昭和25年ごろまで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで採掘した
        品位の高い鉱石を索道(ケーブル)でここまで運んでいた。
      A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁などが
        起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーションでいろいろな
        鉱物が生まれた。
      B それは、今から1,200万年くらい前だった。

 (4) 「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング

      荷物をおろして、ここでの採集は、つぎのように3通りあることを説明し、実演して見せる。

      @ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、持参
        した金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れ
        ないように。
      A 川岸には崖になっている場所があり、そこを掘ると水晶などが次々に出てくる。
      B 私が持参した5つのパンニング皿を交代で使って土砂をパンニングすると、「自然金」や
        「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重たい鉱物
        が採集できる。
        泥を洗って採集するので、「緑水晶」なども見つけやすい。

      パンニングの実演をすると、比重の大きい重い鉱物がパンニング皿の底に残る。5ミリ近い厚みの
     ある「ホセ鉱A」だ。これはM先生に預ける。実演で採集した「灰重石」の周りを暗幕代わりの風呂
     敷で囲い、薄暗くした中でミネラライトを当てると”青白く”光る蛍光に皆さんびっくりだ。

      今回も「鉱物図鑑」代わりに、ここで採集できる鉱物の特徴や産出頻度を一覧表にまとめた
     『甲武信鉱山の鉱物チェックリスト』を一人ひとりに配った。

      
                   『甲武信鉱山の鉱物チェック・リスト』

       採集開始すると、すさまじい勢いで質問攻めだ。「これは何ですか」、と採集した鉱物の名前
      を聞いてくる。「方解石」、「緑水晶」・・・・・・・、と次々に答える。
       その内、子ども同士で教えあっている。「この緑色で小さい球は緑泥石だって」。それを見て
      上げるとチェックリストには載っていない、先ほど教えた緑泥石に間違いない。教えた子に「MH
      の代わりができるね」と褒めてあげると、ニッコリしていた。

       素晴らしい標本を採集した子がいると全員に集まってもらい「このままでブローチにできるような
      灰バンざくろ石」などと解説する。透明で厚みのある方解石を採集した子がいたので、さらに
      劈開させて「複屈折」して一本の線が2本に見える角度があることを説明する。

 (5) 「金だ!!」
      「金がありました!!」、と一人の子が興奮気味に叫ぶ。「ここに一杯落ちている」と、水面を指
     差す。確かに水の中に金色にキラキラ光る粒が見える。

      
               金色にキラキラ光る砂金(?!)

      「黒雲母が風化して金色に見える。金と間違う人がいるので『愚か者の金』という」と解説すると
     納得したようだ。

      子どもたちは、パンニングの有効性に気付いたようで、大勢が安全な”淀み(よどみ)”に集まっ
     てパンニング皿を揺すっている。パンニングの最後の仕上げを頼まれて「灰重石」などの重い鉱物
     の揺り分け方を実演する。こうして、念願の「自然金」を手にした子も何人かいた。

      
                淀みでパンニング

      1時間ほどたち、「チェックリスト」に採集済みの”〇”も増えたころ、ちょうど12時ごろで昼食にする。
      まだ続けていたい雰囲気だったが、産地を後にする。

      車に戻り、行きしなに梓川に浸しておいた、夏のミネラル・ウオッチング恒例の冷えたMH農園、では
     なくて購入した『スイカ』も皆さんに大好評だった。

3. 湯沼鉱泉「水晶洞」見学
 (1) 湯沼鉱泉にGo!!
      湯沼鉱泉に着き、社長とお姐さんにご挨拶だ。湯沼鉱泉と『水晶洞』の特徴・見どころを説
     明する。

      1) 誕生した当時の状態で観察できる『草入り日本式双晶』
          およそ1,200万年前、できた透緑閃石の針が入った水晶、しかも2枚の水晶が蝶の羽
         のように84度33分の角度で合わさった日本式双晶を誕生した当時の状態で観察できる
         貴重な展示施設だ。
          川上村で観察できる鉱物の一級標本を余すところなく展示しているのと日本各地、
         そして外国産の鉱物まで展示している。

      2) 個人で建てた博物館
         鉱物を展示している博物館は全国にあるが、それらのほとんどは国・都道府県・市などが
        税金を使って建てたものだ。
         「水晶洞」は、社長が個人のお金〇億円をかけて、そのほとんどを自分が重機を動かして
        建設したものだ。

