中学生とミネラルウオッチング 2012年7月







        中学生とミネラルウオッチング 2012年7月

1. 初めに

    2011年、神奈川の小中高一貫校・YS校の生徒と保護者を山梨県の水晶産地に案内させてい
   ただいた。これが、同校恒例の行事になり、2012年は1泊2日の計画で、1日目は長野県川上村
   でミネラル・ウオッチングの後、「湯沼鉱泉」に宿泊し、2日目は山梨県で水晶・ウオッチングを楽
   しんでもらおうという寸法だ。
    間近になって、東京の中学生の保護者・Oさんから、「中学3年生の息子が鉱物のレポートを
   まとめるので、どこか産地を案内して欲しい」、とのメールがあり、何人案内するのも同じと、YS校
   と一緒に案内する事にした。
  

    2012年7月、YS校が夏休みに入った初日に、甲府駅に責任者のK先生と同僚、電車組の生徒
   たちを出迎え、中央道「須玉IC」出口で車組とOさん親子と合流し、4台の車で長野県川上村の
   甲武信鉱山貯鉱場を目指した。

    長靴を持参していない一行は、”手を切る”ならぬ”足を切る”冷たい梓川の流れを裸足で渡り
   切った。貯鉱場跡で「方解石」、「緑水晶」そしてパンニングで「砂金(山金?)」や「灰重石」を採
   集し、皆さん大喜びだった。

    夏のミネラル・ウオッチング恒例の冷えた『スイカ』ならぬ『メロン』も皆さんに大好評だった。

    「湯沼鉱泉」に着き、社長とお姐さんに挨拶して、各部屋で荷物の整理の後、タップリ時間をか
   けて「水晶洞」の鉱物を観察してもらい、最後に、「水芭蕉園」や「湯沼大池」を散策してもらった。

    入浴・夕食の後は、初めてみる生徒が多い「ホタル観賞」だ。水車小屋から大池にかけた一帯
   に、数十匹のホタルが乱舞する様は、私にとっても興奮させられた。
    この後、「水晶洞」に移動し、全ての明かりを消して『暗闇』の体験授業を行い、最後は、駐車
   場での花火大会で締めくくった。

      「湯沼鉱泉」記念写真

    翌朝、朝食の後、社長、お姐さんと記念写真を撮った。この日は、開通して間もない林道・川
   上−牧丘線を通って、山梨県に入った。現在、山梨県で水晶を観察できる場所は限られ、以前
   にも何回か小学生や中学生を案内した場所を訪れた。

    「水晶鉱山跡」に到着すると、一面に散らばる石英を見て『水晶だ!!』の歓声が上がった。
   ほとんどの生徒や保護者にとって、初めての水晶拾いで、「石英」と「水晶」の区別がつかなかっ
   たが、やさしく『鉱物学』の初歩を説明すると、皆さん区別できるようになった。

    私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。嬉々として水晶を
   探す小学生と保護者そして教育関係者を見ていて、その感を一層深くした。
   参加した皆さんが、鉱物を通して、自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
    ( 2012年7月 観察 )

2. 甲武信鉱山貯鉱場でミネラル・ウオッチング!!【1日目】

 (1) 「須玉IC」に集合だ
      2012年7月、YS校が夏休みに入った初日に、甲府駅に責任者のK先生と同僚そして電車
     組の生徒たち一行7名を出迎えた。私の車に乗ってもらい、近くのSAから中央道に入ると、
     夏休みに入ったせいか車が少し多いようだ。「須玉IC」出口に到着したのは集合時間の20分
     前だった。
      やがて、YS校の保護者の車に乗った生徒たちとOさん親子も到着し、初対面の挨拶をした。

      @ 鉱物は、植物、動物と違って再生しない。余分に採らない。採った標本は、洗浄・整理
        して記録に残し、家族にも見て楽しんでもらう。
      A 自然は美しい。しかし、危険が潜んでいるので引率の先生の注意を守って、事故のな
        いようにしよう。

