生徒たちとミネラルウオッチング in 山梨







        生徒たちとミネラルウオッチング in 山梨

1. 初めに

    2009年7月中旬、神奈川の小中高一貫校のF先生から、小中学生と保護者を水晶産地
   案内して欲しい、とメールをいただき、8月下旬、F先生一行16名を山梨県の水晶産地に
   案内したのは既報の通りである。
    それ以来、このミネラル・ウオッチングは同校の恒例行事になっていて、行事が行われ
   る毎にHPに掲載した。

    このページをたまたま眼にした東京のK校、神奈川のS校から相次いで生徒たちを水晶
   産地に案内して欲しい、とのメールがあった。両校の先生5名と2011年9月に下見を行なっ
   た。
    この時、先生方が夢中になるほどなので、生徒たちはさぞ大喜びするだろうと心待ちに
   していた。

    2011年10月はじめ、K校一行を案内し林道を進むとゲートが降りていた。なんでも、台風
   15号による土砂崩れで、この先が通行止めになっていて年内開通の見込みがないとの
   ことだった。
    ここから駐車場まで10km前後あり、ここまでの往復で予定の時間を費やしてしまいそう
   なので、急遽、別な産地を案内する事にした。
    2011年11月になって、S校を案内する事になり、同じ場所を案内する事にした。この近く
   には鉱山跡もあるすでに忘れ去られた古い鉱物産地で、ほとんど人が訪れた形跡がなか
   った。

        
                  K校                       S校
                            記念写真

    生徒たちは地表面の落ち葉をかき分けて小さな鉱物や水晶を発見するたびに、私の
   ところに持ち込む鑑定依頼がひっきりなしに続いた。
    大勢で探すとあるもので、5cmクラスの大きな水晶や「硫黄」などのインクルージョンが
   入ったものなどを発見し、アチコチで歓声が上がった。

      見つけた!!

    時間に余裕があるS校には、近くにある鉱山跡を案内した。ここでは水晶だけでなく、
   黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱などの硫化鉱物も採集でき、『へき開』など、鉱物の特性の不思
   議さに眼を輝かせている生徒たちも多かった。

    生徒たちを案内して10日ほど経ったころ、それぞれの学校から礼状が届いた。生徒一
   人ひとりが描いた水晶や鉱物の絵には、楽しかったミネラル・ウオッチングの想い出がつ
   づられていた。

    今回、生徒たちと保護者そして先生たちを案内して、次のようなメッセージを伝えた。

    (1) 自然を大切に
         人の手で飼育や栽培ができる「動植物」と違って「鉱物」は人間が一度採ってし
        まうと2度と生まれてこない貴重な地球の財産。
         この産地の水晶は、1,200万年前に生まれ、この日初めてみんなの手に触れた。

         @ 必要以上に採集しない。
             次に訪れる人にも残しておこう。
         A 採りっぱなしはダメ
            家に持ち帰った標本を洗って綺麗に(クリーニング)し、鉱物の名前を書い
           たラベルを付け、お菓子の空き箱などに保管しよう。
            形の違いや内部に含まれる鉱物(インクルージョン)なども観察して、ラベル
           に記入し、記録として残そう。

    生徒たちに、益富先生の著書・「鉱物」と私が編んだ小冊子「君も水晶博士になろう!」
   をプレゼントした。
    このミネラル・ウオッチングを通して、生徒たちがより自然を大切にしてくれることと、理科
   (=科学技術)への興味を深めてくれることを願っている。
    ( 2011年10月、11月 案内 )

2. 産地

    ここは有名な産地なので詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

    ここは「花崗岩」の中に脈状に入り込んだ石英脈の空隙(すきま)の部分に美しい水晶
   や氷長石などが結晶して”地球の華(はな)”を演じている。
    その一方、石英脈には、「黄銅鉱」や「方鉛鉱」などの硫化鉱物が観察でき、石英が人間の
   生活になくてはならない”金属元素の運び屋”という別な役割を果たしていることも理解し
   てもらった。

    積もった落ち葉をかき分け隠れていた水晶を探してもらい、持参した金槌でズリ石を叩
   いて新鮮な硫化鉱物を採集してもらった。

        
              表面採集                   金槌で叩いて
                          採集風景

4. 観察品

    私が、大勢の皆さんを案内すると、面白い産状の標本や珍しい鉱物に出会うことも少な
   くない。
    それらを見せていただき、デジカメで記録に残せるのは私の”役得”だろう。今回の観察
   品のいくつかを紹介したい。

鉱物種名
俗名
【英名:組成】
   標 本 写 真  説    明
石英
水晶
【QUARTZ
 :SiO2
   
 透明感のある
平板水晶
カリ長石/氷長石
【Adularia:KAlSi3O8
 明治時代この産地を
有名にした鉱物
 双晶になっている標本
洋紅石
【CARMINITE:PbFe3+2
(AsO4)2(OH)2

 鮮やかな紅色で
毬栗状の結晶が晶洞を
覆うように密集

 近年この産地を有名にした
鉱物の1つ

車骨鉱
【BOURNONITE:CuPbSbS3
   
 反復双晶をした形が
車骨(歯車のこと)に
似ているところから
この名が付いたと
される。
硫砒鉄鉱
【ARSENOPYRITE:FeAsS】

 硫砒鉄鉱は古くは
『毒砂』と呼ばれ、猛毒の
砒素の原料

 ”菱餅状”結晶で産出する
ケースがほとんどだが、この
標本のように”長柱状”になるのは
高温晶出のものに多い、と
される。

5. おわりに

 (1)  ミネラル・ウオッチングが終わって10日ほど経って、それぞれの学校から、礼状をいた
     だいた。
      生徒一人ひとりが描いた水晶や鉱物の絵には、楽しかったミネラル・ウオッチングの
     想い出がつづられていた。

        
                   K校                        S校
                             いただいた礼状

      採集して持ち帰った水晶は綺麗にクリーニングして、学校にも展示したところ、低学
     年の子らが、『○年生になったら水晶探しに行けるんだ!!』、と今から楽しみにして
     いる、と先生からの手紙にあった。
      両校とも恒例の行事になりそうで、今から生徒たちと出会いが楽しみだ。

 (2) 別れ
      出会いがあれば別れがあるのが人の世の常。
      先週末、H製作所時代の先輩の告別式に出席した。71歳で、突然の死だった。この
     先輩は、図面の書き方など、仕事のイロハを文字通り手とり、足とり教えてくれた一人
     だった。
      個人的にも、私の実家に遊びにきてもらい泊まって頂いたりと親しくさせていただい
     たが、最近は年賀状のやり取りしかできなかった御無沙汰を悔いている。

      後輩から、定年退職の挨拶状をもらう歳になり、月並みだが『一期一会』を大切にし
     なければ、としみじみ想う秋の夜だ。

6. 参考文献

 1) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆社,昭和48年
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 5) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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