      3) 貴重な川上犬
         湯沼鉱泉では、この地方で猟犬として育てられていた川上犬の保存にも力を注いでいて
        飼育している川上犬の中には、「狼爪」が残っているものもいて、オオカミに近い犬とされて
        いる。

      「水晶洞」に向かって歩くと、飼育している川上犬たちが出迎えてくれる。動物も好きな子ども
     たちは大喜びだ。

      
            「川上犬」と子どもたちの出会い

      陸橋を渡って「水晶洞」に向かうと、灰色をした大小の岩がある。これらは「大理石(方解石)」
     だ。この地域には石灰岩が多い。何億年か前、南の暖かいサンゴ礁がプレートに乗って北上し
     日本列島にくっついたものだ。
      地下深くでできた花崗岩が吹き上がり、接触した石灰岩は融けてユックリ冷えて結晶の大き
     な方解石になり、石灰岩のカルシウムを受け取った石英分がザクロ石などに変化したことを説
     明する。

      「水晶洞」に入ると、外の暑さが嘘のように”ヒンヤリ”と涼しいのを通り越して肌寒いくらいだ。

      磁鉄鉱に磁石を近づけて鉱物の「磁性」を体感したり、日本式双晶の2枚の水晶がなす角
     度が色や形が変わっても一定なことの不思議さに驚いている。
      全国の石人が寄贈した都道府県の鉱物を前に、「夏休みにおじいちゃんやおばあちゃんの家
     に遊びに行ったら、鉱物採集を楽しむ」ことをアドバイスする。
      やはり見どころの『緑水晶の日本式双晶』、『甲武信鉱山貯鉱場の自然金』などに人だかり
     がしている。

      
       「緑水晶日本式双晶」晶洞に見入る子どもたち

      意外と人気なのが「蛍光鉱物」だった。懐中電灯の光では”ただの石ころ”にしか見えないもの
     が、紫外線を浴びるとカラフルに蛍光するその変化が面白いようだ。

      展示品に釘づけになり先に進もうとしない子等を急(せ)かせるようにして洞を出ると、『水晶さ
     がし』のサプライズが待っている。
      過去のミネラル・ウオッチングでガマから採集し、「標本玉手箱」で引き取り手のなかった泥や
     褐鉄鉱に覆われた水晶を預かって塩酸で洗浄し、前の日に隠しておいてそれを探してもらおう
     という趣向だ。

      
               サプライズ「水晶さがし」

       ”一人1つ”というルールにしたので、3つも4つも採って、どれにするか悩んでいる子も多い。大
      きな群晶や「黄鉄鉱」が入った水晶を採った子もいる。

      事務所に戻り、「水晶洞」を見学して感じたことを社長に一人ひとり報告してもらう。「鉱物が
     たくさんあった」とか「蛍光鉱物がきれいだった」などの意見を眼を細めて聞いていた。
      私が社長なら、純真な子どもたちの感想で、「水晶洞」が少しでも褒められると、今までやって
     きた苦労が報われたような気になるだろう。
     ( 無論、社長の性格としては、そんなことは全く期待していないだろうが。 )

         
        一人ひとり、感想を社長に伝える                眼を細めて聞く社長

      こうして、湯沼鉱泉を後にした。甲府駅に着いたのは、特急列車が出発する10分前だった。

4. おわりに

 (1) 今回のように、小・中学生から大学生、そして鉱物に興味を持ち始めた人々を産地に案内する
    依頼が舞い込んでくるが、できるだけ都合をつけて対応させていただいている。
     とりわけ、湯沼鉱泉に宿泊したり、「水晶洞」を見学してくれる方は最優先だ。

     同行したK先生から、「来年は私のクラスがお世話になります」、と早々に依頼があった。

 (2) MH農園のスイカ
      もう少し遅い時期だとMH農園のスイカを味わっていただけるのだが、水不足のせいか成長が遅く
     大きいのでもまだ子どもの頭くらいしかなく、収穫まではあと1ケ月はかかりそうだ。

         
                  6月                              7月
                               MH農園のスイカ

       3連休に小学2年生になる横浜の孫娘が来た。2泊3日に慌ただしい帰省で、2日目、私は郵趣
      会の集まりがあり、代りに妻が清里方面に同行し、乗馬を経験させた。
       3日目の早朝、犬の散歩を兼ねて農園に行き、これも少し早いがトウモロコシの収穫を体験させ
      た。今回案内した中学生と同じ歳になるのも、”アッ”という間だろう。

         
              乗馬体験                 トウモロコシ収穫体験
                         帰省した孫娘

5. 参考文献

 1) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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