 (2) 川上村を目指せ
      清里を通り、長野県に入り、川上村に入ると曇り空ながら気温は21℃と高原の爽やかさだ。
     社会科で学んだ川上村の特産・レタスを中心とした高原野菜の畑が続く光景に眼を見開いて
     いた。
      甲武信鉱山に至る林道は最近整備されたのか、普通車でも貯鉱場の入口までは行けた。
     この先に難関が待っていた。長靴を持参していない一行は、裸足になって川を渡るのだが
     ”手を切る”ならぬ”足を切る”冷たい梓川の急な流れに足を取られ、保護者や私が手を引い
     て何とか渡り切った。

        
                           梓川渡河

 (3) 甲武信鉱山貯鉱場でミネラル・ウオッチング
      貯鉱場の跡に立って、次のような説明をさせていただいた。
      @ 昭和10年代まで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで採掘した
        品位の高い鉱石を索道(ケーブル)でここまで運んでいた。
      A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁などが
        起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーションでいろいろな
        鉱物が生まれた。
      B それは、今から1,200万年くらい前だった。

      ここでの採集は、つぎのように3通りあることも説明した。
      @ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、持参し
        た金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れ
        ないように。
      A 川岸には崖になっている場所があり、そこを掘ると水晶などが次々に出てくる。
      B 私が持参した5、6ケのパンニング皿を使って土砂をパンニングすると、「自然金」や
        「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重たい鉱物が採
        集できる。

      さっそく、思い思いの場所で採集を開始した。「水晶」と「石英」の違いが判らない子どもが
     多い。ましてや、「石英」と「方解石」の違いなどわかるはずがない。『結晶面の有無』や『硬度』
     の違いなどを使って鑑定する事を説明すると納得してくれた。
      私のところには、次々と鑑定依頼が舞い込んでくる。一人の女子生徒が持ってきた水晶は、
     甲武信鉱山を代表する透緑閃石の針状結晶が入った『緑水晶』で、子どもたちの間から歓声
     が上がった。

       緑水晶

      パンニング組の引率の先生は、「自然金」を採集できたと大喜びだった。こうして、皆さん思
     う存分ハンマーを叩いたりパンニング皿を振るったりして、この産地を代表する鉱物を採集で
     きた。

      昼食の後、夏のミネラル・ウオッチング恒例の冷えた『スイカ』ならぬ『メロン』を切り分けて
     食べていただくと、皆さんに大好評だった。

 (4) はじめての「湯沼鉱泉」
      来た時と同じように裸足になって梓川をわたり、今夜の宿・「湯沼鉱泉」に向かった。宿では
     社長とお姐さんが一行を出迎えてくれた。挨拶の後、部屋割に従って各自の部屋で荷物の
     整理をしてから、いろいろなイベントが消灯時間まで続く。

       湯沼鉱泉で御挨拶

 (5) 「水晶洞」見学
      15時過ぎから、一行を湯沼鉱泉の「水晶洞」に案内した。ここでの見どころは何と言っても
     『露頭にあったまま展示してある緑水晶の日本式双晶』、そして『川上村の鉱物』の展示だ。
      主な標本を説明して回るだけでゆうに1時間を超えていた。外に出ると、そこには社長が掘
     り崩した露頭が荒々しい姿を見せ、都会の風景しか見馴れていない子どもたちや保護者そし
     て先生にとって別世界(異次元?)のように映ったようで、子どもたちは走り回っている。

      この後、水芭蕉の湿原や「湯沼大池」などを見て事務所に戻ったのは、17時ごろで、タップ
     リ2時間楽しんだことになる。
      途中の犬小屋に飼われている『川上犬』も動物好きな子どもたちにとっては格好の遊び相
     手になったようだ。

         
             「水晶洞」裏山                   『川上犬』と遊ぶ
                          湯沼鉱泉の楽しみ

 (6) 夕食の後もイベントが続く
      生徒たちが入浴している間に私は翌日山で食べるスイカの買出しにナナーズに走る。戻っ
     て間もなく夕食だ。
      引率の先生から、『校外学習ですから、飲酒は禁止です』、と事前に伝えられ、少し味気な
     い夕食だったが、たまの『休肝日』と甘受することにした。

      夕食の後、最初のイベントは『蛍鑑賞』だ。何年か前から社長が蛍のえさになる「カワニナ」を
     撒いたりして育てていた蛍が7月10日ごろから飛び立つようになっている。社長に聞くと、
     「昨日あたり、10から30位は飛んでいた」、との事で期待が高まる。
      水車小屋から「湯沼大池」にかけての一帯が見どころのようで、目が慣れるに従い、蛍が
     乱舞する姿が見えた。蛍そのものを知らない子も多く、なぜ光るのか、などにも興味を持った
     ようだ。

       蛍の乱舞

      この後、「水晶洞」での『暗闇体験』だ。明かりが溢れている都会では”真っ暗闇”を体験す
     ることは、不可能に近い。「水晶洞」の中に入って、照明の電源を消せば、ほぼ”真っ暗闇”が
     体験できるはずと、私に照明の電源を切る役目が回ってきた。
      「水晶洞」の中に展示してある鉱物なら、何がどこにあるかほぼ諳(そら)んじている積りだが
     照明の電源ボックスがどこにあるか、聞いたこともない。
      お姐さんに、「石燈籠のところを曲がらず、真っすぐ行って・・・」、と聞いたのを頼りに、10分
     近く探しまわって、ようやく電源ボックスを発見、いきなりスイッチを切った。

       電源ボックス

      「水晶洞」の中から悲鳴が湧くわけでもなく拍子抜けしたが、子どもたちや先生の声が聞こえ
     体験学習が終わった頃を見計らって電源をオンした。

      消灯前に、犬小屋から最も離れた駐車場で「花火大会」だ。真夏とは言え、標高1,300mを
     越える高地の湯沼鉱泉では、午後9時近くになると、肌寒さを感じるほどだ。
      普通なら花火のフィナーレは、大きな音がする打ち上げ花火だが、川上犬を驚かさないよう
     にとの配慮から、締めは「選鉱」でなくて「線香花火」だ。
      火を点けて、しばらくして”チカ、チカ”と光り、そして盛んに”パチ、パチ”と火花を飛ばし、
     やがて大きな火の玉ができ、それが落ちると”The End”だ。線香花火を見ていると人の一生
     を思わずにいられない。

       花火

 (7) 寝る前の「鉱物鑑定」
      熱心な生徒がいて、消灯時間が過ぎているのに、この日採集した鉱物の名前を教えてほし
     いと、買い物袋一杯の標本を持ちこんできた。
      テーブルの上に新聞紙を敷き、そこに鉱物を並べ、種類が同じものでグループを作った。そ
     して、それぞれの鉱物の特徴を説明しながら、鉱物種を決めていった。
      こうして、湯沼鉱泉の夜は更けていった。入浴して、布団にもぐりこんだのは、12時近かった。

3. 山梨県でミネラル・ウオッチング!!【2日目】

 (1) 2日目のスタートだ!!
      生徒たちの話し声で6時前に起き、6時半から朝食だ。シッカリ2膳おかわりをして、社長と
     お姐さんを囲んで記念写真を撮る。2人にお礼を言って、山梨県の水晶産地に向けて出発だ。

         
                 朝食                       2人にお礼の挨拶
                        2日目のスタートだ!!

      2日前に開通したばかりの、山梨県への最短コースとなる林道を通って、水晶産地を目指す。

 (2) 難所を越えて
      産地への道は、下り→平坦→下り→川渡り→緩やかな登り、で”行きは良いヨイ”のコースだ。
      このコースの難所は渡河だ。7月の台風で仮橋が流されてしまったが、その後仮橋を掛け
     てくれたようだ。
      生徒たちは、苦も無く無事渡り終えた。

         
                緑のトンネル                  渡河
                                   【おそるおそる・・・引率の先生】
                            水晶産地への道

      ここで、私は一仕事。生徒に手伝ってもらい、今回もスイカを沢水に浸して冷やしておくのだ。

       スイカを冷やす

 (3) 「水晶鉱山跡」で水晶探し
      枯れ沢を横切ると遠くから、”真っ白い水晶(石英)片”が一面に散らばる、「水晶鉱山跡」が
     見えてくる。
      生徒たちは一斉に『 水晶だ!!』、と歓声を上げる。荷物を降ろし、思い思いの場所で採集
     してもらう。
      すぐに、アチコチから『水晶があった!!』の声が上がる。

      水晶拾い

 (4) 水晶ウオッチング
      この近くにも水晶産地があるので、そこで水晶ウオッチングすることにした。ちょうどお昼の
     時間になり、思い思いの場所で昼食とする。

      木の上で昼食

      ここで水晶ウオッチングを楽しんだ後、急な坂を下り、お待ちかねの「スイカ・タイム」だ。
     ほど良く冷えたスイカを切り分け、皆さんに食べていただくと、ミネラル分で疲れも吹き飛んだ。

         
                急坂を下る               スイカを味わう
                          苦あれば楽あり

 (5) 駐車場に無事到着

      急な登り→平坦→そして急な登り、を乗り越え、全員無事に駐車場に着いたのは、予定よ
     り早い15時だった。
      甲州市の「道の駅」で自家用車組とお別れし、電車組を塩山駅まで送り、お別れしたのは
     16時前だった。

      今回も事故もなく終了できたので、正直”ホッ”とした。

      この後、私は勝沼ICから高速に乗り、東京で墓参りして、千葉の孫娘のところに着いたのは
     20時近くだった。
      農園のスイカを出すと、孫娘が「美味しそう!!」、と言ってくれ、持参した甲斐があった。

      気づいてみれば、腰の痛みはとうに失せていた。

4. 過去の観察品

    私が、大勢の皆さんを案内すると、面白い産状の標本や珍しい鉱物に出会うことも少なくない。
    それらを見せていただき、デジカメで記録に残せるのは私の”役得”だろう。過去の観察品の
   いくつかを紹介したい。

鉱物種名
俗名
【英名:組成】
 産 状   標 本 写 真  説    明
石英
水晶
【QUARTZ
 :SiO2
山入り    
 透明水晶に真っ白い山が
入った典型的な標本
黄鉄鉱入り      最初にできた水晶の表面に
結晶した黄鉄鉱がしばらく時間を
置いて後からできた水晶で
覆われている。
 成長が止まった時間が長かった
のか、酸化性の環境だったのか、
黄鉄鉱が「武石」に変化している
標本もある。
チタン鉱物と
共生

           鋭錐石


         板チタン石

   
           全体

 赤黄色、透明、ガラス光沢の
チタン鉱物が2種見られる。
 普通、黒色、不透明の
ものが多いのだが、今回採集
したものは、鉄(Fe)が少ない
のか(?)

 @ 鋭錐石【ANATASE:TiO2
     ピラミッドを2つ合わせた
    ような8面体で、反復双晶
    した際に生じたくびれ(条線)
    が見られる。


 A 板チタン石【BROOKITE:TiO2
     四角い薄板状で、表面に
    条線が見られる。








 根元とてっぺん附近の
赤く見える部分にチタン鉱物が
集合している。





     今回の採集品は、貯鉱場でパンニングで得た「ホセ鉱」と山梨県の「武石」だけだった。

       「武石」

5. おわりに

 (1) 1泊2日のミネラル・ウオッチング
      今回、初めて生徒たちを1泊2日のミネラル・ウオッチングに案内した。大都会の喧騒や暑さ
     から隔絶した別世界での体験は、生徒たちだけでなく保護者や先生方にも好評だったようだ。
      Oさん親子は、湯沼鉱泉での夜、毛布だけ掛けて寝たら寒くて夜中に眼が覚めた、と翌朝
     話してくれたほどだ。

      YS校の話を聞きつけた東京・K校からは、1泊2日での野外学習の申し込みが早々とあり、
     これからは川上村・「湯沼鉱泉」を宿にした1泊2日コースが主流になるかもしれない。

      これも、莫大な私財を投じて「水晶洞」はじめいろいろな施設を建設・維持している社長とお
     客さんに合わせてメニューを工夫するなどしてもてなしてくれるお姐さんのお蔭と感謝している。

 (2) 今回のように、小・中学生から大学生、そして鉱物に興味を持ち始めた人々を産地に案内す
    る依頼が舞い込んでくるが、できるだけ都合をつけて対応させていただいている。

     6月に案内したMちゃんと御家族から暑中見舞いのカードをいただいた。Mちゃんの印象深い
    スイカをデザインしたカードには、「美味しかった」、と感想が綴られていた。
     ご家族の添え書きには、私が話したいろいろなことをMちゃんが思いだして繰り返し話してい
    る、とあった。

     自然の営みに比べれば、「線香花火」のように短い私の一生だが、Mちゃんはじめ、ミネラル・
    ウオッチングをご一緒した人たちの記憶の中に残っていれば、望外の幸せだ。

6. 参考文献

 1) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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